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1巻
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(いったい何のまちがい? ううん、きっと夢、夢に違いない。そうだよ、そんなことがあるわけない)
冷たい床の上にぺたりと座らされ、後ろ手に縛られた自分の境遇を顧みて、ルゥカはぶるぶると頭を振った。
あのあと、魔獣はルゥカを引き裂いたり喰い殺したりはしなかったが、代わりに鋭い牙のある口に彼女の胴体を咥え、ここへ連れてきたのである。
その間はずっと、ギザギザした歯にいつ噛み潰されるのかという恐怖に震え上がっていた。そして気づいたときには、こんなことになっていたのだ。
「魔獣に誘拐されたなんて、いやだ、なんて悪夢。早く朝にならないかな」
さっきから心臓がドキドキしていて、呼吸も乱れて落ち着かない。平常心を保つために明るく言ってみたのだが、自分の上に降りかかる冷たい視線に耐えきれず、とうとう口を噤んでうつむいた。
「顔を上げろ、人間」
「は、はいっ」
命令し慣れた威圧的な声に、ルゥカは弾かれたように顔を上げた。
薄暗く、天井の高くて広い部屋には、立派な玉座。そこには長い足を組んだ青年が座していて、ルゥカを金色の目で見下ろしている。震えがくるほどの冷たい視線と彼の異様な外見に、寒くもないのに鳥肌が立ち、ルゥカは唇を噛みしめた。
この青年、外見は人間そのものだが、明らかに人間ではない。
精悍とさえ言える凛々しい顔立ちと褐色の肌には、白いブラウスがとてもよく似合っていて、こんな状況でなければ見とれていたかもしれない。
だが、長く波打つ黒髪の頭からは、ヒツジのような立派な角が生え、顔の横辺りでくるんと弧を描いているのである。
王冠がわりに角のかぶりものをしている……というわけではないだろう。この青年の放つ威圧感と表情から、そんなおちゃめな人物とはとても思えなかった。
(てことは、そう、きっとヒツジの王さま)
恐怖に打ち勝つために、ルゥカはあえて牧歌的に考えることにした。
視線をずらすと、玉座の左右に、すらりと背の高い青年たちが控えるように立っている。
左側の青年は角もなく人間と変わらぬ容姿で、短い髪は黄金色だ。しなやかな肢体に濃紺の服をまとう姿は武官を思わせるが、剣は携えていない。狡猾そうな琥珀の瞳が、ルゥカを睥睨していた。
(何か、神経質そう……)
そして右側の青年は、室内を照らすランプの炎を受けてきらきらと輝く、長い銀色の髪の持ち主だ。こちらも角はなく、姿はいたって普通の人間である。瞳は金というよりも月の色に近く、獣の瞳を連想させた。
だが、いたって普通というには、眉目はあまりに秀麗で、引き締まった頬は凛々しさを際立たせている。無表情のままルゥカを見下ろしていて、まったく温度を感じさせない立ち姿にもかかわらず、ルゥカの視線は釘づけになってしまった。
(……ちょっと、ステキ)
完全に場違いだが、好みのタイプだったのだ。
そんなルゥカの内心を一蹴するよう、玉座の青年が足を組み替えて言った。
「ベレゲボルブルップ」
(え? 何語? 言葉通じない!?)
ヒツジの王さまが何を言っているのか聞き取れず、ルゥカは見知らぬ土地で言葉もわからぬまま、無残に処刑されてしまうのかと絶望した。何しろ彼女は、完全に囚人の扱いである。
(あれ、でもさっき、言葉通じてたような……?)
