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第8話 間違っていることは分かるのに、何が間違っていると言えない。
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彼との結婚生活が始まった。
あの日、お昼を過ぎたころに起きだしたローカスは、自分がやらかしたことに気が付いて蒼くなった。
醜態をさらしたことを、何度も謝罪した。
アリシアはため息をつきながらも、許すことにした。
「誰にでも、失敗や間違いはあります。
けれど・・・二度とこんな思いを、私にさせないでください」
ローカスは、お酒もほどほどにすると約束してくれた。
王都での生活は貴族といえど、楽なものではなかった。
強いて言うなら、やや裕福な平民といった生活だった。
宮廷勤めでもらう給金は、アリシアが思ったよりも少なく、彼から渡される生活費ではいろいろ切り詰めなくてはならなかった。
男同士の付き合いも多く、休みになると狩猟仲間に誘われてハンティングに出かけた。
そういった事柄は、すべて必要経費だと言われ、生活費から差し引かれた。
お土産のウサギの肉や鳥の肉で、料理をすることもできるようになった。
裕福な生活ではないが、頭ごなしに命令する人がいないだけで彼女は笑うことができた。
しかし、その幸せも長くは続かなかった。
「え?」
「だから、新しいハンティング用ジャケットを注文したんだ。前のは少し流行おくれだからね。
渡す生活費を少し減らすことになるよ」
「それでは・・・生活できません」
「何を言ってるんだい?足りないなら、君がなんとかしないと。
家のことはすべて任せているのだから。
大体、これは社交に必要な経費だよ。
本当はもう少し高いものが欲しかったのだけど、君に迷惑をかけないために僕もガマンしているんだよ」
ローカスは、悲しそうにアリシアを見た。
彼女は混乱した。
「そうだ、君も仕事をすればいいんだよ。
稼いだお金は自由にしていいからね」
名案だとばかりに、ローカスが微笑む。
「自由にって?」
「君も、君が稼いだお金を好きに使えばいい。そうすれば、悩むこともなくなるじゃないか。」
ローカスの言葉が、異邦人の話す言葉のようでアリシアは何を言えばいいのかわからなくなった。
(生活費が足りないのに、自由に使えるお金なんてないじゃない・・・)
数日後、ローカスはアリシアに仕事を紹介した。
「僕の知人つながりで、娘さんの家庭教師を探している人がいるんだ。
君が以前に子どもたちの勉強を教えていたことを話したら、是非にと言ってくださったよ。
通いで良いらしいから、君の家事にも影響はないと思うよ」
ローカスはにこにこと笑いながら告げた。
「ちょっと待ってください・・・そんな急に・・・」
「え?だって他に何か良い方法はあるのかい?
ジャケットの支払いもしなくちゃだし、このままだと生活もできなくなるじゃないか。
そんなことになったら僕は宮廷で笑い者になってしまうし、肩身も狭くなる。
それに・・・言いたくないけど、君がもう少しやりくり上手だったら、こんなことにならないんじゃないのかな?」
(そう・・・なのかな・・・?)
精一杯やっているつもりでも、足りなかったのだろうか?
母マリアのように、苦手でも縫物などの仕事で家計を助けるべきだったのだろうか?
「そういうわけだから、これから頑張ってね。
僕もできるだけ節約を協力するよ」
ローカスは自分の部屋へと引っ込む。
残されたアリシアは、何が正しいのかわからず椅子にへたり込んでしまった。
あの日、お昼を過ぎたころに起きだしたローカスは、自分がやらかしたことに気が付いて蒼くなった。
醜態をさらしたことを、何度も謝罪した。
アリシアはため息をつきながらも、許すことにした。
「誰にでも、失敗や間違いはあります。
けれど・・・二度とこんな思いを、私にさせないでください」
ローカスは、お酒もほどほどにすると約束してくれた。
王都での生活は貴族といえど、楽なものではなかった。
強いて言うなら、やや裕福な平民といった生活だった。
宮廷勤めでもらう給金は、アリシアが思ったよりも少なく、彼から渡される生活費ではいろいろ切り詰めなくてはならなかった。
男同士の付き合いも多く、休みになると狩猟仲間に誘われてハンティングに出かけた。
そういった事柄は、すべて必要経費だと言われ、生活費から差し引かれた。
お土産のウサギの肉や鳥の肉で、料理をすることもできるようになった。
裕福な生活ではないが、頭ごなしに命令する人がいないだけで彼女は笑うことができた。
しかし、その幸せも長くは続かなかった。
「え?」
「だから、新しいハンティング用ジャケットを注文したんだ。前のは少し流行おくれだからね。
渡す生活費を少し減らすことになるよ」
「それでは・・・生活できません」
「何を言ってるんだい?足りないなら、君がなんとかしないと。
家のことはすべて任せているのだから。
大体、これは社交に必要な経費だよ。
本当はもう少し高いものが欲しかったのだけど、君に迷惑をかけないために僕もガマンしているんだよ」
ローカスは、悲しそうにアリシアを見た。
彼女は混乱した。
「そうだ、君も仕事をすればいいんだよ。
稼いだお金は自由にしていいからね」
名案だとばかりに、ローカスが微笑む。
「自由にって?」
「君も、君が稼いだお金を好きに使えばいい。そうすれば、悩むこともなくなるじゃないか。」
ローカスの言葉が、異邦人の話す言葉のようでアリシアは何を言えばいいのかわからなくなった。
(生活費が足りないのに、自由に使えるお金なんてないじゃない・・・)
数日後、ローカスはアリシアに仕事を紹介した。
「僕の知人つながりで、娘さんの家庭教師を探している人がいるんだ。
君が以前に子どもたちの勉強を教えていたことを話したら、是非にと言ってくださったよ。
通いで良いらしいから、君の家事にも影響はないと思うよ」
ローカスはにこにこと笑いながら告げた。
「ちょっと待ってください・・・そんな急に・・・」
「え?だって他に何か良い方法はあるのかい?
ジャケットの支払いもしなくちゃだし、このままだと生活もできなくなるじゃないか。
そんなことになったら僕は宮廷で笑い者になってしまうし、肩身も狭くなる。
それに・・・言いたくないけど、君がもう少しやりくり上手だったら、こんなことにならないんじゃないのかな?」
(そう・・・なのかな・・・?)
精一杯やっているつもりでも、足りなかったのだろうか?
母マリアのように、苦手でも縫物などの仕事で家計を助けるべきだったのだろうか?
「そういうわけだから、これから頑張ってね。
僕もできるだけ節約を協力するよ」
ローカスは自分の部屋へと引っ込む。
残されたアリシアは、何が正しいのかわからず椅子にへたり込んでしまった。
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