82 / 139
9話 アルケミストの武器
02.ナターリアとの約束
しおりを挟む
彼女には聞きたい事があった。というか、別にナターリアでなくてもいい。ギルドにいる女性なら誰でも。
「ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「どうしたのかな?」
「えぇっと、ちょっと……強くなる方法について……」
先日の一件以降、ずっと考えていた事だ。しかし、ナターリアやウィルドレディアみたいに強靱な戦闘能力は必要ない。必要なのは、サポート出来、且つ雑魚処理くらいなら出来る程度の標準的な力だ。
そもそもが誰かと争うのに適さない性格なので、戦闘行為に積極的に持ち込めないのが自分の弱さの秘訣であるのは明白だが、持って生まれたものなので矯正のしようもない。
ともあれ、ナターリアは完全に被っている猫の剥がれた顔で、あからさまに疑問の表情を浮かべた。「何を言い出すんだ突然」、とありありと描かれている。
「何かあったの? 別にアロイスさん居るんだから、無理に向かない事する必要ないよ。碌な事にならないし。ぶっちゃけ、メヴィは戦闘向きじゃないしね」
「いや分かってるんだけどさ。私とアロイスさん、2人しかいないんだよ? 私がいなかったらアロイスさんソロじゃん……」
「ああ、怪我してたね。そういえば」
「そういえば、じゃないんだって! あと、猫被れてないよ。ナタ」
きゅるん、というマジカルな効果音が聞こえた気がした。
瞬きの刹那にはいつもの『可愛らしい』ナターリアへと変貌する。
「まあ、言わんとする事は理解したよっ!」
「あ、ああ。そう……。それで、ナタは何をしてたらそんなに躊躇い無く人をぶん殴れるようになったの?」
「えー? そんなの、分かんないよ! 私は獣人だから、生まれた時から身体能力はヒューマンより高い訳だし! 種族補正と、あとは……好戦的な性格じゃないかなっ!」
「そうだけどさ。格闘技とか囓ってるんじゃないの?」
「う~ん、それらしい事はしてないけどなっ! 取り敢えず、裏で手合わせでもしてみる?」
――それはそれで恐ろしい気がする。
とはいえ、折角の機会だ。アロイスがどうなったのか確認したら、お願いしてみよう。
「アロイスさんを待たせてるから、様子見て来てからお願いしていい? それとも、クエストに行っちゃう?」
「ううん、暇だよっ! アロイスさんを早く追い掛けた方が良いんじゃないかなっ! あの人、すぐにどっか行っちゃうし!」
「そうだね。ちょっと行って来る」
「私はロビーにいるからねっ!」
手を振ってナターリアと別れ、地下の鍛冶場へ行ったアロイスの様子を見に向かう。慣れた足取りで地下へ赴くと、久しぶりに鍛冶場の熱気が伝わってきた。昔は地下に工房だなんて気が狂っているとしか思えなかったが、魔法の力とは偉大だ。
部屋の前まで来ると、中から男2人の声が聞こえてきた。間違い無くアロイスと鍛冶場の大将であるエルトンだ。
「……では、補強はして貰えないと?」
「ああ。うちは鍛冶屋であって、鉄くずを生成する場所じゃない」
――あれ、何か揉めてる?
