26 / 45
本編
26. 想い想われ、すれ違い
しおりを挟む
数日経って、ようやくユリウス様は回復した。
念のため、今日も小屋でゆっくりしてもらっている。ユリウス様は「もう大丈夫なのに……」と少し不満げだ。
「治りかけに無理をすると、ぶり返しますから。もうしばらく休んでいて下さいね」
「は~い」
オスカーは頼まれごとを片づけてくると言ってルクス村に出かけていったので、今は二人きりだ。
今しかない。私は意を決して、ユリウス様に向き合った。お茶を飲んでいた彼が、首を傾げてこちらをみる。
「ユリウス様。ここで終わりにしましょう」
「ルイーゼ……?」
「明日、三人でヴァルトへ行きましょう。衛兵にユリウス様のことを伝えれば、王宮へ連絡してくれるはずです」
「どうしたの!?なんで突然そんなことを」
「どのみち、ヴェストグレンでお別れする約束でしょう?それが少し早まっただけのことです」
ユリウス様はひどく傷ついたような表情をしていた。その顔を見ていると、せっかく決めた心がぐらつきそうになる。でも、ここで流されてはだめだ。
「嫌だ!ルイーゼが帰らないなら、僕も帰らない。君と離れたくないんだ」
「ユリウス様には、きっと私よりふさわしい方がいらっしゃいますよ」
「僕は、ルイーゼ以外の女性と結婚する気はない」
ユリウス様が立ち上がり、まっすぐに私の顔を見た。今まで見たこともない、真摯な、熱を帯びた目だ。
その目に見つめられるとなんだか落ち着かなくなって、私はたじろいでしまう。
「どうか、これ以上の我が儘はお控え下さいませ」
「ルイーゼは僕のことが嫌いなの?」
「そんなことは……」
「君の気持ちが聞きたいんだ」
ユリウス様が私の両手を握り、その手に唇を寄せた。
「……ルイーゼ。君を誰にも渡したくない。どうか、僕の花嫁になって欲しい」
私は息をのんだ。今まで経験したことがないくらい、胸が高鳴っている。
そんな眼で見られたら、せっかく決めた心がぐらついてしまう。
断らなければ。そう思うのに、言葉が出ない。
私だって、私だって本当は……!
そのとき、小屋の扉がノックされた。私は慌ててユリウス様から離れる。
「たのもう!誰かおられないか?」
「どなたですか?」
今思えば、私はかなり動揺していたのだろう。警戒もせず、カギを開けてしまった。カギが外れた途端に扉が向こうから目一杯開かれ、十人近い男たちがドカドカと踏み込んできた。
「何なの、貴方たちは!」
「ここに、手配書にあった女剣士がいるとの通報があった。改めさせてもらう」
ヴァルトの衛兵と、騎士たちだった。その中に、見覚えのある騎士がいた。お父様の部下で、確か第二部隊の隊長だったわ。
「間違いない、ルイーゼ・クラッセンだ」
「いたぞ!ユリウス様だ」
「何をする!離せ!」
「ユリウス様!」
騎士の一人が、ユリウス様の腕を掴んでいる。駆け寄ろうとした私の前に、隊長が立ちはだかった。
「ルイーゼ殿。貴方には、宝剣グランツェルの盗難疑惑がかけられています。あと、ユリウス様の誘拐についても」
「グランツェルはお祖父様から正式に譲られたものです!盗んでなんかいないわ」
「そうだ!それに僕は自分で王宮から出てきたんだ。誘拐されたわけじゃない」
「申し開きは陛下の前でなさって下さい。貴方に傷を付けるのは、本意ではありません。どうか、大人しく同行を」
私は剣に手をかけ、しばし逡巡する。
王宮騎士や衛兵に逆らったら、私は反逆者となってしまう。でも、このままでは……。
その迷いがまずかった。
後頭部に衝撃を受けた。激しい痛みに襲われ、目の前に火花が散る。立っていられなくなり、膝をついた。
「何を……!団長のご息女だぞ!丁重に扱えと言っただろう!」
「し、しかし。この娘、剣を抜こうとしましたので……」
「ルイーゼ!ルイーゼ!」
隊長の怒号とユリウス様の叫び声を聴きながら、私は気を失った。
念のため、今日も小屋でゆっくりしてもらっている。ユリウス様は「もう大丈夫なのに……」と少し不満げだ。
「治りかけに無理をすると、ぶり返しますから。もうしばらく休んでいて下さいね」
「は~い」
オスカーは頼まれごとを片づけてくると言ってルクス村に出かけていったので、今は二人きりだ。
今しかない。私は意を決して、ユリウス様に向き合った。お茶を飲んでいた彼が、首を傾げてこちらをみる。
「ユリウス様。ここで終わりにしましょう」
「ルイーゼ……?」
「明日、三人でヴァルトへ行きましょう。衛兵にユリウス様のことを伝えれば、王宮へ連絡してくれるはずです」
「どうしたの!?なんで突然そんなことを」
「どのみち、ヴェストグレンでお別れする約束でしょう?それが少し早まっただけのことです」
ユリウス様はひどく傷ついたような表情をしていた。その顔を見ていると、せっかく決めた心がぐらつきそうになる。でも、ここで流されてはだめだ。
「嫌だ!ルイーゼが帰らないなら、僕も帰らない。君と離れたくないんだ」
「ユリウス様には、きっと私よりふさわしい方がいらっしゃいますよ」
「僕は、ルイーゼ以外の女性と結婚する気はない」
ユリウス様が立ち上がり、まっすぐに私の顔を見た。今まで見たこともない、真摯な、熱を帯びた目だ。
その目に見つめられるとなんだか落ち着かなくなって、私はたじろいでしまう。
「どうか、これ以上の我が儘はお控え下さいませ」
「ルイーゼは僕のことが嫌いなの?」
「そんなことは……」
「君の気持ちが聞きたいんだ」
ユリウス様が私の両手を握り、その手に唇を寄せた。
「……ルイーゼ。君を誰にも渡したくない。どうか、僕の花嫁になって欲しい」
私は息をのんだ。今まで経験したことがないくらい、胸が高鳴っている。
そんな眼で見られたら、せっかく決めた心がぐらついてしまう。
断らなければ。そう思うのに、言葉が出ない。
私だって、私だって本当は……!
そのとき、小屋の扉がノックされた。私は慌ててユリウス様から離れる。
「たのもう!誰かおられないか?」
「どなたですか?」
今思えば、私はかなり動揺していたのだろう。警戒もせず、カギを開けてしまった。カギが外れた途端に扉が向こうから目一杯開かれ、十人近い男たちがドカドカと踏み込んできた。
「何なの、貴方たちは!」
「ここに、手配書にあった女剣士がいるとの通報があった。改めさせてもらう」
ヴァルトの衛兵と、騎士たちだった。その中に、見覚えのある騎士がいた。お父様の部下で、確か第二部隊の隊長だったわ。
「間違いない、ルイーゼ・クラッセンだ」
「いたぞ!ユリウス様だ」
「何をする!離せ!」
「ユリウス様!」
騎士の一人が、ユリウス様の腕を掴んでいる。駆け寄ろうとした私の前に、隊長が立ちはだかった。
「ルイーゼ殿。貴方には、宝剣グランツェルの盗難疑惑がかけられています。あと、ユリウス様の誘拐についても」
「グランツェルはお祖父様から正式に譲られたものです!盗んでなんかいないわ」
「そうだ!それに僕は自分で王宮から出てきたんだ。誘拐されたわけじゃない」
「申し開きは陛下の前でなさって下さい。貴方に傷を付けるのは、本意ではありません。どうか、大人しく同行を」
私は剣に手をかけ、しばし逡巡する。
王宮騎士や衛兵に逆らったら、私は反逆者となってしまう。でも、このままでは……。
その迷いがまずかった。
後頭部に衝撃を受けた。激しい痛みに襲われ、目の前に火花が散る。立っていられなくなり、膝をついた。
「何を……!団長のご息女だぞ!丁重に扱えと言っただろう!」
「し、しかし。この娘、剣を抜こうとしましたので……」
「ルイーゼ!ルイーゼ!」
隊長の怒号とユリウス様の叫び声を聴きながら、私は気を失った。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
61
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる