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第84話
しおりを挟むいつの間に、殿下とグレイは仲良くなったのかしら?
「いえいえ。お役に立てて良かったですよ…っと。あ、すみません、ハンカチを落としてしまいました…殿下、拾って貰えませんか?」
…ハンカチぐらい、自分で拾えば良いのに…と思ったら、殿下もそう思ったのか、
「お前は僕の前でハンカチを落とす趣味でもあるのか?2回目だぞ?…どうせ、僕に自慢したいんだろ?…アナベルから贈られたハンカチを」
と不機嫌そうに、ハンカチを拾う殿下。
…確かにあれは、私がグレイに押し付けたハンカチだわ!
いつの日にか殿下にプレゼント出来るようになる為に刺繍した練習用のハンカチ。私が持っていても仕方ないから、グレイに送りつけたんだったわ!
使ってくれてるのはありがたいけど、拙い刺繍を殿下に見られては困るのよ!
「あ、あの…それは…」
と私が、ハンカチを殿下から奪おうとすると、
「殿下、そのハンカチ、広げて見て下さい」
とグレイが声をかける。殿下は、
「広げるのか……ん?このイニシャルは?お前はグレイ…『G』じゃないのか?」
と殿下が首を傾げます。
その菫色のハンカチには、隅にこの国の象徴である『鷲』そして、対角線上には…殿下のイニシャル『L』の文字を刺繍している。…だって殿下への贈り物の練習用ですもの。
グレイの為に刺繍した訳ではないので、当然と言えば当然です。
「そうです。そのハンカチには『L』の文字が刺繍されています。…これは、俺の為に刺繍されたハンカチじゃあ、ありません。ベルの周りで『L』のイニシャルの持ち主…誰かわかりませんか?」
と、ニヤニヤしながら殿下を見るグレイ。
「もしかして…これは、僕のイニシャルなのかな?」
とおずおずとした感じで、私の方を見る殿下。自信がない様子が珍しくて…なんだか可愛らしく見えますわ。
「…それは、殿下にいつの日かプレゼント出来るよう、練習用に刺繍したハンカチです。…勿体なくて全てグレイに押し付けてしまいましたの…」
と私も少しモジモジとしてしまいますわ。
「何故?僕の為の物なら、何故僕にくれないの?」
「!だって…。私の刺繍なんて…まだまだで。殿下に差し上げる事なんて出来ないと思って。
もっと、もっと精進して、殿下に贈れる程の腕になったら…と」
「僕が欲しいって言っても、いつも『まだまだ下手だから』と言っていたが…売り物かと思うぐらいに…素晴らしい刺繍じゃないか。
ねぇ、アナベル。僕がアンダーソンがアナベルから贈られたハンカチを使っているのを見た時の気持ちがわかる?
…物凄く羨ましかったんだ。
僕には『下手だから』と言って、1枚もくれないのに、アンダーソンにはあげるんだな…って。
だって、こんなに上手な刺繍なんだよ?きっとアナベルは、僕になんてハンカチを…刺繍をするなんて嫌だから、僕にはそう答えているのだと思ってた」
拗ねたように言う殿下も素敵ですわ!胸がキュンキュンします!
「そんな!嫌だなんて…そんな事あるはずないじゃないですか!だって…私は…ずっと殿下をお慕いしているんですもの。殿下に完璧な淑女だと思って頂きたくて…頑張っているんです。刺繍も…もっともっと上手くならなきゃ…と思うと。殿下に贈る物に妥協はしたくなくて…」
「!!!アナベル…今、何と?僕の事をどう思っているって?」
「…私は、殿下に初めてお会いした、あのお茶会から…ずっとお慕いしておりますわ」
…言ってしまいましたわ。
今までずっと、私が殿下の重荷にならぬよう、自分の気持ちはさらけ出さずに居たけれど…殿下の御気持ちがわかった今、私の気持ちを素直に伝えても大丈夫ですわよね?
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