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3章 ニート、勘違いを知る
ニートは無能で無知である。
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追い出されては致し方ないということで、興奮冷めやらぬ論争は馬車の中でも続き、爆睡する俺を尻目にヒートアップしていたらしい。チェリーワインくんがそう言っていた。
レヴァイド家の屋敷にいったんは移動して議論を続けることになったらしく、旦那さまとクドラスさまが互いにメンチ切りをしながら仲良く応接室に消えていくのを見送って、俺はチェリーワインくんと部屋に行くことになった。俺はソファで眠る気満々だったけど、暇だから相手しろとのことらしい。
「執事と話でもしていたらいいですよ」
「お前、自分が一応俺の友人でもあること忘れてねえか?」
「あ、それ有効だったんですね。てっきりただの知り合いくらいに思っていました」
「今俺は地味に傷ついた」
あーあ、お前のせいで~、などと言う小学生じみた台詞を吐き散らしながら、チェリーワインくんが俺のソファの中央にわざとらしく陣取るので、仕方なくソファの端っこで丸くなる。
「お前意地でも寝る気なのかよ」
「馬車の旅で疲れました」
「寝てただろうがよ仲裁もせずに。あとそんなに長旅じゃねえだろ」
まあ5時間かかる人からすればそれはそう。あれだ。クドラスさまが珍しく雑な言葉遣いで暴言を吐いていたので、多分ストレスが溜まっていたんだろうなと俺なりに気を使っただけである。
クドラスさまは商売人であるが故、気を遣わずに会話出来る相手が中々いないのかもしれない。気の置けない友人、あるいは小学生のころからの悪友のような距離感で会話ができるのなら、きっとストレス発散になるに違いない。たぶんきっと1%くらいはそういう感じ。
ほっぺたに突き刺さる嫌がらせの指先に睡眠妨害をされたので、渋々座り直して彼と向き合う。クドラスさまとの暮らしについて聞かれたのでありのままを告げれば、ふーん、などと言いながらニヤニヤし出す。
「そんなに好きか、クドラスさまが」
「そりゃあそうですよ」
と言い終わるや否や、廊下の方から何かが砕け散る音がしたので目を丸くする。レミリアたちが何か作業でもしていたのだろうか。
「じゃあレガルは?」
「旦那さまですか?」
好きか嫌いかと言われると普通に好きだ。そうじゃなければ流石の俺もえっちなやつは遠慮したいところだし。そう思って好きですよと告げれば、今度は何かが壁にぶつかったような衝撃と音がして、模様替えでもしているのかなと思う。
「へえ。じゃあなんでクドラスさまのお誘いは速攻断ったんだ? 幸せだったんだろ」
「だって」
俺が居なくなると旦那さまは多分、一生えっちできない可能性が出て来ると思う。これは誇張でもなんでもなくて、俺ほどの無能ヒキニートに結婚の話が来るほどに旦那さまはお相手がいなかったという事実があるからだ。
気持ちがいいことを知った今だからわかるが、俺ですら出来ないのやだなーと思うのだから、旦那さまにとっては死活問題であるはず。
「旦那さまはたぶん、俺が居ないと困ると思うんですよね」
「……へえ?」
「俺は無能なんですけど、でも俺でも出来ることがあるって教えてくれたのは旦那さまなので。出来ると言っても俺はほとんど何もしないんですけど」
俺は自分が役立たずで無能であることには納得しているけど、誰かの役に立ちたい、でもできない、などと言う悩みは別にない。出来ないもんはしょうがないし、出来ないなりの幸せを俺は知っているから、特に不満は無いのだ。でも。
「あ、でも、出来ることがあるから傍にいるんじゃあないんですよ。出来ることがあって、その上で俺がそうしてあげたいと思うからここに居るんです」
クドラスさまは、俺に穏やかで幸せな時間をくれたけど、俺がクドラスさまに何かをしてあげたいと思うことは殆ど無かった気がする。彼は彼の人生を生きていて、俺が居なくてもそれは変わらないだろうなと、何となく思っていた。
「クドラスさまには、何かしてやりてえとか思わねえってこと?」
「そういうと語弊がありますけど、そう思った時に俺に出来ることは無かったんです」
何にもせずに過ごすのは幸せな時間だ。でも、たぶん、誰かと過ごすのであれば、お互いに相手に何かを手渡したくなる相手である方が、たぶん幸せなんだと思う。少なくとも、俺にとっては。あぁ、そうか。
「俺は勘違いしていたんですよね。あたたかい部屋と日当たりのよいソファがあればいいんだと。誰にも期待されなくても、出来ることがなくても、幸せには過ごせるって。それは嘘じゃあないんですけど」
「けど?」
「幸せは色々あるので、俺が知らないだけだったんですよ」
無能で無知なヒキニートであるからにして、言葉通りに俺は知らなかったのだ。
