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第1話 無視
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良也のクラスには『学校1かわいい』と言われている、辻原心結という名の女子がいる。その噂通り、心結の顔立ちはとても整っており、男子からは好意の眼差し、女子からは羨望の目線が連日飛ばされている。
そんな心結はもちろん男子人気が高いのだが、人気の理由はこれだけではない。心結はある一人を除いて嫌な顔もせず、普通に話す。
……そう。ある一人を除いて。
「辻原さん、先生が辻原さんのこと呼んでるけど」
教室の扉で担任が心結のことを呼んでいるのだが、それに気づいた良也が心結に教えに行く。
「…………」
もし他の人が心結に教えていたら最低でもありがとうくらいは返しただろう。でも、相手は心結が『無視』をする唯一の相手、仲上良也。一瞬良也と目を合わせたが、すぐに先生の方へ目線を移し、無言で行ってしまった。
周りのクラスメイトからは「また仲上無視られてるぞ」「仲上よくあれで心折れないよな」と良也への哀れみの声を漏らしている。
「良也、相変わらず無視られてんのな。辻原に」
良也が自分の席に戻ると良也の友達である誠司が話しかけに行った。
「……なんだ、かわいそうってか?」
「いやいや、よくあれでまだ話しかけに行く勇気があるんだなと。俺なら5回位で諦めるわ」
あそこまで無視をされていると男子だけでなく、女子からも「仲上には確実に脈がない」と言われる程に良也は心結に無視され続けている。
「そりゃ先生困ってたし、教えに行くのが普通でしょ」
「……良也って相変わらずお人好しだよな」
「いいことだろ」
良也のお人好しなところは誠司と友だちになった中学校の頃から健在で、クラスメイトの捜し物を一緒に探したり、先生の頼み事を受けたりしていた。それ故、面倒事を押し付けられることも多々あり、その度に誠司が間に入ってなんとかしていた。
「いいところだけどさ、少しは止めに入る俺の気持ちも考えてくれ。良也が変なこと引き受けないように一生見張っとかならないんだぞ」
「まあそれは感謝してるけど……しょうがないというか? 今後ともよろしくお願いしますよ」
「はぁ、じゃあ俺が間に入る度おにぎり3個おごりな?」
「手数料がまあまあ高い……。まあいいけど」
良也がそのことを了承すると誠司は満足そうな顔で少し偉そうな口調で「じゃあ今後も見張っておいてやろう」と言い、廊下へと出ていった。
「……ま、俺がなんで無視られてんのか全く見当つかないけど」
良也が最初から無視されていたのかといえばそうではない。……少なくとも入学試験のときには無視はされていなかった。
「……はぁ」
どこにも行く場所がないため息をつき、良也は次の授業の準備を始めた。
◆ ◆ ◆
その日の放課後、良也はバイトがあるから代わってほしいという男子に代わり、黒板掃除をしていた。教室の中には良也の他に女子の掃除当番の中原南月がいる。
「仲上くん! そっち終わったー?」
「もうちょっとで終わる……ってもうそっち終わったのか。早いな」
「まぁ私優秀なので!」
えっへん! と胸を張る南月を横目で流しながら良也はもう残り少ない黒板掃除に戻った。
「終わったぞ」
「はいはーい! お疲れ様!」
座っていた机から降りた南月はなにやら意味ありげな表情で良也の表情を伺っている。
「……いつもごめんね、心結が」
「ああ、気にしないで。多分こっちに問題があるからさ。……ところでだけど」
「何?」
良也は教壇から降り、自分の席に向かう。その最中に言いかけていた言葉を発した。
「辻原は、俺のことなんか言ってる? 話しかけないでほしいとか、うざったいとか」
「あーやっぱ気になっちゃうよねー……でも安心して。心結はそんなこと言ってないよ。なんなら嫌ってもない」
「え?」
人が無視をするとき、その人のことを好意的に思ってないことが大半の理由だ。もちろんそれ以外の理由で無視をする人もいるのだが……辻原がそっちの理由で俺を無視するわけがない。そんな要素もない。
そんな考えを抱きながら良也は南月の話を聞き続ける。
「もちろん、なんで心結が仲上くんのことを無視してるかは本人から聞いてるけど、今はまだ言えないかなー……申し訳ないけど」
「や、いいよ。それは自分で探す。……さんきゅな」
「全然全然! 私からも心結に一言……いやもっと言っとくからさ!」
「ああ」
話している途中にすっかり変える準備を済ました良也は一足先に教室から出ていった。
「ま、悪いのは確実に心結の方なんだけどな……」
