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第6章:龍族の王女
第312話:援軍
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オプスと里を助けるのに手を貸してほしい。
それだけでは事情が分からないが、トラブルが起きたことは間違いない。
「とりあえず、詳しく話を聞かせて。マーカス、この子・・・、ごめん、あなたの名前は?」
「ベイルです!」
白いオオカミに跨がり領都を訪れたベイル君。
彼の話は、かなり深刻なものだった。
まず驚いたのが、オプスが彼ら『ワーロフ族』の里の里長の息子だったということ。里長の役割というか地位についてはよく分からなかったが、村長的な立場らしい。もっとも、彼らの里はただの村とは違う。『ワーロフ族』は戦士の一族。里長は、当代の最強の戦士が就くらしい。つまり、オプスの父親は、最強の戦士。その息子のオプスも、次代の里長筆頭らしい。
そして、ベイル君はというと、オプスの幼馴染。彼の父親は、現里長の右腕的存在らしく、息子同士も兄弟同然に育ったと。オプスのが2つ上らしい。
そんな戦士の里、『ワーロフ族』の里が襲撃された。襲ってきたのは、驚くこともなくダーバルド帝国軍。
闇夜に紛れて里に侵入し、女性や子どもを人質に取り、里の戦士たちが戦う間もなく、里は制圧された。
オプスの父親たち一部の戦士が、隙をついて捕えられていた人たちを救い出したところで本格的な戦闘が開始された。ダーバルド帝国軍には、およそ人とは思えない異形の見た目をした兵士が複数おり、それら異形の兵士1人に対し『ワーロフ族』の戦士数人かがりでどうにか持ち堪えていたらしい。
しかし、徐々に押され始めたところで、オプスの父は、オプスに怪我人と女性、子どもを連れて脱出するように指示。
戦士たちがダーバルド帝国兵を引きつけている間に、どうにか脱出することができたが、頼るあてもない。
これまた驚いたことに、『ワーロフ族』の他にもいわゆる獣人族の里はあるらしいが、怪我をした戦士と非戦闘員を連れて、まだ戦士としては未熟なオプスたちが連れて行くには距離が離れすぎていた。
そこで、オプスは私を頼ったと。
「ふぅー・・・」
状況は理解できた。いや、把握はできた。いろいろ考えたいことや、ゆっくりと驚きたいことはあるが、ひとまず、ベイル君がボロボロになりながら、領都にやってきたわけはわかった。
里長の息子で、逃げた里のみんなを束ねるオプスが来るわけにもいかず、全員で移動するには時間がかかる。
オプスが信頼しているベイル君に、私への救助要請を頼んだのだろう。
彼もオプスを信じ、うちの騎士たちに槍を突きつけられても恐怖を押し殺し、助けを求め続けた。
「とりあえずベイル君。食事を用意させたから、少し休んで」
「えっ!? ・・・俺は!」
「分かってる。でもね、あなたがいないと、私たちはオプスのところへ行けない。私たちの助けを連れて行くのも、あなたの役目でしょ? そのためには、まずは少し休んで」
「で、では! 助けていただけるのですね!?」
「・・・うん。準備もあるからさ、とにかく少し休んで。レーベル、お願い」
「御意」
ベイル君のことはレーベルに任せる。
休まずに森を駆け抜けたのだろう、転んだり枝で切ったりしたと思われる切り傷がいくつもあったし、少しふらついていた。
ベイル君の跨っていた白いオオカミ、『鑑定』の結果、『ユーテ』という魔獣らしい。説明によれば、上位のオオカミ型の魔獣のとこと。
そんな『ユーテ』は、領都に入る際には緊張した様子でベイル君に引っ付き、彼を守っていたのだが、突如として、地面に伏せてしまった。どうしたものかと見ていると、そこにシャロンが近づいてきた。何か言葉を交わしている様子だったが、明らかにシャロンを敬っている様子の『ユーテ』。
最終的には、完全に警戒を解いてしまった。シャロンの種であるベスラージュは上位種ってことなんだろうか?
