恋する総受け悪役令息は、好意と押しに弱い。

ツキハ|BL小説

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2章

◇レオン・ギルクスの福音。

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 悪魔、天使、傍若無人、神の寵児、悪辣。

 人としては決して褒められない存在でありながら、立場としては国を挙げて祀り上げられる矛盾。


 今となっては、もはや過去に何を思っていたのかは、きっと聞くことは出来ないのではないかと思うほど、アレは変わってしまって。

 
 そして。



 ――俺が見てきたお前は、ずっと、何をしていても、一度も今のように笑ってはいなかった。


 






「模擬戦用の剣だ。致命傷と判断される一撃が加われば、自動で判定が下る」

 人払いをした訓練場で、実践用の長剣に魔法が施されたソレを放る。痛みと衝撃はそのままに、実際にケガはしない訓練用の魔法が施されたもので、たまに痛みで気絶する者も出る代物だ。


 片手で剣を抜き、しげしげと眺めるその立ち居振る舞いを見るに、この男……ミザイアは、貴族系の剣術の基礎が身についているのは間違いない。平民として生まれたとするならば、そこに矛盾が生じる。

 ユフィルを街で助けたという話が本当なら、それが偶然かどうかは怪しいものだ。ユフィルの変装を見抜き、信用を得て、そして騎士の宣誓という確固たる力を得ることが目的で近づいたと言われれば納得でしかない。

 少し離れたところからこちらを見るユフィルとアレクの方を見れば、俺と目が合ったユフィルが慌てたように目を逸らすから、剣を握る手に力がこもる。



「いいぜ、ルールは?」
「実践でそんなものが存在するとでも?」
「へえ? なら、遠慮なく!」

 一歩の踏み込みで、ぐんと加速した赤髪が目の前に迫る。瞬発力ある動きから、間髪を入れず繰り出される一閃を受け流し、そのまま下から切り上げれば、おっと、なんて軽い台詞と共に飛びのいていくのが見えた。


「おお、思ったより反応がいいな。あんた実践はまだだろ? 訓練で鍛えたわけ?」
「ユフィルを狙う馬鹿どもなら何度も斬ったがな」
「なるほどそれで」


 誘うように剣先を揺らして笑う奴に、お望み通りに斬りかかる。型通りの動きが徐々に崩れて、一拍ずらしたような動きで此方のタイミングを乱してくるのが鬱陶しい。



 キィンと、金属同士がぶつかり合う音が響き続けて、次第に違和感が大きくなっていく。




 最初は上手く切り結べていたはずなのに、徐々に攻勢に出るタイミングを削られて、一撃の重みが増していく。



「っぐ、貴様、俺を馬鹿にしているのか」
「はは、そう見えたなら悪い。でもさ」


 いきなり全力で斬りかかって、あいつの目の前で気絶でもさせたら、流石に可哀そうだろ?


 俺にだけ聞こえる声量で堕とされた言葉が、俺の思考を真っ赤に染めた一瞬を、この男が見逃すはずもなく。



「挑発に乗って思考乱すのは悪手だって、よく覚えときな」


 手にした剣が、今までより強い力で弾き飛ばされる。衝撃で吹き飛ばされて、背中を強く打ちつけ、ハッとして体を起こした直後。

 喉元に突き付けられた剣に光が反射して、俺の動きもピタリと止まる。目の前の男はじっとこちらを見つめていて、やがてゆっくりと口を開く。



「お前は、なんでユフィルの騎士になりたい?」
「……。それが、俺に命じられた役割だ」
「なら、その命令が無かったら?」
「……は?」


 ミザイアの燃えるような色の瞳が、不自然に揺らぐ。炎が色を変えるように瞳の色も揺らいで、金の光が混じる。


「レオン・ギルクス。最初の命令は、現王からのものだろ? けど、当時の契約も、今は効力を失いつつある」
「何が、言いたい」
「お前は一度、立場から離れて、あいつを見るべきだってことさ」


 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。おれが、ユフィルの、ユフィルを護る立場から、離れる……?

 ひゅ、と、己ののどが不自然に詰まる心地がする。突き付けられた剣先が、途端に恐ろしいものに思えて、何か言わなければと思えば思うほどに、口の中が渇いていく。


 ――ずっと、苦しかった筈だ。望みもしない役割を強制され、嫌う相手を護らねばならないこの立場が。


 必死にこちらに縋るアレのしつこさが。


 アレの何もかもが理解できない俺には、何もしてやれない事実が。



「レオン・ギルクス。お前を縛る契約は、今ここで仕舞いだ。お前の人生を縛ってしまったこと、俺が代わりに謝ろう」


 それは、ずっと望んでいた筈の言葉であり。



「本来、国の宝だというなら、国の中枢が自分で守るべきなんだよ。最も、今の体制じゃそれも難しいからこうなってるんだが」


 それは、俺を開放する筈の言葉であり。














 それは、俺を音もない暗闇へ突き落す、福音だった。
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