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第五話 商人の追放者
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「こ、こんなに注文があったのですか!?」
塩の貯蔵庫の担当者が驚く。
ロイド男爵は、二週間ほどでアルザスに戻ってきた。
そして、各国で取り付けてきた商談の中身を報告したのだが、その量に皆が驚いたのだ。
たった一人の力で、今ラセックスに収めているのと同等近くの受注を受けてきたのである。輸出が倍になる計算である。
「まさか、これほどあっという間に受注してくるとは……」
「それも、各国からの引き合いで、値段もラセックスに売っている値段より高い。ぼろ儲けですよ」
アルザスの者たちが口々にするが、ロイド男爵は涼しい声で答える。
「ジュートによって塩田が抑えられた今、塩の値段は高騰していますからね。これでも安いほうです」
男爵は、はははと笑った。
それを聞いて、キバとアルバートは目を見合わせる。
指揮官としてはからっきしだった男に、まさかこれほどの才能があったとは。
「ロイド男爵、あなたはとんでもない商才をお持ちだったんですね」
キバが言うと、男爵は首を振った。
「才能など、これっぽちもございません。商いは、地味なことを地味に続けることです。貴族の地位は失いましたが、その地位を得るまでの商いを通じて得た顧客たちとの信頼はすぐには消えませんからね」
なるほどとさらに感心する一同。
「あの、男爵。実は、一つ“買い物”をお願いしたいのですが」
と、キバが切り出す。
「なんでしょう」
「馬を買って来て欲しいのです」
馬の調達はキバが前から気にしていたことだった。
ベッテルハイム大将の配下も含めて、アルザス軍は歩兵が中心で、騎兵の数が少ない。
魔法攻撃の発展とともに、歩兵と魔砲兵が戦いの中心となっているとはいえ、まだまだ騎兵は有効な兵科だ。
そしてキバは騎兵のような機動力を有効活用した作戦が得意だった。
なので、軍事力強化のためには騎兵の強化が必要不可欠なのだ。
――そして、キバは“次なる脅威”が迫っていることを確信していた。
その戦いでは、騎兵が必要不可欠になる。
「なるべく良い馬――できれば東方の品種のものが欲しいのですが、いかがでしょうか」
キバが尋ねると、ロイド男爵は即答した。
「ええ、あてはあります。東方にも商談相手はいますよ」
「ありがたいです」
キバはロイド男爵に心の底から感謝した。馬が手に入れば、戦術に幅が広がる。
「それともう一つ、今度はアイディアがあれば聞きたいのですが」
とキバはさらに男爵に聞く。
「先の戦いでジュートから荒野を獲得しました。ここを軍事上・貿易上の拠点としていきたいと思っています。でも、問題は彼の地が、農耕には向かないということなんです」
「ええ。だからこそ、ジュートも簡単に手放したんでしょうから」
「でもそうなると、荒野を拠点として維持するには、本国から物資を送り続ける必要があります。すなわち、街うとして自立しない。これでは国の負担になってしまいます。そこで、できれば彼の地を商業都市として発展させたい。なので、もし荒野でも商いを営む方法があれば教えて欲しいんです」
キバの問いかけに、なるほどとロイド男爵は少し考え込む。
そして、少しすると一つ思いついたように頷いた。
「中継貿易の街にするというのはどうでしょう」
「中継貿易、ですか?」
「ええ。大陸の地図を、貸していただけますか?」
キバは大陸の地図を出しきて、机に広げる。
「見てください。実はこの荒野は、各国の中間地点にあるんです。ただし、今は行商のルートにはなっていない。主要な道がありませんし、それに各国との最短ルートではないからです。でも、最短ルート出ないだけで、実は遠回りになるというほどでも、絶妙な場所にあるんです」
「しかし、最短ルートがあるなら、皆そちらを使いますよね」
「ええ。でも、少しだけ遠回りをしてこの荒野を通ることで、利益を増やせるとなったら、どうでしょう」
「それは……つまり?」
「この荒野を通る際、各種の税金を無くしてしまえばいいんです」
「……なるほど」
大陸では、通常行商人が商品を持って国を通るときには、各種の関税や通行税が必要になる。これらを無くしてしまえば、貿易の利益を増やすことができる。各国の商人たちがこぞって荒野を通ることになるだろう。
「無税を目当てに、多くの商人が街を通ることになれば、彼らを相手に商売することができますからね。そして人の往来が増えれば、市場を開くこともできる。そうなれば、ますます街は活気付くでしょう」
キバはなるほどと頷く。
商人の目線で考えられた良いアイディアだ。
「今すぐ、そのアイディアを実行に移します」
キバはそう宣言する。
