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第125話 Sideレニー
〈レニー視点〉
「デボラ、悪い話じゃ── 」
兄さんがまだそう言い募ろうとした時── 。
ガタン!
大きな音を立てて、アリシアがすっくと立ち上がった。
僕たちの目の前に立ったアリシアはバッと顔を上げると、泣いて赤くなった目を見開いた。そして高らかに笑い始める。
「アーッハッハッハ!あーおかしい。皆、馬鹿なんじゃないの?」
彼女はそう言葉にしながら、目尻の涙を拭う。今度は笑いすぎたようだ。僕はその様子を唖然と見ていた。
「アリシア?」
兄さんが訝しげに彼女を見上げると、アリシアはキッと兄さんを睨みつけた。
「クラッド。あなたを選んだのは間違いだったわ。優しくて地位もある。せっかく私に釣り合いがとれる男だと思っていたのに……器が小さいんですもの」
彼女は呆れたようにそう言い放った。兄さんはその変貌したアリシアの様子をただ黙って見上げている。だがアリシアは止まらない。
「侯爵を継いでからというもの、あれしろ、これしろってうるさいし。それにぶくぶく太って……みっともないったらないわ。侯爵夫人になったら、何もせず贅沢な暮らしが出来ると思ったのに、がっかり。それに── 」
アリシアはクスッと笑うと、兄さんを指さした。
「そんなせり出したお腹の男となんて、夜を共にしたくないわ。どうせ子を産むつもりもなかったし」
「アリシア……君は僕に言ったじゃないか。デボラの方が先に妊娠したら立場がない、と。だから── 」
僕はつい、そう口にしていた。隣のデボラが僕の方をそっと見た。彼女は「分かっている」というように小さく頷いた。
「馬鹿ね。ただ単に、レニーがデボラさんに好意を持たないようにと邪魔していただけよ。でも……あまり功を奏していなかったみたいね、その様子だと。残念だわ」
「じゃあ僕とデボラが── 」
「肌を重ねると、情が移るでしょう?レニーは私のものだもの。知らない女が横から掻っ攫うのは気に入らないわ」
……これは僕の知ってるアリシアなのか?
幼い頃、父の影に隠れながらこっちをチラリと見ていたオドオドした少女と目の前の女がどうしても重ならなかった。
「僕はアリシアのものじゃない。いい加減にしろ!」
反射的に僕は否定していた。兄さんにしろ、アリシアにしろ人をなんだと思っているんだ。
「あらそう?私がクラッドと結婚して、辛そうにしていたじゃない。結婚を嫌がったのだって、私が好きだったからでしょう?結婚しても私が呼べば尻尾を振って直ぐに来ていたくせにデボラさんを好きになったからって、その言い分は勝手過ぎない?」
僕は恥ずかしくなった。アリシアが言っていることは確かに今までの僕のことだ。だけと今は── 。
すると僕の隣に立っていたデボラが呟いた。
「貴女……可哀想な人ね」
その言葉にアリシアが反応する。
「何が?どこが可哀想なの?もしかして嫉妬?」
「嫉妬?貴女を羨ましいと思う部分が私には一つもないのに?」
デボラは困ったように笑う。
「ふん。クラッドに選ばれたとでも思ってる?クラッドがあなたに興味を持ったのは、レニーの持ち物だからよ。クラッドはなんだかんだ言ってレニーにコンプレックスを持ってるんだから」
アリシアの言葉に僕はチラリと兄さんの方へ視線を向けた。兄さんは小さく肩を竦めるが、否定はしなかった。
「貴女の頭の中にはそんなくだらないことしか詰まってないの?男性は貴女を満足させる道具じゃないわ」
「綺麗事言わないでよ!あなただってハルコン侯爵家と縁続きになるから、この縁談を受けたくせに。男を利用しているのは私と同じじゃない。どこが違うのよ!」
「別に私はレニー様に幸せにしてもらいたくて結婚したんじゃないわ。幸せは自分で掴む。それが私のやり方よ」
アリシアとデボラが言い争っている。しかし僕はそんな二人を余所に「レニー様に幸せにしてもらいたわけじゃない」というデボラの言葉にほんの少し凹んでいた。
「デボラ、悪い話じゃ── 」
兄さんがまだそう言い募ろうとした時── 。
ガタン!
