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第1章 アラサー女子、サレカノになる
第4話
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金曜日、十八時。
滞在一週間となったホテルの一室で、カップラーメンを食べつつ新たな求人に申し込み終えたら、十分と経たずに電話がかかってきた。
ラーメンでむせそうになったが、あわてて水を飲んでから通話モードにする。
「はいっ、涼川です」
『夜分に申し訳ありません。先ほどご応募いただいたVISUAL NEXUSの香坂《こうさか》と申します。涼川花さんの番号でお間違いないですか? 今、すこしお時間よろしいでしょうか』
電話越しに若い男性のやわらかな声が響いてきた。まさに今応募したばかりの会社だったのだ。
WEB関連の企業は比較的若い人材が多いが、本当に若々しい声だったのですこし面食らう。
「はい!」
添付したポートフォリオを見て、面接をしたいという内容だったので、元気よく返事をしつつも手元は震えている。なにしろ、就職活動など学生時代以来だ。
「……はい、ええ。今からですか? ――大丈夫です。では二十時にオフィスにお伺いします」
電話を切って立ち上がると、花はガッツポーズをした。
他にもいくつかエントリーした会社やエージェントからメールの返信は来ているが、電話をくれたのは今の会社が初めてだ。
しかも、ちょうど担当者の手が空いているから今から来られないか、ということだった。書類選考に通過したようでほっとした。
こんな時間に呼びつけるなんて非常識――という人もいるだろうが、求人を見ると若い会社だし、そういうラフさは嫌いではない。
なにより、早く仕事を決めたい花にとって、このスピード感はとてもありがたいものだ。現在、金曜日の夜。求人とにらめっこしながら休日を過ごすのはストレスだろう。一歩でも前進があれば。
花が応募したVISUAL NEXUSは業務拡大中のベンチャー企業で、クリエイティブ系のブランディング会社だ。
業務内容はこれまで花が担当していたWEBサイト制作やグラフィックデザインをはじめ、映像制作や空間デザインなどを手がけている。
そして所在地が神宮前で、最寄り駅は表参道駅。いかにもおしゃれな雰囲気だ。
約束の時間は二十時。花は身支度を整えると、スーツに身を包んで夜の新宿に飛び出した。
表参道駅から地上に出て徒歩三分という好立地にVISUAL NEXUSのオフィスはあった。
コンクリートにガラス張りの低層デザイナーズビルで、一階のエントランスは緑に囲まれていて静かで、間接照明で足元が照らされていた。
オフィスの受付が二階にあり、ドキドキしながらインターホンを押すと、応対してくれたのはさっき電話で聞いた声だった。
『お待ちしてました。今いきますね』
ややあってオフィスの扉が開いた。現れたのは声から想像した通りの若い男性だが、どう見ても花より年下だ。
(うわ……めちゃくちゃイケメン……)
さわやかなアップバングヘアの若者で、思わずポカンと見惚れてしまうほど、オフィスで見るにはあまりにも整いすぎた顔だった。
カジュアルなジャケットにイージーパンツ、スニーカーというラフな格好だが、何もかもが似合いすぎている。
見惚れていたのを隠すように、花はあわてて頭を下げた。
「はじめまして、涼川です。よろしくお願いします」
「先ほどお電話をさしあげた香坂です。すみませんね、こんな遅い時間に。ちょうど落ち着いたタイミングだったもので。それに、ライジングさんに勤務されてた方じゃ競争率も高そうだから、大急ぎで連絡しちゃいました」
そう言って眩しい笑顔でじっと花の顔を見つめてくる。なんだろうと思って瞬きを繰り返したら、我に返ったように「どうぞ」と花をオフィスの中に案内してくれた。
「失礼します――」
通されたのは広々としたワンフロアオフィスだった。
手前にはミーティングのできる木製の大机がいくつか配置され、パーテーションで区切られた商談スペースもあった。
オフィス内も壁一面ガラスで開放感があって、その一角に見えるのが社員のデスクのようだが、やはり木のデスクでペンダントライトやダウンライトがやさしく照らしていた。
こんな素敵なオフィスで働けたら、さぞ楽しいことだろう。
オフィスには快活そうなパンツスーツの女性がひとりだけいて、花を見ると「こんばんは」と気さくに挨拶してくれた。黒髪ストレートの男前な美人だ。
「遅くにすみません、涼川さん。面接に同席させていただく榛名紀伊《はるなきい》と申します。こちらにおかけいただいて、さっそくエントリーシートにご記入をお願いします」
入口近くのミーティングデスクに案内され、遠慮がちに椅子に腰かける。デスクにはすでにバインダーやタブレットなどが並べてあった。
紀伊に示された書類を花が書きはじめる。すると、香坂がオフィス内にあるドリンクサーバーで紙コップにお茶を淹れて持ってきてくれた。
そして紀伊の隣に座ると、バインダーを開いて花の履歴書や職務経歴書を印刷したものを広げはじめる。
「書けました? ではあらためまして、VISUAL NEXUS代表の香坂と申します。こちらはWEBデザインチームディレクターの榛名さん。よろしくお願いします」
差し出された名刺には『代表取締役CEO 香坂大稀』と書かれていた。
(代表取締役!? 社長さん!)
