恋人に浮気された腹いせに男娼を買ったら人生狂った。(完全版)

まりあ

文字の大きさ
93 / 95
最終章(クロノス視点)

●おまけ⑪月下の夜想曲

しおりを挟む
●おまけ⑪月下の夜想曲

※オリムそっくりのダッチワイフをオリムが消した日の夜(オリム人形、クロノス、王子、オリム)




舞台の上で。
月の白い光に照らされて、
ルキウス王子が、ひとり静かに立っている。

ルキウス(独白)
「月が明るい夜ほど…
心の影は長くなるものだな」

その時。
ぎぃぃぃ……と扉の開く音。

クロノスに贈ったはずの『オリム型ダッチワイフ』が、ルキウスの元に戻って来た。


ルキウス
「お前たちどうしたんだ?」
「まさかクロノスに捨てられた…のか?」

オリム人形A(22歳青年型)
「いいえ、クロノス様は、オレたちのこと、本気で可愛がってくださいました」

オリム人形B(18歳少年型)
「でも、オリム様に見つかって…」

オリム人形C(25歳成人型)
「“全部、消せ”とお命じになった」

舞台暗転、背後に赤い光。
炎の中、泣くクロノスの影が浮かぶ。

オリム人形A
「最後に見えたのは…クロノス様の涙でした」

ルキウス
「オリムめ…」
「泣かせやがって」



軽やかに音楽が流れ、
3体の人形が誇らしげに歌い出す。

オリム人形B
「でも、幸せでした」

オリム人形C
「クロノス様が本物に、触れられるようになったから」

オリム人形A
「オレたちは、代用品」

オリム人形B
「通称オリム練習用」

ルキウス
「言い方、生々しいな…」

オリム人形C
「けれど、“愛の予習”としては上出来だったと、思いたい」

ルキウス(パチパチパチと拍手する)
「…君たちは、美しい。罪ではなく、哀れでもなく、愛の副産物だ」

ルキウス(微笑)
「もし4体目を作るなら、もっと笑うように造ろう」

オリムたち
「もう充分です、殿下。クロノス様は、笑えるようになりました」




クロノス(声のみ)
「…殿下どうかしましたか?」

ぎぃぃぃ……(扉が開く音)

クロノス入場

クロノス
「あっ!あなたたちはっ!!僕のオリムさんたち…?」

ルキウス
「そう。思い出話をしてたんだ。お前の、かつての支えたちと」

クロノス
「……」

オリムたち(あきらかに嬉しそうな顔)
「おかえりなさい。クロノス様」

クロノス(目を伏せる)
「僕は…帰らない、帰る場所は、もう別にある」

ルキウス(静かに頷く)
「それならば、これで本当にお別れだな」


泣きそうなクロノスにオリムたちが微笑む。

オリム人形A
「クロノス様、悲しまないで」
「幸せでいてください」

オリム人形C
「オレたちは、あなたの孤独を抱きしめるために
生まれたのですから」

オリム人形B
「そして、消えるために存在したのです」

オリムたち
「今まで大切にしてくれてありがとう
あなたに会えて幸せでした」

オリムたちが光に包まれ、消える。



クロノス(静かに涙を落とす)
「ありがとう…僕の愚かさまで抱きしめてくれて」

暗転。
月光のもと、クロノスだけが立っている。
カーテンがゆっくり閉じる。



※※※

……オリムさん!オリムさん!

「オリムさん!」

「はっ!」

「うなされてたけど…どうしました?」

夢の中の涙の余韻を引きずったまま、オリムはクロノスの腕の中で跳ね起きた。

「怖い夢でも見たの?」
クロノスが心配そうにをオリムを見つめる。

(…怖くは、ない。お前のせいで、胸がざわつく夢を見ただけだ)

と言おうとした瞬間。

クロノスがそっと抱き寄せる。
まるで、壊れそうなものを扱うように。

「最近ずっとお仕事忙しかったですもんね。週末はゆっくり休みましょう。今日はずっとこのまま抱きしめてますね。」

「…クロノス」

「?」

「お前って、ほんと…可愛いな」

「突然どうしました?」

「いや、思っただけだ」

沈黙が落ちた。

「…お前の宝物、消してごめんな」

クロノスは息をのんだ。
「っ。…いつかは手放さなきゃならないこと、本当はわかっていました。
つらい役回りさせてごめんね。
…僕の一番大切なものは、オリムさんですから」

そこには現実のぬくもりがあった。
オリムはクロノスの背中に腕を回し、そのぬくもりを抱きしめた。

(うなされる誰かを抱きしめた夜は数えきれないほどある。
だけど…
オレがこんな風に甘えられるのは、クロノスだけなんだ)

オリムが上目遣いにクロノスを見た。

「…ん。オレ、お前を絶対幸せにするから」

唐突なオリムの告白に、クロノスが驚いたように長いまつげを揺らして、微笑んだ。

カーテンの隙間からこぼれる月明かりに、2人の影が重なった。






穏やかに寝息をたてるオリムをクロノスが見つめる。
月明かりに照らされているのは、幼い頃から恋い焦がれていた天使だ。

「あの寝言……“愚かさまで抱きしめてくれて”って……
オリムさん、どんな夢を見てたんだろう」

クロノスはひとり首を傾げ、滑らかな頬にそっと触れ、微笑んだ。

「でも、悪夢じゃなくてよかった。
…大丈夫。ずっとあなたを見てますから」
そっと囁き、開いていたカーテンの隙間を閉じる。
(叶うなら、夢の中でも……あなたに会えますように)
静かな夜、二人を包む月光が、夜想曲のように流れていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。 かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。 後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。 群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って…… 冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。 表紙は友人絵師kouma.作です♪

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...