恋する総受け悪役令息は、好意と押しに弱い。

ツキハ|BL小説

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2章

危機管理マニュアル(炎上後用)。

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※若干の無理矢理描写があります。
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 俺は目が死んでいた。

 レオンのご乱心からは平穏に過ごし、1月ほどたって、もう11月に入ろうかという頃。

 最初はよかった。過保護だなあ、とは思えど、まあ心配かけたし、そのうち面倒になって頻度も落ち着くだろうと思っていた。

 1週間目、アレクは有言実行で毎日迎えに来た。俺はお礼を言った。

 2週間目、アレクは朝も迎えに来るようになった。俺は恐縮した。

 3週間目、アレクは夜俺が寝るまでの間にも顔を出すようになった。俺は疑問に思い始めた。

 4週間目。今。


 
「もしかしてですけど、これってストーカー予備軍に近い可能性が?」
「話聞く限りそうだな」

 目の前のミザイアに、後方の少し離れた位置からじっとこちらを見ているアレクを指し示しながら問えば、残念ながら、と神妙な頷きが返ってくる。ミザイアと二人で話したいことがあるんだと伝えたら妥協案としてああなった。

 そしてミザイア、お前、残念ながらじゃないんだよ。護衛だろ、なんとかしろよ。してください。


「いや、だってアレ光の魔力もちだし、傍に置いとくのはイイことだし、な?」
「な? じゃないんですよ。友人が道を踏み外そうとしているんですから止めてください」
「んなこと言われてもな。何かされたわけじゃないんだろ?」
「俺は今、世界共通の犯罪への対処の難しさを痛感しています」


 まあアレクのは純粋に心配してのことだから、強く言えないのが難しいところだ。

 とはいえ、俺も四六時中ついてまわられるとちょっと辛いので、なんとか、せめて1週間目くらいまで戻って欲しい。

 うんうん唸っていたら、しょうがねえなー、なんて声のあとで頭に重みがのり、ぐしゃぐしゃと撫ぜられていく。

「とりあえず、俺が話しておくから、お前今日は帰りな」
「いいんですか?」
「おう。護衛の仕事だしな。お一人で街中歩くような自由人には、確かに息苦しいだろ、現状」

 ミザイア様!! と今更すぎるサマ付けをして、両手をとって礼を述べれば、真面目くさった顔をしたミザイアが言う。

「この角度の姿絵めっちゃ売れそう」
「俺の姿絵とか出回ってるんです?」

 なんだその商売チャンス。新たなる商機がこんなところに……? と脳内でそろばんをはじいていたら、不思議そうな顔をしたミザイアが口を開く。

「お前自分の顔面には自信があるよな……」
「まあ事実として顔面国宝ですよね」

 たまに寝ぼけて鏡見るとびっくりするしな。



「その自認があるのに何でそんなに間抜けなんだ?」
「突然の罵倒。失礼ですね。危機管理能力には自信がありますよ」

 炎上案件の後始末的な方面のな。

 あの頃はどこもかしこも燃えすぎていて、いかにして最短で処理するかという技術ばかりが磨かれたのだけど、燃える前の処理に関しては俺は知らない。学ぶ前に気付いたら35歳おじさん、ガワだけ天使な役職悪役令息に転職していたので。


「あー。まあ確かに、街では上手いこと立ちまわってたな」
「でしょう?」

 得意げに腕を組めば、ぐっと顔が近づいてきて、鼻先がくっつきそうな距離になる。一瞬レオンのことが脳裏をよぎって、少し動揺してしまって目を逸らしたが、なんだか負けた気がしてもう一度目を合わせれば、そのまま軽く頭突きを喰らう。


「いたっ」
「あー、だめだこりゃ。危機管理能力ゼロ」
「はぁ? 今のは不意打ちでしょう!」
「違うんだよなぁ」


 正直腹はたつが、アレクが落ち着くならば文句はない。

 一先ず部屋へ戻った後、陽が落ちたくらいのタイミングで扉がノックされて、ああ、報告にでも来たのかなと扉をあければ、想定通りの赤髪が見える。

 招き入れてお茶を入れれば、ミザイアが怪訝そうな顔をするので、アレクにしたのと同じ説明……側仕えが居ないことを伝える。

 部屋に側仕えを置く貴族は多いが、俺は大変不人気な悪役令息であったことと、俺自身が常に人が居ることを嫌っていたので、誰も置いていないというわけだ。



「……悪い、俺は今めちゃくちゃ動揺している」
「はぁ、そうなんですね。落ち着くハーブティーに替えますか?」
「うーん。馬鹿」
「最近のマイブームが罵倒だったりします?」


 頭をガシガシとかいたミザイアが、何度も唸ってから、わかった、説明してやる、と真剣な顔をするので、俺も営業マジメ顔をキめて向かい合う。ちょっとここだと説明しづらいというのでソファに座り直した途端、ぐっと肩を押されてあっさりひっくり返されるので、思わず目を白黒させてしまった。


 頭上にあるミザイアの顔が、照明を背負って少し影になるけれど、その目は強くこちらを射抜いていて,目を逸らすことができない。

 ぐっと肩を押さえつけられているので身を起こすことも出来ず、否応なしにレオンのアレがまた頭に浮かんで、心臓がうるさくなった。


「俺が何言いたいかわかったか?」
「え、と……」

 もしや、と思うことはあれど、いやしかし、自意識過剰では? と思ってもごもごと言い淀んでいたら、俺の肩を抑えていた左手をそのままに、右手が服の裾から差し込まれて腹をなぞる指先と、てのひらの熱がやけに鮮明に伝わってくる。

 触り方が違うなとか、意外とレオンの方が丁寧だった気がするとか死ぬほどどうでもいい差異を感じながら、徐々に這い上がってくる指先に、慌てて服の上からつかんで止めようとする。


「ちょ、っと、み、みざいあ」

 なんでお前はレオンがやったことをピンポイントでやってくるんだ! と内心ブチギレていたのだけど、指先が止まることはなく、そのまま胸元までなぞり上げられる。

 時折狙ったように摘ままれるから、そのたび羞恥が積み重なっていって、段々俺も泣きが入ってきて、とりあえず何とか終わらせたい一心で口を開く。


「みざいあ、ごめんなさぃ、わかった、から、それ、やだ」

 肩を抑えていた手が、俺の耳に触れる。目の前の男と、記憶の中のレオンがごっちゃになって、頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 そうやって懇願した先の、思ったよりも近くにあった瞳が、なんかさっきと違うなということだけが、その時の俺に理解できたことだった。
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