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20 ギスランとレイン
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__キーン、
結界に触れた何かにギスランは短刀を手に気配を消してマリアンヌの部屋のドアに手をかけた男に近づきスッと首に刀を押し付けた。
「陛下、そこまでです。その先へはたとえ貴方でも許されませんよ。」
「流石だな、まるで気配を感じなかった。……だが、王に刃物を向けるとは…それなりの覚悟はあるのだな。」
「私はこの国の国民ではありますが今の私の主人はマリアンヌ様です。マリアンヌ様に害なす者はたとえ自国の王でも例外なく排除させていただきます。」
「我が国に属していながら、主人はマリアンヌか……見上げた忠誠心だな……私もここでお前と争う程愚かではないからな、そうだな、ギスランお前と少し話がしたい」
「…わかりました、それではあちらの部屋でよろしいですか?お望みならば遮音結界を施すことができますから。」
「ああ、案内してくれ」
ギスランとランバートはマリアンヌの部屋から2つ程離れた部屋に入った。
そこには小さめのソファがあり2人は向かい合わせに座った。
「ここからはただの男として話したい、だから、正直に答えて欲しい。いくつかお前に聞きたいことがある。」
「答えられる範囲でお話ししますが内容によっては答えたくないこともあると思いますが嘘偽りは申さないと誓います。ですが答えたくないことは黙秘します。それでも構いませんか?」
「ああ、構わない、」
2人の間にピーンと重苦しい緊張感が走る、ギスランの目を真っ直ぐ見てレインは尋ねた。
「いつからだ、ギスラン、お前はいつからマリアンヌを……マリアンヌに恋慕していた。」
「幼い頃からです。……伯父上に連れられある場所でマリアンヌ様と遊んだ事がありました…私は初めて出会った時からずっとマリアンヌ様だけをお慕いしていました。マリアンヌ様は私に気付いていませんでしたが…」
「……、なんだと…そんなに前から?マリアンヌを知っていたのか?では、マリアンヌが私の妃として輿入れすることは?私の妃と知っていて専属護衛についたのか?」
「輿入れの話はランバートに遠征から帰ってすぐの頃聞きました。本来ならこの遠征で功績を上げマリアンヌ様に求婚するはずでした……だが一歩遅かったようで話を聞いた時は正直絶望する程ショックでした。なぜなら、陛下が結婚相手では間違いなくマリアンヌ様が幸せになれないと思っていましたから、」
「なぜ?だ!幸せになれぬと…彼女は私の番だぞ!」
憤るレインを蔑むようにギスランは失笑した。
「ハハハ、番?…フッ!…笑わせないでください!わからないんですか?陛下のその番へのこだわりがマリアンヌ様を不幸にすると言ってるんですよ!番だから幸せにできると?今でも本気でそんなこと思っているんですか?だとしたら、やはり陛下には今後どうあってもマリアンヌ様を幸せにする事はできないでしょう」
「なん、だと!」
怒りを露にして今にも殴りかかりそうなレインを冷めた態度でギスランは言葉を紡いだ…
「陛下、私は陛下を統治者としては尊敬しております。ですが、1人の男としては貴方のとった行動は軽蔑に値します…獣人として生まれたんですから番に焦がれるのはいいでしょう、ですが一国の王として政略結婚を受け入れたんですよ、その陛下が輿入れてきた王女に……友好の証を示すために護衛を連れず侍女と従者、たった2名しかお付きを伴わず、この国にいらっしゃったんですよ。それがどれほど不安かわかりますか?
その王女に…貴方はいったい何をしました?いや、何もしなかったんですよ。何も」
「……それは……」
「私が知らないとでも?貴方が王女への対応をランバートにどう指示したのか?お忘れですか?貴方は『会うつもりも関わる事もない、まして結婚など形だけで、国民に伝える必要はない故、捨て置けばいい、それでここが嫌なら国に帰ればいいさ!』そう言ったんですよ。」
「……、」
「その時のその話を聞いた…私の気持ちがわかりますか?私の愛する…私の大切な人を…簡単に手に入れておきながら…貴方は捨て置けばいいそう言ったんですよ!大切な彼女をぞんざいに扱われた私の心境がわかりますか?……、どれほどご自分が非道な指示をしたのか忘れたわけではないでしょう?」
「………、」
「たとえマリアンヌ様が番でなかったとしてもあれ程素晴らしい方はいないでしょう、その陛下の番というくだらない拘りのせいでこの国はこの上なく素晴らしい王妃を得るチャンスを逃してしまったのですよ。陛下が自らそのチャンスを捨てたのですよ!
