魔将閣下ととらわれの料理番

悠月彩香

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1巻

1-2

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   ***


(いったい何のまちがい? ううん、きっと夢、夢に違いない。そうだよ、そんなことがあるわけない)

 冷たい床の上にぺたりと座らされ、後ろ手にしばられた自分の境遇きょうぐうかえりみて、ルゥカはぶるぶると頭を振った。
 あのあと、魔獣まじゅうはルゥカを引き裂いたり喰い殺したりはしなかったが、代わりに鋭いきばのある口に彼女の胴体どうたいくわえ、ここへ連れてきたのである。
 その間はずっと、ギザギザした歯にいつみ潰されるのかという恐怖に震え上がっていた。そして気づいたときには、こんなことになっていたのだ。

魔獣まじゅう誘拐ゆうかいされたなんて、いやだ、なんて悪夢。早く朝にならないかな」

 さっきから心臓がドキドキしていて、呼吸も乱れて落ち着かない。平常心へいじょうしんを保つために明るく言ってみたのだが、自分の上にりかかる冷たい視線に耐えきれず、とうとう口をつぐんでうつむいた。

「顔を上げろ、人間」
「は、はいっ」

 命令し慣れた威圧的いあつてきな声に、ルゥカは弾かれたように顔を上げた。
 薄暗く、天井の高くて広い部屋には、立派な玉座。そこには長い足を組んだ青年がしていて、ルゥカを金色の目で見下ろしている。震えがくるほどの冷たい視線と彼の異様いような外見に、寒くもないのに鳥肌が立ち、ルゥカは唇をみしめた。
 この青年、外見は人間そのものだが、明らかに人間ではない。
 精悍せいかんとさえ言える凛々りりしい顔立ちと褐色かっしょくの肌には、白いブラウスがとてもよく似合っていて、こんな状況でなければ見とれていたかもしれない。
 だが、長く波打つ黒髪の頭からは、ヒツジのような立派なつのが生え、顔の横辺りでくるんとを描いているのである。
 王冠おうかんがわりにつののかぶりものをしている……というわけではないだろう。この青年の放つ威圧感と表情から、そんなおちゃめな人物とはとても思えなかった。

(てことは、そう、きっとヒツジの王さま)

 恐怖に打ち勝つために、ルゥカはあえて牧歌的ぼっかてきに考えることにした。
 視線をずらすと、玉座の左右に、すらりと背の高い青年たちが控えるように立っている。
 左側の青年はつのもなく人間と変わらぬ容姿で、短い髪は黄金色だ。しなやかな肢体したい濃紺のうこんの服をまとう姿は武官を思わせるが、剣はたずさえていない。狡猾こうかつそうな琥珀こはくの瞳が、ルゥカを睥睨へいげいしていた。

(何か、神経質そう……)

 そして右側の青年は、室内を照らすランプの炎を受けてきらきらと輝く、長い銀色の髪の持ち主だ。こちらもつのはなく、姿はいたって普通の人間である。瞳は金というよりも月の色に近く、獣の瞳を連想させた。
 だが、いたって普通というには、眉目びもくはあまりに秀麗しゅうれいで、引き締まった頬は凛々りりしさを際立たせている。無表情のままルゥカを見下ろしていて、まったく温度を感じさせない立ち姿にもかかわらず、ルゥカの視線はくぎづけになってしまった。

(……ちょっと、ステキ)

 完全に場違いだが、このみのタイプだったのだ。
 そんなルゥカの内心を一蹴いっしゅうするよう、玉座の青年が足を組み替えて言った。

「ベレゲボルブルップ」
(え? 何語? 言葉通じない!?)

 ヒツジの王さまが何を言っているのか聞き取れず、ルゥカは見知らぬ土地で言葉もわからぬまま、無残に処刑しょけいされてしまうのかと絶望ぜつぼうした。何しろ彼女は、完全に囚人の扱いである。

(あれ、でもさっき、言葉通じてたような……?)

