36 / 36
第36話〈最終話〉
父の病状を鑑みて、挙式は大切な人のみを招待した。
しかし、ジュネ公爵家の結婚式。
重要人物が目白押しで護衛の数が盛りだくさんになってしまった事は言うまでもない。
バージンロードをエスコート出来る人が私には居ないので、最初からセドリックと教会へ入場する。
……何故か私の隣で何度も深呼吸をしている男が居る。
「セドリック……体調でも悪いの?」
扉の前でスタンバイしている私は小さな声でセドリックに尋ねた。
「体調は悪くない。ただ……緊張しているだけだ」
「緊張?!貴方が?いつも飄々としてるのに?」
と私は驚く。
「お前は2回目だから緊張しないかもしれないが、俺は初めてなんだ」
「何それ?嫌み?」
…2回目で悪かったな。しかしバージンロードを歩く権利は保持したままだ。
「嫌みに聞こえたか?真実を言っただけだ」
ああ言えばこう言う。
「皮肉を言えるなら、いつもの貴方に戻ったって事かしら?なら、良かったわ」
と私が小さく笑えば、
「お前が俺の事を同士としか思っていない事はわかってる。
だが、俺はもう後悔したくないんでね。
お前があの件で負い目を感じて俺の結婚を受け入れたんだとしても、俺は構わない」
と急にセドリックは真面目な顔で話始めた。
「…どうしたの?急に」
私は隣に立つセドリックの顔を見上げた。
セドリックは私と目を合わせて、
「だがな、俺は自信があるんだ」
「自信?」
「あぁ。お前は何だかんだで情に厚い。陛下の時だってそうだ。最初は浮気者の嫌な奴だと思ってたろ?」
「……別に嫌な奴だなんて思ってないわよ。ちょっとだけ……愚かだと思っただけ」
誰かに聞こえていたら、不敬になること間違いなしの会話だ。
「だが、お前はそんな陛下でも許し、導いた。最後の方は……ちょっと好きだっただろ?」
とセドリックはいつものように皮肉っぽく笑う。
「……ちょっ!別に……好きな訳じゃなかったわよ。尊敬はしてたけど……」
と少しずつ声が小さくなる私に、
「ふん。お前が自分の気持ちにも鈍かっただけだ。
まぁ、何が言いたいかと言うとだな、お前は情に絆されやすい」
「そんな言い方!何だか私が『チョロい女』みたいじゃない!」
私達の声は段々と大きくなっていたようだ。
教会の扉が開かれていた事にも気づかないぐらいに……。
開かれた扉の向こうでは招待客が椅子に座り、こちらに注目していた。
突き当たりでは司祭が思いっきり『ウォッホン!』と咳払いをした。
私とセドリックは急いで笑顔を作り前を向く。……いつからこの扉は開かれていたんだろう。考えるのも恐ろしい。
パイプオルガンから厳かな音楽が鳴り響く。
私達はそれを切っ掛けに教会の中へと一歩踏み出した。
「……貴方のせいで恥をかいたわ」
殆ど口を動かさずに、セドリックへ文句を言う。
「まぁ、いいじゃないか。これからはお前の側には俺が居る。恥をかくなら、一緒にかくさ」
「そういう問題?」
そうこうする内に司祭の前に辿り着いた。
そしてセドリックは、
「今は同士で良いさ。だが、絶対に俺に惚れさせてみせる。覚悟しておけよ」
と長身を屈めて私の耳元で囁いた。
「なっ!」
私はつい耳が熱くなるのを感じて、片手で耳を塞ぐ。
司祭は私のその姿を見て
「私の話しは聞きたくない……そういう事ですかな?オーヴェル侯爵?」
と目を丸くした。
「いえ!とんでもございません!」
と私は手を下ろす。隣のセドリックの肩が微かに震えている。笑ってるな、こいつ。
私達は誓いのキスの為に向かい合った。
やられっぱなしは性に合わない。
セドリックがベールを上げると同時に、私はセドリックのタイを掴み、自分から彼を引き寄せキスをした。
驚いたセドリックは顔を真っ赤にして目を丸くしている。
招待客からは『フゥ~』という声が聞こえたが、知った事か。
「どう?驚いた?」
と私が言えば、セドリックは
「あぁ。だから俺はお前が好きなんだ。賢くて、強くて、可愛くて、奇想天外だ。一緒にいて、飽きないよ」
と笑った。
最後の一言が少し気に入らないが、彼を驚かせる事が出来て私は満足だ。
「貴方のお手並み拝見よ。私を貴方に夢中にさせてみてよ」
「自信があると言ったろう?これから先は長いんだ、一生をかけてでも俺に夢中にさせてみせるさ」
とセドリックは私を抱き締めた。
招待客からは割れんばかりの拍手だ。
私達は結局元サヤ。紆余曲折はあったけれど、結ばれる運命だったのかもしれないと今は思う。
……あ、そういえばセドリックは私に結婚式は『2回目』だと言ってたわね。残念ね。正確に言えば『3回目』よ。
私はセドリックに抱き締められながらそう心の中で突っ込んだ。
ーFinー
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
これで、この物語は完結です。
長く、長く続いたクロエの物語が終わってしまうのは、作者としても寂しく思います。
いつの日かまた、クロエを書きたくなったら、どこかで書くかもしれません。
その時は『またか』と思いながらも覗いていただけると嬉しく思います。
初瀬 叶
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
婚約者に妹を紹介したら、美人な妹の方と婚約したかったと言われたので、譲ってあげることにいたしました
奏音 美都
恋愛
「こちら、妹のマリアンヌですわ」
妹を紹介した途端、私のご婚約者であるジェイコブ様の顔つきが変わったのを感じました。
「マリアンヌですわ。どうぞよろしくお願いいたします、お義兄様」
「ど、どうも……」
ジェイコブ様が瞳を大きくし、マリアンヌに見惚れています。ジェイコブ様が私をチラッと見て、おっしゃいました。
「リリーにこんな美しい妹がいたなんて、知らなかったよ。婚約するなら妹君の方としたかったなぁ、なんて……」
「分かりましたわ」
こうして私のご婚約者は、妹のご婚約者となったのでした。
王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
【完結】都合のいい女ではありませんので
風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。
わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。
サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。
「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」
レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。
オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。
親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
《本編完結》あの人を綺麗さっぱり忘れる方法
本見りん
恋愛
メラニー アイスナー子爵令嬢はある日婚約者ディートマーから『婚約破棄』を言い渡される。
ショックで落ち込み、彼と婚約者として過ごした日々を思い出して涙していた───が。
……あれ? 私ってずっと虐げられてない? 彼からはずっと嫌な目にあった思い出しかないんだけど!?
やっと自分が虐げられていたと気付き目が覚めたメラニー。
しかも両親も昔からディートマーに騙されている為、両親の説得から始めなければならない。
そしてこの王国ではかつて王子がやらかした『婚約破棄騒動』の為に、世間では『婚約破棄、ダメ、絶対』な風潮がある。
自分の思うようにする為に手段を選ばないだろう元婚約者ディートマーから、メラニーは無事自由を勝ち取る事が出来るのだろうか……。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました
チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。
そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。
そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。
彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。
ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。
それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。