危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル

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第3章:変わりゆく生活

第135話:帰還

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それからフォブス君は、何度も水球を生み出すことに成功した。まあ、5回ほど成功したところで、魔力を使い切ったのか、バランスを崩して座り込んでしまったので、今日の魔法の練習は終わりにした。

ノリス君にも同様に魔力を感じてもらい、水球を作り出せるかやってみてもらったところ、成功した。これでフォブス君しかできなかったら、ノリス君が落ち込んだだろうし、無事に成功して良かった。

それからポーラに、自分がどんな風に魔法の練習をしたかを説明してもらい、時間があるときにそれを練習することを勧めておいた。ポーラの練習法はレーベルによるものだから、私が考えて練習法を示すよりも適しているだろう。それに、ポーラであれば実演してあげることもできるので、練習もしやすいはずだ。


2人が魔力を使い切ってしまったので、外での訓練は終わりにして、4人で部屋へ戻っていった。昼食後は部屋で勉強するらしい。

それを見送ってから、

「コトハ殿。2人に魔法を教えていただき感謝する」
「コトハさん、ありがとうございます」

アーマスさんとミシェルさんが頭を下げてきた。頭を下げられるのって慣れないなぁー・・・


気を取り直して、

「ポーラがしていた練習方法を教えておいたから、少しずつ練習すればいいと思うよ。あの子は魔法の適性がかなり高いから、いいお手本になると思うし」
「そうだな。外での訓練の一部に魔法の練習を取り入れるようにラムスに言っておこう・・・。それでだ、コトハ殿。1つ聞きたいのだが・・・・・・」
「ん?」
「コトハ殿たちが無詠唱で魔法を使うのは、そういうものだと考えないようにしていたのだが、フォブスやノリスが無詠唱で魔法を使えたのはどうしてだ?」
「あー、それか。うーん・・・・・・・・・・・・、詳しくは説明できないというか分かんないんだけど、魔法の肝はイメージなの。呪文の詠唱はその補助だから、水球作る程度なら詠唱なんていらないよ」
呪文の詠唱について私の考えを伝えると、アーマスさんとミシェルさんは再び言葉を失った。


2人が立ち直るのを少し待ってから、

「少なくとも私は、呪文なんて1つも知らないし、詠唱したこともない。もちろんカイトとポーラもね。詠唱は、生じさせたい事象のイメージを固めながら、魔力を集めていく過程なんだと思うよ。だけど、水球みたいに生み出したいものが明確な場合は、無詠唱でいいって感じかな。これ以上は分かんないけど・・・」
「い、いや。貴重な情報をありがとう。『魔族』や『エルフ』は無詠唱で魔法を使える者が多いとは聞くが、それは魔力量や種族特性ではなく・・・」
「イメージすることへの慣れかなぁー・・・・・・。まあ、イメージがうまくできていないと、いたずらに魔力を垂れ流すだけになって魔法が発動できないから、その意味では魔力量は関係あるかもしれないけど」
「なるほど。・・・・・・少なくとも研究してみる価値はありそうだな。コトハ殿、この情報を我が領の魔法師団に伝えてもいいか?」
「うーん、いいけど。あんまり広めてほしくはないかな。別に困るわけでもないけど、敵を利する情報にもなり得るからね」
「そうだな。とりあえず我が領の魔法師団で試して、状況を見てから今後創設予定の王宮魔法師団に広める感じでどうだ?」
「うん、それで。ああ、バイズ公爵領の魔法師団はいいけど、それ以外では情報の出所は隠してね」
「承知した」

アーマスさんはその足で魔法師団に情報を伝えに向かった。


私はミシェルさんと話しながらお屋敷に戻り、昼食を一緒にした。ミシェルさんは、フォブス君とノリス君がカイトやポーラと仲良くしているのが嬉しいみたい。辺境伯家や公爵家という高位貴族であれば、子どもであっても人間関係はシビアになる。貴族間の派閥や力関係などが、子どもの交友関係にも影響を及ぼしてしまう。バカバカしいと思うけど、この世界ではそれが常識なのだ。

それにアーマスさんたちは、平民であっても気にしないだろうが、平民の子が高位貴族の子どもたちと気軽に仲良くできるわけもないし、どうしても身分差は付いて回る。その結果として、仲良くできる人が限られるか、いなくなってしまう。

