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こくはく
しおりを挟む翌日、わたしは特に何もしないで自分の部屋でのんびりしていた。
何気なくドアに貼ってあるポスターを見るとかっこよくキマッて映っているプリズナーズが目に入った。
前日のライブの余波がわたしの全身に残っていた。
そして視線が杉山さんに向けると、急に恥ずかしくなって身体が熱くなってきた。
(も~ なんでそれだけで熱くなっちゃうのよぉ)
わたしは、思わずポスターから視線をはずした。
それでもわたしは、思い出していた。
あの時、ステージの上から杉山さんはわたしに向かって確かに歌っていた。
サングラス越しからでもわかるくらいにわたしをまっすぐに見つめていた。
そして、その時杉山さんの想いがわたしに伝わってきて本当にうれしくて涙も止まらなかった。
いろいろなことを思い出していると、また身体が熱くなっていた。
その時、玄関から来客を知らせるチャイムが家中に響いた。
「は~い」
それに反応して、母がリビングから小走りで玄関まで向う足音が聞こえる。
わたしは、自分には関係ないと思いそのまま部屋にいた。
すると、しばらくしてから母がわたしの部屋のドアを勢いよく開けてきたのでビックリした。
「え? なに?」
「あ あやのにお客さんだよ?」
「はい? お客って 誰なの?」
「いいから と とにかく来て?」
少し興奮染みで呼び出す母に首をかしげながら、わたしは部屋を出て玄関まで這って向かった。
玄関に着くと誰かが待っているのはわかった。
そして、その人はわたしを見ると二カッてはにかんできた。
「よう! 昨日はどうも」
サングラスを胸元にさして笑顔でそう言われて、わたしはまたビックリしてしまった。
「え!? 杉山さん??」
1度落ち着かせてから見ても、そこには着ている服の感じは違うけど間違いなく昨日ステージで歌っていた杉山さんが玄関に立っていた。
「もう 名前を聞いて驚いたよ」
思わぬお客さんにきょとんとしていると、後ろから母が話してきた。
「あ~ だから さっき あんなに 興奮してたの?」
「そりゃそうでしょ? こんな有名な人が来れば興奮するわよ・・・ねぇ 杉山さん?」
「え? はは」
まるで助けを求めるように聞いてくる母に、杉山さんはただ苦笑いをしていた。
「あ そうだ ところで 杉山さん わたしに 何か?」
「おぉ そうだった 俺と一緒にどっか行かない?」
「え?」
杉山さんの言葉に、わたしは東京ではじめて誘われた時のことを思い出した。
(そういえば 確かあのときも、同じような言い方だったよね)
そう思ったわたしは、なぜかおかしくなり思わず吹き出しそうになった。
すると、そんなわたしに気づいて杉山さんが顔を覗きこむように見てきた。
「なにがおかしい?」
「あ ううん なんでもない・・・それで どこ行くの?」
「ん? 実はさ この前あやちゃんと優希ちゃんに連れてってくれた 川のところの公園」
「川の ところ ぁ でも?・・・」
「うん たぶん大丈夫だろうけど まだこの前のことを気にしてるんだろ? だからもう1度行って話そうと思ってさ」
「そうだったんだ」
「それに もうお母さんから了解もらってるからさ」
「ええ!?」
思わぬ杉山さんの言葉にわたしは驚きながら母のほうを見た。
「いいよ 行ってきなさい」
すると母は、いつの間にかわたしのバックを持って笑顔でそう言った。
「うん・・・それじゃあ 杉山さん わたし 行きます」
「よしっ 行こう!・・・じゃあ 乗る?」
「はい?」
杉山さんの横をよく見ると、既に車椅子が乗れる状態で置かれていた。
「どうする?」
「あ うん 乗ります!」
「OK」
「ちょっと杉山さん? 乗せるのは私がしますよ?」
「いえいえ大丈夫ですから えっと確か左だから うん こっちだな・・・そいじゃあ 俺の肩につかまってて?」
「う うん」
杉山さんに言われて、わたしは緊張しながら左手を首に回そうとしたとき、何を思ったのか立ちなおしゆっくり両足のアキレス腱を伸ばし始めていた。
わたしも母もその姿を見てると視線を感じたのか杉山さんも見つめ返し苦笑いをして恥ずかしそうになっていたけど、気を取り直して肩につかまるようにしてくれたので、わたしも吹き出し笑いをこらえながらそっと首に左手を回し肩につかまった。
「そんじゃ いくよ? んしょ!」
と言いながら杉山さんは、わたしを抱き上げてあっという間に車椅子に乗せてくれた。
「あ ごめん 大丈夫だったかな?」
「うん 大丈夫 あ ありがとう」
「はは」
わたしがお礼を言うと、杉山さんは照れ笑いをしていた。
(そうか これもみんな前の彼女のことがあったから 杉山さんはこんなこと気軽にできるんだよね・・・これにはちょいと複雑な気分だけど感謝しなきゃな)
わたしは、杉山さんの行動を見てそう思ったら切ない気持ちになっていたけど、杉山さんには気づかれなくてホッとした。
「すみませんね? 杉山さんも大丈夫でしたか?・・・はいこれ」
