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1章
炎上案件は世論を味方につけよ。
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路地裏から一歩踏み出した俺の横っ腹に、物凄い衝撃が突き刺さったのはその直後。
俺を父さんと呼ぶ知らぬ子ども。吊り上がった眉で怒鳴る恰幅の良いおじさん。
――さて、この状況を整理しよう。
当然ながら俺に子供がいるわけもなく、この子が嘘をついているのは明白だ。
考えられるのは二つ。この子が実際に盗みを働き、偶然見かけた俺に助けてもらおうとしているパターン。ただし。
……こちらを見てニヤリと笑う小太りの男からして、その線は薄い。
なんて典型的な悪役ムーブ。参考にはしたくないが、俺の中の歴史に残る傑作だ。ボコボコにされて欲しい。
ところで、炎上案件でやってはいけないことの一つに、嘘をついて誤魔化す、というものが挙げられる。大抵ボロが出るし、火に油でしか無いからだ。
ただし、今回は例外。
相手がウソで陥れようとしてきた時にまで、馬鹿正直になる必要は――皆無だ。
この騒ぎに、こちらを振り向いたのは数名、十分な人数。まずはこの2対1の劣勢をイーブンにもっていく。
「そんな……。一体、何があったのですか!?」
悲痛な声で、思わず大きな声が出た、という風を装って、ハッとした顔をして口を覆っておく。申し訳ありません、ですが、盗みなんて、事情もなくそんなことをする子ではなくて。
などという引きを作って、周りがちらちらとこちらを見ていることを確認してから、どっかで聞いたような聞くも涙、語るも涙の壮大なストーリーをでっちあげていく。
思ったよりも語りに力が入り、一人一人と観客が増え、気分は路上の演説活動。小太りの男に対する視線が徐々に厳しいものになったタイミング。――ここである。
こっそりあくびをかまして捻りだした涙を光らせ、出来る限りぬかるみの強い地面に狙いを定める。
震える脚を意識して、あえてゆっくりと、片膝ずつを地面につけていく。
固唾をのんで見守る聴衆のざわめきが大きくなっていき、声の大きさ、震えを狙い定めて、地面までの距離を算出――と、その時だった。
「そりゃ可笑しな話だな、旦那? アンタの店なんて――この辺には無かった筈だが?」
ぽん、と放り込まれた、やけに通りの良い声が、周りのざわめきを引き起こす。
「え? それって、この男の方が嘘ついてたってことかい?」
「おかしいと思ってたんだ、あんな立派そうな親が子供に盗みなんてさせねえだろ」
「そうだよ、証拠もないんだろ?」
どこからともなく投げ入れられた声が、全てを一変させていく。小太りの男に詰め寄る者たちも出始めて、周りが人でごった返すような状況の中。
「アンタ、こっち」
フードを目深に被った男が、俺の腕を引いて駆け出した。しばらく行った先、人通りの少ない建物の影で、あがる息を整える俺を見て、耐え切れないと言った様子で男が噴き出す。
「ハハハ! 傑作だったな、アレ! アンタも中々肝が据わってるじゃないか。なあ?」
おろされたフードからこぼれる、燃えるような赤い髪と、同じく赤い弧を描く瞳。耳に揺れる水晶のような飾りのついた金のカフスが、やけに似合っていてイケメン憎し。
子供っぽい笑み……レオンやアレクと同じくらいの年頃だろうその青年は、ひとしきり笑ってから、しげしげと俺を眺める。
「まあ、とりあえず、服着替えるか。泥ついてるし」
「ありがとう、ございます……?」
「おう。俺はミザイア。あんたは?」
「……マコトといいます」
「ふーん? よろしく、マコト」
咄嗟の偽名とか、考えてなかったなあ。
そんな詰めの甘いことを考えながら、俺は彼の後を追って駆け出した。
俺を父さんと呼ぶ知らぬ子ども。吊り上がった眉で怒鳴る恰幅の良いおじさん。
――さて、この状況を整理しよう。
当然ながら俺に子供がいるわけもなく、この子が嘘をついているのは明白だ。
考えられるのは二つ。この子が実際に盗みを働き、偶然見かけた俺に助けてもらおうとしているパターン。ただし。
……こちらを見てニヤリと笑う小太りの男からして、その線は薄い。
なんて典型的な悪役ムーブ。参考にはしたくないが、俺の中の歴史に残る傑作だ。ボコボコにされて欲しい。
ところで、炎上案件でやってはいけないことの一つに、嘘をついて誤魔化す、というものが挙げられる。大抵ボロが出るし、火に油でしか無いからだ。
ただし、今回は例外。
相手がウソで陥れようとしてきた時にまで、馬鹿正直になる必要は――皆無だ。
この騒ぎに、こちらを振り向いたのは数名、十分な人数。まずはこの2対1の劣勢をイーブンにもっていく。
「そんな……。一体、何があったのですか!?」
悲痛な声で、思わず大きな声が出た、という風を装って、ハッとした顔をして口を覆っておく。申し訳ありません、ですが、盗みなんて、事情もなくそんなことをする子ではなくて。
などという引きを作って、周りがちらちらとこちらを見ていることを確認してから、どっかで聞いたような聞くも涙、語るも涙の壮大なストーリーをでっちあげていく。
思ったよりも語りに力が入り、一人一人と観客が増え、気分は路上の演説活動。小太りの男に対する視線が徐々に厳しいものになったタイミング。――ここである。
こっそりあくびをかまして捻りだした涙を光らせ、出来る限りぬかるみの強い地面に狙いを定める。
震える脚を意識して、あえてゆっくりと、片膝ずつを地面につけていく。
固唾をのんで見守る聴衆のざわめきが大きくなっていき、声の大きさ、震えを狙い定めて、地面までの距離を算出――と、その時だった。
「そりゃ可笑しな話だな、旦那? アンタの店なんて――この辺には無かった筈だが?」
ぽん、と放り込まれた、やけに通りの良い声が、周りのざわめきを引き起こす。
「え? それって、この男の方が嘘ついてたってことかい?」
「おかしいと思ってたんだ、あんな立派そうな親が子供に盗みなんてさせねえだろ」
「そうだよ、証拠もないんだろ?」
どこからともなく投げ入れられた声が、全てを一変させていく。小太りの男に詰め寄る者たちも出始めて、周りが人でごった返すような状況の中。
「アンタ、こっち」
フードを目深に被った男が、俺の腕を引いて駆け出した。しばらく行った先、人通りの少ない建物の影で、あがる息を整える俺を見て、耐え切れないと言った様子で男が噴き出す。
「ハハハ! 傑作だったな、アレ! アンタも中々肝が据わってるじゃないか。なあ?」
おろされたフードからこぼれる、燃えるような赤い髪と、同じく赤い弧を描く瞳。耳に揺れる水晶のような飾りのついた金のカフスが、やけに似合っていてイケメン憎し。
子供っぽい笑み……レオンやアレクと同じくらいの年頃だろうその青年は、ひとしきり笑ってから、しげしげと俺を眺める。
「まあ、とりあえず、服着替えるか。泥ついてるし」
「ありがとう、ございます……?」
「おう。俺はミザイア。あんたは?」
「……マコトといいます」
「ふーん? よろしく、マコト」
咄嗟の偽名とか、考えてなかったなあ。
そんな詰めの甘いことを考えながら、俺は彼の後を追って駆け出した。
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