アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

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8話 魔道士の国

16.魔道士

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 およそ1時間弱。その間に分かった事が幾つかある。
 まず、アトノコンは非常に魔力伝達がスムーズに出来る素材だ。これで杖を造れば確実に魔法武器として素晴らしい性能を持つ得物へと変貌を遂げるだろう。
 そして、先程の危険物の液体で溶かしたアトノコンは、今度はなかなか固まらない。確実に強度を増してはいるが、最初の硬度を取り戻すのには数日掛かる事だろう。つまり杖の納品はやはりギルドから魔道国に帰った後になる。

「指示液、というのは結局何なんだ?」

 作業を見ていたアロイスが不意に訊ねた。メイヴィスはその問いに、数秒考え込んでから応じる。彼は確かに知識と経験豊富な御仁だが、錬金術師ではない。それを踏まえた上で、何と形容すれば伝わるだろうか。

「あの、秘伝のタレ的なアレですよ。はい」
「秘伝?」
「はい。前にも何だか説明したような気がしますが、それぞれ製法が異なるんです。指示液って、自分の弟子以外には教えちゃいけない事になってるんですよね。だから私も、作り方自体は弟子にしか教えない事になっています」
「門外不出の商売道具か。何だか良いな、そういうの」
「そうですか? 錬金術の発展を妨げている元凶でもあって、業界ではちょっと問題になってるんですよね」
「そうだろうな。ただでさえ錬金術師は年々衰退していっているのに、何を言っているんだと」
「ただ、共有財産にすべきだ、って術師に限って大した事の無い連中だったりする訳ですよ。何と言うか、皆に提供出来る技術を持っていない、とか。術師全体が疑心暗鬼に包まれている状態なんです」

 道具の片付けをしながらそれとはなく愚痴を溢す。正直、錬金術師の数が減り、金持ちの豪遊職みたいになっている現状には憂いを感じる。本来なら錬金術とは、魔法と道具の融合を目指す職だったはずだ。

 ――と、不意にアロイスがドアの方を向いた。
 どうしましたか、と聞くより早く彼はドアへ向かって声を掛ける。

「どうした?」
「お邪魔しま~す」

 店長、ユリアナだ。彼女は少しばかり困ったような顔をしていた。

「すいませ~ん。ちょっと手違いで~、お店に大量の品物が来ちゃいまして。すこぅしだけで良いので、お手伝いして頂けませんか~?」
「行こう。メヴィ、お前は俺が戻るまでに片付けを終えていてくれないか?」
「えっ、いやいや! アロイスさん、怪我してるじゃないですか。止めときましょう! 私、ユリアナさんと一緒に荷物運びしますから!」
「問題無い。元々、肉体労働をする為にいるんだ。ここで遊んでいる訳にはいかないさ」

 大丈夫ですか? とユリアナもそう訊ねるが、アロイスは頑として荷物持ちの役割を譲る気は無いようだった。本人がいやに自信満々に大丈夫と言うのだし、本当に大丈夫なのかもしれない。
 これ以上はアロイスに対して失礼に当たると思い、メイヴィスは騎士の背を見送った。変わり、片付ける手を早める。早くここを片して、上を手伝いに行かなければ。

 片付ける手を休めず、昨日――正確には今日あったアトノコンについて想いを馳せる。何となく慌ただしかったので有耶無耶になっていたが、どうにかして自分も戦闘に参加しなければ。
 ああやって物理が効きにくい魔物というのは珍しくない。アロイスは言うまでもなく、物理特化型なので魔法攻撃は本当に手が足りない時にしか使わないのがありありと分かる。

 ――アイテムボックスなんですぅ。などと言っている場合では無い。
 どうにかして、多少なりとも魔道職として振る舞えるように工夫が必要だ。立っているだけで、役立たずどころか足を引っ張るなど論外も良いところ。アロイスは何も言わなかったが、今日のような失態をしようものならば普通の人ならパーティを解消されている。

 魔力補助具を生み出そう。何せ、魔力量は常人程度しかない。即ち、大規模魔法をガンガン撃てるような才能は無い。であれば、道具の力を頼って形だけでも魔道職を気取らなければ。
 ギルドに帰ったら、専用の魔法武器でも造ってみよう。身を護る為、護身用のそれではなく積極的に戦闘へ参加する為の道具を。
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