その点、カイトやポーラなら問題ない。クルセイル大公とバイズ公爵の関係が良好なのはある程度知られているだろうし、広まっても問題ない。なので、カイトとポーラがフォブス君とノリス君と仲良くすることに問題はない。
それに、2人は大公の弟妹という扱いなので、身分的にも問題ない。

そう考えると、4人が仲良くするのは、好ましいのだろう。まあ、そういったややこしい事を抜きにしても、4人の相性は良さそうに見えた。勉強面ではカイトたちより進んでいるであろうフォブス君とノリス君、戦闘能力では圧倒的なカイト、魔法が得意なポーラ。この4人が助け合いながら、成長してくれたら喜ばしいと思う。

そんな話をしながら、ミシェルさんと昼食後の時間を過ごした。私自身も、気軽に話せる女性ってこの世界ではいなかったので、 ―いや、そういえば前世でもいなかったけど・・・― ミシェルさんとお喋りするのはとても楽しかった。




その後、呼びかけに応じて集まってくれたクルセイル大公領騎士団に所属する騎士やマーカス、レーノの家族に、領都への移住を提案した。レーノに説明を任せ、いろいろ質問を受け付けた結果、ほとんどの家族が移住を希望した。というか、独身騎士の高齢の両親数名が移住を断念しただけで、それ以外は子連れの母親を含めて全員が移住を希望した。その数は50名ほど。思ってたよりかなり多かった。

アーマスさんとの打ち合わせ通り、馬車を借りることにしても、かなりの大移動になる。急遽レビンに、領都へ戻ってもらい、レーベルに準備を頼むのと同時に、マーカスに騎士団を森の入り口に派遣するように指示した。

アーマスさんから借りる馬車は幌馬車と呼ばれる大きめの馬車で、移住希望者の荷物を考慮して1台に乗れるのは10人ほど。子どももいるので、乗れる人数は多めだ。
とはいえ、5台の馬車に、20騎近い騎馬での移動となる。いや、森の入り口で幌馬車を持ち帰ってもらうし、この人数だとバイズ公爵領の騎士団に護衛の手伝いをお願いする必要があるので、移動規模はもっと大きくなるか・・・


 ♢ ♢ ♢


ミシェルさんとお喋りしたり、カイトたちの訓練の様子を眺めたりしながら、移住希望者を連れて領都へ帰る日になった。

移住希望者は、アーマスさんの用意してくれた幌馬車に乗り込み、荷物を積んでいる。ジョナスたち我が領の騎士団は、同行してくれるバイズ公爵領の騎士団と打ち合わせを行っている。

私は見送りに来ている、カイトたちのもとへ向かい、

「カイト、ポーラ、元気でね。アーマスさんたちの言うことしっかり聞いて、頑張ってね」
「うん!」
「コトハお姉ちゃんが強いのは知ってるけど、気をつけてね」
「うん。何か困ったことあったらいつでも呼んでね。いつでも駆けつけるから」
「「はーい!」」

2人に言いたいことはまだまだあるけど、過保護すぎるのもよくないだろうからこのくらいにしておく。
フェイとレビンに2人のことを頼み、フォブス君とノリス君の方を向く。

「フォブス君とノリス君。カイトとポーラをよろしくね」
「はい!」
「任せてください!」

ノリス君が無邪気に答え、フォブス君が頼もしく応じてくれた。
それからシャロンや、残るスティアたちスレイドホースにも声をかけてから、アーマスさんたちの方を向く。

「アーマスさん。騎士団を出してくれてありがとうございます」
「いやいや、元はといえば、我が領の騎士団にいた者のわがままから始まったのだからな。これくらいなんともない。それから、魔法師団は戸惑いながらも、いろいろ試しておる。今度来るときには、ある程度形になっていると思う。改めて情報提供、感謝する」
「ううん。役に立ってよかったよ。カイトたちのことよろしくね」
「任されよ」
「ラムスさんとミシェルさんも、カイトたちのことよろしくお願いします」
「もちろんです。フォブスとノリスと一緒に切磋琢磨してくれるのを見守っております」
「コトハさん。またお喋りしたり、お茶したりしましょうね」
「はい!」


最後に、ボードさんにボードさんの長男で次期執事長のグレイさん、オリアスさんに次期騎士団長のオランドさん、サーナルさんらにも挨拶し、移住希望者50名を連れて、私たちはガッドを後にした。

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