獣人にとって番が特別な存在なのはわかりますが、陛下は番であれば低俗でばかな女でもよかったと言う事なんですよ!」
「いや、そんなことは…」
「そう言ってるのと同じなんですよ、輿入れ前から、マリアンヌ様が優秀だったことはご存知だったでしょう?身辺調査もしっかりなさってたはずですから、調査書を見ただけでも王妃として遜色ない素晴らしい方でしたのに…」
「……、私は…マリアンヌを…1人の女性として好いている…だから…」
「だから?なんだというんです?陛下、割れたグラスは元には戻せないんです。陛下がご自分でいらないと割ったんですよ!新しいグラスをお求めになることをお薦めいたします。」
「ク!だが、私は…マリアンヌを手放すつもりはない!彼女は私の妻だ!」
「それは陛下が決めることではない!陛下は本当にマリアンヌ様を愛しているんですか?」
「それは勿論」
「そうでしょうか?私にはそう思えません。陛下にとって1番大切なのはご自分なのではないですか?」
「そんな事はない!私はマリアンヌを大切に思っている。」
「大切?……陛下の言う大切とはマリアンヌ様が望まなくても側に置く事ですか?マリアンヌ様の望む幸せは陛下の側にいることではないと知っても?マリアンヌ様の幸せを潰してでも陛下の側に留め置くがですか?陛下の大切とは愛する人の意思を望みを潰す事ですか?」
「ち、違う、私はマリアンヌを幸せにしたいだけだ!」
「残念です。私は当初マリアンヌ様の幸せが陛下の側にあるなら、見守り影で支えようと思っていました。ですが、私の愛と陛下の愛は大きく違うことがはっきりしました。陛下ではマリアンヌ様を幸せにはできないでしょう」
「そんな事はない!」
「あるんですよ!陛下、最後はマリアンヌ様が決める事です。私はマリアンヌ様を愛しています、たとえ誰の手を選ぼうとそれが私ではなくてもマリアンヌ様には幸せになって欲しいんです。ですが私はマリアンヌ様が手を差し伸べて下さったなら…その手は絶対離しませんよ、たとえ陛下が相手でも私は決して離しません。決して離さない!……そろそろよろしいですか?これ以上もうお話しすることはありませんので失礼します。」
「………、」
残されたレインは1人項垂れた、幼い頃からずっとただ1人を…大人になっても変わる事なく恋心を抱き想い続けていたなんて……彼女の為なら見守る為だけでも側にいる事ができればいいと言い切った男の想いは……思いの強さは…今のレインには太刀ちできなかった。
あの手をマリアンヌが選んだなら、その2人の間にレインの入る隙などないだろう…割れたグラス…自ら割ってしまったグラスにはいくら愛を注いでもいっぱいになる事はないレインとマリアンヌの関係は粉々に割れてしまっていたのだとマリアンヌのギスランに向けた笑顔で…気づいたではないか、それでもと…1人もがくレインだった。
結界に触れた何かにギスランは短刀を手に気配を消してマリアンヌの部屋のドアに手をかけた男に近づきスッと首に刀を押し付けた。
「陛下、そこまでです。その先へはたとえ貴方でも許されませんよ。」
「流石だな、まるで気配を感じなかった。……だが、王に刃物を向けるとは…それなりの覚悟はあるのだな。」
「私はこの国の国民ではありますが今の私の主人はマリアンヌ様です。マリアンヌ様に害なす者はたとえ自国の王でも例外なく排除させていただきます。」
「我が国に属していながら、主人はマリアンヌか……見上げた忠誠心だな……私もここでお前と争う程愚かではないからな、そうだな、ギスランお前と少し話がしたい」
「…わかりました、それではあちらの部屋でよろしいですか?お望みならば遮音結界を施すことができますから。」
「ああ、案内してくれ」
ギスランとランバートはマリアンヌの部屋から2つ程離れた部屋に入った。
そこには小さめのソファがあり2人は向かい合わせに座った。
「ここからはただの男として話したい、だから、正直に答えて欲しい。いくつかお前に聞きたいことがある。」
「答えられる範囲でお話ししますが内容によっては答えたくないこともあると思いますが嘘偽りは申さないと誓います。ですが答えたくないことは黙秘します。それでも構いませんか?」
「ああ、構わない、」
2人の間にピーンと重苦しい緊張感が走る、ギスランの目を真っ直ぐ見てレインは尋ねた。
「いつからだ、ギスラン、お前はいつからマリアンヌを……マリアンヌに恋慕していた。」
「幼い頃からです。……伯父上に連れられある場所でマリアンヌ様と遊んだ事がありました…私は初めて出会った時からずっとマリアンヌ様だけをお慕いしていました。マリアンヌ様は私に気付いていませんでしたが…」
「……、なんだと…そんなに前から?マリアンヌを知っていたのか?では、マリアンヌが私の妃として輿入れすることは?私の妃と知っていて専属護衛についたのか?」
「輿入れの話はランバートに遠征から帰ってすぐの頃聞きました。本来ならこの遠征で功績を上げマリアンヌ様に求婚するはずでした……だが一歩遅かったようで話を聞いた時は正直絶望する程ショックでした。なぜなら、陛下が結婚相手では間違いなくマリアンヌ様が幸せになれないと思っていましたから、」
「なぜ?だ!幸せになれぬと…彼女は私の番だぞ!」
憤るレインを蔑むようにギスランは失笑した。
「ハハハ、番?…フッ!…笑わせないでください!わからないんですか?陛下のその番へのこだわりがマリアンヌ様を不幸にすると言ってるんですよ!番だから幸せにできると?今でも本気でそんなこと思っているんですか?だとしたら、やはり陛下には今後どうあってもマリアンヌ様を幸せにする事はできないでしょう」
「なん、だと!」
怒りを露にして今にも殴りかかりそうなレインを冷めた態度でギスランは言葉を紡いだ…
「陛下、私は陛下を統治者としては尊敬しております。ですが、1人の男としては貴方のとった行動は軽蔑に値します…獣人として生まれたんですから番に焦がれるのはいいでしょう、ですが一国の王として政略結婚を受け入れたんですよ、その陛下が輿入れてきた王女に……友好の証を示すために護衛を連れず侍女と従者、たった2名しかお付きを伴わず、この国にいらっしゃったんですよ。それがどれほど不安かわかりますか?
