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第86話

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「皆、自分の立場を守るのに必死だな」
と殿下は呆れるように言いました。

…確かに、彼らは皆、嫡男であるはず。この調子だと、バジル男爵令嬢…いえ、メリッサ嬢は平民になるだろうから、そんな女性を結婚相手に選んだとなれば、自分達が家を継げなくなるかもしれない。
…せめて貴族でさえあれば、男爵令嬢だとしても、どうにかなると思ったのか…。

「そうみたいですわね。皆様のメリッサ嬢へのお気持ちとは…その程度でしたのね」

「その程度?」

「はい。彼女が平民になるならば、自分も家を捨て平民になってでも添い遂げたい…それぐらい強い気持ちなのかと思っておりましたわ。
だって、家同士で決めた婚約者を裏切ってでも、彼女を手にいれたいと思ったんですわよね?
それなのに、貴族でなくなったからと…あんな手のひら返し…あんまりです。
…とはいえ、メリッサ嬢は皆様のお気持ちを弄んだようですので彼女には同情出来ませんけど」

あの3人の態度には腹が立ちますけど、メリッサ嬢は…更に上をいく言動ですもの。上位貴族の嫡男なら、誰でも良かったのかしら?
確かに生徒会に入れる方々は、成績優秀、品行方正な方に限られておりますけれど…あの3人を見ていると、生徒会へ入会出来る方の基準をもう一度見直さなければならないのではないかしら?
あの3人が品行方正とは…思えませんもの。

メリッサ嬢も生徒会に入る為に成績の偽造を依頼したようですし…上位貴族でもなるべくハイスペックな殿方を欲しておられたのでしょうね。
…でも、ご自分はそれに見合う程度の教養もマナーも身につけていないのでは、万が一結婚出来たとしても、後々苦労したでしょうに…。
まぁ、そこまで考える頭が彼女にあるとは思えませんけど。

「ねぇ…アナベル。もし…もしもだよ?僕が王太子…いや、王子でもなかったとしたら…アナベルはどうした?」

「どうした?とは…?」

「僕が今…平民になったとしたら…アナベルは僕を捨てるの?」
…既に捨てられた子犬みたいな瞳で私を見ている殿下…そんな弱気な殿下…嫌いじゃないですわ。なんなら、大好物ですけれど!

「ならば、私も平民になりますわ。…でも、私…働いた事がありませんの。私に出来る仕事があるかしら?あ!刺繍!先程殿下に褒めて頂いたので…それを仕事に出来るかしら?それと…お料理も出来る様にならなくてはいけませんわね…私、頑張りますわ」

「ま、待ってアナベル。只の例え話しだ。僕は王太子を辞めるつもりはないよ。…でも、前に噂で聞いたんだ。アナベルが僕が王太子じゃなかったら、婚約者なんかにならなかったって言っていたと…」

…私、そんな事を言った覚えはありませんけど?
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