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第85話

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「で、でも…アナベルは…アンダーソンの事を…」

…はっ!そうでしたわ!私、今のところ、グレイと恋人同士と言う事になっていたんでしたわ!
…私とした事が、これではただの二股女ではないですか!

すると、私が答えるより先に、

「ベルは、殿下が心置きなく恋愛を楽しめるようにと、俺と偽装恋人を演じていただけに過ぎません」
とグレイが答えてしまいました。
…何故グレイが殿下と喋るのよ?!私にも話させなさいよ!

「アナベル…そうなのか?」

「…はい。殿下は私と政略結婚をしなければなりません。ですから、学園生活の間だけでも、自由に恋愛をしたいという殿下のお気持ちを尊重したかったのです。
私が殿下の周りをウロウロしていては殿下が恋人を作るのにお邪魔になるだろうと…」

「…では、アナベルはアンダーソンの事を好きな訳じゃない?」

「も、もちろんです!こんなやつ…いえいえグレイはただの幼馴染みですわ。私が…好きなのは、殿下だけです」

「そ、そうか!そうなんだな!」

と言って殿下は私を思いっきり抱き締めました。
周りの皆様も、生暖かい目で私達を見ておりますが…。

「ちょっと!!私を放って、2人でイチャイチャしないでよ!」
と、ギデオン様とダニエル様の向こうから、大声が聞こえました。

…すっかり忘れておりましたわ。バジル男爵令嬢の存在を。

私は、

「殿下は、バジル男爵令嬢の事は?」
と訊ねましたが、殿下は苦虫を潰したような顔で、

「何故あんな女の名前を今、聞かなきゃならないんだ?あんな女……何とも思っていないどころか、嫌いだ」
ときっぱりと言い切りましたわ。

「ちょっと!嫌いってどういう事よ!」
…あ、また忘れておりました。彼女の事。

殿下はチラリとバジル男爵令嬢の方を見ると、

「ふん。まだそこに居たのか。おい!バジル男爵、どうにかしてくれ」
と殿下はバジル男爵に丸投げしてしまいました。

すると、バジル男爵は、

「仕方ない。まだ家には入れてやるから、帰るんだ」
とバジル男爵令嬢の腕を取りました。
しかし、彼女はその手を振りほどくと、

「何の為に生徒会なんて面倒くさい所に入ったと思ってるのよ!ハイスペックな男を捕まえる為なのよ!?ちょっと、ベルナール!この際、あんたで良いわ。私がベルナールと結婚してあげる!」
と、今度はベルナール様の元へと駆け出しましたが、ベルナール様は、彼女と目も合わせようとしません。

「ちょっと、何なの?さっきまで、私と結婚したいって言ってたじゃない!もういいわ!なら、ライアン、あなたと結婚するわ。ね、嬉しいでしょう?」
と、ライアン様の手を取りますが、ライアン様はその手を振りほどきました。そして、

「お前なんかと結婚しないさ。冗談だろ?」
と冷たくバジル男爵令嬢を突き放しました。
ショックを受けたように、青ざめるバジル男爵令嬢は次に、

「ねぇ、ロバート。ロバートは私と結婚してくれるわよね?」
と震える声でロバート様へと問いかけましたが、彼は無言で俯いてしまいました。

…皆様、どうなさったのでしょうか?先ほどまで、彼女を取り合っていたというのに。この変わり様はいったい…。
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