恋人に浮気された腹いせに男娼を買ったら人生狂った。(完全版)

まりあ

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最終章(クロノス視点)

●おまけ⑪月下の夜想曲

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●おまけ⑪月下の夜想曲

※オリムそっくりのダッチワイフをオリムが消した日の夜(オリム人形、クロノス、王子、オリム)




舞台の上で。
月の白い光に照らされて、
ルキウス王子が、ひとり静かに立っている。

ルキウス(独白)
「月が明るい夜ほど…
心の影は長くなるものだな」

その時。
ぎぃぃぃ……と扉の開く音。

クロノスに贈ったはずの『オリム型ダッチワイフ』が、ルキウスの元に戻って来た。


ルキウス
「お前たちどうしたんだ?」
「まさかクロノスに捨てられた…のか?」

オリム人形A(22歳青年型)
「いいえ、クロノス様は、オレたちのこと、本気で可愛がってくださいました」

オリム人形B(18歳少年型)
「でも、オリム様に見つかって…」

オリム人形C(25歳成人型)
「“全部、消せ”とお命じになった」

舞台暗転、背後に赤い光。
炎の中、泣くクロノスの影が浮かぶ。

オリム人形A
「最後に見えたのは…クロノス様の涙でした」

ルキウス
「オリムめ…」
「泣かせやがって」



軽やかに音楽が流れ、
3体の人形が誇らしげに歌い出す。

オリム人形B
「でも、幸せでした」

オリム人形C
「クロノス様が本物に、触れられるようになったから」

オリム人形A
「オレたちは、代用品」

オリム人形B
「通称オリム練習用」

ルキウス
「言い方、生々しいな…」

オリム人形C
「けれど、“愛の予習”としては上出来だったと、思いたい」

ルキウス(パチパチパチと拍手する)
「…君たちは、美しい。罪ではなく、哀れでもなく、愛の副産物だ」

ルキウス(微笑)
「もし4体目を作るなら、もっと笑うように造ろう」

オリムたち
「もう充分です、殿下。クロノス様は、笑えるようになりました」




クロノス(声のみ)
「…殿下どうかしましたか?」

ぎぃぃぃ……(扉が開く音)

クロノス入場

クロノス
「あっ!あなたたちはっ!!僕のオリムさんたち…?」

ルキウス
「そう。思い出話をしてたんだ。お前の、かつての支えたちと」

クロノス
「……」

オリムたち(あきらかに嬉しそうな顔)
「おかえりなさい。クロノス様」

クロノス(目を伏せる)
「僕は…帰らない、帰る場所は、もう別にある」

ルキウス(静かに頷く)
「それならば、これで本当にお別れだな」


泣きそうなクロノスにオリムたちが微笑む。

オリム人形A
「クロノス様、悲しまないで」
「幸せでいてください」

オリム人形C
「オレたちは、あなたの孤独を抱きしめるために
生まれたのですから」

オリム人形B
「そして、消えるために存在したのです」

オリムたち
「今まで大切にしてくれてありがとう
あなたに会えて幸せでした」

オリムたちが光に包まれ、消える。



クロノス(静かに涙を落とす)
「ありがとう…僕の愚かさまで抱きしめてくれて」

暗転。
月光のもと、クロノスだけが立っている。
カーテンがゆっくり閉じる。



※※※

……オリムさん!オリムさん!

「オリムさん!」

「はっ!」

「うなされてたけど…どうしました?」

夢の中の涙の余韻を引きずったまま、オリムはクロノスの腕の中で跳ね起きた。

「怖い夢でも見たの?」
クロノスが心配そうにをオリムを見つめる。

(…怖くは、ない。お前のせいで、胸がざわつく夢を見ただけだ)

と言おうとした瞬間。

クロノスがそっと抱き寄せる。
まるで、壊れそうなものを扱うように。

「最近ずっとお仕事忙しかったですもんね。週末はゆっくり休みましょう。今日はずっとこのまま抱きしめてますね。」

「…クロノス」

「?」

「お前って、ほんと…可愛いな」

「突然どうしました?」

「いや、思っただけだ」

沈黙が落ちた。

「…お前の宝物、消してごめんな」

クロノスは息をのんだ。
「っ。…いつかは手放さなきゃならないこと、本当はわかっていました。
つらい役回りさせてごめんね。
…僕の一番大切なものは、オリムさんですから」

そこには現実のぬくもりがあった。
オリムはクロノスの背中に腕を回し、そのぬくもりを抱きしめた。

(うなされる誰かを抱きしめた夜は数えきれないほどある。
だけど…
オレがこんな風に甘えられるのは、クロノスだけなんだ)

オリムが上目遣いにクロノスを見た。

「…ん。オレ、お前を絶対幸せにするから」

唐突なオリムの告白に、クロノスが驚いたように長いまつげを揺らして、微笑んだ。

カーテンの隙間からこぼれる月明かりに、2人の影が重なった。






穏やかに寝息をたてるオリムをクロノスが見つめる。
月明かりに照らされているのは、幼い頃から恋い焦がれていた天使だ。

「あの寝言……“愚かさまで抱きしめてくれて”って……
オリムさん、どんな夢を見てたんだろう」

クロノスはひとり首を傾げ、滑らかな頬にそっと触れ、微笑んだ。

「でも、悪夢じゃなくてよかった。
…大丈夫。ずっとあなたを見てますから」
そっと囁き、開いていたカーテンの隙間を閉じる。
(叶うなら、夢の中でも……あなたに会えますように)
静かな夜、二人を包む月光が、夜想曲のように流れていた。
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