2 / 24
2.
しおりを挟む「“ゴミ強化”……? なんだ、そのスキルは……?」
父が神官に怪訝な表情を浮かべながら尋ねた。
「それが……私にもさっぱりわからず。このようなスキルを発現した者は今までおりません」
ユニークスキルと言っても、全く新しい力を発現することは滅多にない。
なので、まったく聞いたことがない新しいスキルの発現に、神官も驚いていた。
「文字通り、ゴミを強化するスキル……ということでしょうか」
それを聞いた父は下級の神官を呼びつけて「何か、ゴミをもってこい」と伝える。
俺の力を試すためだろう。
やがて、下級の神官が、錆びてボロボロになった今にも折れそうな剣を持って来た。
「レイ、これに“ゴミ強化”を使ってみろ」
「はい、父上……」
俺は神官から剣を受け取って、スキルを発動してみる。
「――“ゴミ強化”」
その言葉を呟くと、古びた剣が光り輝く。
光は数秒ほどで消え、残ったのはやはり古びた剣だった。
「――神官、何か剣に変化はあるか」
鑑定スキルを持つ神官に、父が尋ねる。
すると、神官は恐る恐るという感じで答える。
「……剣の諸々のステータスが10倍になっています」
その言葉を聞いて、父は「おおっ!」と声を上げる。
10倍。その数値は、強化スキルとしては破格のものだった。
強化系のスキルは、対象のステータスが1.5倍になれば大魔導士レベルで、2倍なんてことはまずない。
それを考えると、剣のステータスが10倍になった、というのは、まさにユニークスキルという言葉にふさわしい結果だった。
――だが。
「では、このナイフはどうだ?」
と、父は懐から一本のナイフを取り出した。
――いうまでもなく、これはゴミではなく、通常のナイフである。
「――“ゴミ強化”」
俺は再びスキルを発動する。しかしナイフは光らなかった。
「神官、ナイフのステータスはどうなっている?」
聞くと、神官は渋い顔で答える。
「……何も変わっておりません」
――これでハッキリした。
この“ゴミ強化”のスキルは、対象のステータスを10倍にする破格の力を持っている。
だが、対象にできるのは、ゴミだけなのだ。
もともと使い道がない、ほとんどステータスも持たないものだけしか強化できない。
ゴミはステータスが10倍になってもゴミだ。
極論、0に何をかけても、0なのだから。
すなわち――
「外れスキル、じゃないか」
マルコムがそう呟いた。
†
神殿から、自宅に戻ったあと、父は俺の前にあらゆるものを持って来た。
ゴミ、ゴミではないもの。
武器、衣服、食べ物、動物、挙げ句の果てには奴隷。
それらに、俺の“ゴミ強化”をかけさせた。
結果、わかったことがある。
やはり、俺のスキルはその名の通り“ゴミ”しか強化しないということ。
そして、何を強化してもやはり、ゴミはゴミだということ。
元のステータスが低いからゴミなのだ。
それを10倍そこら強化しても、ゴミはゴミだ。
あれこれ一時間ほど試した結果――
「……ええい、この無能め!!」
父は怒りに打ち震えながら、俺をそう罵倒した。
「申し訳ありません……」
俺は、ただそう謝るしかなかった。
ユニークスキルの印を持つ者として、公爵家の跡取りとして、これまでずっと期待に応えるため、剣を磨いて来た。
しかし、ようやく得たスキルが、役に立たないものを、役に立たない程度に強化するという<外れスキル>だった。
自分でも落胆したが、父のそれは想像以上だった。
「お前を育ててきた十八年間を返せ!」
これまでの期待に反比例するように、父は強い口調でそう言う。
そして、
「レノックス家には“神聖剣”をもつマルコムがいる。お前はもういらん」
――出て来たのは、そんな言葉だった。
「ち、父上?」
実の父親から出て来た言葉を、俺は飲み込めないでいた。
だが、俺の父――レノックス公爵はハッキリと言う。
「お前のようなゴミ(・・)は我がレノックス家にはいらん。いますぐに家を出て行け!」
――こうして、俺、レイ・レノックスは公爵家の跡取りから一転、実家を追放されることになったのだった。
1
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる