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第83話
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「旦那様は?」
「なんだかお産の近い馬がいるらしくて、様子を見に行ったの。馬丁に任せておけば良いのでは?と言ったのだけど、レナード様ったら『仔馬の頃から目をかけてきた馬だから』って。お優しい方だから」
バーバラに尋ねられ、私はそう答えてクスクスと笑った。
私の笑顔を見て、バーバラが目を細める。
「バーバラ?どうかした?」
「いえ……何だか嬉しくなってしまって」
「嬉しい?」
「お名前を言うのも憚られますが……ハロルド様との婚約が無くなった時は……見ていられませんでした」
「……バーバラ……」
「良かったですね……レナード様に出逢えて」
バーバラはそう言うと泣きそうな顔をした。
私はそんなバーバラに抱きついた。
「バーバラ。貴女が居てくれたお陰で、私の心は必要以上に沈まずに済んだの。本当にありがとう」
子どもの頃から、バーバラだけには素直な自分を見せる事が出来た。バーバラは出来ない私を認めてくれていたから。
バーバラは抱きついた私の頭を優しく撫でた。それは子どもの頃、不器用で色んな事が要領よく出来なかった私が泣きついた時に、彼女がいつもしてくれていた事だった。そしてそんな私にバーバラは『大丈夫。いつか出来る様になりますよ』と慰めてくれた。
「エリン様……もうこのお役目はレナード様に譲ったものだと思っておりましたが、たまにはこうして甘えていただくのも良いものですね」
と言いながらバーバラは何度も何度も私の頭を撫でた。
夫婦の寝室に行く前に、ふと窓の外を無意識に眺めると、驚く光景が目に飛び込んできた。
「ナタリー……?どうして?」
そこには、レナード様の腕に絡みつく様にまとわりついて歩くナタリーとレナード様が居た。
私は思わず、窓から離れる様に身を隠した。
いや……私が隠れるのもおかしな話なのだが……胸がバクバクしている……まさか……レナード様も?
いや!そんな筈はない。レナード様に限ってそんな……。信じたい気持ちが心の大部分を占めているくせに、ほんの少しの黒いシミが水に落としたインクの様にじわじわと広がっていくのを感じる。
二人の顔はこちらからは暗くて見えなかった。私は自分の馬鹿な考えを振り払う様に、強く頭を振った。
ハロルドの家の庭で見たあの光景を思い出す。そんな嫌な思い出が何故か今、鮮明に思い出されて胸があの時と同じ様に苦しくなる。
大丈夫、大丈夫……そう自分に言い聞かせる度に、どんどんと息が苦しくなっていった。
「なんだかお産の近い馬がいるらしくて、様子を見に行ったの。馬丁に任せておけば良いのでは?と言ったのだけど、レナード様ったら『仔馬の頃から目をかけてきた馬だから』って。お優しい方だから」
バーバラに尋ねられ、私はそう答えてクスクスと笑った。
私の笑顔を見て、バーバラが目を細める。
「バーバラ?どうかした?」
「いえ……何だか嬉しくなってしまって」
「嬉しい?」
「お名前を言うのも憚られますが……ハロルド様との婚約が無くなった時は……見ていられませんでした」
「……バーバラ……」
「良かったですね……レナード様に出逢えて」
バーバラはそう言うと泣きそうな顔をした。
私はそんなバーバラに抱きついた。
「バーバラ。貴女が居てくれたお陰で、私の心は必要以上に沈まずに済んだの。本当にありがとう」
子どもの頃から、バーバラだけには素直な自分を見せる事が出来た。バーバラは出来ない私を認めてくれていたから。
バーバラは抱きついた私の頭を優しく撫でた。それは子どもの頃、不器用で色んな事が要領よく出来なかった私が泣きついた時に、彼女がいつもしてくれていた事だった。そしてそんな私にバーバラは『大丈夫。いつか出来る様になりますよ』と慰めてくれた。
「エリン様……もうこのお役目はレナード様に譲ったものだと思っておりましたが、たまにはこうして甘えていただくのも良いものですね」
と言いながらバーバラは何度も何度も私の頭を撫でた。
夫婦の寝室に行く前に、ふと窓の外を無意識に眺めると、驚く光景が目に飛び込んできた。
「ナタリー……?どうして?」
そこには、レナード様の腕に絡みつく様にまとわりついて歩くナタリーとレナード様が居た。
私は思わず、窓から離れる様に身を隠した。
いや……私が隠れるのもおかしな話なのだが……胸がバクバクしている……まさか……レナード様も?
いや!そんな筈はない。レナード様に限ってそんな……。信じたい気持ちが心の大部分を占めているくせに、ほんの少しの黒いシミが水に落としたインクの様にじわじわと広がっていくのを感じる。
二人の顔はこちらからは暗くて見えなかった。私は自分の馬鹿な考えを振り払う様に、強く頭を振った。
ハロルドの家の庭で見たあの光景を思い出す。そんな嫌な思い出が何故か今、鮮明に思い出されて胸があの時と同じ様に苦しくなる。
大丈夫、大丈夫……そう自分に言い聞かせる度に、どんどんと息が苦しくなっていった。
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それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
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