 そのとき、ルゥカの背後で何かが動く気配がした。はっと振り向くと、ルゥカをここへさらってきたあの恐ろしい巨大な魔獣まじゅうが、ヒツジ王のもとへのそのそと歩いて行く。そして信じがたいことに、じゃれつくように彼の手に頭をこすりつけたのだ。

「……これがエヴァーロスの王女なのか? エヴァーロスの王女は類稀たぐいまれな美しさを持つ娘だと聞いていたが、こやつは貧相ひんそうな小娘ではないか。しょせん人間の審美眼しんびがんなどアテになるものではない」

 はっきりと言葉は通じた。ルゥカについてざまに言われたが、事実なので反論の余地はない。エヴァーロスの王女は本当に美しい方で、自分など比較の対象にもならないことは百も承知だ。ルゥカは運よく城の仕事にありつけただけの、寒村かんそん出身の一般庶民である。いったいどこでどんな誤解ごかいしょうじたのやら、ルゥカは王女と間違えてさらわれてきたらしい。

「あの、私は……」
「陛下。恐れながら、この人間は王女ではありません」

 人違いをうったえて、何とか帰してもらおうと考えたルゥカの言葉をさえぎるように、銀髪の青年が指摘してきした。

「王女ではない?」
「この娘の粗末そまつな服装といい、汚れた顔といい、せいぜい城で働いていた下女でしょう」

 彼の言うとおり、ルゥカのお仕着せにも前掛けにも、ソースや油の飛び散りで染みができているし、頬には小麦粉がこびりついている。
 それを聞いて、金髪の神経質そうな青年があざけるように笑った。

「さすがアークレヴィオンきょうは、人間のことにお詳しい」

 だが、アークレヴィオンと呼ばれた銀髪の青年は、彼の言葉には完全に無反応だった。無視されたていの金髪の青年は、小さく舌打ちをする。どうやらこのふたりは仲が悪いようだ。
 一方、陛下と呼ばれたヒツジの王さまは、左右に控える偉丈夫いじょうふたちの静かなる争いなど意にも介さず、じろりとルゥカを一瞥いちべつしてから、手にみついてじゃれつく魔獣まじゅうに視線を移した。

(手、ちぎれないのかしら……)

 ルゥカの心配をよそに、王さまの手は無事なようだ。

「ベレゲボルブルップよ、我は人間の『王女』を連れてこいと言ったはずだ」

 ヒツジ王の発した謎の言語は、この魔獣まじゅうの名前だったのだ。人違いを指摘してきされたベレゲなんたらは、しおらしく耳を下げ、「グルル……」と言い訳するように力なくうなった。

「何? 城にいて、手足が二本ずつで目もふたつ、長いスカートを穿いていた? そうだろう、そうだろうともベレゲボルブルップ。人間の女はたいていそういう姿をしている」
「がぅ……」
「そして、うまそうな匂いがした? 食い意地の張ったヤツめ。それに、確か王女は金髪と聞いていたが、この娘は赤毛だ」

 それを聞いて、今度は金髪の青年のほうが首を横に振った。

「ガラード陛下。恐れながら、魔獣まじゅうは色を見分けることができません」

 臣下から容赦ようしゃない指摘してきを受けたヒツジ王は不愉快ふゆかいそうに唇を引き結んだ。

「我ら魔族が人間と争いをはじめて幾星霜いくせいそう彼奴きゃつらめ、我ら魔界の者を悪と決めつけ、とくに『冒険者』などと名乗る無法者むほうものどもは、魔獣まじゅうたちをやれ討伐とうばつだ、やれ成敗せいばいだと容赦ようしゃなくぶった斬ってくれた。我らの被害は甚大じんだいで、これ以上無視することはできん。人間の王女を人質ひとじちに取り、人間どもに無条件降伏を迫る作戦だったというのに、まさかの人違いとは!」

 ルゥカは淡青色ペールブルーの瞳をまん丸に見開いて、男たちを見上げた。
 エヴァーロス王国をはじめとする、人間たちの暮らす世界を『人間界』と呼び、魔人や魔獣まじゅうからなる魔族たちの住まう世界を『魔界』と呼んで区別している。
 これまでに魔族に惨殺ざんさつされた人間は数知れず、人間たちは己の版図はんとを守るために『魔界』の住人と永遠とも思える戦いを繰り広げているのだ。
 そしてこの場にいる彼らは、人間と敵対している『魔界を治める王とその配下』だった。どうやら、人間界と魔界の騒乱そうらんに、一庶民たるルゥカが不幸にも人違いで巻き込まれてしまったらしい。
 今さらながらとんでもない大事件に巻き込まれたのだと痛感し、身体の震えを止めることができなかった。

「ヴァルシュ、再度人間界に魔獣まじゅう派遣はけんするのだ。今度こそ王女をひっらえて来い!」

 ヒツジ王は命令したが、ヴァルシュと呼ばれた金髪の青年は首を横に振った。

「お怒りはごもっともながら、魔界にいちばん近いエヴァーロスでは、城に魔獣まじゅうが現れたことにより王国の兵士たちはもちろん、冒険者たちや傭兵ようへいまでかき集め、最大級の警戒網けいかいもういております。魔獣まじゅうを一頭や二頭送り込んだところで、討伐とうばつされるが関の山」

 今度は追い打ちをかけるように、銀髪の青年がたたみかけた。

「今から魔獣まじゅうを送り込み、王女をさらうのであれば、魔界の全勢力をもちいて掃討そうとうする覚悟が必要です。そして、それには大がかりな準備が必要かと。とくに魔獣まじゅうどもは人間と違い、結束することがありません。個々の能力は我らが上でも、全面戦争となれば、魔族も決して有利とは言えますまい」

 仲の悪そうな金髪と銀髪の臣下たちだが、再派遣を反対する意見は一致していた。
 魔族は何でも力でねじ伏せるものだと思っていたので、意外に理性的な彼らの会話を聞いていると、話せばわかってくれるかもしれないという、わずかな希望がわいた。

「うぬぬ……仕切り直しだ。ほとぼりが冷めるまで人間界に手出しはするな」
「あ、あの、人違いだったようですので、私を……」

 穏便に事をすませてもらうべく、ルゥカが控えめに申し出ると、ヒツジ王は金色の瞳で彼女を見下ろした。

「アークレヴィオン、この小娘の後始末をしておけ。まったく、とんだ時間の無駄むだであったわ」

 ルゥカの最後の望みをぶった切り、ヒツジ王は玉座から立ち上がってマントをひるがえすと、金髪の青年と、しゅんとうなだれる魔獣まじゅうを従えて広間から退出してしまった。
 アークレヴィオンと呼ばれた銀髪の青年とルゥカだけが取り残された広間はシンとして、足元から冷たい空気に包まれていくようだ。
 ルゥカは怖々と青年を見上げる。彼は相変わらず無表情のままだったが、ルゥカとはじめて目を合わせた。

「後始末。ベレゲボルブルップに喰わせてしまえば早かったようだが」

 そんな彼の独白どくはくを耳にして、ルゥカは真っ青になった。ちょっとでも彼を「ステキ」だなんて思った自分はなんておろかなんだろう。いくら容姿がよくても、彼は人間の敵である魔族だ。この魔人は、ルゥカを殺すよう命じられたのだから。
 魔人は強い魔力を秘めた者が多いと聞く。この無表情の彼も、その魔力でルゥカを一瞬で消すことができるに違いない。
 銀髪の魔人が足音を立ててルゥカに近づいてくる。そして、彼女の腕をしばっている縄をつかんで強引に立ち上がらせると、粉のついた顔をまじまじとのぞき込んだ。

「おまえは――」
「……!」

 あんなに恐ろしい魔獣まじゅうに連れ去られたときも、気を失わなかった。でも今、静かな恐怖を植えつけられ、ルゥカの意識はとうとう限界げんかいを迎えた。突然、糸が切れたようにルゥカの身体から力が抜けて崩れ落ちる。
 青年がとっさにその華奢きゃしゃな身体を腕にかかえると、ふわりと彼女の髪から甘い香りがただよってきた。その匂いを嗅覚きゅうかくがとらえた瞬間、彼は月色の瞳を軽くみはって、腕の中で目を閉じる顔をじっと見つめた。


 ふっと目を開けると、ルゥカはベッドに寝かされていた。顔を横に向けると、窓際の小さなテーブルの上に、彼女がかかえていたカゴと、母の形見のレシピ集が置いてあった。

「ここ、は?」

 重たい頭を押さえつつ上体を起こすと、ふいにバサバサと羽音はおとがした。
 びっくりして振り返ると、上品な調度品ちょうどひんの置かれた室内に一羽の鳥がいたのだ。室内飼いのかわいい小鳥などではなく、白い斑模様まだらもようのある大きくて黒いふくろうだ。

(これも魔物……?)

 おそわれるのかとルゥカは身体を硬直こうちょくさせたが、ふくろうは彼女に見向きもせず、開け放たれた部屋の扉から外へ出て行ってしまった。
 ベッドの上から部屋を見回すと、どうやら身分ある人の寝室のようだった。城の調理場よりも広い室内はシンプルだが、テーブルやソファ、絨毯じゅうたんやカーテンに至るまでとても上等で、落ち着いた雰囲気だ。窓の外は暗いが、中はたくさんのランプに照らされているので、不便ふべんは感じない。
 自分の身体を見下ろすと、汚れた前掛けは外されていたものの、王宮で支給された調理場のエプロンドレスのままだった。
 とはいえ、おそらくここはまだ魔界で、人違いで連れてこられた悲運ひうんは続いているのだろう。そう考えると、生きていることに安心してはいけないのではないか。
 ルゥカがベッドの上で困惑こんわくしていると、誰かが部屋に入って来た。

「目を覚ましたか」

 ゆったりとした部屋着をまとった長身の男性が、ベッドの上で固まっているルゥカを見て言った。名は忘れてしまったが、たしかルゥカを始末するよう命じられていた魔王の側近だ。

「あ、あの、何で私、まだ生きてるんですか……?」
「何?」
「あのヒツジの王さまが、私を始末しろって」
「死にたかったのか」

 無感動に言われ、ルゥカはキッと顔を上げた。

「違います! でも、だって、私を殺すつもりなんでしょう」

 青年はそれには答えず、満月の色に似た瞳で、じっとルゥカを見据みすえている。そんな無機質むきしつな視線に、どうしようもなく不安をあおられた。
 あらためてこの銀髪の青年を間近に見ると、彼のまとう冷たい雰囲気や人を威圧するオーラに気圧けおされそうだ。

「それなら、どうして気絶きぜつしている間に殺してくれなかったんですか! わざわざ意識が戻ってから手を下すなんて、残酷ざんこくにもほどがあるじゃないですか」

 彼の冷たい空気にみ込まれてしまわないよう、あえてまくしたてて虚勢きょせいを張ることにした。こうでもしなければ、不安に押し潰されてしまうと思ったのだ。
 青年は静かにひとつうなずくと、ベッドの端に腰を下ろした。

「そうだな、どう始末してほしい?」
「ひどい……っ、死にたくないって言ってるのに! この悪魔、ドS!」
「死にたがっているようにしか聞こえなかったが。まあ、俺のことは何とでも言うがいい――だが、どえすとは何だ」

 どんなにみついても手ごたえがなかったのに、生真面目きまじめな顔で問われてルゥカはぴたりと口を閉ざした。悪口を言ったと知られたら、余計に残忍ざんにんな手口でルゥカを始末するかもしれない。
 ルゥカは身を守るように、胸の前でぎゅっと両手を握りしめる。すると、ふいに青年の長い腕が伸びてきて、彼女の髪を一房ひとふさ手に取った。

「本気で命が惜しいと思っているのなら、それを示してみろ」

 彼の表情にはまるで感情が浮かんでおらず、何を考えているのかルゥカにはさっぱりわからない。ただ、無条件にルゥカを殺そうとしているわけではない気がする。

「どうした。俺に命をうのが嫌なのか」

 ここで返答を間違えたらどうなるだろうか。さっきから身体が震えたまま止まらない。でも、おとなしく殺されるには、ルゥカにはこの世に未練みれんがありすぎた。

「し、死にたくない……私を、人間界に、か、帰――」

 やっとの思いでそう口にしたが、のどはカラカラで、かすれ声にしかならなかった。

「聞こえないぞ。さっきまでの威勢いせいはどうした」

 ルゥカをからかっているのか、少し青年が笑ったように見えた。
 その様子は腹立たしかったが、主導権しゅどうけんは確実に彼の手にある。何とか願いを聞き届けてもらうべく、ルゥカは腹をくくった。

「私、まだ死ねないの! 自分のお店を出すっていう夢があるんだから、こんなところで死んでる場合じゃないんです!」
「店?」
「私は、死んだ母のように、いつか料理屋を開くって、子供の頃からずっと決めてたんです。私の料理で誰かに喜んでもらいたいって。だから……」

