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第16話 人柱はもう御免です。放った言葉はなかったことにはできません。
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部屋を出ると、足早にマリアが近づいてきた。
「アリシア、またお父様を怒らせたの?」
彼女は、迷惑そうに眉間に皺を寄せる。
「どうして、あなたは大人になれないの?
だから、離婚されたんじゃなくて?
母さまが一緒に謝ってあげますから、お父様のところへ行きましょう。」
「私は、お父様に謝るようなことはしてません。」
アリシアは、きっぱりと言った。
「なんですって・・?」
「私は、謝るようなことは何一つしてません。
これからは、自分で人生のお相手を決めると言っただけです。」
「そんなこと・・・世間知らずのあなたにできるわけがないでしょう?」
アリシアは首を傾げた。
「世間知らずだったから・・・
この家の薦めた婚姻で、私は不幸になったのではないですか?」
「アリシア・・・あなた、今回の離婚が私たちのせいだっていうの?」
「そうはいいませんが、あなたたちの言う通りにして、幸せになれなかったのは事実です」
マリアの瞳が、驚きで見開いた。
真正面から反論してくるとは思わなかったのだ。
何時だって、アリシアが折れて自分たちの言い分が通る。
最後には謝罪するアリシアを、私たちが寛大な心で許す。
それがこの家の常識であり、当然の理だったはずだ。
ここにいるアリシアは、自分たちが知っているアリシアではなかった。
「お父様には、二度と敷居をまたぐなと言われました。
そのお言葉通りにしたいと思います」
「ま、待ちなさい。お父様も、本気じゃないわ。
いつも、あなたのことを心配なさっているのよ。
そう・・ちょっと感情的に言い過ぎただけだわ」
動揺し取り繕ろうとする彼女を、アリシアは冷やかに見つめ返した。
「どんな言葉でも、言って良いことと悪いことがあると思いませんか?
言った本人にとっては大した意味でもないかもしませんが、言われた方はどうでしょうか?
”傷物”と言われ、”女としての価値がない”と言う人に、"本気じゃなかったのだから許せ”と言われて簡単に許せると思うのですか?」
アリシアの言葉からは、怒りも悲しみも読み取れなかった。
ただ事実を述べただけ。
それだけに、マリアは言い返すことができなかった。
彼女も女だ。
それらの言葉が、どれだけ女の心を抉るか知っている。
それでも、アリシアが間違っているとマリアは思っていた。
私たちを不快にさせ、一家の主であるオリスナを怒らせた。
原因であるアリシアは、謝罪して許しを請わなければならない。
それが、この家の理だから。
この家の平穏をかき乱すアリシアが間違っているはずなのに・・・
マリアは、アリシアに何を言ったらいいかわからなかった。
「今までお世話になりました。お体にお気をつけて」
そう言い、玄関を出ていこうとした。
「お姉さま!一体どうなさったの?」
エミリアも部屋から出てきた。
「もうこの家に戻らないわ。あなたも元気でね」
エミリアが目を丸くする。
「どうして?お姉さま?
この家にもどってくるのでしょ?
お父様とお母さまも楽しみに待っていたのに。
どうしてそんなひどいことをおっしゃるの?」
エミリアが、瞳を潤ませる。
「どうして、私がこの家に戻ってくると思うの?
今まで家族の中に、私は入ってなかったじゃない」
アリシアが、不思議そうに首を傾げた。
「そんな・・・お姉さまも立派な家族よ。
お姉さまがいなかったら、みんな悲しむわ」
「・・・エミリア」
「はい?」
「私がこの家に戻ってきたら、私だけがずっと悲しいままだわ」
エミリアが、言葉につまった。
「あなたも気が付いていたのでしょう?
私がいれば、誰もお父様の標的にならないし、私以外は平和な家族でいられるものね」
エミリアが視線をそらし、アリシアは朗らかに笑った。
「私は、あなたたちのために我慢することを辞めたの。
私がいなくなった後の標的はお母さまかしら?
