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第30話
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アーロンが我が公爵家に来た理由は1つ。公爵様が譲位した後を考えての事。
となると、いよいよ公爵様も養子の件に本格的に取り掛かるのかと思われたのだが……
「アーロンは自分が誰の執事になるのか、理解しているの?」
と私が尋ねても、アーロンは首を横にふる。
「実は私も知らないのです。奥様も……ですか?」
とアーロンは不思議そうに聞いてきた。
「まぁね。私は今さら改めて聞こうとも思っていないんだけど、アーロンは自分が誰を主人にするのか分からない状況って、どうなのかな?って思って」
「誰が自分のボスになったとしても、自分のやる事は変わらないんで」
とアーロンはあっけらかんと笑った。
アーロンはギルバートとは全然違うタイプ。私とも結構仲良くしてくれる。……本当にギルバートとは違う。
気づけば私がこのオーネット家に来てから、8年になろうとしていた。
その日は土砂降りの雨と激しい風の音に私は夜中に目を覚ました。
「凄い雨ね……」
私は寝台を降りてガウンを羽織ると、そっと窓際に近づいた。
窓ガラスがガタガタと揺れている。横殴りの雨が窓に打ち付けていた。
カーテンを捲る。分厚い雲のせいで月明かりすらない庭は真っ暗だ。
目が覚めてしまった私は、喉の乾きを覚えて、水差しを持って厨房へ向かった。
厨房には明かりがついている。……誰か居るようだ。
私が厨房を覗くと、そこには扉に背を向けた公爵様がいた。
「どうされました?」
と私が声を掛けると、肩をピクリと揺らした公爵様が振り返る。
「……君か。びっくりさせるな」
私の声に驚いた公爵様は無愛想にそう言った。
「失礼いたしました。で、ここで何を?」
私は持ってきた水差しをテーブルへ置いた。
「雨と風の音に目が覚めた。少し喉が乾いてな」
「奇遇ですわね。私もです。……良ければお茶を淹れましょうか?」
「お茶……を君が?淹れる事が出来るのか?」
「公爵夫人であっても、私は変わり種ですので。……なんて、冗談です。私、集中したい時は1人になりたいので、茶器だけ用意して貰って、自分で淹れて飲んでるんです」
と私は笑い話ながら、お湯を沸かす。
厨房の椅子に公爵様は腰掛けながら、
「なら、頼む。しかし君が変わり種なのは間違いない」
と私の背に話しかけてきた。
「あら?それは悪口ですの?」
と私は茶器を用意しながら、苦笑した。
「いや。最初に会った時は存在感のない何とも凡庸な女性だと思ったものだ」
「まぁ!やっぱり悪口じゃないですか」
と私が振り返って笑えば。
「あぁ…すまない。そんなつもりではなかったんだが…確かに今のは悪口だな」
と公爵様は少し微笑んだ。
……初めて見た、公爵様の笑顔。ムスカのそれより衝撃的だ。
となると、いよいよ公爵様も養子の件に本格的に取り掛かるのかと思われたのだが……
「アーロンは自分が誰の執事になるのか、理解しているの?」
と私が尋ねても、アーロンは首を横にふる。
「実は私も知らないのです。奥様も……ですか?」
とアーロンは不思議そうに聞いてきた。
「まぁね。私は今さら改めて聞こうとも思っていないんだけど、アーロンは自分が誰を主人にするのか分からない状況って、どうなのかな?って思って」
「誰が自分のボスになったとしても、自分のやる事は変わらないんで」
とアーロンはあっけらかんと笑った。
アーロンはギルバートとは全然違うタイプ。私とも結構仲良くしてくれる。……本当にギルバートとは違う。
気づけば私がこのオーネット家に来てから、8年になろうとしていた。
その日は土砂降りの雨と激しい風の音に私は夜中に目を覚ました。
「凄い雨ね……」
私は寝台を降りてガウンを羽織ると、そっと窓際に近づいた。
窓ガラスがガタガタと揺れている。横殴りの雨が窓に打ち付けていた。
カーテンを捲る。分厚い雲のせいで月明かりすらない庭は真っ暗だ。
目が覚めてしまった私は、喉の乾きを覚えて、水差しを持って厨房へ向かった。
厨房には明かりがついている。……誰か居るようだ。
私が厨房を覗くと、そこには扉に背を向けた公爵様がいた。
「どうされました?」
と私が声を掛けると、肩をピクリと揺らした公爵様が振り返る。
「……君か。びっくりさせるな」
私の声に驚いた公爵様は無愛想にそう言った。
「失礼いたしました。で、ここで何を?」
私は持ってきた水差しをテーブルへ置いた。
「雨と風の音に目が覚めた。少し喉が乾いてな」
「奇遇ですわね。私もです。……良ければお茶を淹れましょうか?」
「お茶……を君が?淹れる事が出来るのか?」
「公爵夫人であっても、私は変わり種ですので。……なんて、冗談です。私、集中したい時は1人になりたいので、茶器だけ用意して貰って、自分で淹れて飲んでるんです」
と私は笑い話ながら、お湯を沸かす。
厨房の椅子に公爵様は腰掛けながら、
「なら、頼む。しかし君が変わり種なのは間違いない」
と私の背に話しかけてきた。
「あら?それは悪口ですの?」
と私は茶器を用意しながら、苦笑した。
「いや。最初に会った時は存在感のない何とも凡庸な女性だと思ったものだ」
「まぁ!やっぱり悪口じゃないですか」
と私が振り返って笑えば。
「あぁ…すまない。そんなつもりではなかったんだが…確かに今のは悪口だな」
と公爵様は少し微笑んだ。
……初めて見た、公爵様の笑顔。ムスカのそれより衝撃的だ。
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