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第82話〈グレイ視点〉
しおりを挟むま~た、この人は斜め上の発想をしているんじゃ、ないだろうか?
俺は目の前で難しい表情をしている、この国の王太子殿下の顔をまじまじと見つめた。綺麗な顔をしていると思う。そりゃあ、あいつが惚れるのも無理はない。
俺には天敵がいる。ライバルって意味じゃなくて、文字通りの『天敵』
捕食『する側』と『される側』。俺が『される側』なのが、なんとも憎たらしい。
そいつの名前は、『アナベル・クラーク』
クラーク公爵の長女だ。
クラーク公爵夫人…アナベルの母親と俺の母親が従姉妹同士だ。2人は殊更仲が良かった為に、小さな頃、俺はアナベルとずっと一緒に居たと言っても過言ではない。迷惑な話しだが。
このアナベルと言う女は…はっきり言って悪魔だ。
俺はこいつに小さな頃から、おもちゃのように扱われた。
アナベルには悪気はないが(多分)、悪戯のレベルを越えていた。そして、うちにも、もう1人悪魔がいた。それが俺の兄だ。
アナベルと俺の兄…メルヴィルはやたらと気があった。類は友を呼ぶとは良く言ったもんだ。
2人で花火を作るんだと言って、うちの領地のボート小屋を吹っ飛ばした時には、流石に叱られていたが、基本2人のやる事には、うちの両親も公爵夫妻もあまり口出ししなかった。
…まぁ、言っても聞くような2人ではなかったからだが。
俺はこの2人に挟まれる事で身につけた特技がある。それは『存在感を消す』事だ。
そうする事で自分の身を守ってきた。
マッドサイエンティストが身近に2人も居るとこうなるよっていう見本だ。
そのアナベルが王太子殿下の婚約者に選ばれたと聞いて、俺は腰を抜かす程驚いた。
天変地異の前触れかと思ったぐらいだ。
アナベルは公爵令嬢とは名ばかり。
淑女からは1番遠い場所にいるような少女だったからだ。
そのアナベルが未来の王妃…俺は真剣にこの国の未来を憂いたものだ。
兄は…少し寂しそうだった。
多分、アナベルと結婚するのは自分だと思っていたんだろう。
俺としては、アナベルをそういう対象として見る事が出来る兄を尊敬した。俺には無理だ。
そして、アナベルが殿下の婚約者になった事で、俺にとっては嬉しい事が起こった。
アナベルが王太子妃教育で、王都に行く事になったからだ。
俺は喜びを爆発させた。
これで、アナベルから逃れられると思えば、見たこともない王太子殿下に感謝したぐらいだ。
そうして、俺とアナベルは疎遠になった。
母の話しでは、予想に反し、アナベルは王太子殿下の婚約者として、かなり優秀であると講師からも褒められているらしい。
この婚約もアナベルが王太子殿下に一目惚れをしたからだと言う。
恋の力とは恐ろしいものだ。
マッドサイエンティストを淑女の鏡と呼ばれる程の令嬢へと変えてしまうとは。
…まぁ、アナベルは元々賢いからな。どう立ち振る舞えば大人が喜ぶかなんて、重々承知だったに違いない。
あいつは腹黒い。
とにかく、俺は自由を手に入れた。
兄には婚約者が決まった。…多分、アナベルを諦めたからだろう。
兄は萎んだ風船のように大人しくなった。…良い傾向だ。
俺は次男だし、元々期待もされていない。
本当に自由になった!
学園でも、この存在感の無さで伸び伸びと出来ていた……あの日、あいつが俺のサボりスポットに来るまでは。
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