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9話 アルケミストの武器
01.マスターの忠告
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アトノコン討伐からきっかり24時間が経過した。数時間前から計画していた、ギルドへ戻る為の船のチケットが思いの外簡単に入手できたので、現在は帰宅の船上だ。
ギルドへ戻ってやる事がたくさんある。
まずはアロイスの療養。これは何よりも優先事項で、一応ヴァレンディアにある診療所で診て貰ったのだが、不安過ぎるのでコゼットでもう一度検診して貰おうと画策している。
そして第二にアロイスの武器を修復する事。魔道士の国と銘打たれたヴァレンディアでは、当然ながら魔道職が絶対に使わないであろう両手の塞がるオーダーメイドの大剣を修理出来る店など無かった。
「良い風だな」
三角巾で腕を吊っているアロイスが呟いて目を眇めた。痛々しい怪我人過ぎて、同じ船に乗り合わせた客からは恐怖を帯びた目で見られている彼だが、本人はどこ吹く風と言ったところだ。
思わず引き攣った笑みを浮かべたメイヴィスは緩く頷いた。
「え、ええ。良い風ですね。船、滅茶苦茶揺れてますけど……」
波の高さ、3メートル。雨こそ降ってはいないが、曇り空はいつ泣き出すか分からない様相だ。お陰様で今日の船旅は船室にすし詰め状態。良い風もクソも無いし、ぶっちゃけ強風なので良い風とも言い難い。
しかし。しかしだ。
メイヴィスは心中で苦笑を浮かべる。
何であれ、彼がそうだと言うのならばそうなのだ。烏が白いと言えば白いし、良い風と言えば良い風。悪風? まさか。爽やかな風が吹いているではないか。
この日、酔い止めの甲斐なく船酔いしたメイヴィスが立ち直るのに掛かった時間は、2時間と21分だった。
***
半日掛けて戻ったギルド。いきなり帰って来て皆を驚かせてやろうと思ったのだが、何故かギルド前でマスター・オーガストが腕を組み仁王立ちしていた。
「やぁ! やぁやぁ!! 戻ったな、メヴィ! アロイス!」
「は、はあ。ただいま……。マスターは何故外に? タイガーマスクがギルド前に立ってると、依頼人が萎縮しちゃうと思いますけど」
「お前達の帰りを待っていたのだ!!」
「おかしいな……。何の連絡もしてないはずなのに」
「はっはっはっは!! 些事も些事よ、そのような事! 私に分からない事など無いッ!!」
――マジかよスゲー。マスターってスゲー。
投げやり気味に、無理矢理この不可解な事象を呑み込む。考えたら負けだ。考えたら負けだ……!
「えぇっと、その、アロイスさんの大剣を修復しに戻って来て。私達」
「エルトンとシノならば! 地下の工房に居るぞ!! 私がとやかく言う事では無いが、その質量の鉄を打つのならば時間が掛かるだろう! 早めに訪ねる事を勧めるッ!!」
アロイスが僅かに怪訝そうな顔をし、微かに首を傾げた。
「いえ、俺が頼みたいのは武器の修繕だけですから。そう時間は掛からないかと」
「エルトンに頼めるのならば、時間は掛からんだろう。しかしまあ、現状でかなり難しいとは思うが。シノなら面白半分でやってくれるかもしれんが……半人前よ、半人前! 時間は長く見積もると良いだろう!!」
「エルトン殿はお忙しいのですか?」
「いいや。ただ彼は職人なのだよ! 職人というのがどういったものか……もうお前には分かっているはずだよ」
イケイケゴーゴー、というテンションのオーガストが珍しくも穏やかにそう言った。何の話だかさっぱり分からないが、その言葉にアロイスの方は心当たりがあるようだ。険しい顔をしている。
ともあれ、順番的にまずは地下の工房へ行くべきだろう。何せ、時間が掛かりそうなのはアロイスの大剣だ。オーガストはエルトンが忙しくない、とそうニュアンスで話していたが実際問題、エルトンはそこそこ忙しい。予約を入れておかなければ。
「何だか分かりませんけど、急ぎましょう。アロイスさん! エルトンさんは、どっちかって言うと暇な人じゃないですし」
「ああ、そうだな。では、マスター」
「ああ! 良い里帰りを楽しんでくれたまえ!!」
手を振ってオーガストと別れる。
ギルドの中へ入ったところで、聞き覚えのある声が鼓膜を叩いた。
「あっれー!? メヴィじゃん! どうしたのかなっ? 早かったね、帰って来るの!」
「ナターリア!」
初手、猫被り。少し性格が変わっただろうか。誰かの助言を受けて、より女の子らしくなる努力をしている彼女は口調が一定期間でころころと変わる。
ナターリアの姿を見咎めたアロイスが肩に手を置いてきた。吃驚して高い位置にある顔を見上げる。
「エルトン殿と会ってくる。メヴィ、お前はナターリアと話をしていていいぞ。久しぶり――でもないが」
では、と颯爽と手を振ってアロイスは地下へ続く階段へと歩き去って行った。気を遣われてしまったようだ。