お母さまのストレスはどこへ向かうのかしら?」
最後は独り言のようにつぶやく。
「エミリア、さようなら」
エミリアは固まったまま、アリシアを引き止めることができなかった。
「アリシア、またお父様を怒らせたの?」
彼女は、迷惑そうに眉間に皺を寄せる。
「どうして、あなたは大人になれないの?
だから、離婚されたんじゃなくて?
母さまが一緒に謝ってあげますから、お父様のところへ行きましょう。」
「私は、お父様に謝るようなことはしてません。」
アリシアは、きっぱりと言った。
「なんですって・・?」
「私は、謝るようなことは何一つしてません。
これからは、自分で人生のお相手を決めると言っただけです。」
「そんなこと・・・世間知らずのあなたにできるわけがないでしょう?」
アリシアは首を傾げた。
「世間知らずだったから・・・
この家の薦めた婚姻で、私は不幸になったのではないですか?」
「アリシア・・・あなた、今回の離婚が私たちのせいだっていうの?」
「そうはいいませんが、あなたたちの言う通りにして、幸せになれなかったのは事実です」
マリアの瞳が、驚きで見開いた。
真正面から反論してくるとは思わなかったのだ。
何時だって、アリシアが折れて自分たちの言い分が通る。
最後には謝罪するアリシアを、私たちが寛大な心で許す。
それがこの家の常識であり、当然の理だったはずだ。
ここにいるアリシアは、自分たちが知っているアリシアではなかった。
「お父様には、二度と敷居をまたぐなと言われました。
そのお言葉通りにしたいと思います」
「ま、待ちなさい。お父様も、本気じゃないわ。
いつも、あなたのことを心配なさっているのよ。
そう・・ちょっと感情的に言い過ぎただけだわ」
動揺し取り繕ろうとする彼女を、アリシアは冷やかに見つめ返した。
「どんな言葉でも、言って良いことと悪いことがあると思いませんか?
言った本人にとっては大した意味でもないかもしませんが、言われた方はどうでしょうか?
”傷物”と言われ、”女としての価値がない”と言う人に、"本気じゃなかったのだから許せ”と言われて簡単に許せると思うのですか?」
アリシアの言葉からは、怒りも悲しみも読み取れなかった。
ただ事実を述べただけ。
それだけに、マリアは言い返すことができなかった。
彼女も女だ。
それらの言葉が、どれだけ女の心を抉るか知っている。
それでも、アリシアが間違っているとマリアは思っていた。
私たちを不快にさせ、一家の主であるオリスナを怒らせた。
原因であるアリシアは、謝罪して許しを請わなければならない。
それが、この家の理だから。
この家の平穏をかき乱すアリシアが間違っているはずなのに・・・
マリアは、アリシアに何を言ったらいいかわからなかった。
「今までお世話になりました。お体にお気をつけて」
そう言い、玄関を出ていこうとした。
「お姉さま!一体どうなさったの?」
エミリアも部屋から出てきた。
「もうこの家に戻らないわ。あなたも元気でね」
エミリアが目を丸くする。
「どうして?お姉さま?
この家にもどってくるのでしょ?
お父様とお母さまも楽しみに待っていたのに。
どうしてそんなひどいことをおっしゃるの?」
エミリアが、瞳を潤ませる。
「どうして、私がこの家に戻ってくると思うの?
今まで家族の中に、私は入ってなかったじゃない」
アリシアが、不思議そうに首を傾げた。
「そんな・・・お姉さまも立派な家族よ。
お姉さまがいなかったら、みんな悲しむわ」
「・・・エミリア」
「はい?」
「私がこの家に戻ってきたら、私だけがずっと悲しいままだわ」
エミリアが、言葉につまった。
「あなたも気が付いていたのでしょう?
私がいれば、誰もお父様の標的にならないし、私以外は平和な家族でいられるものね」
エミリアが視線をそらし、アリシアは朗らかに笑った。
「私は、あなたたちのために我慢することを辞めたの。
私がいなくなった後の標的はお母さまかしら?
お母さまのストレスはどこへ向かうのかしら?」
最後は独り言のようにつぶやく。
「エミリア、さようなら」
エミリアは固まったまま、アリシアを引き止めることができなかった。
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