ベイル君を見送り、領主室に移動した。
私、アーロン、レーノの騎士団、文官トップに加えて、それぞれ数人ずつ幹部がいる。
「コトハ様。私の役目だと理解しておりますので、よろしいでしょうか」
まず、レーノが話し始めた。
レーノはさっき、ベイル君と話していた場にもいたので、事情は把握している。もちろん、私があの場で直ぐに助けに行くことを承諾したことも・・・
「うん。お願い」
「はい。では、畏れながら申し上げます。クルセイル大公領はもちろん、カーラルド王国と、彼ら『ワーロフ族』との間に、何ら関係はありません。オプス殿と、コトハ様やカイト様方が個人的にお知り合いであるに留まります。故に、彼らの里を助ける理由、特に騎士団を出して、ましてやコトハ様御自らが助けに向かう理由はございません。また、コトハ様には、ガッドにて、重要な交渉が控えております。一層、『ワーロフ族』を助ける理由がないでしょう。強いて言えば、ダーバルド帝国が相手である点ですかね」
「うん」
レーノの言っていることは正しい。感情に流されがちな私に、的確にアドバイスをしてくれる。本当にありがたい限りだ。
「今のが、一般論、と申しますか、クルセイル大公領の領主がコトハ様であることを無視した意見になります。てすが、アーロン殿」
「ええ。続きは私が」
アーロンが引き継いで、
「コトハ様はオプス殿と交流なされ、またカイト様方も共に訓練をなされたと伺っております。そんなご友人を助けたい、それがコトハ様のお望みとあらば、我ら騎士団は全力でお応えするのみ。何も、躊躇われることはございません。一言、彼らを助けるようにお命じいただければ、ただ、任を全ういたします。また、オプス殿の里を襲ったのがダーバルド帝国なのであれば、戦略的にも手を貸して損はないかと思います。ダーバルド帝国軍が里に基地を設けること、『ワーロフ族』の戦士を奴隷として戦いに突入する可能性を考えれば、断固、阻止すべきかと」
後ろの騎士、マーカスや少尉たちも頷いている。
そう、ダーバルド帝国が攻めた理由なんて碌でもないことに決まっている。
後は、私が行くことになっていたダンさんたちとの話し合いだけど・・・
「コトハ様。ガッドでの交渉は、カイト様にお任せすることもできましょう」
再びレーノがそんなことを言い出す。
「カイトに?」
「はい。カイト様も、我が領に難民を受け入れることのメリットとデメリットを十分に理解しておられます。また、我々が王都に対しどの程度の要求をできるかも。ヤリスもおりますし、カイト様にお任せすることに、何ら問題はございません」
「なるほど・・・」
「加えて申し上げますと、先方はダン第三王子殿下とラムス殿。コトハ様と比べると、こちらの方が身分は上でした。大公弟のカイト様ですと、相手より少し身分が下にはなりますが、カイト様は次期大公。王太子ではない第三王子と次期公爵の相手としては、十分でしょう。そもそも、先方のお二人ともカイト様のことを知り、カイト様もお二人のことをご存知ですし」
「そういうもんなんだ。・・・分かった、カイトを呼んできて」
あんま考えてなかったけど、交渉の席では身分差ってのも重要なのか。単に身分が高いと有利、という簡単な話ではなくて、それなりに相手に身分を合わせることで、じっくりと議論ができるのだろうし。これまでの交渉相手は基本的には王様や王子、公爵だったから気づかなかった。
でも、そうするとダンさんとラムスさんって・・・。うちはともかく、他の貴族家は交渉とか無理だよね? 滞在日数から考えて、私たちに会うのだけが目的ではないだろうし・・・。無理矢理にでも纏めたい交渉でもあるんだろうか・・・・・・?