しかし、後回しでも良かったのだがナターリアと話をしたかったのも事実。「急いでいるのかな?」、とアロイスを見送って首を傾げている友人にメイヴィスは声を掛けた。
ギルドへ戻ってやる事がたくさんある。
まずはアロイスの療養。これは何よりも優先事項で、一応ヴァレンディアにある診療所で診て貰ったのだが、不安過ぎるのでコゼットでもう一度検診して貰おうと画策している。
そして第二にアロイスの武器を修復する事。魔道士の国と銘打たれたヴァレンディアでは、当然ながら魔道職が絶対に使わないであろう両手の塞がるオーダーメイドの大剣を修理出来る店など無かった。
「良い風だな」
三角巾で腕を吊っているアロイスが呟いて目を眇めた。痛々しい怪我人過ぎて、同じ船に乗り合わせた客からは恐怖を帯びた目で見られている彼だが、本人はどこ吹く風と言ったところだ。
思わず引き攣った笑みを浮かべたメイヴィスは緩く頷いた。
「え、ええ。良い風ですね。船、滅茶苦茶揺れてますけど……」
波の高さ、3メートル。雨こそ降ってはいないが、曇り空はいつ泣き出すか分からない様相だ。お陰様で今日の船旅は船室にすし詰め状態。良い風もクソも無いし、ぶっちゃけ強風なので良い風とも言い難い。
しかし。しかしだ。
メイヴィスは心中で苦笑を浮かべる。
何であれ、彼がそうだと言うのならばそうなのだ。烏が白いと言えば白いし、良い風と言えば良い風。悪風? まさか。爽やかな風が吹いているではないか。
この日、酔い止めの甲斐なく船酔いしたメイヴィスが立ち直るのに掛かった時間は、2時間と21分だった。
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半日掛けて戻ったギルド。いきなり帰って来て皆を驚かせてやろうと思ったのだが、何故かギルド前でマスター・オーガストが腕を組み仁王立ちしていた。
「やぁ! やぁやぁ!! 戻ったな、メヴィ! アロイス!」
「は、はあ。ただいま……。マスターは何故外に? タイガーマスクがギルド前に立ってると、依頼人が萎縮しちゃうと思いますけど」
「お前達の帰りを待っていたのだ!!」
「おかしいな……。何の連絡もしてないはずなのに」
「はっはっはっは!! 些事も些事よ、そのような事! 私に分からない事など無いッ!!」
――マジかよスゲー。マスターってスゲー。
投げやり気味に、無理矢理この不可解な事象を呑み込む。考えたら負けだ。考えたら負けだ……!
「えぇっと、その、アロイスさんの大剣を修復しに戻って来て。私達」
「エルトンとシノならば! 地下の工房に居るぞ!! 私がとやかく言う事では無いが、その質量の鉄を打つのならば時間が掛かるだろう! 早めに訪ねる事を勧めるッ!!」
アロイスが僅かに怪訝そうな顔をし、微かに首を傾げた。
「いえ、俺が頼みたいのは武器の修繕だけですから。そう時間は掛からないかと」
「エルトンに頼めるのならば、時間は掛からんだろう。しかしまあ、現状でかなり難しいとは思うが。シノなら面白半分でやってくれるかもしれんが……半人前よ、半人前! 時間は長く見積もると良いだろう!!」
「エルトン殿はお忙しいのですか?」
「いいや。ただ彼は職人なのだよ! 職人というのがどういったものか……もうお前には分かっているはずだよ」
イケイケゴーゴー、というテンションのオーガストが珍しくも穏やかにそう言った。何の話だかさっぱり分からないが、その言葉にアロイスの方は心当たりがあるようだ。険しい顔をしている。
ともあれ、順番的にまずは地下の工房へ行くべきだろう。何せ、時間が掛かりそうなのはアロイスの大剣だ。オーガストはエルトンが忙しくない、とそうニュアンスで話していたが実際問題、エルトンはそこそこ忙しい。予約を入れておかなければ。
「何だか分かりませんけど、急ぎましょう。アロイスさん! エルトンさんは、どっちかって言うと暇な人じゃないですし」
「ああ、そうだな。では、マスター」
「ああ! 良い里帰りを楽しんでくれたまえ!!」
手を振ってオーガストと別れる。
ギルドの中へ入ったところで、聞き覚えのある声が鼓膜を叩いた。
「あっれー!? メヴィじゃん! どうしたのかなっ? 早かったね、帰って来るの!」
「ナターリア!」
初手、猫被り。少し性格が変わっただろうか。誰かの助言を受けて、より女の子らしくなる努力をしている彼女は口調が一定期間でころころと変わる。
ナターリアの姿を見咎めたアロイスが肩に手を置いてきた。吃驚して高い位置にある顔を見上げる。
「エルトン殿と会ってくる。メヴィ、お前はナターリアと話をしていていいぞ。久しぶり――でもないが」
では、と颯爽と手を振ってアロイスは地下へ続く階段へと歩き去って行った。気を遣われてしまったようだ。
しかし、後回しでも良かったのだがナターリアと話をしたかったのも事実。「急いでいるのかな?」、とアロイスを見送って首を傾げている友人にメイヴィスは声を掛けた。
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