ベンチャー企業なので社長も若いだろうとは思っていたが、どう見ても花より若いこの男性が社長だという。思わず名刺を二度見してしまった。
滞在一週間となったホテルの一室で、カップラーメンを食べつつ新たな求人に申し込み終えたら、十分と経たずに電話がかかってきた。
ラーメンでむせそうになったが、あわてて水を飲んでから通話モードにする。
「はいっ、涼川です」
『夜分に申し訳ありません。先ほどご応募いただいたVISUAL NEXUSの香坂《こうさか》と申します。涼川花さんの番号でお間違いないですか? 今、すこしお時間よろしいでしょうか』
電話越しに若い男性のやわらかな声が響いてきた。まさに今応募したばかりの会社だったのだ。
WEB関連の企業は比較的若い人材が多いが、本当に若々しい声だったのですこし面食らう。
「はい!」
添付したポートフォリオを見て、面接をしたいという内容だったので、元気よく返事をしつつも手元は震えている。なにしろ、就職活動など学生時代以来だ。
「……はい、ええ。今からですか? ――大丈夫です。では二十時にオフィスにお伺いします」
電話を切って立ち上がると、花はガッツポーズをした。
他にもいくつかエントリーした会社やエージェントからメールの返信は来ているが、電話をくれたのは今の会社が初めてだ。
しかも、ちょうど担当者の手が空いているから今から来られないか、ということだった。書類選考に通過したようでほっとした。
こんな時間に呼びつけるなんて非常識――という人もいるだろうが、求人を見ると若い会社だし、そういうラフさは嫌いではない。
なにより、早く仕事を決めたい花にとって、このスピード感はとてもありがたいものだ。現在、金曜日の夜。求人とにらめっこしながら休日を過ごすのはストレスだろう。一歩でも前進があれば。
花が応募したVISUAL NEXUSは業務拡大中のベンチャー企業で、クリエイティブ系のブランディング会社だ。
業務内容はこれまで花が担当していたWEBサイト制作やグラフィックデザインをはじめ、映像制作や空間デザインなどを手がけている。
そして所在地が神宮前で、最寄り駅は表参道駅。いかにもおしゃれな雰囲気だ。
約束の時間は二十時。花は身支度を整えると、スーツに身を包んで夜の新宿に飛び出した。
表参道駅から地上に出て徒歩三分という好立地にVISUAL NEXUSのオフィスはあった。
コンクリートにガラス張りの低層デザイナーズビルで、一階のエントランスは緑に囲まれていて静かで、間接照明で足元が照らされていた。
オフィスの受付が二階にあり、ドキドキしながらインターホンを押すと、応対してくれたのはさっき電話で聞いた声だった。
『お待ちしてました。今いきますね』
ややあってオフィスの扉が開いた。現れたのは声から想像した通りの若い男性だが、どう見ても花より年下だ。
(うわ……めちゃくちゃイケメン……)
さわやかなアップバングヘアの若者で、思わずポカンと見惚れてしまうほど、オフィスで見るにはあまりにも整いすぎた顔だった。
カジュアルなジャケットにイージーパンツ、スニーカーというラフな格好だが、何もかもが似合いすぎている。
見惚れていたのを隠すように、花はあわてて頭を下げた。
「はじめまして、涼川です。よろしくお願いします」
「先ほどお電話をさしあげた香坂です。すみませんね、こんな遅い時間に。ちょうど落ち着いたタイミングだったもので。それに、ライジングさんに勤務されてた方じゃ競争率も高そうだから、大急ぎで連絡しちゃいました」
そう言って眩しい笑顔でじっと花の顔を見つめてくる。なんだろうと思って瞬きを繰り返したら、我に返ったように「どうぞ」と花をオフィスの中に案内してくれた。
「失礼します――」
通されたのは広々としたワンフロアオフィスだった。
手前にはミーティングのできる木製の大机がいくつか配置され、パーテーションで区切られた商談スペースもあった。
オフィス内も壁一面ガラスで開放感があって、その一角に見えるのが社員のデスクのようだが、やはり木のデスクでペンダントライトやダウンライトがやさしく照らしていた。
こんな素敵なオフィスで働けたら、さぞ楽しいことだろう。
オフィスには快活そうなパンツスーツの女性がひとりだけいて、花を見ると「こんばんは」と気さくに挨拶してくれた。黒髪ストレートの男前な美人だ。
「遅くにすみません、涼川さん。面接に同席させていただく榛名紀伊《はるなきい》と申します。こちらにおかけいただいて、さっそくエントリーシートにご記入をお願いします」
入口近くのミーティングデスクに案内され、遠慮がちに椅子に腰かける。デスクにはすでにバインダーやタブレットなどが並べてあった。
紀伊に示された書類を花が書きはじめる。すると、香坂がオフィス内にあるドリンクサーバーで紙コップにお茶を淹れて持ってきてくれた。
そして紀伊の隣に座ると、バインダーを開いて花の履歴書や職務経歴書を印刷したものを広げはじめる。
「書けました? ではあらためまして、VISUAL NEXUS代表の香坂と申します。こちらはWEBデザインチームディレクターの榛名さん。よろしくお願いします」
差し出された名刺には『代表取締役CEO 香坂大稀』と書かれていた。
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