カイトが部屋に来たので、これまでのことを説明すると、
「分かった。お姉様の代わりに、ガッドでダン第三王子殿下とラムスさんと交渉してきます」
正式な場?ってことで、私のことを様付けで呼ぶカイト。やっぱ、私より遥かに貴族だよね。
「お願い。細かいことは、レーノやヤリスに相談して、他は任せるから。カイトなら大丈夫だと思うけど、気をつけてね」
「はい!」
うん、任せられる。カイトなら大丈夫。
急いでヤリスと打ち合わせるため部屋を出る際にカイトが、
「コトハお姉ちゃん。オプスとはさ、再戦の約束もしてるし、みんなも仲良くなってるんだ・・・。だから、お願い」
「うん、任せて」
というわけで、
「アーロン。オプスの里を助けるよ。準備して」
「はっ!」
アーロンたち騎士団が、準備に飛び出していった。
それだけでは事情が分からないが、トラブルが起きたことは間違いない。
「とりあえず、詳しく話を聞かせて。マーカス、この子・・・、ごめん、あなたの名前は?」
「ベイルです!」
白いオオカミに跨がり領都を訪れたベイル君。
彼の話は、かなり深刻なものだった。
まず驚いたのが、オプスが彼ら『ワーロフ族』の里の里長の息子だったということ。里長の役割というか地位についてはよく分からなかったが、村長的な立場らしい。もっとも、彼らの里はただの村とは違う。『ワーロフ族』は戦士の一族。里長は、当代の最強の戦士が就くらしい。つまり、オプスの父親は、最強の戦士。その息子のオプスも、次代の里長筆頭らしい。
そして、ベイル君はというと、オプスの幼馴染。彼の父親は、現里長の右腕的存在らしく、息子同士も兄弟同然に育ったと。オプスのが2つ上らしい。
そんな戦士の里、『ワーロフ族』の里が襲撃された。襲ってきたのは、驚くこともなくダーバルド帝国軍。
闇夜に紛れて里に侵入し、女性や子どもを人質に取り、里の戦士たちが戦う間もなく、里は制圧された。
オプスの父親たち一部の戦士が、隙をついて捕えられていた人たちを救い出したところで本格的な戦闘が開始された。ダーバルド帝国軍には、およそ人とは思えない異形の見た目をした兵士が複数おり、それら異形の兵士1人に対し『ワーロフ族』の戦士数人かがりでどうにか持ち堪えていたらしい。
しかし、徐々に押され始めたところで、オプスの父は、オプスに怪我人と女性、子どもを連れて脱出するように指示。
戦士たちがダーバルド帝国兵を引きつけている間に、どうにか脱出することができたが、頼るあてもない。
これまた驚いたことに、『ワーロフ族』の他にもいわゆる獣人族の里はあるらしいが、怪我をした戦士と非戦闘員を連れて、まだ戦士としては未熟なオプスたちが連れて行くには距離が離れすぎていた。
そこで、オプスは私を頼ったと。
「ふぅー・・・」
状況は理解できた。いや、把握はできた。いろいろ考えたいことや、ゆっくりと驚きたいことはあるが、ひとまず、ベイル君がボロボロになりながら、領都にやってきたわけはわかった。
里長の息子で、逃げた里のみんなを束ねるオプスが来るわけにもいかず、全員で移動するには時間がかかる。
オプスが信頼しているベイル君に、私への救助要請を頼んだのだろう。
彼もオプスを信じ、うちの騎士たちに槍を突きつけられても恐怖を押し殺し、助けを求め続けた。
「とりあえずベイル君。食事を用意させたから、少し休んで」
「えっ!? ・・・俺は!」
「分かってる。でもね、あなたがいないと、私たちはオプスのところへ行けない。私たちの助けを連れて行くのも、あなたの役目でしょ? そのためには、まずは少し休んで」
「で、では! 助けていただけるのですね!?」
「・・・うん。準備もあるからさ、とにかく少し休んで。レーベル、お願い」
「御意」
ベイル君のことはレーベルに任せる。
休まずに森を駆け抜けたのだろう、転んだり枝で切ったりしたと思われる切り傷がいくつもあったし、少しふらついていた。
ベイル君の跨っていた白いオオカミ、『鑑定』の結果、『ユーテ』という魔獣らしい。説明によれば、上位のオオカミ型の魔獣のとこと。
そんな『ユーテ』は、領都に入る際には緊張した様子でベイル君に引っ付き、彼を守っていたのだが、突如として、地面に伏せてしまった。どうしたものかと見ていると、そこにシャロンが近づいてきた。何か言葉を交わしている様子だったが、明らかにシャロンを敬っている様子の『ユーテ』。
最終的には、完全に警戒を解いてしまった。シャロンの種であるベスラージュは上位種ってことなんだろうか?