そのとき、ルゥカの背後で何かが動く気配がした。はっと振り向くと、ルゥカをここへさらってきたあの恐ろしい巨大な魔獣が、ヒツジ王のもとへのそのそと歩いて行く。そして信じがたいことに、じゃれつくように彼の手に頭を擦りつけたのだ。
「……これがエヴァーロスの王女なのか? エヴァーロスの王女は類稀な美しさを持つ娘だと聞いていたが、こやつは貧相な小娘ではないか。しょせん人間の審美眼などアテになるものではない」
はっきりと言葉は通じた。ルゥカについて悪し様に言われたが、事実なので反論の余地はない。エヴァーロスの王女は本当に美しい方で、自分など比較の対象にもならないことは百も承知だ。ルゥカは運よく城の仕事にありつけただけの、寒村出身の一般庶民である。いったいどこでどんな誤解が生じたのやら、ルゥカは王女と間違えてさらわれてきたらしい。
「あの、私は……」
「陛下。恐れながら、この人間は王女ではありません」
人違いを訴えて、何とか帰してもらおうと考えたルゥカの言葉を遮るように、銀髪の青年が指摘した。
「王女ではない?」
「この娘の粗末な服装といい、汚れた顔といい、せいぜい城で働いていた下女でしょう」
彼の言うとおり、ルゥカのお仕着せにも前掛けにも、ソースや油の飛び散りで染みができているし、頬には小麦粉がこびりついている。
それを聞いて、金髪の神経質そうな青年が嘲るように笑った。
「さすがアークレヴィオン卿は、人間のことにお詳しい」
だが、アークレヴィオンと呼ばれた銀髪の青年は、彼の言葉には完全に無反応だった。無視された態の金髪の青年は、小さく舌打ちをする。どうやらこのふたりは仲が悪いようだ。
一方、陛下と呼ばれたヒツジの王さまは、左右に控える偉丈夫たちの静かなる争いなど意にも介さず、じろりとルゥカを一瞥してから、手に噛みついてじゃれつく魔獣に視線を移した。
(手、ちぎれないのかしら……)
ルゥカの心配をよそに、王さまの手は無事なようだ。
「ベレゲボルブルップよ、我は人間の『王女』を連れてこいと言ったはずだ」
ヒツジ王の発した謎の言語は、この魔獣の名前だったのだ。人違いを指摘されたベレゲなんたらは、しおらしく耳を下げ、「グルル……」と言い訳するように力なく唸った。
「何? 城にいて、手足が二本ずつで目もふたつ、長いスカートを穿いていた? そうだろう、そうだろうともベレゲボルブルップ。人間の女はたいていそういう姿をしている」
「がぅ……」
「そして、うまそうな匂いがした? 食い意地の張ったヤツめ。それに、確か王女は金髪と聞いていたが、この娘は赤毛だ」
それを聞いて、今度は金髪の青年のほうが首を横に振った。
「ガラード陛下。恐れながら、魔獣は色を見分けることができません」
臣下から容赦ない指摘を受けたヒツジ王は不愉快そうに唇を引き結んだ。
「我ら魔族が人間と争いをはじめて幾星霜。彼奴らめ、我ら魔界の者を悪と決めつけ、とくに『冒険者』などと名乗る無法者どもは、魔獣たちをやれ討伐だ、やれ成敗だと容赦なくぶった斬ってくれた。我らの被害は甚大で、これ以上無視することはできん。人間の王女を人質に取り、人間どもに無条件降伏を迫る作戦だったというのに、まさかの人違いとは!」
ルゥカは淡青色の瞳をまん丸に見開いて、男たちを見上げた。
エヴァーロス王国をはじめとする、人間たちの暮らす世界を『人間界』と呼び、魔人や魔獣からなる魔族たちの住まう世界を『魔界』と呼んで区別している。
これまでに魔族に惨殺された人間は数知れず、人間たちは己の版図を守るために『魔界』の住人と永遠とも思える戦いを繰り広げているのだ。
そしてこの場にいる彼らは、人間と敵対している『魔界を治める王とその配下』だった。どうやら、人間界と魔界の騒乱に、一庶民たるルゥカが不幸にも人違いで巻き込まれてしまったらしい。
今さらながらとんでもない大事件に巻き込まれたのだと痛感し、身体の震えを止めることができなかった。
「ヴァルシュ、再度人間界に魔獣を派遣するのだ。今度こそ王女をひっ捕らえて来い!」
ヒツジ王は命令したが、ヴァルシュと呼ばれた金髪の青年は首を横に振った。
「お怒りはごもっともながら、魔界にいちばん近いエヴァーロスでは、城に魔獣が現れたことにより王国の兵士たちはもちろん、冒険者たちや傭兵までかき集め、最大級の警戒網を敷いております。魔獣を一頭や二頭送り込んだところで、討伐されるが関の山」
今度は追い打ちをかけるように、銀髪の青年がたたみかけた。
「今から魔獣を送り込み、王女をさらうのであれば、魔界の全勢力を用いて掃討する覚悟が必要です。そして、それには大がかりな準備が必要かと。とくに魔獣どもは人間と違い、結束することがありません。個々の能力は我らが上でも、全面戦争となれば、魔族も決して有利とは言えますまい」
仲の悪そうな金髪と銀髪の臣下たちだが、再派遣を反対する意見は一致していた。
魔族は何でも力でねじ伏せるものだと思っていたので、意外に理性的な彼らの会話を聞いていると、話せばわかってくれるかもしれないという、わずかな希望がわいた。
「うぬぬ……仕切り直しだ。ほとぼりが冷めるまで人間界に手出しはするな」
「あ、あの、人違いだったようですので、私を……」
穏便に事をすませてもらうべく、ルゥカが控えめに申し出ると、ヒツジ王は金色の瞳で彼女を見下ろした。
「アークレヴィオン、この小娘の後始末をしておけ。まったく、とんだ時間の無駄であったわ」
ルゥカの最後の望みをぶった切り、ヒツジ王は玉座から立ち上がってマントを翻すと、金髪の青年と、しゅんとうなだれる魔獣を従えて広間から退出してしまった。
アークレヴィオンと呼ばれた銀髪の青年とルゥカだけが取り残された広間はシンとして、足元から冷たい空気に包まれていくようだ。
ルゥカは怖々と青年を見上げる。彼は相変わらず無表情のままだったが、ルゥカとはじめて目を合わせた。
「後始末。ベレゲボルブルップに喰わせてしまえば早かったようだが」
そんな彼の独白を耳にして、ルゥカは真っ青になった。ちょっとでも彼を「ステキ」だなんて思った自分はなんて愚かなんだろう。いくら容姿がよくても、彼は人間の敵である魔族だ。この魔人は、ルゥカを殺すよう命じられたのだから。
魔人は強い魔力を秘めた者が多いと聞く。この無表情の彼も、その魔力でルゥカを一瞬で消すことができるに違いない。
銀髪の魔人が足音を立ててルゥカに近づいてくる。そして、彼女の腕を縛っている縄をつかんで強引に立ち上がらせると、粉のついた顔をまじまじとのぞき込んだ。
「おまえは――」
「……!」
あんなに恐ろしい魔獣に連れ去られたときも、気を失わなかった。でも今、静かな恐怖を植えつけられ、ルゥカの意識はとうとう限界を迎えた。突然、糸が切れたようにルゥカの身体から力が抜けて崩れ落ちる。
青年がとっさにその華奢な身体を腕に抱えると、ふわりと彼女の髪から甘い香りがただよってきた。その匂いを嗅覚がとらえた瞬間、彼は月色の瞳を軽く瞠って、腕の中で目を閉じる顔をじっと見つめた。
ふっと目を開けると、ルゥカはベッドに寝かされていた。顔を横に向けると、窓際の小さなテーブルの上に、彼女が抱えていたカゴと、母の形見のレシピ集が置いてあった。
「ここ、は?」
重たい頭を押さえつつ上体を起こすと、ふいにバサバサと羽音がした。
びっくりして振り返ると、上品な調度品の置かれた室内に一羽の鳥がいたのだ。室内飼いのかわいい小鳥などではなく、白い斑模様のある大きくて黒い梟だ。
(これも魔物……?)
