無能な俺が、年下騎士さまの溺愛ゲージを溜める話。

ツキハ|BL小説

文字の大きさ
24 / 35
3章 ニート、勘違いを知る

ニートは楽しくお茶も出来る。

しおりを挟む
 駄々をこねる旦那さまから許可を得てクドラスさまとお出かけできたのは、1週間後の昼のことだった。流石に筋肉圧迫してくる二人が同席していてはクドラスさまも心休まらないだろうと思ったので、座席は別にしてもらう。これも旦那さまは最後まで渋っていて、何度もお願いしてようやく了承してもらえた。 

 先日行ったカフェとは別の、食事も出来る場所を選ぶ。お出かけで死にかけるニートではあるが、クドラスさまに会えるなら若干頑張る気になれる。若干。もちろん馬車の中では旦那さまを枕に爆睡をかまして準備万端であるから、クドラスさまにお会いした時は少し寝ぼけていた。 

「おはようございます、クドラスさま」 
「昼過ぎですが、おはようございます。寝ていたんですか? 申し訳ないのですが起きましょうね、ルシア」 

 俺が寝てばかりいるのは無論クドラスさまもご存じなので、寝ぼける俺の頬をむにむにと揉んで起こしてくださる。はっ、いかん、せっかくお会いできるのだから目を開けておくべき。 

「おい、触れていいとは言っていない」 
「あらら~、嫌ですねぇ、人のヨメさんにあんなふうに」 
「やかましいのが居ますが無視しましょうね、ルシア」 
「はーい」 

 後ろ2mほど離れた場所から大きめの声でヤジが飛ばされるが、これはちょっと我慢していただく他ない。多分仲間外れにされるのが嫌なのだと思う。二人は二人で一緒に遊べばいいんじゃないかと思うが、それを言ったら旦那さまには無言の圧をかけられたしチェリーワインくんには普通に頭をしばかれた。痛い。いいじゃんか、遊べよ。トランプとかで。 


 店内には店主の趣味であろう本が詰まった棚もあって、興味を示したクドラスさまが嬉しそうに一冊手に取っていた。 

「クドラスさま、それはなんですか」 
「この国の特産に関わる統計と、流通経路にかかわる商人の記録ですね。とはいえ大分昔のモノなので、今の商売にはあまり役に立ちませんが」 
「役に立たないのに読むのですか?」 
「昔のやり取りを見るのも興味深いものですよ」 
「へえ」 

 ちらと中を見せてもらったが、物凄く小さい文字が並んでいてスッと目を逸らす。小さく笑ったクドラスさまが俺の手を引いてくれるので、そのまま窓際の席について食事を待った。 

 俺が居なくなった後、クドラスさまは血眼になって探してくれたらしい。大変申し訳ないと思って謝れば、俺のせいではないのだからと言ってくれる。 

「無いとは思っていましたが、出て行ったのではないかと少しだけ肝が冷えました」 
「まさか。何の不満もないどころか、ずっと幸せでしたよ。クドラスさまのおかげです」 

 ななめ後方の方から、何かが割れるような音がしたので驚いてそちらを見ると、グラスを握り締めた旦那さまがこちらをガン見している。ちらと手元を見れば、ぱらぱらと欠片のようなものが落ちていたので、多分グラスを握力で粉砕している。ゴリラかな? 

 手袋はしていたようなので怪我は無さそうだが、旦那さまはうっかりグラスを割るくらいの握力があると言う事実に慄く。俺に触れる時はひょっとして大分慎重に触っているということだろうか。えっち騎士、セックスの最中ですら理性があるということだ。俺にはとてもできない。

 名前を呼ばれたのでクドラスさまの方を見れば、頬杖をついてじっとこちらを見つめていらっしゃる。どうかしましたかと問えば、苦笑交じりに答えてもらえる。 

「ルシア。どうしても僕と一緒には暮らせませんか?」 
「そうしたい気持ちもありますが、」 

 そこまで言ったら、今度はガタン! という大きな音がして吃驚してもう一度振り向く。盛大に椅子をひっくり返して立ち上がった旦那さまが居て、気にはなるが怪我をしているわけではないので後回しにしよう。旦那さま、大分おっちょこちょい疑惑も出てきた。 

「俺は既に旦那さまと婚姻を結びましたし……」 
「契約は白紙に出来ます。もともとの前提が間違っていたのですから。ルシア、あなたの気持ち一つで簡単に戻せるのですよ」 
「ええと……」 

 しどろもどろになって目を泳がせていたら、後ろからひそひそと小さな声の会話が聞こえて来る。

「見ろよ、一回断られてるのにしつこく誘ってんぞ」 
「諦めの悪いやつだ。どう考えても勝ち目はない」 
「いや勝ち目はないとか言いながらグラスガタガタさせるな鬱陶しいな」 
「していない」 

 あ本当だ。すごいグラスが振動してる。 

「外野が喧しいですが、無視しましょうね、ルシア」 
「はーい」 

 ついつい旦那さまの方を見てしまっていたらクドラスさまに手をつつかれたので視線を戻す。戻したところで、何か他に僕と暮らせない理由があるんですね、などと言われるので図星を貫かれた気持ちである。 

 でも旦那さまがえっち騎士なのはばらしたらいけないしなぁ、と思ったけど、いや待てよ? 旦那さまのことじゃあなければ別に言ってもいいのか。ピーンと閃いた頭のまま、クドラスさまに耳打ちするような仕草でこそこそと内緒の話をする。 

「実は黙っていたことがありまして」 
「ほう」 
「クドラスさまにはお頼み出来ないので、それも理由です」 
「僕に頼めない? なぜ。大抵のことなら何でもしてあげられますよ」 

 クドラスさま、流石やさしさの権化である。思わず感動していたら、言ってごらんなさいと言われるので少し悩んで、若干の照れを隠しつつ口を開く。  

「えっちなやつです」 
「……は!?」 

 おぉ。珍しく大きな声を出したクドラスさまを見て、なんだか宝くじに当たったような得をした気分になる。後ろからなんだなんだとヤジが飛んでくるが、わかる。珍しいからねと頷いた。  

 ズレたメガネをがちゃがちゃ言わせながら指先で直したクドラスさまが、何故か震える声で問うてくる。 

「あ、の。それは、つまり。まさか」 
「はい」 
「あの騎士とは、そういう?」 
「はい!」 

 ベキィ! という物凄い音をたてて、目の前でクドラスさまがメガネごと顔面をテーブルに叩きつけたので、流石の俺もぎょっとする。クドラスさまのご尊顔が大惨事になってしまう。 

 大丈夫ですかと問えば、スッと顔をあげたクドラスさまが、ベキベキにひび割れたメガネを外してその辺に捨てて、立ち上がって俺の傍に立つ。メガネ可哀そうだなあ、と思って見てから、少し遅れてクドラスさまを見上げれば、にこりと笑って彼が口を開く。 

「ルシア。今すぐ僕と帰りましょう。あのクソ色ボケ騎士と居たらダメになります。速攻で帰りましょう。契約書を履行していただきます」

 俺は既に駄目の極みなので、仮にそうだとしてもそれは問題ないと思う。ぽけっとしていたら、同じく立ち上がった旦那さまとの間でびっくりするほどの罵詈雑言が飛び交ったので、俺たちは普通に店を追い出されたのだった。 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」  その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。  ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。  ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。  明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。  だから、今だけは、泣いてもいいかな。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

処理中です...