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3章 ニート、勘違いを知る
ニートはしたいことがたくさんある。
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夕食の前には旦那さまとクドラスさまが俺の部屋にやってきた。お話は終わりましたかと聞いてみたら、クドラスさまがにこやかに頷いてくれるから、きっとうまくいったに違いない。
旦那さまはじっと俺とクドラスさまの方を見ていて、俺と目が合うと珍しく狼狽えている様子で面白い。理由はわからないけど初めて見た。
クドラスさまに名を呼ばれるので返事をすれば、手をとられて言葉をもらう。
「ルシア。僕はあなたが穏やかに過ごせるならそれでよいと思っていました。でも、あなたはここに居たいのですよね?」
「はい、クドラスさま」
迷いなく答える俺を見てか、クドラスさまが少し寂しそうに見えて、何となく落ち着かない気持ちになって、慌てて何か言わなければと言葉にする。
「あの。クドラスさま。俺は決して、クドラスさまだと駄目だってわけじゃあないんです」
「一緒に暮らせて楽しかった。それは事実ですからね?」
「そう! そうです!」
小さく笑ってくれた彼を見て、俺は少しほっとする。一度目を伏せた後で、クドラスさまが再び口を開いた。
「離婚の件は受け入れましょう。ですが、僕たちは家族同然に暮らしていました。そうですよね、ルシア」
「? はい。もちろんです」
「なら、これからも僕と会ってくれますか?」
「おっとルシア。ちょっと雲行きが怪しくなってきてねえか?」
穏やかにほほ笑むクドラスさまに、俺が嬉しくなって頷くと、腕を広げてくれださるので飛び込んでおく。チェリーワインくんが妙な合いの手を入れてきていたが、よくわからないのでスルーだ。
よかった。旦那さまとは思う存分語り合って仲良くなれたらしい。そう思っていれば、俺を抱きしめるクドラスさまの腕を旦那さまが引きはがしにかかっているので目を丸くする。
「何を勝手なことを言っている。そしてその手を離せ」
「いやです。それに僕とルシアは家族同然の関係ですよ? 家族に会いにくるのは当然ではありませんか?」
「すげーな、諦めたフリして今後隙あらば付け込む気満々じゃねえか」
「人聞きの悪い。ちゃんと離婚には納得して結婚も認めているではありませんか。ねえ、ルシア」
「そうですね?」
「おう目を覚ませルシア。そいつの腹の中は真っ黒だぞ」
チェリーワインくんはクドラスさまを誤解している。クドラスさまが何かを企むなんてこと、商売ならともかく俺相手にするはずがない。疑うなんてクドラスさまが可哀そうですよと告げたら、可哀そうなのはお前の頭だと言われて、それはそれでその通りだと思った。
泊まっていくのは許さない、と宣言した旦那さまの手によって、クドラスさまとついでにチェリーワインくんが追い出される。もう夕方過ぎたけど、これから5時間もかけて帰るのかと思うと流石に可哀そう。案の定チェリーワインくんが文句を言っていたけど、旦那さまは断固拒否だった。
覚えてろよ! と捨て台詞のようなものを吐いて帰っていくチェリーワインくんを見送って、いつものように部屋で食事を済ませると、旦那さまが来るというのでこれまたいつものように準備をしておく。そう言えば結局メモのやつを実行できていないので、今日は頑張るぞと気合を入れる。
気合をいれていたのに、いつもの美味しい何か入っているワインは今日は無くて首を傾げていたら、ボトルごと持参した旦那さまがやってきたので、二人で一杯ずつ手に取った。
「ルシア。その」
「はい」
「あれは、本心か」
あれとは。首を傾げていたら、チェリーワインくんに言ったことだと言われるので思い至る。チェリーワインくんから聞いたのだろう。もちろんですよと頷けば、もごもごと珍しく口ごもる旦那さまが居て、今日は珍しい姿をよく見るなぁと感慨深い。
「俺が旦那さまにしてあげたいと思うって言ったことですよね?」
「そ、うだ」
「?」
確認の言葉を発しつつ、なんとなくその目元に指先で触れれば、赤みが増した気がして不思議に思う。酔いが回ったのか若干顔が赤いし、旦那さまは意外とお酒には弱いのかもしれない。
「酔いが回ったなら、今日はもう寝ますか?」
珍しく気を使ってみた俺だったが、目元に触れていた手を掴まれて唇が触れる。何となく不満げに見えるので、やはりえっち騎士たる旦那さまは今日もやる気に満ちているということだ。そうであるならば、クドラスさまに会わせてもらえた恩もあることだし、今日こそは俺が頑張りたいところである。
グラスを置いてから、頬に手を添えて額を合わせる。旦那さまは最初の頃より大分表情が豊かになった気がするが、よくよく見るとまだまだ子供っぽい顔つきをしている気すらした。
旦那さまは25歳だからそんなはずはないのだけど、でも俺より5歳も下のこの人は、ずっとたくさんしんどい思いをしてきたに違いなく。そうだとすれば、ニートの俺が彼に対して出来ることがあるのは、とんでもない幸運に感じられた。こんな風に思えるようになるのは、俺にとっては、きっと宝くじの一等をあてるよりも難しい筈のことだから。
暖かい部屋と、柔らかい日のあたるふかふかのソファ。俺にとってずっとゆるぎなかった幸せのかたち。
