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2話 花の咲く家
06.セッカ花弁の消臭剤
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何事か考えていたアロイスが不意にその端整なお顔をこちらへ向けた。危険な芳香が漂っていると分かった時以上に緊張し、メイヴィスは背筋を伸ばす。
「メヴィ、匂いを遮断出来るような物は無いか?」
「へっ!?あ、ああ……セッカ花弁の消臭剤ならありますけど」
セッカの花弁には人が不快に思う匂いを吸収し、その上で自らの花の芳香をふりまく作用がある。とても強い雑草に分類される草花だが、赤色の綺麗な花を咲かせる事で有名だ。とはいえ、その毒々しい赤は好き嫌いがハッキリと分かれる代物だが。
ちなみに、その消臭剤はコンパクトさもあったせいか去年の初夏に馬鹿売れした。今年もオーダー分くらい作ったので、かなりの人気を誇っていると思われる。こっちとしては、雑草を抜いたついでに金も入って良い事尽くしだ。
しかし、アロイスの反応はあまり芳しいものではなかった。再び深く考え込んだその人が手を差し出してくる。
「効くだろうか……まあ、試すに越した事は無いが。1つ売ってくれ」
「あ、道具は必要経費としてマスターが手出ししてくれるので、後で私が話をしておきますね」
「必要経費の使い方を間違っていないか?まあいい」
アロイスの胸の辺りを見ながら、浅く息を吸いつつ、ローブから消臭剤を取り出す。大きさは手の平にすっぽり収まる程度の柔らかな球体。半透明なそれの中には半分ほど僅かに赤色のこれまた半透明な液体が入っている。
効果は玄関先などに置いている場合は1年程か。液体が透明になったら効果終了である。
それを手に取ったアロイスが微かな笑みを浮かべた。イケメンの笑顔を至近距離から浴びてしまい、危うく心臓が止まるかと思ったがギリギリ持ち堪える。
「陽の光に翳すとキラキラと輝いて良い置物になりそうだな。消臭剤か。俺も1つ買って、靴箱にでも置いた方が良いかな」
「それは名案ですね。我々のこの、鋼の靴は夏場に何か鉄錆のような臭いが漂ってきますし」
「女性であるお前の靴からもそんな臭いがするのか……。何故だろうな、俺だけが悩んでいる訳では無かったと安堵している」
会話を聞きながら、ちらと視線をブーツに落とす。確かに鎧とセットになっている彼等彼女等の足は鋼だ。夏場は汗を掻くだろうし、最悪の臭いがするのかも――
とはいうが、3人とも優雅な品格とか風格を漂わせている。ブーツからそんな臭いがするとは俄に信じ難い事実だ。
ムニムニと消臭剤を握ったり放したりしながら、ゆっくりとアロイスが玄関へ入る。入って、そして出て来た。
「――これでは効かない、というか追い付かないな」
「えっ、あ、あー……。そうですか。でも、それ以上の消臭剤は無いっていうか……お役に立てず、すいません」
「消臭剤ではなく、結界を張れるようなアイテムは無いか?洗脳効果のある芳香は、攻撃としてカウントされ、結界に阻まれるはずだ」
「な、成る程。流石はアロイスさん……!」
非戦闘員である以上、結界関係のマジックアイテムは常備している。自分の役割は、適所でアイテムを貸し出し、そして戦闘中は邪魔にならない事だ。これを徹底しなければ、次からクエストへ呼んで貰えなくなるので注意しなければならない。
一番手を突っ込みやすい場所にあるポケットから、手の平サイズの魔石を取り出す。魔石というのは簡単に言えば魔力が固形化したもの。つまり、この石ころそのものが魔力と言って差し支え無い。
この石が削れていき、無くなった時がアイテムの寿命が尽きた時。すでに一回り小さくなったそれをアロイスに手渡す。
「それも勝手に発動するタイプなので、そのまま入ってみて下さい」
「ああ、承知した」
「あの……これでも駄目だった時は……」
「皆で一度、対策を講じた方が良いだろう。お前だけが頭を悩ませる必要は無いから、安心すると良い」
再び魔石を片手で弄びながら玄関前へ。そこでたっぷり数秒立ち止まったアロイスがゆっくりとこちらを振り返った。
「これならば行けそうだ。メヴィ、後何個、同じモノを用意出来る?」
「えーっと、ちょっと待って下さいね」
スペアを入れているポケットを漁る。アロイスに貸した魔石ほどでは無いが、二回り程小さな魔石が3つ出て来た。奇しくも人数分ある、という事になる。
このサイズなら結界を延々と張り続けても2日は保つ。持久戦をするつもりもないだろうし、これは『ある』という事で良いだろう。
「あ、アロイスさん!それと合わせて、人数分あります」
「でかした。使い方は全て一緒か?」
「同じです」
魔石を3つ抱えていると、一番にヘルフリートが受け取りに来た。
「防御用のマジックアイテムを非戦闘員から取り上げるのは気が引けるな……。有り難く使わせて貰うよ、メヴィ」
「では、私も。ご安心下さい、私の優先護衛はメイヴィス殿ですから。失念したりはしません」
「何か、こう……。騎士職が3人もいると、何でも出来る気になってきますね」
ボディガードよろしく、付かず離れずの距離にピッタリと寄り添う姿勢を見せたヒルデガルトを前に変な自信すら湧き上がってくる。毎回死ぬかもしれないと思ってクエストに臨んでいるが、今回ばかりはそんな心配も要らないような気がしてきた。
「メヴィ、匂いを遮断出来るような物は無いか?」
「へっ!?あ、ああ……セッカ花弁の消臭剤ならありますけど」
セッカの花弁には人が不快に思う匂いを吸収し、その上で自らの花の芳香をふりまく作用がある。とても強い雑草に分類される草花だが、赤色の綺麗な花を咲かせる事で有名だ。とはいえ、その毒々しい赤は好き嫌いがハッキリと分かれる代物だが。
ちなみに、その消臭剤はコンパクトさもあったせいか去年の初夏に馬鹿売れした。今年もオーダー分くらい作ったので、かなりの人気を誇っていると思われる。こっちとしては、雑草を抜いたついでに金も入って良い事尽くしだ。
しかし、アロイスの反応はあまり芳しいものではなかった。再び深く考え込んだその人が手を差し出してくる。
「効くだろうか……まあ、試すに越した事は無いが。1つ売ってくれ」
「あ、道具は必要経費としてマスターが手出ししてくれるので、後で私が話をしておきますね」
「必要経費の使い方を間違っていないか?まあいい」
アロイスの胸の辺りを見ながら、浅く息を吸いつつ、ローブから消臭剤を取り出す。大きさは手の平にすっぽり収まる程度の柔らかな球体。半透明なそれの中には半分ほど僅かに赤色のこれまた半透明な液体が入っている。
効果は玄関先などに置いている場合は1年程か。液体が透明になったら効果終了である。
それを手に取ったアロイスが微かな笑みを浮かべた。イケメンの笑顔を至近距離から浴びてしまい、危うく心臓が止まるかと思ったがギリギリ持ち堪える。
「陽の光に翳すとキラキラと輝いて良い置物になりそうだな。消臭剤か。俺も1つ買って、靴箱にでも置いた方が良いかな」
「それは名案ですね。我々のこの、鋼の靴は夏場に何か鉄錆のような臭いが漂ってきますし」
「女性であるお前の靴からもそんな臭いがするのか……。何故だろうな、俺だけが悩んでいる訳では無かったと安堵している」
会話を聞きながら、ちらと視線をブーツに落とす。確かに鎧とセットになっている彼等彼女等の足は鋼だ。夏場は汗を掻くだろうし、最悪の臭いがするのかも――
とはいうが、3人とも優雅な品格とか風格を漂わせている。ブーツからそんな臭いがするとは俄に信じ難い事実だ。
ムニムニと消臭剤を握ったり放したりしながら、ゆっくりとアロイスが玄関へ入る。入って、そして出て来た。
「――これでは効かない、というか追い付かないな」
「えっ、あ、あー……。そうですか。でも、それ以上の消臭剤は無いっていうか……お役に立てず、すいません」
「消臭剤ではなく、結界を張れるようなアイテムは無いか?洗脳効果のある芳香は、攻撃としてカウントされ、結界に阻まれるはずだ」
「な、成る程。流石はアロイスさん……!」
非戦闘員である以上、結界関係のマジックアイテムは常備している。自分の役割は、適所でアイテムを貸し出し、そして戦闘中は邪魔にならない事だ。これを徹底しなければ、次からクエストへ呼んで貰えなくなるので注意しなければならない。
一番手を突っ込みやすい場所にあるポケットから、手の平サイズの魔石を取り出す。魔石というのは簡単に言えば魔力が固形化したもの。つまり、この石ころそのものが魔力と言って差し支え無い。
この石が削れていき、無くなった時がアイテムの寿命が尽きた時。すでに一回り小さくなったそれをアロイスに手渡す。
「それも勝手に発動するタイプなので、そのまま入ってみて下さい」
「ああ、承知した」
「あの……これでも駄目だった時は……」
「皆で一度、対策を講じた方が良いだろう。お前だけが頭を悩ませる必要は無いから、安心すると良い」
再び魔石を片手で弄びながら玄関前へ。そこでたっぷり数秒立ち止まったアロイスがゆっくりとこちらを振り返った。
「これならば行けそうだ。メヴィ、後何個、同じモノを用意出来る?」
「えーっと、ちょっと待って下さいね」
スペアを入れているポケットを漁る。アロイスに貸した魔石ほどでは無いが、二回り程小さな魔石が3つ出て来た。奇しくも人数分ある、という事になる。
このサイズなら結界を延々と張り続けても2日は保つ。持久戦をするつもりもないだろうし、これは『ある』という事で良いだろう。
「あ、アロイスさん!それと合わせて、人数分あります」
「でかした。使い方は全て一緒か?」
「同じです」
魔石を3つ抱えていると、一番にヘルフリートが受け取りに来た。
「防御用のマジックアイテムを非戦闘員から取り上げるのは気が引けるな……。有り難く使わせて貰うよ、メヴィ」
「では、私も。ご安心下さい、私の優先護衛はメイヴィス殿ですから。失念したりはしません」
「何か、こう……。騎士職が3人もいると、何でも出来る気になってきますね」
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