不穏な空気だ。アロイスは通常と変わらない声音だが、エルトンの声は明らかに不機嫌さを孕んでいる。
どうしたのだろうか。エルトンは変わった武器を好ましく思うタイプの鍛冶師なので、完全オーダーメイドのアロイス大剣について依頼を拒否するはずがないのだが。
「お邪魔しまーす、どうなりましたか?」
これ以上、揉め事に発展する前にと何も知らないふりをして鍛冶場に足を踏み入れる。案の定、酷く不機嫌そうなエルトンと目が合ってしまい、暑いはずなのに冷たい汗が流れた。
そして、最初の問い。メイヴィスの第一声に答えを寄越したのは、珍しく黙って静かにしているエルトンの弟子、シノだった。
「見ての通りさ。やっぱりアロイスの大剣は、うちで補強する気は無いらしいよ」
「ええー……」
「師匠は錬金術製の武器が嫌いだからさ。仕方ないね」
そういえば、すっかり忘れていたがアロイスの武器は錬金術によるオーダーメイドだ。
武器の内部構造もよく分からない、大剣など使った事も手に持った事も無い術師が造りだした武器。形だけを真似た、ただの刃物。
端的に言って、誇りのある鍛冶師であるエルトンは職人気質の気がある。アロイスの武器を補修してくれる事は無さそうだ。
「ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「どうしたのかな?」
「えぇっと、ちょっと……強くなる方法について……」
先日の一件以降、ずっと考えていた事だ。しかし、ナターリアやウィルドレディアみたいに強靱な戦闘能力は必要ない。必要なのは、サポート出来、且つ雑魚処理くらいなら出来る程度の標準的な力だ。
そもそもが誰かと争うのに適さない性格なので、戦闘行為に積極的に持ち込めないのが自分の弱さの秘訣であるのは明白だが、持って生まれたものなので矯正のしようもない。
ともあれ、ナターリアは完全に被っている猫の剥がれた顔で、あからさまに疑問の表情を浮かべた。「何を言い出すんだ突然」、とありありと描かれている。
「何かあったの? 別にアロイスさん居るんだから、無理に向かない事する必要ないよ。碌な事にならないし。ぶっちゃけ、メヴィは戦闘向きじゃないしね」
「いや分かってるんだけどさ。私とアロイスさん、2人しかいないんだよ? 私がいなかったらアロイスさんソロじゃん……」
「ああ、怪我してたね。そういえば」
「そういえば、じゃないんだって! あと、猫被れてないよ。ナタ」
きゅるん、というマジカルな効果音が聞こえた気がした。
瞬きの刹那にはいつもの『可愛らしい』ナターリアへと変貌する。
「まあ、言わんとする事は理解したよっ!」
「あ、ああ。そう……。それで、ナタは何をしてたらそんなに躊躇い無く人をぶん殴れるようになったの?」
「えー? そんなの、分かんないよ! 私は獣人だから、生まれた時から身体能力はヒューマンより高い訳だし! 種族補正と、あとは……好戦的な性格じゃないかなっ!」
「そうだけどさ。格闘技とか囓ってるんじゃないの?」
「う~ん、それらしい事はしてないけどなっ! 取り敢えず、裏で手合わせでもしてみる?」
――それはそれで恐ろしい気がする。
とはいえ、折角の機会だ。アロイスがどうなったのか確認したら、お願いしてみよう。
「アロイスさんを待たせてるから、様子見て来てからお願いしていい? それとも、クエストに行っちゃう?」
「ううん、暇だよっ! アロイスさんを早く追い掛けた方が良いんじゃないかなっ! あの人、すぐにどっか行っちゃうし!」
「そうだね。ちょっと行って来る」
「私はロビーにいるからねっ!」
手を振ってナターリアと別れ、地下の鍛冶場へ行ったアロイスの様子を見に向かう。慣れた足取りで地下へ赴くと、久しぶりに鍛冶場の熱気が伝わってきた。昔は地下に工房だなんて気が狂っているとしか思えなかったが、魔法の力とは偉大だ。
部屋の前まで来ると、中から男2人の声が聞こえてきた。間違い無くアロイスと鍛冶場の大将であるエルトンだ。
「……では、補強はして貰えないと?」
「ああ。うちは鍛冶屋であって、鉄くずを生成する場所じゃない」
――あれ、何か揉めてる?
不穏な空気だ。アロイスは通常と変わらない声音だが、エルトンの声は明らかに不機嫌さを孕んでいる。
どうしたのだろうか。エルトンは変わった武器を好ましく思うタイプの鍛冶師なので、完全オーダーメイドのアロイス大剣について依頼を拒否するはずがないのだが。
「お邪魔しまーす、どうなりましたか?」
これ以上、揉め事に発展する前にと何も知らないふりをして鍛冶場に足を踏み入れる。案の定、酷く不機嫌そうなエルトンと目が合ってしまい、暑いはずなのに冷たい汗が流れた。
そして、最初の問い。メイヴィスの第一声に答えを寄越したのは、珍しく黙って静かにしているエルトンの弟子、シノだった。
「見ての通りさ。やっぱりアロイスの大剣は、うちで補強する気は無いらしいよ」
「ええー……」
「師匠は錬金術製の武器が嫌いだからさ。仕方ないね」
そういえば、すっかり忘れていたがアロイスの武器は錬金術によるオーダーメイドだ。
武器の内部構造もよく分からない、大剣など使った事も手に持った事も無い術師が造りだした武器。形だけを真似た、ただの刃物。
端的に言って、誇りのある鍛冶師であるエルトンは職人気質の気がある。アロイスの武器を補修してくれる事は無さそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※基本週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる