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本編

27. 親子喧嘩

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 ユリウスを連れ戻したと聞いて、私は急いで彼の部屋へ向かった。そこには、息子が不安げな顔で座っていた。

「ユリウス!よく無事で……」

 ようやく手元に戻ってきた息子を、私は抱きしめる。少し痩せただろうか。きっと辛い思いをしたに違いない。

「母上!ルイーゼとオスカーはどこです?」
「あの二人なら、牢に入れているわ」
「なぜ!?二人とも、何の罪も犯してない!すぐに牢から出して下さい」

 私は息子の向かいに座り、手を取った。

「ユリウス。もうルイーゼのことは忘れなさい」
「母上の命令といえど、それだけは聞けません」
「あの子と関わったら、ロクな事がないわ。私は、貴方の為を思って言っているのよ」
「……貴方はいつもそうだ!!」

 ユリウスが私の手を振り払い、立ち上がった。その目には怒りの炎が宿っている。息子がこんなに激情を見せたことは、今までに一度もなかったわ。

「ユリウス?」
「僕のため?違うだろう。貴方自身の望みじゃないか!」
「何を言うの!」
「貴方は自分の望みが適わないと、癇癪を起こして周囲を従えようとする。我が儘を押し通そうとする子供そのものだ。幼い頃はそれが怖くて従っていたけれど、もう僕は子供じゃない」
「ユリウス……!お前、よくもこの母に向かってそんな暴言を……!」

 頭に血が上る。怒りのあまり、私は息子を突き飛ばした。

 ずっと、ユリウスは私に従順な良い子だったのに……。ルイーゼが何か吹き込んだに違いないわ。本当に、憎々しい!

 私はユリウスの部屋から出ると、警護の近衛騎士を呼んだ。

「この子を部屋から出さないで。食事だけ届けさせなさい」
「は、はいっ。了解いたしました」
「母上!?出して下さい!出せ!!!」

 ユリウスの叫びを無視して小走りに自分の部屋に戻り、手鏡を取り出す。

「鏡よ鏡!ルイーゼに支配ヘルシャフトの術を掛けて!」
「えぇ~。昨日、国王と宰相に掛けたばかりじゃないですか。もう魔力が無いですよ」
「魔力なら、いつものように私から吸い取ればいいじゃない」
「しかし、支配の術も完全というわけではないですからねぇ」

 私は、机の奥から白い粉の入った瓶を取り出した。

「これが見えないの?」
「そ、それは……超高級研磨剤……!」
「ほうら、デルング国から取り寄せたタオルもあるわよ」

 私は研磨剤を付けたタオルで鏡を撫でつけた。きゅっきゅっ、と良い音がする。

「あふぅ~ん」

 鏡が気持ちの良さそうな声を出した。

「ほらほら、気持ちいいでしょう?」
「ああん、酷いですぅ~。身体で言うことを聞かせるなんて……」
 
 口ではそんなことを言っているが、鏡の声は嬉々としている。
 身体は正直よね。

「ルイーゼに術を掛けてくれれば、もっと磨いてあげるわよ」
「あふん、分かりましたあ~」
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