「ワインの美味しさもいただいたワインで初めて知りましたから。ありがとうございます」
「……あー、そりゃよかったな」
ぱちぱちと目を瞬かせて頬をかく。じゃあお前は今幸せなのかと問われるので。
ソファの真ん中を譲ってもらえたら幸せですねと答えたら、強めの力でほっぺたをつぶされたのだった。
レヴァイド家の屋敷にいったんは移動して議論を続けることになったらしく、旦那さまとクドラスさまが互いにメンチ切りをしながら仲良く応接室に消えていくのを見送って、俺はチェリーワインくんと部屋に行くことになった。俺はソファで眠る気満々だったけど、暇だから相手しろとのことらしい。
「執事と話でもしていたらいいですよ」
「お前、自分が一応俺の友人でもあること忘れてねえか?」
「あ、それ有効だったんですね。てっきりただの知り合いくらいに思っていました」
「今俺は地味に傷ついた」
あーあ、お前のせいで~、などと言う小学生じみた台詞を吐き散らしながら、チェリーワインくんが俺のソファの中央にわざとらしく陣取るので、仕方なくソファの端っこで丸くなる。
「お前意地でも寝る気なのかよ」
「馬車の旅で疲れました」
「寝てただろうがよ仲裁もせずに。あとそんなに長旅じゃねえだろ」
まあ5時間かかる人からすればそれはそう。あれだ。クドラスさまが珍しく雑な言葉遣いで暴言を吐いていたので、多分ストレスが溜まっていたんだろうなと俺なりに気を使っただけである。
クドラスさまは商売人であるが故、気を遣わずに会話出来る相手が中々いないのかもしれない。気の置けない友人、あるいは小学生のころからの悪友のような距離感で会話ができるのなら、きっとストレス発散になるに違いない。たぶんきっと1%くらいはそういう感じ。
ほっぺたに突き刺さる嫌がらせの指先に睡眠妨害をされたので、渋々座り直して彼と向き合う。クドラスさまとの暮らしについて聞かれたのでありのままを告げれば、ふーん、などと言いながらニヤニヤし出す。
「そんなに好きか、クドラスさまが」
「そりゃあそうですよ」
と言い終わるや否や、廊下の方から何かが砕け散る音がしたので目を丸くする。レミリアたちが何か作業でもしていたのだろうか。
「じゃあレガルは?」
「旦那さまですか?」
好きか嫌いかと言われると普通に好きだ。そうじゃなければ流石の俺もえっちなやつは遠慮したいところだし。そう思って好きですよと告げれば、今度は何かが壁にぶつかったような衝撃と音がして、模様替えでもしているのかなと思う。
「へえ。じゃあなんでクドラスさまのお誘いは速攻断ったんだ? 幸せだったんだろ」
「だって」
俺が居なくなると旦那さまは多分、一生えっちできない可能性が出て来ると思う。これは誇張でもなんでもなくて、俺ほどの無能ヒキニートに結婚の話が来るほどに旦那さまはお相手がいなかったという事実があるからだ。
気持ちがいいことを知った今だからわかるが、俺ですら出来ないのやだなーと思うのだから、旦那さまにとっては死活問題であるはず。
「旦那さまはたぶん、俺が居ないと困ると思うんですよね」
「……へえ?」
「俺は無能なんですけど、でも俺でも出来ることがあるって教えてくれたのは旦那さまなので。出来ると言っても俺はほとんど何もしないんですけど」
俺は自分が役立たずで無能であることには納得しているけど、誰かの役に立ちたい、でもできない、などと言う悩みは別にない。出来ないもんはしょうがないし、出来ないなりの幸せを俺は知っているから、特に不満は無いのだ。でも。
「あ、でも、出来ることがあるから傍にいるんじゃあないんですよ。出来ることがあって、その上で俺がそうしてあげたいと思うからここに居るんです」
クドラスさまは、俺に穏やかで幸せな時間をくれたけど、俺がクドラスさまに何かをしてあげたいと思うことは殆ど無かった気がする。彼は彼の人生を生きていて、俺が居なくてもそれは変わらないだろうなと、何となく思っていた。
「クドラスさまには、何かしてやりてえとか思わねえってこと?」
「そういうと語弊がありますけど、そう思った時に俺に出来ることは無かったんです」
何にもせずに過ごすのは幸せな時間だ。でも、たぶん、誰かと過ごすのであれば、お互いに相手に何かを手渡したくなる相手である方が、たぶん幸せなんだと思う。少なくとも、俺にとっては。あぁ、そうか。
「俺は勘違いしていたんですよね。あたたかい部屋と日当たりのよいソファがあればいいんだと。誰にも期待されなくても、出来ることがなくても、幸せには過ごせるって。それは嘘じゃあないんですけど」
「けど?」
「幸せは色々あるので、俺が知らないだけだったんですよ」
無能で無知なヒキニートであるからにして、言葉通りに俺は知らなかったのだ。
「ワインの美味しさもいただいたワインで初めて知りましたから。ありがとうございます」
「……あー、そりゃよかったな」
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