七人の追放者 〜無能すぎると辺境に追放された俺たちが集まったら無敵でした〜

アメカワ・リーチ

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第一話 追放者、辺境の小国へ

10.

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 †

 戦は終わり、アルザスの民は、城で勝利のお祭りを始めた。

 国庫は決して豊かではない。
 それゆえ、国からごちそうが振る舞われるということはなかったが、村人たちが思い思いに料理を持ち寄って、大盛り上がりだった。


「キバさん、本当に、本当に、ありがとうございます。この国を救ってくださいました」

 エリスが、酒の席で改めてキバに礼を言った。

「いや、別に大したことはしてないよ」

 そんなキバの謙遜に対して、エリスの疑問はさらに膨れ上がった。
 

「あの、キバさん」

「何でしょうか」

「キバさんほど優秀な方がなぜ王国を追放になったのですか」

 エリスには、それが不思議でならなかった。
 キバの軍師としての知略は、群を抜いていた。エリスはラセックス時代に、多くの軍人を見てきたが、キバほど頭のキレるものは見たことがなかった。


「んー理由は色々あると思うけど……」

 少し考えてからキバは答える。

「戦に強いと言われているようでは軍師としては半人前だからね」

「……それはどういうことですか」


 エリスには、彼の言葉の意味が全くわからなかった。
 軍師とは戦を勝利に導くものではないのか。それなのに戦に強いと言われてるうちは半人前とは。


「みんな、軍師の仕事は戦争に勝つことだと思ってる」

「違うのですか」

「全く違うよ。軍師の仕事は戦略を練ることだからね」


「それは戦争に勝つこととは違うと?」

「戦略とは、戦いを省略するという意味なんだ。つまり、戦わずして勝つ。それが軍師がすべき一番の仕事だ」


 そう。それこそが、キバのしてきたこと。
 そしてキバがドラゴニアを追放になった理由だ。


「俺は戦わないで済むなら、常にその選択をしてきた。だからこそ、ドラゴニアはある程度繁栄することができたんだよ。でも、そうなると、武功はあげられない。だから、俺はいらないって話になったんだよ」


 戦争を避けてきたからこそ、その優秀さをわかる人間がいなかった。
 それがキバが国を追放された理由。


 それを知ったとき、エリスは――

 自分がここにいることが、神様の導きのように感じた。

「キバさんに伝えて置かなければいけないことがあるんです」

「……と言うと」

「――この国に伝わる、予言についてです」

「予言、ですか」

「この国では、まるで昔話のように言い伝えられているものです」

 そう前置きして王女はその内容を語り出した。

「七人の追放者が現れる。その者たちが、国を富ませ、やがて大陸に平和をもたらす。それが予言の内容です」

「……七人の、追放者、ですか」

「その通り。もともとラセックスを追放されてこの国にやってきた私を、この国の人たちが受け入れてくれたのは、予言があったからです。他国からの追放者こそが、平和をもたらすものである。その言い伝えを信じているから、私がこの国の指導者に選ばれたのです」

 大陸に平和をもたらす。
 それはおそらく多くの人間の悲願だ。

 だが、それが不可能に近いことは、この国に生きるものであれば誰でも分かっていた。
 なにせ、戦乱の世はもうすでに200年は続いているのだから。

 だが、だからこそ、アルザスの民たちはエリス王女を受け入れた。

 そして――

「……今日のキバさんの活躍をみて、確信しました。予言は本物なのです」

「それは、つまり、俺も、予言の七人、ということですか」

「他にいるはずがありません。絶望的な状況で、国を二度も救った。これほどの軍師様ならば、きっと――大陸を平和にすることだって必ずできる。私はそう確信しました」

 王女はキバの目をまっすぐ見つめた。
 そして、どこまでも透き通った声で言う。

「私には夢があるんです」

「夢、ですか」

「――戦争のない世界を作ることです」

 この戦乱の世にあって、その夢はあまりに無謀なものだった。
 しかも、彼女には強力な軍隊も、大きな経済力もない。
 平和の世の中なんて、そんな、なんの力もない少女の、儚い夢に過ぎない。

 だが、キバには、それを夢で終わらせたくないというその気持ちがよくわかった。

「だから、キバさんに、力を貸して欲しいんです。あれだけじゃなくて、世界が平和になれるように」

 王女のその願いに、キバはうなずく。

「軍師キバ、知略の限りを尽くします」

 そう言うと、エリスはこれまでで一番の笑みを浮かべたのだった。
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