明るいパーティー(家族)計画!勇者になれなかった僕は…

にゃも

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マイオ村 ー温泉から微笑むモノー

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ー温泉― 
 「よろしいのですか?」

 「…なにが?」

 濡れたままの身体をロクに拭きもせず、慌てて服を着て走っていった少女が遠くなっていくのをそのまま温泉の中から見ている女に彼女の部下は言う。

 「彼女にあのモノの話をしたことです。」

 「ああ、その事ね。今は私の気分がいいからいいんじゃないかな?」

 「しかし、それでは…」

 「ねえ、私はグレゴリオとかいう魔王様から好きにしていいと言われているの。その私がいいと言っているんだからそれ以上は言わないでよ。昨日の今日だけど私は貴女の上司なのよ?」

 暗く闇の深い目と視線が合った瞬間、部下は息苦しさを覚え膝をつく。

 「あら?大丈夫?ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの。本当よ?まだ自分の力がコントロールできていないの。」

 「くっ……。」

 「それに貴女の心配事も大丈夫よ。でもね、人間を辞めてからたまたま最初に会った人間との接触でまさか同じ名前の人を好きな子に会うとは思わなくて少しだけ猶予を与えたくなっちゃったのよ。だからこの村は後回し。いい温泉もあるしね。あまり派手にやると温泉まで壊しちゃいそうだし。そしたらユウキに怒られちゃうもの。知ってる?ユウキはね、温泉が好きなのよ。」

 (知るわけないだろう、人間風情が。)

 部下の女は解かれた力に安堵する。しかし、元人間ごときに情けない顔を見られるわけにはいかないと体力を奪われながらも笑顔を崩さない。心の中で彼女に恨み言をいう事で表に出かけた表情を隠す。

 「ならばさっさとこの村を出て貴女の男の為に身体を作った方がいいのではないですか?」

 「…そうね、まだこのガリガリの身体が元に戻らないのよ。今のままだと私のユウキに嫌われてしまうわ。かなり良くなったと言ってもまだ会える状態ではないわね。」

 「では、一度城にお戻りになり次の場所に向かう準備をしていてください。」

 「貴女は?まさかあの子を殺すとかつまらない事を言わないわよね?もしくは、バレた事を同じ派閥の仲間に伝えにいくなんて事はしないでしょうね?同じ魔族だから?くだらない。あれはいずれにしても近いうちに人間に殺される運命にあったわ。何故かわかる?やり過ぎたのよ。村の中に元凶がいるのは誰でもわかるでしょう。ならそのうちアイツ…あのクソ勇者が来たらいずれにしても街ごと村は消されるでしょうね。そして魔族との戦争の種として使われるわ。いずれはこの国を滅ぼすのだからそれでもいいでしょう。でもね、まだその時ではないとグレゴリオ様は考えているはずよ?これは単独で動いてやり過ぎた魔族が単に討伐されただけの事にしてしまうの。」

 (…何が言いたいのだ。この女は。)

 部下の女は彼女の言う通り、同じ派閥の魔族に撤退するか村の人間を殺してしまうよう指示を出そうとしていた。

 「過激派の魔族に火種と機会を。保守派の魔族に恩義と同情を…」

 「…我ら過激派の中にある戦争への口実の火にあのモノを薪としてくべる事で戦火という大火へという話はわかりましたが、保守派への恩義と同情とはどういう意味ですか?」

 「ふふ。簡単にわかってはつまらないわよ。」

 「……。」

 「そういえば同じ魔族でも絶望は食べれるのかしら?まあいいわ。そういうことよ。上手くいけばここは将来激しい戦いの場になるでしょう。いずれは消える村。さっきの彼女に束の間の幸せをあげたいじゃない?それに愛し合った彼の死を見せてあげたいじゃない?ああでも、私のように襲わせて同じ目に合わせてもいいかも?あの子なら私の理解者になってくれるかな?あの子も魔族に…。そうね、それもいいかもしれないわね。また会う機会が会ったら絶望を与えてみせましょうか。二人きりの世界の前の前座のイベントとして。」

 彼女が段々と興奮し始め、自分の身体を搔きむしり始める。彼女には自分を傷つけているという感覚が欠如している。次第に血が地面に流れ落ち始める。血が地面に触れた瞬間、その周りが黒くなり紫色の煙が立ち昇る。

 「で、では!次は美味しい物が食べられる海の方へ行ってはみませんか?」

 慌てて部下の女は女の思考を別の方向に向け彼女に正気を戻させる。

 「海?」

 ピタリっと彼女の動きが収まり部下の女はホッとする。

 「それよりも…山菜とかがいいかも。どっか森や山の方で美味しいものとかありそうな所ない?」

 「は、すぐに知らべ報告させて頂きます。一度城にお戻りになりお待ち頂けますでしょうか?」

 「ん~…そうね。そうするわ。」

 そういうと彼女は全裸のまま立ち上がり呟くと手を横に薙ぐ。すると暗闇が人の大きさ程に広がる。

 (…化物か。この女。)

 「じゃ、後宜しくね。なるべく早くしてね。」

 そういうと女は暗闇に溶け込み視界から消えていく。

 (元人間風情が…。仲間を捨て石にしやがって。けれども、過激派の我らにとっては保守派を押さえてグレゴリオ様の意向を押し通させる為のよい口実の一つになるのは確かだ。仲間がやられたというのは戦争をより過激にさせる為の材料として確かに使える。ここはのるしかないか。)

 あんな女に素直に従うつもりはない。グレゴリオ様の本心かは分からないがあの女は使い捨ての駒と言っていた。勇者を名乗る人間と同じ世界から来たという元仲間。潰させ合えばいいという話だったはず。

 あの女の求めるユウキとあの少女がいうユウキが同一人物であると部下の女は掴んでいた。

 グレゴリオ様は勇者と女の潰し合いを望まれていた。

 そのユウキという男は先に殺してしまってもいいだろう。

 (まぁ、それはまだ先の話だがな。今殺してはあの女がグレゴリオ様の敵となるかもしれない。勇者がいるうちは得策ではないだろう。ならばあの女か魔族の誰かが勇者を殺した後にユウキという奴をあの女の目の前で殺して見せればいいのではないか?いや、その前にユウキという男の心を完全にあの少女や仲間達に向けさせてしまえば…。)

 部下の女は本心を隠す必要がなくなった為、耳元まで口を開くと愉快そうに笑う。

 ひとしきり笑った後、元の顔に戻すと女は一つ咳をする。

 「さて、私も上司の気まぐれにのって少女のフォローをしてあげましょう。より深くあの少女が結ばれる為のお膳立てをね。人間の男は弱った女や守りたいと思った相手を自分のモノにしたいと聞く。」

 魔族になったとはいえ、あの女が将来するであろう絶望の顔を思い描き自然と戻した口元が開いてしまう。同時に見捨てる同族に別れの挨拶を心の中でする。

「孤立無援にして悪いね…クオルデッダ。せめて美味しい絶望を残していってね。」
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