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第85話
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バザーは明日だ。
私はハロルドと料理人と共にりんご飴といちご飴を作り、ジャム入りのクッキーとドライフルーツ入りのパウンドケーキを焼いた。……といっても私のメインの仕事はジャムの瓶を綺麗にラッピングすることだ。何故か料理は皆が私に任せてくれない。
「今回のバザーは午前中は貴族の方々、午後は街の人々を招待してるの。良い宣伝になるわ」
私の話を聞いてハロルドが尋ねる。
「そういえば、例の店の準備はどうなりました?」
「今、改装中。再来月……いや、来月にはオープンさせたいわ」
「今日、手が空けば見に行っても?」
ハロルドも王都にブラシェールの店が出来ると知って、興味津々だ。教会のバザーの手伝いを買って出てくれたのも、店の進捗の確認も兼ねているのだろう。
「フフフッ。準備が終わって手が空けばね。その為にもさぁ、手を動かして!」
そう言った私が包丁を握ろうとすると、その場にいた全員が全力で止めた。……クッキーの生地を切り分けようとしただけなのに……。
結局、全ての準備が終わったのは、もう日も暮れかけた頃だった。
「やっと終わりましたね」
「壮観だわ」
綺麗にラッピングされた品物を見て、私は微笑んだ。
厨房の窓から外を見る。日が傾き、そろそろ暗くなり始める。
「お店はバザーが終わってからにしましょうか」
「そうですね。今日は流石に疲れましたし」
そうハロルドは苦笑いする。
すると、家令が厨房へと顔を出した。
「夕食はいかがいたしましょう。旦那様はまだお帰りではありませんが」
私はレニー様に昨日言われたことを思い出して、また嫌な気持ちになった。……当分彼の顔は見たくない。
「先に食べましょう。待っていてはいつになるか分からないし」
帰って来る前にさっさと済ませてしまいたいのが、本音だ。
家令は少し微妙な顔をしたあと「畏まりました」と頭を下げた。
ハロルドと共にした夕食は和やかに終わった。レニー様はまだ帰って来ない。いつもより随分と遅い。
顔なんて見たくないと思っても、ちょっと気になってしまう。
そんな私にハロルドは言った。
「ソワソワしてます?」
「え?あ、あぁ……そうね、明日のバザーのことが気になって」
私は何となく誤魔化してしまった。
ハロルドは明日に備えて早く休みますと、頭を下げる。私も湯浴みでもするか……と思っていると、家令が慌てて私を呼びに来た。
「旦那様が……っ!」
ただならぬ雰囲気に私は不安になる。急いで玄関ホールに向かうと、片腕を三角巾で吊った旦那様がメイドに上着を手渡しているところだった。
「レニー様……!どうされたのです?!」
レニー様のその姿に、さっきまで顔も見たくないと思っていたことなど、すっかり私の頭から飛んで行ってしまっていた。
私はハロルドと料理人と共にりんご飴といちご飴を作り、ジャム入りのクッキーとドライフルーツ入りのパウンドケーキを焼いた。……といっても私のメインの仕事はジャムの瓶を綺麗にラッピングすることだ。何故か料理は皆が私に任せてくれない。
「今回のバザーは午前中は貴族の方々、午後は街の人々を招待してるの。良い宣伝になるわ」
私の話を聞いてハロルドが尋ねる。
「そういえば、例の店の準備はどうなりました?」
「今、改装中。再来月……いや、来月にはオープンさせたいわ」
「今日、手が空けば見に行っても?」
ハロルドも王都にブラシェールの店が出来ると知って、興味津々だ。教会のバザーの手伝いを買って出てくれたのも、店の進捗の確認も兼ねているのだろう。
「フフフッ。準備が終わって手が空けばね。その為にもさぁ、手を動かして!」
そう言った私が包丁を握ろうとすると、その場にいた全員が全力で止めた。……クッキーの生地を切り分けようとしただけなのに……。
結局、全ての準備が終わったのは、もう日も暮れかけた頃だった。
「やっと終わりましたね」
「壮観だわ」
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「お店はバザーが終わってからにしましょうか」
「そうですね。今日は流石に疲れましたし」
そうハロルドは苦笑いする。
すると、家令が厨房へと顔を出した。
「夕食はいかがいたしましょう。旦那様はまだお帰りではありませんが」
私はレニー様に昨日言われたことを思い出して、また嫌な気持ちになった。……当分彼の顔は見たくない。
「先に食べましょう。待っていてはいつになるか分からないし」
帰って来る前にさっさと済ませてしまいたいのが、本音だ。
家令は少し微妙な顔をしたあと「畏まりました」と頭を下げた。
ハロルドと共にした夕食は和やかに終わった。レニー様はまだ帰って来ない。いつもより随分と遅い。
顔なんて見たくないと思っても、ちょっと気になってしまう。
そんな私にハロルドは言った。
「ソワソワしてます?」
「え?あ、あぁ……そうね、明日のバザーのことが気になって」
私は何となく誤魔化してしまった。
ハロルドは明日に備えて早く休みますと、頭を下げる。私も湯浴みでもするか……と思っていると、家令が慌てて私を呼びに来た。
「旦那様が……っ!」
ただならぬ雰囲気に私は不安になる。急いで玄関ホールに向かうと、片腕を三角巾で吊った旦那様がメイドに上着を手渡しているところだった。
「レニー様……!どうされたのです?!」
レニー様のその姿に、さっきまで顔も見たくないと思っていたことなど、すっかり私の頭から飛んで行ってしまっていた。
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