明るいパーティー(家族)計画!勇者になれなかった僕は…

にゃも

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港町サーレ 癒しの園へようこそ。

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「あの猫!全然追いつけない!」

 ユウキは見知らぬ土地に苦戦を強いられていた。

 「ぎいいやあ~~」

 見失わないのに精いっぱいで猫を捕まえるチャンスを得られないまま商店街に入られてしまう。行き交う人の足をすいすいと抜けて猫は今度は路地裏へと逃げ込む。

 「はあ…はあ…やっかいだな。日本の見知らぬ街の路地裏でも嫌なのに、異世界の路地裏とかフラグ立ち過ぎだろ!」

 そうは思いつつもフレミアが自力であの猫の口から抜け出せない以上は、こちらが助けてやるしかないわけなのだが…

 「頼むからチンピラとかいるなよ!」

 猫に遅れながらユウキも路地裏に入り込む。

 「なんだ小僧!ラキアの看板猫に何か御用かな?猫のあまりの叫び声にこんな格好で出てきてしまったではないか。」

 筋肉隆々のパンツ一枚のスキンヘッドが現れた!!予想外!流石異世界!

 戦う

 逃げる

 魔法(術)

 交渉する

 異世界らしいゲーム脳で四つの選択肢をパッと瞬時に思い描く。

 「ほほう…いい反応だ。けどなオレ様を銀のカードBランク所持者のブラッド様と知っての態度かい?」

 ブラッドは右手の拳を左手に打ち付ける。

 バシンッという嫌な音がユウキの耳に入ってくる。

 (Bって上から二番目のランクじゃないか!これ死亡フラグなんじゃ!)  
 「どうした?来ないのか?いつでもかかってきていいんだぞ?」

 そう言いながらブラッドは至る所の筋肉をピクリッピクリッと動かしながらその肉体を見せつけてくる。
 よくよく見ると何かテカテカと光っている。ユウキは戦慄した。あれは汗か!オイルか!ローションか!

 触り合いたく…もとい、関わり合いたくない。

 (ここは一度退散して後でティナやレイランと共にフレミアを回収するほうがいいだろう。居場所はわかったのだ。)

   「 来ぬのなら こちらから行くぞ!貴様の敗因は筋肉が足りなかった事だ!」

   ブラッドが踏み込む瞬間…

 「こらっ!離しなさい!ポン助!」

 「!?どうかされましたか?」

 ブラッドが声のした女性に話しかける為、その店へと入っていく。

 「ポン助が人形を咥えて離さないの!気に入っちゃったみたいで!」

 ブラッドの背中の先から声が聞こえてくる。

 「あ、ようやく離した…。」

 「そ、その人形は俺の持ち物なんです!」

 慌ててユウキは取り返してくれた女性に聞こえるように声を張る。

 「え?あ、そうなのですか?ごめんなさい!こらっ!待ちなさい!ポン助!」

 怒られたポン助と呼ばれた猫が慌てて逃げていくのが見える。

 「…ごめんなさい!うちの猫が。私は今外に出れないので中に入って来て頂けますか?」

 女性の声が聞こえるとブラッドがポージングを決めたまま気まずそうに

 「…まあ、誰しも勘違いはするものだ。」

 とボソッというと恥ずかしそうにその看板の中へと入って行った。

 看板には癒しの園ラキアと言う店名と小さく悪を追い放つマッサージ店と書かれていた。

 ふわりと漂う甘い入口。

 そのすぐ中に一人の女性がフレミアを抱えて待っていた。

 薄紫色の髪をした少し肌の荒れている女性。しかし、歳はユウキと同じくらいに見える。マッサージという仕事上手などが荒れたりしやすいのであろうか。綺麗な格好をしおしゃれをさせれば目黒などに居そうな駅女のイメージである。細めの痩せた体系の為、ユウキの思うマッサージをしてくれる人のイメージとはやや外れているのは異世界だからであろうか。

 足を怪我したりしてマッサージを受けたりした事のあるユウキのイメージでは体格のいい、それこそ先程のブラッドのような男の先生だったり、女性でも力がありそうな見た目の方だったりが整体師やマッサージ師のイメージとなっているのだが。

 「すいません、私の知り合いの猫が…普段こんな事する子じゃないんですけど。」

 そういうとフレミアをどうぞっといい渡される。

 人形の振りを必死でしているフレミアは猫に食べられるのではないかと思っていたのだろう顔が真っ青になっていたのだがユウキの手に渡った瞬間、泣きそうな表情に崩れかけ慌ててユウキはフレミアを定位置へとしまい込む。

 「そんなに大切な物だったんですね、そのお人形さん…ごめんなさい。そんな大事なお人形さんを。」

 「そ、そうですね。大事な人形だったものですから。」

 「私はミミルと言います。何かお詫びが出来ればいいのですが…どこかほつれてるといけません。私に治せる所がありましたら糸で縫い直しましょうか?」

 「そんな!いいですって。こうして無事に返ってきたんですから!」

 ポケットの中でゴソゴソと動いているのを感じる。多分全力で頷いているのであろう。普段人の事をチクチクと爪楊枝で指しているフレミアだが流石に自分が針で刺される立場となるのは嫌らしい。サイズがサイズなので人形と間違い一思いに突き刺せば大事件になるだろう。

