無能な俺が、年下騎士さまの溺愛ゲージを溜める話。

ツキハ|BL小説

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1章 ニート、日当たりのよい部屋に住む。

ニートはメイドさんと仲良くなりたい。

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 朝の陽ざしの眩しさで、俺は気持ちよく目覚めていた。隣にいたはずの彼は既におらず、ちょっと残念なようなほっとするような複雑な心境。

 散々イったおかげか気持ちも晴れやかで、う~ん、初夜も悪くはないなと思う次第。結婚式もしないと聞いたから、これでイベントは終わりだろう。シャワーを浴びて汚れを落とせば更にさっぱりだ。

 ベルを鳴らしてメイドさんを呼べば、優雅な仕草で食事を運んでくれるから更ににっこり。丁寧な仕事は見ているだけでうれしくなる。

 パンとスープ、サラダにベーコンという、非常に健康的な朝食を終えれば、俺の執事がやってくる。どうでしたか、と真面目くさった顔で聞いてくるから、うーん、と悩んで口を開いた。

「きもちよかった」
「ブッ」
「うわ」

 突然噴き出した彼にドン引きしていれば、そういうことではなく! とぷりぷり怒るプロ嫌味がとんでくる。どういうことだよと聞けば、上手くいったのかが聞きたかったらしい。上手く……? と首を傾げていれば、ため息とともに説教がとぶ。

「よいですか、今後のルシア様の生活の良しあしは、あの方の意向次第なのですよ。気に入られるように夜の営みこそ力を入れていただかねば」
「そうなんだ」
「次はもっとしっかりなさってください。いいですね?」
「はーい」

 まあ次なんてないと思うけどな。形式的なものだと彼も言っていたし、それならば何度も行うわけがない。それよりも、だ。俺はここに来た目的を果たしたい。執事が仕事で席を外した隙に、またベルを鳴らして彼女を呼ぶ。

 肩まで流れる金髪が美しい、俺の担当らしき彼女は、聞けばまだ20になったばかりらしい。若いなぁ、としみじみしていたら、小さく笑ってくれてほっこり。レミリアというらしい彼女が、にこやかな表情で口を開く。

「そのようにおっしゃるようなご年齢ではないでしょう?」
「いやいや、俺もう30だし」
「えっ」

 素で驚いたらしい彼女が、口元に手を当てて目を丸くする。そんなに驚くことだろうか。意外と年がいっている奴が嫁? に来たとドン引きさせたかもしれない。謝罪すれば、慌てたように謝罪が返されて、ふたりしてぺこぺことおバカなやり取りを繰り返すことしばし。


「そうだなぁ。悪いとおもってくれるなら、一つお願いを聞いてほしいな」
「はい、なんなりと」

 ほっと口元を緩める姿に安堵しつつ、当初の目的を口にする。

「お邪魔じゃなければ、俺に料理を教えて欲しいんだ」

 緩められた口元が、またもや唖然と開いてしまうのが、素直な反応で可愛らしいなと思う俺だった。













「ルシアさま、こちらをお使いくださいね」
「ありがとう。わ、結構力いるね」
「そうでしょう? おかげでここの担当が長いと、腕が太くなると評判なのですよ」
「ちょっと! レミリア。ルシアさまに余計なことを吹き込むんじゃありません」
「す、すみません。メイド長」

 うちの子が申し訳ない、と、メイド長が眉を下げるが、俺としては全く問題ない。楽しい話をありがとう、と告げて、旦那様のところへ向かうメイド長を見送って、目の前の生地と格闘しに戻る。



 料理を教えて欲しいという俺に許されたのは、包丁をなるべく使わない簡単なもの。クッキーである。一応彼女たちの迷惑にならないかは確認したが、歓迎しますとまで言ってくれた彼女の厚意に甘えることにした。部屋から出ないでくれとは言われたが、基本的に出ないでくれ、ということなので、たぶん週に一回くらいは許される。


 そう、俺の作戦は、料理を通して自然にメイドさんたちと一緒にいる時間を確保、次第に距離が近くなり、やがて恋……は難しいかもしれないが、なんらかの情が芽生えるという寸法だ。完璧である。ついでに美味しいお菓子も生み出されて一石二鳥。

 あと、意外なことに、お菓子作りはそこそこ楽しい。手伝ってもらいつつなので全部が俺の力ではないのだが、あの粉たちがこんな風に姿を変えるのが不思議でならない。何回か粉を巻き上げたり飛び散らせたりして服は汚れたが、許容範囲だ。……洗濯物増やして申し訳ない。


「うーん。いい香りがする」
「ほんとうに。喜んでいただけるとよいですね、ルシアさま」
「うん? そうだね」

 メイドさんたちに配る予定のそれは、オーブンの中で色を変え、素敵な香りを生み出していく。眺めているだけでもわくわくするそれを、俺は飽きもせずに見ていたのだが。

 バタバタと、廊下を駆ける音がして、旦那様の元に行っていた筈のメイド長が顔を出す。

「ルシアさま、その。レガルさまなのですが、本日はお帰りにならないとのことで……」
「め、メイド長、今日はレガルさまは、お早いお帰りになるという話では」
「予定が変わったそうよ」

 悲痛な声音の二人が、申し訳なさそうな顔で此方を見て来るが、何故だろう。旦那様が居ようが居まいが、俺にはなんの関係もないのだが。適当に二人に合わせて曖昧に笑っておきつつ、俺は当初の予定通り口を開く。

「出来上がったクッキーは、皆で食べたいんだけど、いいかな」
「……はい、ルシアさま。是非」

 胸の前で手を組んだ彼女が、少し涙ぐみながら頷いてくれる。いい子過ぎる。俺が頑張って……いや、まあ、あの、混ぜるくらいしかしてないけど、俺的には頑張って作ったそれを、こんなにも肯定的に受け取ってくれることに、俺はたいへん心が温かくなった。



 シンプルなラッピングを施したクッキーを手に、昼過ぎの、屋敷内の使用人の待機所を行脚する。物凄く警戒していそうな人ばかりだったけど、一緒に来てくれたレミリアが、こそこそと何かを告げると、途端にあわててクッキーを受け取ってくれる。何を言ったんだ? と聞けば、内緒ですと言われてグッとくる。かわいい。


 まだまだ量があったので、メイドさん以外にも配り歩くことにしてはどうかという話になった。警備の人らって、手作りの物受け取ってくれるのかな~と思ったけど、戸惑いつつも一応受領してくれた人ばかりだ。毒見しましょうかと告げたら、ぎょっとされたのが不思議。普通怪しいじゃんね、敵国から来た人の手料理とか。だからこその申し出だったのだが。

「もう、ルシアさま。そのようなことをおっしゃるなんて」
「いや~、一回目は流石に断る人も多いと思ってたから意外で。皆優しいね」
「……ルシアさまが、ご自身で歩み寄ろうとしてくださったからですよ」
「そういうもの?」
「はい」

 だとしたら、やはりここの人らは根本が優しいのだろう。敵意を向けられなくたって、人に毒をまき散らす人は多いのだ。クッキーはすっかり冷めているけれど、俺のきもちはほかほかとしたままの一日だった。
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