襲われるのかとルゥカは身体を硬直させたが、梟は彼女に見向きもせず、開け放たれた部屋の扉から外へ出て行ってしまった。
ベッドの上から部屋を見回すと、どうやら身分ある人の寝室のようだった。城の調理場よりも広い室内はシンプルだが、テーブルやソファ、絨毯やカーテンに至るまでとても上等で、落ち着いた雰囲気だ。窓の外は暗いが、中はたくさんのランプに照らされているので、不便は感じない。
自分の身体を見下ろすと、汚れた前掛けは外されていたものの、王宮で支給された調理場のエプロンドレスのままだった。
とはいえ、おそらくここはまだ魔界で、人違いで連れてこられた悲運は続いているのだろう。そう考えると、生きていることに安心してはいけないのではないか。
ルゥカがベッドの上で困惑していると、誰かが部屋に入って来た。
「目を覚ましたか」
ゆったりとした部屋着をまとった長身の男性が、ベッドの上で固まっているルゥカを見て言った。名は忘れてしまったが、たしかルゥカを始末するよう命じられていた魔王の側近だ。
「あ、あの、何で私、まだ生きてるんですか……?」
「何?」
「あのヒツジの王さまが、私を始末しろって」
「死にたかったのか」
無感動に言われ、ルゥカはキッと顔を上げた。
「違います! でも、だって、私を殺すつもりなんでしょう」
青年はそれには答えず、満月の色に似た瞳で、じっとルゥカを見据えている。そんな無機質な視線に、どうしようもなく不安を煽られた。
あらためてこの銀髪の青年を間近に見ると、彼のまとう冷たい雰囲気や人を威圧するオーラに気圧されそうだ。
「それなら、どうして気絶している間に殺してくれなかったんですか! わざわざ意識が戻ってから手を下すなんて、残酷にもほどがあるじゃないですか」
彼の冷たい空気に呑み込まれてしまわないよう、あえてまくしたてて虚勢を張ることにした。こうでもしなければ、不安に押し潰されてしまうと思ったのだ。
青年は静かにひとつうなずくと、ベッドの端に腰を下ろした。
「そうだな、どう始末してほしい?」
「ひどい……っ、死にたくないって言ってるのに! この悪魔、ドS!」
「死にたがっているようにしか聞こえなかったが。まあ、俺のことは何とでも言うがいい――だが、どえすとは何だ」
どんなに噛みついても手ごたえがなかったのに、生真面目な顔で問われてルゥカはぴたりと口を閉ざした。悪口を言ったと知られたら、余計に残忍な手口でルゥカを始末するかもしれない。
ルゥカは身を守るように、胸の前でぎゅっと両手を握りしめる。すると、ふいに青年の長い腕が伸びてきて、彼女の髪を一房手に取った。
「本気で命が惜しいと思っているのなら、それを示してみろ」
彼の表情にはまるで感情が浮かんでおらず、何を考えているのかルゥカにはさっぱりわからない。ただ、無条件にルゥカを殺そうとしているわけではない気がする。
「どうした。俺に命を乞うのが嫌なのか」
ここで返答を間違えたらどうなるだろうか。さっきから身体が震えたまま止まらない。でも、おとなしく殺されるには、ルゥカにはこの世に未練がありすぎた。
「し、死にたくない……私を、人間界に、か、帰――」
やっとの思いでそう口にしたが、喉はカラカラで、かすれ声にしかならなかった。
「聞こえないぞ。さっきまでの威勢はどうした」
ルゥカをからかっているのか、少し青年が笑ったように見えた。
その様子は腹立たしかったが、主導権は確実に彼の手にある。何とか願いを聞き届けてもらうべく、ルゥカは腹をくくった。
「私、まだ死ねないの! 自分のお店を出すっていう夢があるんだから、こんなところで死んでる場合じゃないんです!」
「店?」
「私は、死んだ母のように、いつか料理屋を開くって、子供の頃からずっと決めてたんです。私の料理で誰かに喜んでもらいたいって。だから……」
そう言いながら魔人に詰め寄ったが、不用意に近づきすぎたことに気づき、ルゥカはあわてて後退した。
「だから、元の場所に帰してください。お願いします」
一瞬、彼は考え込むように口を閉ざした。少しはこの訴えが心に響いたのだろうか。
だが、その沈黙はルゥカの期待とはまるで逆の方向を示した。
「子供の頃からの夢か。しかし残念だが、人間界に帰すことはできん。ガラード陛下は人間界と魔界の行き来をすべて把握しておられる。逃げ出したと知られれば、魔界の内情を人間界に知らせる危険分子と認定され、ベレゲボルブルップに連れ戻された挙句に処刑されるのがオチだろう」
