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第107話
しおりを挟む瞳が旦那様と同じであっても、私は気にならない。むしろ嬉しいぐらいなのだが、旦那様はその瞳を見る度に、自分の辛かった記憶を思い出すのかもしれない。
私が簡単に『大丈夫』などと言えるような軽い想いではない筈だ。
どうすれば…。そうだ!
「旦那様のお気持ちはわかりました。瞳の色について、今はどうする事も出来ませんが…私に出来る事が1つだけあります」
「出来る事?」
「はい。少しだけ…私に任せて貰えませんか?」
と言う私に旦那様は、
「任せる…って言われても何をするつもりなのか、全く分からないのだが?」
と不思議そうだ。
私の考えが上手くいくのか…自分でも分からない。
だから、今はまだ私が計画している事は言えない。
「結果はどうなるか分かりませんが…やるだけやってみます。
後…私、きっと大丈夫ですから」
と私が笑顔で答えると、
「何が?意味がわからない」
と旦那様はますます困惑した。
「確かに子どもを生むのは命懸けです。でも、私、絶対に旦那様の側からいなくなりません。約束します!」
と私が言えば、
「そんな保証はどこにもないじゃないか」
と旦那様は少し強めに言った。
「私には旦那様も、モーリス先生も、ローラもメグもユージーンもメイナードもロバートも付いてますから!だから大丈夫です!」
と私は旦那様の手を握る。
子どもが出来た事を素直に喜べなかったと言った旦那様に、心から『子どもが生まれて嬉しい』と思って貰えるように、私は絶対に諦めない。
私は私の出来る事をするだけだ。
そんな私に旦那様は、
「アメリアの自信がどこから来るのか分からないが…お前がそう言うのなら、きっと大丈夫なんだろうな」
と苦笑した。
私はここに嫁いで来て、たくさん旦那様に助けて貰った。
次は私の番だ。
私は翌日から、社交に積極的に顔を出す事にした。
旦那様は渋っていたが、私は決めたのだ。
私に出来る事。それは旦那様がどれだけ素晴らしい人物であるかをアピールする事。
絵本の悪魔に似ているから何だと言うのだ。
旦那様は誰よりも凄い発明をし、誰よりも国を守る為に働いている。
私はそれを皆に理解して貰う為、色んな所へ顔を出した。
最初は『あのバルト公爵と結婚してるのよね?』という好奇心だけで私を見ていたご婦人方に、私の心も折れそうになった。
前のお茶会と同様、失礼な質問を投げ掛けられる事もあったが…
「サリア様のお使いのそれ、主人の発明品ですのよ?」
「まぁ!そうでしたの?高価でしたが、とても便利ですの」
「辺境の皆様の負担が減ったのは、主人の考えたシールドのお陰ですの」
「私の父もバルト公爵に感謝しておりましたわ。騎士達も…亡くなる者が減って、家族も喜んでおりました」
私がやっている事は単なる自慢に聞こえるのかもしれない。
でも、それでも良いじゃない?
旦那様は今まで、自分の功績を特に誰かにひけらかす事もなく、陛下やライオネル殿下から評価を受けるだけだった。
…はっきり言って、そういう事にあまり関心がないのが旦那様だ。
私だって、旦那様がそれで良いのならと今までは思っていた。
だが、今は違う。
生まれて来る子の瞳の色を心配して過ごすぐらいなら、逆にその瞳の色だからこそ、素晴らしいのだと思って貰えるよう、周りを変えていかなければならない事に気づいたのだ。
私に今出来る事。
それは旦那様を『嫌われ者の魔法使い』から『偉大で尊敬できる魔法使い』に変える事だ。
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