恋する総受け悪役令息は、好意と押しに弱い。

ツキハ|BL小説

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2章

やさしいひとたち。

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 目の前で繰り広げられる光景は、俺にとっては信じられないものだった。

 レオンは、剣術においてはトップクラスの実力者だ。俺の護衛に任じられてからも鍛錬を怠らず、その実力を伸ばし続けている真面目な騎士。

 そのレオンが、ミザイアに圧倒されている。ミザイアは冒険者ギルド所属で戦いなれしているだろうけど、それにしたって力の差が大きい。


 剣先を突き付けられたレオンを呆然と見て、剣をおろしたミザイアを見て慌てて駆け寄れば、レオンの元へたどり着く前にミザイアに静止される。

「み、ミザイア。俺、レオン様に」
「レオン・ギルクスは、お前の護衛の任を解かれた」
「……え?」
「俺も元々学園に用があったからな。少なくとも、今後正式に宣誓が行われるまでは、俺がお前の傍につくよ」
「は……、え、あの、でも、なんで」


 はく、と口から言葉にならない空気が零れて、やっとの思いで絞り出した言葉も小さく震える。

 べつに、構わないはずだ。身の安全を優先するなら、レオンよりも強いミザイアに頼るべきだし、信用できるかという点でも、街で命がけで助けてくれた実績があるわけで。

 

 何も言えずに立ち尽くして居れば、俯いたレオンが渇いた笑いを漏らす。そのまま立ち上がって、こちらを見ないままに歩き去るその背にかけるべき言葉を。

 俺は結局、見つけられないままだった。












 ミザイアは、正式に騎士棟の生徒として登録されたらしい。途中入学は前例が無い筈なのに、彼の持ち前のコミュニケーション能力であっという間になじんでいるらしく、世界が変わってもやはり最強はコミュ力が強い奴……と戦慄した。



 レオンが俺の護衛の任を解かれたという話はあっという間に広まったようで、クラスメイトにも心配されてしまった。


「でも、新しく護衛になった方、優しい方のようでよかったですね」
「ほんとう! 少しお話しましたけど、明るくて頼もしい人で」
「ギルクス様はお強いですが、シア様に当たりが強いところがありましたでしょう? 少し心配で」
「わかります。確かに、以前のシア様は少しとげとげしかったですけど、それにしたって、なあ?」


 ほんの数か月前まで、レオンを気の毒だと言っていた皆が、今度は真逆のことを言うのが、なんだかとても恐ろしかった。

 人の評判なんてものは、こうも簡単にひっくり返るのだ。

 アレクは最初ミザイアに抗議していたけど、しばらく話して以降レオンのことに言及しなくなっていて、そして。




「今日の茶請けは人気店のケーキを用意しました」
「先生、わざわざ買いに行ったんですか……?」

「私が行ったわけではないのですが、お願いはしましたね」
「へぇ。学園の先生はずいぶんとイイご身分なわけだ」

 ニコニコと笑うカランド先生と、困惑するアレン、俺の隣に座るミザイア。――レオンは、あの日以来この茶会に顔を出していない。

 アレクが声をかけにいったらしいが、断られたらしく、もう2週間も顔を見ていない。


「おや、学園の生徒でも無かったお方は、やはり言うことが違っていらっしゃいますね」
「はっはっは! 優しい顔して非道なことをする奴が俺は許せなくてね」
「そんな方がいらっしゃるのですか。こわいですね」

 俺は、無言でケーキにフォークを突き刺しては口に運ぶ機械と化しつつ、笑顔で応酬する二人を見る。

 初めてミザイアが保健室に来た時からこんな感じなので、もはやBGMと思って聞き流している。逆癒し音源。


「シアさま、こちらも食べてみませんか?」
「ん? うん、ありがとう」

 ぼーっとしていたら、目の前に違うケーキが差し出される。ガトーショコラに似たそれは、口の中で溶けて、いつまでも苦みが残っていた。








 レオンに会えないままに、1か月がたとうとしたころ。俺を呼んでる人が居るとクラスメイトに言われて廊下に出れば、見覚えのある騎士棟の生徒の服が目に入る。

 少し身構えていれば、きっちりとした礼の後に口を開く彼に既視感があって、ハッとして問うてみる。


「あの、前にレオン様を訪ねて行った時にお会いしましたよね」
「あぁ、覚えていてくださったんですね。いや~、あの時はなれなれしく声かけてすみません。ガタイのいい男に囲まれたら嫌でしたよね~」

 恥じ入ったように笑う青年は、レオンのクラスメイトらしく、中々お会いできないシア様が来たので盛り上がってしまったのだと頭を下げてくる。

「いえ、まったく気にしていないので大丈夫ですよ。むしろ気にかけてくださってありがとうございます」
「はは、ありがとうございます。それで、あの、今日はですね」

 もごもごと言い淀みながら、少しして意を決したように青年が言葉をこぼす。



「シア様、わるいんだけどさ、レオンに会ってやってくれませんか?」
「……え」
「ああ、いや。あの、護衛が変わったって話は聞いたんですけど、どうしても……」
「何かあったのですか」



「あいつここ1ヶ月無茶な訓練してて、目に余るっていうか。さっきついに大怪我して保健室行きになってさ」
「は!?」

 大けが。の言葉に驚いて震える俺を見て、すぐ治療してもらったから今はもう平気だとフォローが入る。しかし、その後すぐにトーンがさがって、心配なのだと言葉が続く。

「シア様はさ、その、レオンのこと、嫌いですか?」
「そ、んなわけ……」

 咄嗟に否定した俺を見て、目の前の彼がほっと息を吐く。ふらふらとしゃがみこんで居るあたりに、よほど緊張していたらしく、大丈夫ですかと問えば苦笑が返ってきた。

「よかった~! あいつさ、3つも年上だろ。周りも気を遣ってて、イマイチ馴染めてないとこあって」

 たぶん、レオンのことちゃんとわかってやれるのはシア様だけだと思うから、声だけでもかけてやって欲しい、と。それだけ言って、彼は去っていく。








「……わかってやれてたら、よかったんだけどなぁ」
 
 己の意志と関係なく護衛になって、しかもその相手が俺で。きっとたくさん我慢を強いていただろうことは想像に難くなく。
 

 しかし……。お世話になった相手が怪我をしたとあっては、放っておくこともできない。

 なんと声をかけたものか。いやそもそも見舞いを喜ばれるとは思えないのだが……。




 悶々としながら、俺は保健室へと足を向けた。
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