そこに踏み込んできたのこの人が見せてくれた新しい幸せは、俺にとって。
「あ、そうだ。旦那さま」
「どうした」
「今更で申し訳ないのですが」
彼の名前を呼びたいくらいには、喜ばしいものだった。
旦那さまはじっと俺とクドラスさまの方を見ていて、俺と目が合うと珍しく狼狽えている様子で面白い。理由はわからないけど初めて見た。
クドラスさまに名を呼ばれるので返事をすれば、手をとられて言葉をもらう。
「ルシア。僕はあなたが穏やかに過ごせるならそれでよいと思っていました。でも、あなたはここに居たいのですよね?」
「はい、クドラスさま」
迷いなく答える俺を見てか、クドラスさまが少し寂しそうに見えて、何となく落ち着かない気持ちになって、慌てて何か言わなければと言葉にする。
「あの。クドラスさま。俺は決して、クドラスさまだと駄目だってわけじゃあないんです」
「一緒に暮らせて楽しかった。それは事実ですからね?」
「そう! そうです!」
小さく笑ってくれた彼を見て、俺は少しほっとする。一度目を伏せた後で、クドラスさまが再び口を開いた。
「離婚の件は受け入れましょう。ですが、僕たちは家族同然に暮らしていました。そうですよね、ルシア」
「? はい。もちろんです」
「なら、これからも僕と会ってくれますか?」
「おっとルシア。ちょっと雲行きが怪しくなってきてねえか?」
穏やかにほほ笑むクドラスさまに、俺が嬉しくなって頷くと、腕を広げてくれださるので飛び込んでおく。チェリーワインくんが妙な合いの手を入れてきていたが、よくわからないのでスルーだ。
よかった。旦那さまとは思う存分語り合って仲良くなれたらしい。そう思っていれば、俺を抱きしめるクドラスさまの腕を旦那さまが引きはがしにかかっているので目を丸くする。
「何を勝手なことを言っている。そしてその手を離せ」
「いやです。それに僕とルシアは家族同然の関係ですよ? 家族に会いにくるのは当然ではありませんか?」
「すげーな、諦めたフリして今後隙あらば付け込む気満々じゃねえか」
「人聞きの悪い。ちゃんと離婚には納得して結婚も認めているではありませんか。ねえ、ルシア」
「そうですね?」
「おう目を覚ませルシア。そいつの腹の中は真っ黒だぞ」
チェリーワインくんはクドラスさまを誤解している。クドラスさまが何かを企むなんてこと、商売ならともかく俺相手にするはずがない。疑うなんてクドラスさまが可哀そうですよと告げたら、可哀そうなのはお前の頭だと言われて、それはそれでその通りだと思った。
泊まっていくのは許さない、と宣言した旦那さまの手によって、クドラスさまとついでにチェリーワインくんが追い出される。もう夕方過ぎたけど、これから5時間もかけて帰るのかと思うと流石に可哀そう。案の定チェリーワインくんが文句を言っていたけど、旦那さまは断固拒否だった。
覚えてろよ! と捨て台詞のようなものを吐いて帰っていくチェリーワインくんを見送って、いつものように部屋で食事を済ませると、旦那さまが来るというのでこれまたいつものように準備をしておく。そう言えば結局メモのやつを実行できていないので、今日は頑張るぞと気合を入れる。
気合をいれていたのに、いつもの美味しい何か入っているワインは今日は無くて首を傾げていたら、ボトルごと持参した旦那さまがやってきたので、二人で一杯ずつ手に取った。
「ルシア。その」
「はい」
「あれは、本心か」
あれとは。首を傾げていたら、チェリーワインくんに言ったことだと言われるので思い至る。チェリーワインくんから聞いたのだろう。もちろんですよと頷けば、もごもごと珍しく口ごもる旦那さまが居て、今日は珍しい姿をよく見るなぁと感慨深い。
「俺が旦那さまにしてあげたいと思うって言ったことですよね?」
「そ、うだ」
「?」
確認の言葉を発しつつ、なんとなくその目元に指先で触れれば、赤みが増した気がして不思議に思う。酔いが回ったのか若干顔が赤いし、旦那さまは意外とお酒には弱いのかもしれない。
「酔いが回ったなら、今日はもう寝ますか?」
珍しく気を使ってみた俺だったが、目元に触れていた手を掴まれて唇が触れる。何となく不満げに見えるので、やはりえっち騎士たる旦那さまは今日もやる気に満ちているということだ。そうであるならば、クドラスさまに会わせてもらえた恩もあることだし、今日こそは俺が頑張りたいところである。
グラスを置いてから、頬に手を添えて額を合わせる。旦那さまは最初の頃より大分表情が豊かになった気がするが、よくよく見るとまだまだ子供っぽい顔つきをしている気すらした。
旦那さまは25歳だからそんなはずはないのだけど、でも俺より5歳も下のこの人は、ずっとたくさんしんどい思いをしてきたに違いなく。そうだとすれば、ニートの俺が彼に対して出来ることがあるのは、とんでもない幸運に感じられた。こんな風に思えるようになるのは、俺にとっては、きっと宝くじの一等をあてるよりも難しい筈のことだから。
暖かい部屋と、柔らかい日のあたるふかふかのソファ。俺にとってずっとゆるぎなかった幸せのかたち。
そこに踏み込んできたのこの人が見せてくれた新しい幸せは、俺にとって。
「あ、そうだ。旦那さま」
「どうした」
「今更で申し訳ないのですが」
彼の名前を呼びたいくらいには、喜ばしいものだった。
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