良也が出ていき、ずっと我慢していた言葉が自然に南月の口から飛び出す。そのささやかな声はもう誰もいない教室の硬い壁に反射して誰の耳にも入らず自分の耳に戻ってくる。
「頑張れ、仲上くん」
そんな心結はもちろん男子人気が高いのだが、人気の理由はこれだけではない。心結はある一人を除いて嫌な顔もせず、普通に話す。
……そう。ある一人を除いて。
「辻原さん、先生が辻原さんのこと呼んでるけど」
教室の扉で担任が心結のことを呼んでいるのだが、それに気づいた良也が心結に教えに行く。
「…………」
もし他の人が心結に教えていたら最低でもありがとうくらいは返しただろう。でも、相手は心結が『無視』をする唯一の相手、仲上良也。一瞬良也と目を合わせたが、すぐに先生の方へ目線を移し、無言で行ってしまった。
周りのクラスメイトからは「また仲上無視られてるぞ」「仲上よくあれで心折れないよな」と良也への哀れみの声を漏らしている。
「良也、相変わらず無視られてんのな。辻原に」
良也が自分の席に戻ると良也の友達である誠司が話しかけに行った。
「……なんだ、かわいそうってか?」
「いやいや、よくあれでまだ話しかけに行く勇気があるんだなと。俺なら5回位で諦めるわ」
あそこまで無視をされていると男子だけでなく、女子からも「仲上には確実に脈がない」と言われる程に良也は心結に無視され続けている。
「そりゃ先生困ってたし、教えに行くのが普通でしょ」
「……良也って相変わらずお人好しだよな」
「いいことだろ」
良也のお人好しなところは誠司と友だちになった中学校の頃から健在で、クラスメイトの捜し物を一緒に探したり、先生の頼み事を受けたりしていた。それ故、面倒事を押し付けられることも多々あり、その度に誠司が間に入ってなんとかしていた。
「いいところだけどさ、少しは止めに入る俺の気持ちも考えてくれ。良也が変なこと引き受けないように一生見張っとかならないんだぞ」
「まあそれは感謝してるけど……しょうがないというか? 今後ともよろしくお願いしますよ」
「はぁ、じゃあ俺が間に入る度おにぎり3個おごりな?」
「手数料がまあまあ高い……。まあいいけど」
良也がそのことを了承すると誠司は満足そうな顔で少し偉そうな口調で「じゃあ今後も見張っておいてやろう」と言い、廊下へと出ていった。
「……ま、俺がなんで無視られてんのか全く見当つかないけど」
良也が最初から無視されていたのかといえばそうではない。……少なくとも入学試験のときには無視はされていなかった。
「……はぁ」
どこにも行く場所がないため息をつき、良也は次の授業の準備を始めた。
◆ ◆ ◆
その日の放課後、良也はバイトがあるから代わってほしいという男子に代わり、黒板掃除をしていた。教室の中には良也の他に女子の掃除当番の中原南月がいる。
「仲上くん! そっち終わったー?」
「もうちょっとで終わる……ってもうそっち終わったのか。早いな」
「まぁ私優秀なので!」
えっへん! と胸を張る南月を横目で流しながら良也はもう残り少ない黒板掃除に戻った。
「終わったぞ」
「はいはーい! お疲れ様!」
座っていた机から降りた南月はなにやら意味ありげな表情で良也の表情を伺っている。
「……いつもごめんね、心結が」
「ああ、気にしないで。多分こっちに問題があるからさ。……ところでだけど」
「何?」
良也は教壇から降り、自分の席に向かう。その最中に言いかけていた言葉を発した。
「辻原は、俺のことなんか言ってる? 話しかけないでほしいとか、うざったいとか」
「あーやっぱ気になっちゃうよねー……でも安心して。心結はそんなこと言ってないよ。なんなら嫌ってもない」
「え?」
人が無視をするとき、その人のことを好意的に思ってないことが大半の理由だ。もちろんそれ以外の理由で無視をする人もいるのだが……辻原がそっちの理由で俺を無視するわけがない。そんな要素もない。
そんな考えを抱きながら良也は南月の話を聞き続ける。
「もちろん、なんで心結が仲上くんのことを無視してるかは本人から聞いてるけど、今はまだ言えないかなー……申し訳ないけど」
「や、いいよ。それは自分で探す。……さんきゅな」
「全然全然! 私からも心結に一言……いやもっと言っとくからさ!」
「ああ」
話している途中にすっかり変える準備を済ました良也は一足先に教室から出ていった。
「ま、悪いのは確実に心結の方なんだけどな……」
良也が出ていき、ずっと我慢していた言葉が自然に南月の口から飛び出す。そのささやかな声はもう誰もいない教室の硬い壁に反射して誰の耳にも入らず自分の耳に戻ってくる。
「頑張れ、仲上くん」
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