その王女に…貴方はいったい何をしました?いや、何もしなかったんですよ。何も」
「……それは……」
「私が知らないとでも?貴方が王女への対応をランバートにどう指示したのか?お忘れですか?貴方は『会うつもりも関わる事もない、まして結婚など形だけで、国民に伝える必要はない故、捨て置けばいい、それでここが嫌なら国に帰ればいいさ!』そう言ったんですよ。」
「……、」
「その時のその話を聞いた…私の気持ちがわかりますか?私の愛する…私の大切な人を…簡単に手に入れておきながら…貴方は捨て置けばいいそう言ったんですよ!大切な彼女をぞんざいに扱われた私の心境がわかりますか?……、どれほどご自分が非道な指示をしたのか忘れたわけではないでしょう?」
「………、」
「たとえマリアンヌ様が番でなかったとしてもあれ程素晴らしい方はいないでしょう、その陛下の番というくだらない拘りのせいでこの国はこの上なく素晴らしい王妃を得るチャンスを逃してしまったのですよ。陛下が自らそのチャンスを捨てたのですよ!
獣人にとって番が特別な存在なのはわかりますが、陛下は番であれば低俗でばかな女でもよかったと言う事なんですよ!」
「いや、そんなことは…」
「そう言ってるのと同じなんですよ、輿入れ前から、マリアンヌ様が優秀だったことはご存知だったでしょう?身辺調査もしっかりなさってたはずですから、調査書を見ただけでも王妃として遜色ない素晴らしい方でしたのに…」
「……、私は…マリアンヌを…1人の女性として好いている…だから…」
「だから?なんだというんです?陛下、割れたグラスは元には戻せないんです。陛下がご自分でいらないと割ったんですよ!新しいグラスをお求めになることをお薦めいたします。」
「ク!だが、私は…マリアンヌを手放すつもりはない!彼女は私の妻だ!」
「それは陛下が決めることではない!陛下は本当にマリアンヌ様を愛しているんですか?」
「それは勿論」
「そうでしょうか?私にはそう思えません。陛下にとって1番大切なのはご自分なのではないですか?」
「そんな事はない!私はマリアンヌを大切に思っている。」
「大切?……陛下の言う大切とはマリアンヌ様が望まなくても側に置く事ですか?マリアンヌ様の望む幸せは陛下の側にいることではないと知っても?マリアンヌ様の幸せを潰してでも陛下の側に留め置くがですか?陛下の大切とは愛する人の意思を望みを潰す事ですか?」
「ち、違う、私はマリアンヌを幸せにしたいだけだ!」
「残念です。私は当初マリアンヌ様の幸せが陛下の側にあるなら、見守り影で支えようと思っていました。ですが、私の愛と陛下の愛は大きく違うことがはっきりしました。陛下ではマリアンヌ様を幸せにはできないでしょう」
「そんな事はない!」
「あるんですよ!陛下、最後はマリアンヌ様が決める事です。私はマリアンヌ様を愛しています、たとえ誰の手を選ぼうとそれが私ではなくてもマリアンヌ様には幸せになって欲しいんです。ですが私はマリアンヌ様が手を差し伸べて下さったなら…その手は絶対離しませんよ、たとえ陛下が相手でも私は決して離しません。決して離さない!……そろそろよろしいですか?これ以上もうお話しすることはありませんので失礼します。」
「………、」
残されたレインは1人項垂れた、幼い頃からずっとただ1人を…大人になっても変わる事なく恋心を抱き想い続けていたなんて……彼女の為なら見守る為だけでも側にいる事ができればいいと言い切った男の想いは……思いの強さは…今のレインには太刀ちできなかった。
あの手をマリアンヌが選んだなら、その2人の間にレインの入る隙などないだろう…割れたグラス…自ら割ってしまったグラスにはいくら愛を注いでもいっぱいになる事はないレインとマリアンヌの関係は粉々に割れてしまっていたのだとマリアンヌのギスランに向けた笑顔で…気づいたではないか、それでもと…1人もがくレインだった。
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