大きな音を立てて、アリシアがすっくと立ち上がった。
僕たちの目の前に立ったアリシアはバッと顔を上げると、泣いて赤くなった目を見開いた。そして高らかに笑い始める。
「アーッハッハッハ!あーおかしい。皆、馬鹿なんじゃないの?」
彼女はそう言葉にしながら、目尻の涙を拭う。今度は笑いすぎたようだ。僕はその様子を唖然と見ていた。
「アリシア?」
兄さんが訝しげに彼女を見上げると、アリシアはキッと兄さんを睨みつけた。
「クラッド。あなたを選んだのは間違いだったわ。優しくて地位もある。せっかく私に釣り合いがとれる男だと思っていたのに……器が小さいんですもの」
彼女は呆れたようにそう言い放った。兄さんはその変貌したアリシアの様子をただ黙って見上げている。だがアリシアは止まらない。
「侯爵を継いでからというもの、あれしろ、これしろってうるさいし。それにぶくぶく太って……みっともないったらないわ。侯爵夫人になったら、何もせず贅沢な暮らしが出来ると思ったのに、がっかり。それに── 」
アリシアはクスッと笑うと、兄さんを指さした。
「そんなせり出したお腹の男となんて、夜を共にしたくないわ。どうせ子を産むつもりもなかったし」
「アリシア……君は僕に言ったじゃないか。デボラの方が先に妊娠したら立場がない、と。だから── 」
僕はつい、そう口にしていた。隣のデボラが僕の方をそっと見た。彼女は「分かっている」というように小さく頷いた。
「馬鹿ね。ただ単に、レニーがデボラさんに好意を持たないようにと邪魔していただけよ。でも……あまり功を奏していなかったみたいね、その様子だと。残念だわ」
「じゃあ僕とデボラが── 」
「肌を重ねると、情が移るでしょう?レニーは私のものだもの。知らない女が横から掻っ攫うのは気に入らないわ」
……これは僕の知ってるアリシアなのか?
幼い頃、父の影に隠れながらこっちをチラリと見ていたオドオドした少女と目の前の女がどうしても重ならなかった。
「僕はアリシアのものじゃない。いい加減にしろ!」
反射的に僕は否定していた。兄さんにしろ、アリシアにしろ人をなんだと思っているんだ。
「あらそう?私がクラッドと結婚して、辛そうにしていたじゃない。結婚を嫌がったのだって、私が好きだったからでしょう?結婚しても私が呼べば尻尾を振って直ぐに来ていたくせにデボラさんを好きになったからって、その言い分は勝手過ぎない?」
僕は恥ずかしくなった。アリシアが言っていることは確かに今までの僕のことだ。だけと今は── 。
すると僕の隣に立っていたデボラが呟いた。
「貴女……可哀想な人ね」
その言葉にアリシアが反応する。
「何が?どこが可哀想なの?もしかして嫉妬?」
「嫉妬?貴女を羨ましいと思う部分が私には一つもないのに?」
デボラは困ったように笑う。
「ふん。クラッドに選ばれたとでも思ってる?クラッドがあなたに興味を持ったのは、レニーの持ち物だからよ。クラッドはなんだかんだ言ってレニーにコンプレックスを持ってるんだから」
アリシアの言葉に僕はチラリと兄さんの方へ視線を向けた。兄さんは小さく肩を竦めるが、否定はしなかった。
「貴女の頭の中にはそんなくだらないことしか詰まってないの?男性は貴女を満足させる道具じゃないわ」
「綺麗事言わないでよ!あなただってハルコン侯爵家と縁続きになるから、この縁談を受けたくせに。男を利用しているのは私と同じじゃない。どこが違うのよ!」
「別に私はレニー様に幸せにしてもらいたくて結婚したんじゃないわ。幸せは自分で掴む。それが私のやり方よ」
アリシアとデボラが言い争っている。しかし僕はそんな二人を余所に「レニー様に幸せにしてもらいたわけじゃない」というデボラの言葉にほんの少し凹んでいた。
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