 そう言いながら魔人に詰め寄ったが、不用意に近づきすぎたことに気づき、ルゥカはあわてて後退した。

「だから、元の場所に帰してください。お願いします」

 一瞬、彼は考え込むように口を閉ざした。少しはこのうったえが心に響いたのだろうか。
 だが、その沈黙ちんもくはルゥカの期待とはまるで逆の方向を示した。

「子供の頃からの夢か。しかし残念だが、人間界に帰すことはできん。ガラード陛下は人間界と魔界の行き来をすべて把握しておられる。逃げ出したと知られれば、魔界の内情を人間界に知らせる危険分子と認定され、ベレゲボルブルップに連れ戻された挙句に処刑しょけいされるのがオチだろう」
「そ、んな……」

 ルゥカは深くうなだれ悲嘆に暮れた。どのみち、彼女には殺される以外の選択肢が残されていなかったのだ。

「だが、命だけは助けてやらなくもない」
「え……?」
「俺に服従するのなら」

 ルゥカは期待して顔を上げたが、同時に不穏ふおんな単語を耳にして、淡青色ペールブルーの瞳を丸くした。

「俺の命に従え、俺の言うことは絶対だ。俺に完全服従しろ。そうすれば、このやしきの中では自由を与えてやる」
「魔人に服従するなんて、そんなこと――」
「まだ死ぬわけにはいかないと言ったのはおまえだ。保証はしないが、命さえあれば人間界に戻れる日がくるかもしれないぞ」

 ルゥカは戸惑い、青年の顔を見つめた。相変わらずの無表情で、何を思って彼がそんな提案をしたのか、わからない。

「今すぐ選べ。この場で始末されるか、わずかな希望のために生き延びるか。おまえの自由だ」

 三度、ルゥカはまばたきしてから、言われた言葉を口の中で反芻はんすうした。いさぎよくすべてをあきらめて死を選ぶか、魔人に服従してでも機会をうかがうのか。

「……ほんとに、従ったら生かしておいてくれるんですか」
「二言はない」
「わかりました、あなたに服従……しま、す。だから、殺さないで」

 唇は震えていたが、ルゥカの声ははっきりと青年に告げた。選択の余地はなかった。

「よかろう。おまえの名は?」
「ルゥカ。あなたは――」
「アークレヴィオン」

 銀髪の青年は短く名乗ると、ルゥカの細い肩をとんと押した。
 ベッドの上に仰向あおむけに転がされたルゥカは、もがいて起き上がろうとしたが、すぐさまアークレヴィオンに押さえつけられてしまった。

「あの……」
「俺に完全服従するのだろう? そのあかしを見せろ。抵抗は許さん」

 そう言うなり、アークレヴィオンの手がルゥカのエプロンドレスの胸元を引き裂いた。布の下からやわらかなふくらみを隠す、白い下着がのぞく。

「――!」

 今、魔人に身体を犯されようとしている。だが、生きるために服従すると決めたのはルゥカ自身だ。死ぬより悪いことなど、あるはずがない。

「て、抵抗しないから、お願い、乱暴にしない、で……」

 覚悟を決めつつも、恐ろしさのあまりぎゅっと固く目を閉じた。

生娘きむすめか。よかろう、最初は手加減してやる」

 手加減すると言うわりには、彼の手は容赦ようしゃなくルゥカの服をぎ取っていく。エプロンドレスはベッドの下に投げ捨てられ、頼りない下着だけがルゥカの身を守っていたが、それさえも邪魔とばかりにアークレヴィオンが引き裂いた。

「あ」

 完全な裸身らしんさらし、ルゥカは寒気に身を震わせた。反射的はんしゃてきに腕で胸を隠そうとしたが、アークレヴィオンの力強い手が腕を引きがし、頭の上でひとまとめにしてベッドに押しつける。

「や……っ、待って、待って! こ、心の準備が……」
「そんなもの、いくら待ったところで整うことなどなかろう」

 低く響くアークレヴィオンの声は、乱れたルゥカの心までしばりつけてしまうようだ。ルゥカの抵抗心をねじ伏せると、あらためて彼女の身体を征服せいふくしにかかった。
 胸のふくらみをいきなりつかまれ、無意識に身体が硬直こうちょくする。アークレヴィオンはやわやわとみほぐすように乳房ちぶさを手の中に収めてしまう。指先で胸のいただきをつままれ、くりくりと刺激されると、呼吸が止まった。