ベイル君を見送り、領主室に移動した。
私、アーロン、レーノの騎士団、文官トップに加えて、それぞれ数人ずつ幹部がいる。
「コトハ様。私の役目だと理解しておりますので、よろしいでしょうか」
まず、レーノが話し始めた。
レーノはさっき、ベイル君と話していた場にもいたので、事情は把握している。もちろん、私があの場で直ぐに助けに行くことを承諾したことも・・・
「うん。お願い」
「はい。では、畏れながら申し上げます。クルセイル大公領はもちろん、カーラルド王国と、彼ら『ワーロフ族』との間に、何ら関係はありません。オプス殿と、コトハ様やカイト様方が個人的にお知り合いであるに留まります。故に、彼らの里を助ける理由、特に騎士団を出して、ましてやコトハ様御自らが助けに向かう理由はございません。また、コトハ様には、ガッドにて、重要な交渉が控えております。一層、『ワーロフ族』を助ける理由がないでしょう。強いて言えば、ダーバルド帝国が相手である点ですかね」
「うん」
レーノの言っていることは正しい。感情に流されがちな私に、的確にアドバイスをしてくれる。本当にありがたい限りだ。
「今のが、一般論、と申しますか、クルセイル大公領の領主がコトハ様であることを無視した意見になります。てすが、アーロン殿」
「ええ。続きは私が」
アーロンが引き継いで、
「コトハ様はオプス殿と交流なされ、またカイト様方も共に訓練をなされたと伺っております。そんなご友人を助けたい、それがコトハ様のお望みとあらば、我ら騎士団は全力でお応えするのみ。何も、躊躇われることはございません。一言、彼らを助けるようにお命じいただければ、ただ、任を全ういたします。また、オプス殿の里を襲ったのがダーバルド帝国なのであれば、戦略的にも手を貸して損はないかと思います。ダーバルド帝国軍が里に基地を設けること、『ワーロフ族』の戦士を奴隷として戦いに突入する可能性を考えれば、断固、阻止すべきかと」
後ろの騎士、マーカスや少尉たちも頷いている。
そう、ダーバルド帝国が攻めた理由なんて碌でもないことに決まっている。
後は、私が行くことになっていたダンさんたちとの話し合いだけど・・・
「コトハ様。ガッドでの交渉は、カイト様にお任せすることもできましょう」
再びレーノがそんなことを言い出す。
「カイトに?」
「はい。カイト様も、我が領に難民を受け入れることのメリットとデメリットを十分に理解しておられます。また、我々が王都に対しどの程度の要求をできるかも。ヤリスもおりますし、カイト様にお任せすることに、何ら問題はございません」
「なるほど・・・」
「加えて申し上げますと、先方はダン第三王子殿下とラムス殿。コトハ様と比べると、こちらの方が身分は上でした。大公弟のカイト様ですと、相手より少し身分が下にはなりますが、カイト様は次期大公。王太子ではない第三王子と次期公爵の相手としては、十分でしょう。そもそも、先方のお二人ともカイト様のことを知り、カイト様もお二人のことをご存知ですし」
「そういうもんなんだ。・・・分かった、カイトを呼んできて」
あんま考えてなかったけど、交渉の席では身分差ってのも重要なのか。単に身分が高いと有利、という簡単な話ではなくて、それなりに相手に身分を合わせることで、じっくりと議論ができるのだろうし。これまでの交渉相手は基本的には王様や王子、公爵だったから気づかなかった。
でも、そうするとダンさんとラムスさんって・・・。うちはともかく、他の貴族家は交渉とか無理だよね? 滞在日数から考えて、私たちに会うのだけが目的ではないだろうし・・・。無理矢理にでも纏めたい交渉でもあるんだろうか・・・・・・?
カイトが部屋に来たので、これまでのことを説明すると、
「分かった。お姉様の代わりに、ガッドでダン第三王子殿下とラムスさんと交渉してきます」
正式な場?ってことで、私のことを様付けで呼ぶカイト。やっぱ、私より遥かに貴族だよね。
「お願い。細かいことは、レーノやヤリスに相談して、他は任せるから。カイトなら大丈夫だと思うけど、気をつけてね」
「はい!」
うん、任せられる。カイトなら大丈夫。
急いでヤリスと打ち合わせるため部屋を出る際にカイトが、
「コトハお姉ちゃん。オプスとはさ、再戦の約束もしてるし、みんなも仲良くなってるんだ・・・。だから、お願い」
「うん、任せて」
というわけで、
「アーロン。オプスの里を助けるよ。準備して」
「はっ!」
アーロンたち騎士団が、準備に飛び出していった。
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