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1章
とんで火に入る炎上案件。
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会社勤めをしていると、時にあらぬところから火の粉が降りかかることがある。
今日は決裁が下りている筈だから~と軽快なステップで会社のドアを開けた途端、バク転をかましたくなる時があるのだ。そう。
「助けて父さん! どろぼうだってうたがわれてるんだ!」
「あぁ!? アンタが親か! ただで済むと思うなよ!」
売り物ならタダじゃないよなぁ。などという当たり前のことを考えて現実逃避をかます俺が思うのは。
炎上案件の上で卓越したタップダンスを踊って酸素を送ることが得意技だった先輩、元気かなぁ、という、あの頃はまだマシだったという実感だった。
昨日、俺が街への同行を頼んだ後に、何故か崩れ落ちるレオンを見た後。渋々と言った様子の了承の返事をもぎ取った俺は、アレクたちと街へと繰り出していた。
想像していた異世界の街並みそのもの、といった光景は非常に心躍るもので、そしてなにより。
「おい、独りで行動するな。外見は誤魔化しているとはいえ、何があるかわからないんだぞ」
「あはは。でも、見事なものですよね。幻惑の鏡、でしたっけ? 見た目は完全に別人です」
なんだか知らない大人の方みたいでちょっと緊張します、と口にするアレクを前に、ハハッ、なんて笑う俺は冷や汗をかいていた。
ちらと見た、足元の水たまりにうつる今の俺の姿は、前世の先輩の姿そのもの。
――幻惑の鏡。映し出した姿を、その者が思い描く容貌へと変えてしまう魔法の鏡だ。効果時間は1日ほどな上、そもそも幻惑魔法を扱う人間からすればたやすく見破れる代物ではあるが、こうやってこっそり遊びに行くにはうってつけなのである。
もちろん誰もが持っているものではなく、所持する者には厳格な調査が入るし、鏡には誰がいつ使ったのか記録も残ってしまうから、悪事には向かない。
街へ行くなら変装は必須。すったもんだの末、魔法で完全に変えてしまおう! という結論に達したというのが、今俺が本来のものに近い姿で開放感に満ち溢れている理由である。
途中ひらひらワンピースを着て女装してみる作戦も挟んだが、二人が5分ほど無言になった末に却下された。謎の時間だった。
アレクの案内で訪れた店の店主は、皆いい人ばかりで、友人だと紹介された俺を見て嬉しそうに話しかけてくれる。
「アレクはやっぱり人気者だな。皆君を気にかけるし、心配もしてくれる」
いきなり現れた胡散臭い男性を見ても、アレクの連れならばと警戒をとくあたりに、主人公であること以上の魅力の片鱗を感じた。
「大げさですよ。でも、皆さん優しいのは事実ですね。子供のころからよくしてくれます」
通りがかった青年にひらりと手を振って挨拶をしながら、アレクがほほ笑む。ゲームの中では、彼の家族構成すら知りえなかったので、こうして見ると、アレクもここに生きる一人の人間なのだと実感する。
まあ、それはそれとして。
「くっついてもらわないと困るんだけどな」
露店に並ぶ品を見て、何事かを話す二人の背を見ながら、俺はポケットの中の鏡を握りこんだ。
路地裏で、くたびれた営業事務だったころの俺の姿へと容貌を変えてから、レオンとアレクを置いて歩き出す。
アレクには、後で読んでくれ、と言って手渡した手紙があるから、とりあえずは大丈夫だろう。帰ったら100%怒られるとは思うが。
――35歳独身、好きなものはコンビニのから揚げ。年々食べられる個数が減っていくむなしさと共に肉を噛み締めていた日々が、今はとても懐かしい。
ぐちゃりと踏みしめたぬかるみと、久しぶりに思い出したそれは。
想像していたよりもずっと、他人事のように思えた。
今日は決裁が下りている筈だから~と軽快なステップで会社のドアを開けた途端、バク転をかましたくなる時があるのだ。そう。
「助けて父さん! どろぼうだってうたがわれてるんだ!」
「あぁ!? アンタが親か! ただで済むと思うなよ!」
売り物ならタダじゃないよなぁ。などという当たり前のことを考えて現実逃避をかます俺が思うのは。
炎上案件の上で卓越したタップダンスを踊って酸素を送ることが得意技だった先輩、元気かなぁ、という、あの頃はまだマシだったという実感だった。
昨日、俺が街への同行を頼んだ後に、何故か崩れ落ちるレオンを見た後。渋々と言った様子の了承の返事をもぎ取った俺は、アレクたちと街へと繰り出していた。
想像していた異世界の街並みそのもの、といった光景は非常に心躍るもので、そしてなにより。
「おい、独りで行動するな。外見は誤魔化しているとはいえ、何があるかわからないんだぞ」
「あはは。でも、見事なものですよね。幻惑の鏡、でしたっけ? 見た目は完全に別人です」
なんだか知らない大人の方みたいでちょっと緊張します、と口にするアレクを前に、ハハッ、なんて笑う俺は冷や汗をかいていた。
ちらと見た、足元の水たまりにうつる今の俺の姿は、前世の先輩の姿そのもの。
――幻惑の鏡。映し出した姿を、その者が思い描く容貌へと変えてしまう魔法の鏡だ。効果時間は1日ほどな上、そもそも幻惑魔法を扱う人間からすればたやすく見破れる代物ではあるが、こうやってこっそり遊びに行くにはうってつけなのである。
もちろん誰もが持っているものではなく、所持する者には厳格な調査が入るし、鏡には誰がいつ使ったのか記録も残ってしまうから、悪事には向かない。
街へ行くなら変装は必須。すったもんだの末、魔法で完全に変えてしまおう! という結論に達したというのが、今俺が本来のものに近い姿で開放感に満ち溢れている理由である。
途中ひらひらワンピースを着て女装してみる作戦も挟んだが、二人が5分ほど無言になった末に却下された。謎の時間だった。
アレクの案内で訪れた店の店主は、皆いい人ばかりで、友人だと紹介された俺を見て嬉しそうに話しかけてくれる。
「アレクはやっぱり人気者だな。皆君を気にかけるし、心配もしてくれる」
いきなり現れた胡散臭い男性を見ても、アレクの連れならばと警戒をとくあたりに、主人公であること以上の魅力の片鱗を感じた。
「大げさですよ。でも、皆さん優しいのは事実ですね。子供のころからよくしてくれます」
通りがかった青年にひらりと手を振って挨拶をしながら、アレクがほほ笑む。ゲームの中では、彼の家族構成すら知りえなかったので、こうして見ると、アレクもここに生きる一人の人間なのだと実感する。
まあ、それはそれとして。
「くっついてもらわないと困るんだけどな」
露店に並ぶ品を見て、何事かを話す二人の背を見ながら、俺はポケットの中の鏡を握りこんだ。
路地裏で、くたびれた営業事務だったころの俺の姿へと容貌を変えてから、レオンとアレクを置いて歩き出す。
アレクには、後で読んでくれ、と言って手渡した手紙があるから、とりあえずは大丈夫だろう。帰ったら100%怒られるとは思うが。
――35歳独身、好きなものはコンビニのから揚げ。年々食べられる個数が減っていくむなしさと共に肉を噛み締めていた日々が、今はとても懐かしい。
ぐちゃりと踏みしめたぬかるみと、久しぶりに思い出したそれは。
想像していたよりもずっと、他人事のように思えた。
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