 「…ところで。」

 ユウキは裏路地にある扉の向こうがこんなにも部屋が小分けされているとは思っておらず純粋な気持ちで聞いてみた。

 「ここってマッサージ店なのですか?」

 「そうです。この街の教会が運営しています…たぶん本営には報告されていない非公認のですが。」

 「そうなんですか?教会だからこうした事業で稼いじゃいけないって事ですが?」

 ユウキの質問に答えにくそうに頷く。

 「もともと癒しの力は限られた者しか使えないのです。それを街の人の為にと言ってこの街の司教様が…。素質のありそうなものはここで経験を積んでから修行をつけてやると言ってるのです。そしてここで修行した人しか修道女にしないのです。」

 まあ、そういう実地で訓練した方が身につくだろうという考えなのだろうか。

 「なるほどね、ここである程度稼いだお金が入門への条件ってわけね。」

 ユウキに聞こえるギリギリの声でフレミアが話す。

 「確かに街の本当に苦しんでいる人にも少しでも気分が軽くしてあげられるのであればと思っているのですが…。私には自信がなくまだ一人も出来てなくて。それに…。」

 思いつめたような表情の彼女を見てユウキは仕方がないかとため息をつく。

 「ユウキ、自信をつけさせてあげれば?お礼にとか言ってマッサージでもしてもらえばいいじゃない。人助けにもなって、旅の疲れも癒せてお得じゃない!」

 「確かに足が疲れているしね…。旅してきたのに誰かのせいで全力で街中走らされたしな。」

 「思い出したらムカついてきたわ!あの毛むくじゃらめ!」

 「あの…大丈夫ですか?お人形さんと話ているように見えたのですが。」

 しまった!と思うがその女性の目は慈愛に満ちていた。

 (違うんだ…違うんだ!)

 心の中で叫ぶが説明のしようがないのでお礼の件を話す。

 「なら、よかったらだけど少しでいいからマッサージしてくれない?」

 「え?」

 「もし、仕事だからちゃんとお金を払わないとって言うなら払うからさ。その時はその分サービスしてくれると嬉しいな。」  

 女性は急に顔を赤くすると身体をもじもじとくねらせる。そしてギュッと両手を握る仕草を見せると意を決したように頷く。

 「はい!やります!ここで進まなきゃ!孤児院の皆に申し訳ありませんから!お詫びですから代金は要りません。初めてで申し訳ございませんが私の練習台になってください!頑張って気持ちよく致しますから!」

 彼女はそういうとユウキの手を握ってくる。

 「わかった、いいよ。ならお礼って雰囲気じゃなくても本番前の練習台として付き合ってあげるよ。」

 「あ、ありがとうございます。でしたらよければ来た所から練習させてもらっていいですか?」

 そういうと深呼吸をし始める女性に頷くとユウキは入口に立ち中に入ってきたようにする。

 「い、いらっしゃいませ。本日はご予約はありますか?」

 ぎこちない笑顔ではあるのは緊張のせいだろうか。

 「いいえ、今日初めてここに来たのですがマッサージ受けられますか?」

 「は、はい。そうしましたら私が受け持たせて頂きますのでこのままこちらにお進みくらさい!」

 「こらーミミル!声が少し大きいよ!あと、先にお金を貰いなさいな!」

 近くの部屋から女性の声が届きクスクスという男女混じった笑いが響いて来てミミルは顔を真っ赤にさせて慌てて言い直す。

 「あうっ、ごめんなさい!」

 「私に謝ってどうするのさ!テーブルの上にメニューと時間の書いた紙があるだろ!それ見ていいな!」

 それを聞き、慌ててメニュー表を取り出すミミル。

 「あー…これ、ツボのマッサージとかしたら危ないわね。仮に押したら死ぬツボなんてあったら間違えて押すタイプよこの娘。」

 「やめろよ…不安になるだろう。お詫びと言う名の拷問にならない事を祈るよオレは。」

    ユウキはミミルがメニュー表を出すまで小声でフレミアと話す。

 「あ、えっと…コースはどうしますか?」

 ミミルがメニュー表を出してくるがユウキには何が書いてあるかさっぱりであった。

 「何があるのですか?」

 仕方がなく尋ねてみるとミミルが紙を除き込みながら説明をしてくれる。

 「えっとですね、3つのコースがありまして。一番安いのがこの銀貨5枚で30分のものです。腕と足だけですね。二番目のコースが銀貨7枚で60分です。背中と両手、両足とオイルを使ったマッサージです。三番目のコースは全身のマッサージで銀貨10枚です。時間は90分と長く特別なオイルのマッサージと悪を…毒素を放出する特別マッサージになっています。」

 毒素と言うとリンパのマッサージであろうか?太ももの付け根を押されると凄まじい痛みがあるんだよなとユウキは過去にやられたのを思い出し真ん中を言ってみようとする。

 「で、では三番目のコースですね。こ、こちらにどぞ!」

 初めから一番いいコースをしてくれようとしていたらしい。

 「…大丈夫?上のコース程、技術がいるんじゃないの。あの娘、両手両足を同時に出して歩いてるわよ。」

 フレミアがちょこんと顔を出し言ってくる。なんか…ごめん。と小さく付け足すのは止めて欲しい。何のフラグを立てる気だよ!とユウキは言いたくなったがぎこちない笑顔で精一杯部屋に手を伸ばし入るように促すミミルの頑張りに大人しく色々と諦める事にする。

 部屋の中は明かりが壁の角の高い位置に一カ所にしか存在しない

 「では、ここで全部脱いでタオルを腰に巻き終わったら声をかけてください。」

 『え?』

 ミミルの発した案内にフレミアとユウキは同時に硬直したのだった。
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