「各国も商人たちも喜ぶでしょう。知り合いたちに宣伝して回りますね」
「ありがとうございます」
「こ、こんなに注文があったのですか!?」
塩の貯蔵庫の担当者が驚く。
ロイド男爵は、二週間ほどでアルザスに戻ってきた。
そして、各国で取り付けてきた商談の中身を報告したのだが、その量に皆が驚いたのだ。
たった一人の力で、今ラセックスに収めているのと同等近くの受注を受けてきたのである。輸出が倍になる計算である。
「まさか、これほどあっという間に受注してくるとは……」
「それも、各国からの引き合いで、値段もラセックスに売っている値段より高い。ぼろ儲けですよ」
アルザスの者たちが口々にするが、ロイド男爵は涼しい声で答える。
「ジュートによって塩田が抑えられた今、塩の値段は高騰していますからね。これでも安いほうです」
男爵は、はははと笑った。
それを聞いて、キバとアルバートは目を見合わせる。
指揮官としてはからっきしだった男に、まさかこれほどの才能があったとは。
「ロイド男爵、あなたはとんでもない商才をお持ちだったんですね」
キバが言うと、男爵は首を振った。
「才能など、これっぽちもございません。商いは、地味なことを地味に続けることです。貴族の地位は失いましたが、その地位を得るまでの商いを通じて得た顧客たちとの信頼はすぐには消えませんからね」
なるほどとさらに感心する一同。
「あの、男爵。実は、一つ“買い物”をお願いしたいのですが」
と、キバが切り出す。
「なんでしょう」
「馬を買って来て欲しいのです」
馬の調達はキバが前から気にしていたことだった。
ベッテルハイム大将の配下も含めて、アルザス軍は歩兵が中心で、騎兵の数が少ない。
魔法攻撃の発展とともに、歩兵と魔砲兵が戦いの中心となっているとはいえ、まだまだ騎兵は有効な兵科だ。
そしてキバは騎兵のような機動力を有効活用した作戦が得意だった。
なので、軍事力強化のためには騎兵の強化が必要不可欠なのだ。
――そして、キバは“次なる脅威”が迫っていることを確信していた。
その戦いでは、騎兵が必要不可欠になる。
「なるべく良い馬――できれば東方の品種のものが欲しいのですが、いかがでしょうか」
キバが尋ねると、ロイド男爵は即答した。
「ええ、あてはあります。東方にも商談相手はいますよ」
「ありがたいです」
キバはロイド男爵に心の底から感謝した。馬が手に入れば、戦術に幅が広がる。
「それともう一つ、今度はアイディアがあれば聞きたいのですが」
とキバはさらに男爵に聞く。
「先の戦いでジュートから荒野を獲得しました。ここを軍事上・貿易上の拠点としていきたいと思っています。でも、問題は彼の地が、農耕には向かないということなんです」
「ええ。だからこそ、ジュートも簡単に手放したんでしょうから」
「でもそうなると、荒野を拠点として維持するには、本国から物資を送り続ける必要があります。すなわち、街うとして自立しない。これでは国の負担になってしまいます。そこで、できれば彼の地を商業都市として発展させたい。なので、もし荒野でも商いを営む方法があれば教えて欲しいんです」
キバの問いかけに、なるほどとロイド男爵は少し考え込む。
そして、少しすると一つ思いついたように頷いた。
「中継貿易の街にするというのはどうでしょう」
「中継貿易、ですか?」
「ええ。大陸の地図を、貸していただけますか?」
キバは大陸の地図を出しきて、机に広げる。
「見てください。実はこの荒野は、各国の中間地点にあるんです。ただし、今は行商のルートにはなっていない。主要な道がありませんし、それに各国との最短ルートではないからです。でも、最短ルート出ないだけで、実は遠回りになるというほどでも、絶妙な場所にあるんです」
「しかし、最短ルートがあるなら、皆そちらを使いますよね」
「ええ。でも、少しだけ遠回りをしてこの荒野を通ることで、利益を増やせるとなったら、どうでしょう」
「それは……つまり?」
「この荒野を通る際、各種の税金を無くしてしまえばいいんです」
「……なるほど」
大陸では、通常行商人が商品を持って国を通るときには、各種の関税や通行税が必要になる。これらを無くしてしまえば、貿易の利益を増やすことができる。各国の商人たちがこぞって荒野を通ることになるだろう。
「無税を目当てに、多くの商人が街を通ることになれば、彼らを相手に商売することができますからね。そして人の往来が増えれば、市場を開くこともできる。そうなれば、ますます街は活気付くでしょう」
キバはなるほどと頷く。
商人の目線で考えられた良いアイディアだ。
「今すぐ、そのアイディアを実行に移します」
キバはそう宣言する。
「各国も商人たちも喜ぶでしょう。知り合いたちに宣伝して回りますね」
「ありがとうございます」
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