「は、ぁっ」

 他人にれられたことのない場所をいじられ、言いようもない感覚におそわれて、ため息がこぼれる。肌がざわつくような、むずかゆいような……
 目をきつくつむったままのルゥカだったが、胸が生温かいものにおおわれたのを感じて、思わず目を開けた。
 すぐそこに、アークレヴィオンの長い銀髪があった。絹糸きぬいとのようにさらさらした髪がルゥカの素肌の上に流れ、くすぐったくてたまらない。
 だが、その髪の向こう側で、アークレヴィオンがルゥカの左胸をくわえていた。甘噛あまがみしながら乳首を舌で転がし、突っつき、いやらしく吸い上げる。
 右の乳房ちぶさが手の中でやさしく握られ、頭の中が真っ白になった。

「ん……っ」

 のどが鳴ったが、声は出なかった。手首を押さえつけられているので、逃げようもない。
 みずから望んだこととはいえ、魔人に胸を――純潔じゅんけつけがされているなんて。

「どうして、こんな」
「女が男に服従の証立あかしだてをするにあたって、これ以上に有効な方法などあるまい」
(やっぱり悪魔!)

 生きるために服従を誓ったものの、心は簡単にこの事実を受け入れることはできなかった。殺されたほうがマシだったのではないだろうか、そんな風にも思う。

(でも、死んだら永遠に人間界に帰れない。お店を開くことだって、生きていないとできない)

 混乱する頭を整理するために考え込んでいたルゥカだが、いきなり身体をつらぬくような刺激が走り、悲鳴ひめいを上げた。
 アークレヴィオンのひざがルゥカのひざを割って入り、その秘裂ひれつに指をわせたのだ。隠されていた秘密の場所をあばかれ、その中でひっそりと息づいていたつぼみを彼の指がなぞっていく。

「や、ん! ぁああ……っ」

 乾いた割れ目を彼の指が執拗しつように、だがやさしく往復していくたびに水があふれ、次第にくちゅくちゅとれた音が部屋の中に響きはじめる。聞くにえないみだらな音に、ルゥカは頭を振った。

「んは……やぁっん」

 アークレヴィオンの左手で両手をひとまとめに押さえられ、右手では秘所を強引に押し開かれる。下腹部を甘く刺激されるうちに、身体が作り替えられていくような錯覚さっかくおちいる。
 もどかしさしか感じていなかった胸への愛撫あいぶに、ルゥカの全身が震えはじめた。熱い舌でとがったピンク色の乳首をねぶられ、やわらかい髪が肌の上を滑っていく感覚に、ルゥカはひっきりなしに切ない吐息をついてしまう。

「はぁ……あぁっ」

 やがて、秘裂ひれつをなぞる指は二本に増え、ぐちゅっとねばついた音を立てながら花唇を割って、つぼみを目覚めさせるようにうごめいた。

「あぁっ、ふあ……っ」

 さっきまで頭の中で考えをめぐらせていたのに、すでに何も考えられない。腰が勝手に揺れ、必死に閉じようとしていた脚は抵抗の意思を失い、ひざを立てたままだんだん開いていくのだ。

「抵抗するなよ」

 そう言いおいて、アークレヴィオンはルゥカの両手を押さえつけていた左手を離した。代わりに彼女の脇腹や背中、腹部のなめらかな肌をやさしくなぞるように愛撫あいぶしはじめる。

「んっ、んっ……!」

 無意識に上がる自分のみだらな声に気づき、ルゥカは必死に声を殺した。服従を誓ったとはいえ、アークレヴィオンの好き勝手に犯されているのだ。

(気持ちいい、なんて、認めたくない)

 しかし、ルゥカの腕は彼を押しのけるどころか、ぎこちなくその服のすそを握りしめていた。

「あっ、ああ、だめっ……!」

 胸を犯していた舌がルゥカの耳元に移動し、のど元や首筋を滑っていく。耳たぶにかすかに歯を立てられると、全身がぶるぶると震え出した。
 でも、身体が重なるとあたたかくて、心地よさを感じてしまう。

生娘きむすめのわりに、感度は悪くないようだ」
「なっ、ああっ……んあぁ」

 ルゥカは頬を真っ赤にして否定しようとしたが、割れ目の中の敏感びんかんな場所をこすられてしまい、言葉を失った。そこを指で揺らされると、身体の芯がぎゅっとすぼまっていく。
 アークレヴィオンはやさしくルゥカを愛撫あいぶしながら、まるできしめるように腕の中に収め、くせのある長い赤毛に顔をうずめてきた。


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