「そ、んな……」
ルゥカは深くうなだれ悲嘆に暮れた。どのみち、彼女には殺される以外の選択肢が残されていなかったのだ。
「だが、命だけは助けてやらなくもない」
「え……?」
「俺に服従するのなら」
ルゥカは期待して顔を上げたが、同時に不穏な単語を耳にして、淡青色の瞳を丸くした。
「俺の命に従え、俺の言うことは絶対だ。俺に完全服従しろ。そうすれば、この邸の中では自由を与えてやる」
「魔人に服従するなんて、そんなこと――」
「まだ死ぬわけにはいかないと言ったのはおまえだ。保証はしないが、命さえあれば人間界に戻れる日がくるかもしれないぞ」
ルゥカは戸惑い、青年の顔を見つめた。相変わらずの無表情で、何を思って彼がそんな提案をしたのか、わからない。
「今すぐ選べ。この場で始末されるか、わずかな希望のために生き延びるか。おまえの自由だ」
三度、ルゥカは瞬きしてから、言われた言葉を口の中で反芻した。潔くすべてをあきらめて死を選ぶか、魔人に服従してでも機会をうかがうのか。
「……ほんとに、従ったら生かしておいてくれるんですか」
「二言はない」
「わかりました、あなたに服従……しま、す。だから、殺さないで」
唇は震えていたが、ルゥカの声ははっきりと青年に告げた。選択の余地はなかった。
「よかろう。おまえの名は?」
「ルゥカ。あなたは――」
「アークレヴィオン」
銀髪の青年は短く名乗ると、ルゥカの細い肩をとんと押した。
ベッドの上に仰向けに転がされたルゥカは、もがいて起き上がろうとしたが、すぐさまアークレヴィオンに押さえつけられてしまった。
「あの……」
「俺に完全服従するのだろう? その証を見せろ。抵抗は許さん」
そう言うなり、アークレヴィオンの手がルゥカのエプロンドレスの胸元を引き裂いた。布の下からやわらかなふくらみを隠す、白い下着がのぞく。
「――!」
今、魔人に身体を犯されようとしている。だが、生きるために服従すると決めたのはルゥカ自身だ。死ぬより悪いことなど、あるはずがない。
「て、抵抗しないから、お願い、乱暴にしない、で……」
覚悟を決めつつも、恐ろしさのあまりぎゅっと固く目を閉じた。
「生娘か。よかろう、最初は手加減してやる」
手加減すると言うわりには、彼の手は容赦なくルゥカの服を剥ぎ取っていく。エプロンドレスはベッドの下に投げ捨てられ、頼りない下着だけがルゥカの身を守っていたが、それさえも邪魔とばかりにアークレヴィオンが引き裂いた。
「あ」
完全な裸身を晒し、ルゥカは寒気に身を震わせた。反射的に腕で胸を隠そうとしたが、アークレヴィオンの力強い手が腕を引き剥がし、頭の上でひとまとめにしてベッドに押しつける。
「や……っ、待って、待って! こ、心の準備が……」
「そんなもの、いくら待ったところで整うことなどなかろう」
低く響くアークレヴィオンの声は、乱れたルゥカの心まで縛りつけてしまうようだ。ルゥカの抵抗心をねじ伏せると、あらためて彼女の身体を征服しにかかった。
胸のふくらみをいきなりつかまれ、無意識に身体が硬直する。アークレヴィオンはやわやわと揉みほぐすように乳房を手の中に収めてしまう。指先で胸の頂をつままれ、くりくりと刺激されると、呼吸が止まった。
「は、ぁっ」
他人に触れられたことのない場所を弄られ、言いようもない感覚に襲われて、ため息がこぼれる。肌がざわつくような、むずかゆいような……
目をきつく瞑ったままのルゥカだったが、胸が生温かいものに覆われたのを感じて、思わず目を開けた。
すぐそこに、アークレヴィオンの長い銀髪があった。絹糸のようにさらさらした髪がルゥカの素肌の上に流れ、くすぐったくてたまらない。
だが、その髪の向こう側で、アークレヴィオンがルゥカの左胸を咥えていた。甘噛みしながら乳首を舌で転がし、突っつき、いやらしく吸い上げる。
右の乳房が手の中でやさしく握られ、頭の中が真っ白になった。
「ん……っ」
喉が鳴ったが、声は出なかった。手首を押さえつけられているので、逃げようもない。
自ら望んだこととはいえ、魔人に胸を――純潔を穢されているなんて。
「どうして、こんな」
「女が男に服従の証立てをするにあたって、これ以上に有効な方法などあるまい」
(やっぱり悪魔!)