そして母は杉山さんにお礼を言いながら、わたしにバックを渡した。
「はい 僕は平気ですから」
「それじゃあ あやののこと よろしくお願いしますね?」
「はい わかりました」
「じゃあ 行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「それでは 行きますか?」
「はい」
「では 失礼します」
杉山さんは、母に軽く頭を下げてからゆっくり車椅子を押して歩き出した。
こうして、わたしは杉山さんと再び川のほうまで向かうことになった。
家を出てから、わたしも杉山さんも何も話しをしなかった。
ただ黙ったまま、川のほうまで進んでいた。
きっとお互いに緊張してなかなか言葉のきっかけが出なかったのかもしれない。
そんな沈黙のまま、あっという間に公園に着いて川が見えるように遊歩道まで歩いた。
そして杉山さんはそのままわたしを乗せた車椅子をベンチの横に止めて自分も隣に座るようにベンチに腰を下ろした。
その時、周りではジョギングやウォーキングをする人も少なく静かだった。
わたしは、なんとか話すきっかけを探そうとすると、川のほうを見ながら杉山さんが話しかけてきた。
「なんか あやちゃんとこうやって話すのって久しぶりだな?」
「ぇ? うん そうだね」
「・・・あ そういや 昨日のライブどうだった?」
「うん! めっちゃよかったよ」
わたしは、そう言いながら杉山さんのほうをチラッと見た。
すると、杉山さんの首元からあのネックレスがキラキラと見えた。
「あ 目印が 光ってる」
「ん? 目印?・・・ああ これのことか?」
杉山さんは首を少し突き出すようにして、ネックレスの先に付いている小さな石をわたしに見せた。
「そういえば あやちゃん このネックレスすっごいほしそうに見ていたね?」
「あはは そんな風に 見えてた? ちょっと 恥ずかしいかも」
「うんうん・・・そうだ せっかく今こうやっているから あやちゃんにあげるよ?」
「そ そんな いいよ?」
「まぁまぁ いいから 元々はあやちゃんがほしがってたモノだしさ それに俺もはじめっからプレゼントであげるつもりだったんだからさ」
杉山さんは、ゆっくりベンチから立ち上がり車椅子の後ろまで歩きながら両手で首からネックレスをはずした。
そして、杉山さんはそのままわたしの首にネックレスをつけはじめた。
わたしはただドキドキしていた。
ネックレスをつけている間、わたしはなるべく身体を動かさないようにしていた。
やがてネックレスをつけ終えた杉山さんはわたしの前に立った。
「ど どうかな?」
「うん いいじゃんいいじゃん すっごく似合ってるよ」
「よかった ありがとう・・・たっちゃん」
「え? ちょっとあやちゃん 今 俺のこと・・・」
少しビックリした様子で聞き返す杉山さんに、わたしは恥ずかしそうにうなずいた。
それと同時にわたしは、今までの想いを杉山さんにぶつけた。
「わたし こんな身体 だから 会いたいときに なかなか 会えないと 思うけど」
いつも以上にゆっくりした口調で言うわたしに、杉山さんは黙って聞いてくれている
そんな中、わたしは最後の勇気を出すように話した。
「それでも わたしは たっちゃんのこと 好きです!」
想いを言い終えた時、わたしは満面の笑顔になっていた。
「やっと 言えたね?」
杉山さんは、膝を曲げてわたしと目線を合わして静かにそう言った。
「昨日 ライブのとき たっちゃんが 言ってくれた からだよ?」
「そっか 昨日言ってよかったかもな」
「え? かもなって どういう 意味?」
「まぁまぁ いいじゃない 気にしない気にしない」
わたしの聞き返しに、そう言いながら杉山さんも満面な笑顔になっていた。
すると、杉山さんはゆっくり立ち上がり、そのままわたしの背後に回り大きな身体で後ろから包むように抱きしめてきた。
わたしは突然のことで身体が硬直して言葉も出なかったけど、すぐに杉山さんに預けるように受け入れた。
そして、杉山さんはわたしを抱きしめたまま小声で言った。
「俺も あやのこと 好きだよ」
そう言われてわたしは少し恥ずかしかったけど、でもすっごくうれしかった。
背中を車椅子の布越しから杉山さんのぬくもりを感じながらそっと川のほうを見た。
そして、わたしはそれを見せたいと思い、そっと左手で杉山さんの腕を軽くつかんだ。
すると、杉山さんはそれに気づきそのままわたしの耳元で小さく話した。
「ん? どうした?」
「前 見て?」
「え?・・・おお!」
わたしのひとことに杉山さんもゆっくり前を見てその風景に驚いていた。
そこには、いつもより夕日がキレイなオレンジ色に染まっていた。
この夕日をわたしも杉山さん・・・いや たっちゃんもずっと忘れない・・・。
こうしてわたしは彼と付き合うことになった・・・。
この二人の恋はこの先長く続きますように・・・。
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