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case 鬼 ⑱

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渋る雨月さんを説得して、私は鬼道丸の邸の前に来ていた。

「ここも大きなお屋敷ですね…」
と私が驚いていると、

「まぁ…酒呑童子の息子という事もあって、彼を慕う者が多い事も事実です。知っての通り、紫電様とは敵対しておりますが」
と雨月さんは答えながら、門に近づく。

この邸には門番は居ないようだ。私達は呼び鈴を鳴らす。

中から、女性の鬼が現れた。

「おや?誰かと思えば…紫電の犬じゃないか。見張りだけじゃ飽き足らず、乗り込んで来たのかい?しかも…珍しい客も一緒だね」
と私達を一瞥した。

雨月さんが、

「小夜。客がお前の主に会いたがっている。鬼道丸は居るか?」
と問うも、

「主は不在だよ。帰っておくれ」
と手をヒラヒラとさせた。その時にチラリと見えた手首にはあの紋様が。
この小夜さんも呪いに侵されているようだ。
それにこの屋敷からも邪な気配が漂っている。

私は、門に近づき、素早く小夜さんの腕を掴んだ。

「ちょっ!何すんのさ!」
と小夜さんは、私の手を振りほどこうとするが、私はそれに構わず、

「…これは『呪い』です。鬼道丸さんも…に侵されているのではないですか?」

「な!これは…病ではないの?」
小夜さんは驚いたように目を見開く。腕を振りほどく事も止め、抵抗しないというように腕の力を抜いて、だらりと垂らした。

「鬼道丸さんの話を聞きたいんです。会わせて下さい」
私はもう1度小夜さんに頼むと、

「ついてきて」
と言って、私の手から自分の手を抜くと来た道を戻り始めた。
私達はその後ろを付いて行こうとするも、雨月さんは、

「私は此処で待ちます。私が行けば鬼道丸は警戒して正直に話をしないかもしれません」

と言ったので、私達は頷き、雨月さんを除いた3人で小夜さんの後を追った。



「鬼道丸様、お客様がおみえです」
長い廊下の先、とある部屋の障子の前で小夜さんは声をかけた。ここが鬼道丸の部屋なのだろう。


「客?此処に客か。珍しいな。通せ」
と低い声が聞こえた。意外だ。警戒されて、直ぐに会う事は叶わないと思っていた。

小夜さんが障子を開けると、広い部屋の奥に大きな鬼が座っていた。容姿はTHE・鬼という厳ついものだ。紋様は腕に出ているが、顔にはまだ達していない。


「ほぉ。久しぶりだな爺さん。まだ生きてたのか?しぶといな。それと…天狗と、雪女の半妖か。この島に鬼以外が居るのは珍しい。紫電の所の客かな?で、俺に何の用だ」

鬼道丸は意外にも私達をすんなりと受け入れた。
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