生きるために服従を誓ったものの、心は簡単にこの事実を受け入れることはできなかった。殺されたほうがマシだったのではないだろうか、そんな風にも思う。
(でも、死んだら永遠に人間界に帰れない。お店を開くことだって、生きていないとできない)
混乱する頭を整理するために考え込んでいたルゥカだが、いきなり身体を貫くような刺激が走り、悲鳴を上げた。
アークレヴィオンの膝がルゥカの膝を割って入り、その秘裂に指を這わせたのだ。隠されていた秘密の場所を暴かれ、その中でひっそりと息づいていた蕾を彼の指がなぞっていく。
「や、ん! ぁああ……っ」
乾いた割れ目を彼の指が執拗に、だがやさしく往復していくたびに水があふれ、次第にくちゅくちゅと濡れた音が部屋の中に響きはじめる。聞くに堪えない淫らな音に、ルゥカは頭を振った。
「んは……やぁっん」
アークレヴィオンの左手で両手をひとまとめに押さえられ、右手では秘所を強引に押し開かれる。下腹部を甘く刺激されるうちに、身体が作り替えられていくような錯覚に陥る。
もどかしさしか感じていなかった胸への愛撫に、ルゥカの全身が震えはじめた。熱い舌で尖ったピンク色の乳首を舐られ、やわらかい髪が肌の上を滑っていく感覚に、ルゥカはひっきりなしに切ない吐息をついてしまう。
「はぁ……あぁっ」
やがて、秘裂をなぞる指は二本に増え、ぐちゅっと粘ついた音を立てながら花唇を割って、蕾を目覚めさせるように蠢いた。
「あぁっ、ふあ……っ」
さっきまで頭の中で考えをめぐらせていたのに、すでに何も考えられない。腰が勝手に揺れ、必死に閉じようとしていた脚は抵抗の意思を失い、膝を立てたままだんだん開いていくのだ。
「抵抗するなよ」
そう言いおいて、アークレヴィオンはルゥカの両手を押さえつけていた左手を離した。代わりに彼女の脇腹や背中、腹部のなめらかな肌をやさしくなぞるように愛撫しはじめる。
「んっ、んっ……!」
無意識に上がる自分の淫らな声に気づき、ルゥカは必死に声を殺した。服従を誓ったとはいえ、アークレヴィオンの好き勝手に犯されているのだ。
(気持ちいい、なんて、認めたくない)
しかし、ルゥカの腕は彼を押しのけるどころか、ぎこちなくその服の裾を握りしめていた。
「あっ、ああ、だめっ……!」
胸を犯していた舌がルゥカの耳元に移動し、喉元や首筋を滑っていく。耳たぶにかすかに歯を立てられると、全身がぶるぶると震え出した。
でも、身体が重なるとあたたかくて、心地よさを感じてしまう。
「生娘のわりに、感度は悪くないようだ」
「なっ、ああっ……んあぁ」
ルゥカは頬を真っ赤にして否定しようとしたが、割れ目の中の敏感な場所を擦られてしまい、言葉を失った。そこを指で揺らされると、身体の芯がぎゅっとすぼまっていく。
アークレヴィオンはやさしくルゥカを愛撫しながら、まるで抱きしめるように腕の中に収め、癖のある長い赤毛に顔を埋めてきた。
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