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第4話
しおりを挟む「ジュリエッタ嬢が戻って来たんだって?」
セドリックが私に訊ねた。
私とセドリックは今、共同事業についての書類を一緒に確認していた。
「ええ。お父様のお世話をしたいと言ってね。
修道院の院長にはちゃんと許可を取って戻って来てたみたいだから、私が反対する理由はないと思って」
と私が言えば、
「ふーん。ジュリエッタ嬢はお父上の事を大切に思ってたんだな。
なら迷惑かけなきゃ良いのにって思うのは俺だけ?」
とセドリックは答えた。
ごもっとも。
「あの子は色々と拗らしてるのよ。他人が悪い事にすれば、自分の心を守れると思っていたの。
今は自分を守ってくれていたお父様があんな風になって…不安で堪らないのね。
でも、お父様を大切に思う気持ちは本物みたい。…よく世話をしてくれているわ」
と私が肩を竦めれば、
「そっか…だけど、お前って心広いよなぁ。父親にも母親にも妹にもあんなに邪険に扱われてたのに、このオーヴェル家を1人で守って…頭が下がるよ」
とセドリックは私にそう言って、頭の上に手を乗せようとしたのを、私は咄嗟に避けた。
「また、髪の毛をグシャグシャにする気でしょう?ナラから嫌われるわよ?」
と私が言えば、
「そんなつもりはなかったんだけどな…」
とセドリックは苦笑いした。
「ねぇ、セドリック、共同事業の事、わざわざ貴方に出向いて貰わなくても良いのよ?代わりに誰かを寄越してくれても。
貴方だって宰相として忙しいでしょう?」
と私が言えば、
「お前に会いに来てるんだ。その楽しみを奪うなよ」
と笑う。
「また…貴方、そんな風に誰にでも良い顔してたら…いつの日か女に刺されるわよ?
そんな事より自分の身を固めたら?前公爵様もやきもきしてるでしょう?」
と私は書類をトントンと机で揃えながら言った。
するとセドリックは微妙な表情で私を見ている。
何なのかしら?
「俺の事はお前に心配して貰わなくても大丈夫だ。で、これ…」
と私に一束の書類を差し出した。
「これは?」
私が訊ねれば、
「領地経営にはコツがあるんだ。それを纏めたもんだ。初心者のお前には必要だろ?」
と少し意地悪そうに言った。
憎まれ口を叩いている風だけど、これは彼の優しさだ。
「ありがとう。大切に使わせて貰うわ」
と私が素直にお礼を言うと、セドリックは少し恥ずかしそうに笑った。
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