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10話 出張! シルベリア!
04.案内人と昔の記憶
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***
「ず、随分と遠い場所にありましたね……」
メイヴィスはぐったりと息を吐き出しながらそう呟いた。
街を出てからかれこれ2時間半。ようやく目指していた人魚村が見えて来た。ここへ来るまでに森を抜け林を抜け、道のりの割には遠く感じた。障害物が多すぎるせいだろう。
しかし、少し前を歩いているアロイスはと言うと元気なもので、疲れ切ったメイヴィスとは対称的だった。まだまだ歩けそう。騎士と錬金術師では、体力のキャパがそもそも違うだろうが。
それにしても、村民はどうやって生活しているのだろうか。街へ行くのにも不便で仕方ないだろうに。
村の入り口には談笑を楽しむ男女が陣取っていた。華やかな笑い声を漏らしながら話をしていたが、こちらに気付くとにこやかに会釈する。
「こんにちは~」
軽やかな足取りで女性が近付いてきた。何故だろう、全く謂われのない違和感を覚える。元気溌剌、活気に満ち溢れた彼女は嬉々として言葉を紡ぎ始める。
「観光の方ですか? ようこそ、人魚村へ!」
「ああ。静かで良い村だな」
「随分と重装備ですね。お兄さん、どこから来たんですか?」
「少々国境を越えてな。折角、シルベリアまで足を伸ばしたんだ。国内を見て回らなければ、損だろう?」
「そうですよね! かくいううちの村も、観光事業で食っていかなきゃならないのに立地のせいで人が来なくて!」
どうやら彼女等は門番兼案内人のようだった。明らかに暇を持て余していたが。ちらちらっ、とアロイスの顔色を伺った彼女は薄く頬を染めている。ああこの光景、ギルドでアロイスが初めてやって来た時の女性陣の反応に似ているな。
遠い日、まだストーカーモドキだった自分の存在を思い出し、メイヴィスは苦笑した。今となっては考えられないが、遠くからアロイスの動向を眺めているだけだった時期が、確かにあったのだ。
「メヴィ、素材を集めたくはないか?」
「えっ? え、あ、ああ! そうですね。素材は欲しいです!」
考え事をしていたせいで、話を全く聞いていなかった。しかし、それに頓着する様子も無い騎士は更に女性と話を進める。
「そうだな……。メヴィの素材も良いが、先に腹ごしらえにしよう。どこか、食事が出来る場所は無いか?」
「村の中になら。観光事業を名乗れる程じゃないですけど、まあまあ人は来ますからね!」
「そこへはどうやって?」
「私が案内致しますよ。それが仕事ですから。あ、チップは要りません!」
案内を賜っておきながら、チップは受け取らないらしい。随分と太っ腹である。個人財産と村の共有財産はイコールなのだろうか。であれば、個人財産など無きに等しいのでがめつく金に集る必要が無くなるのかもしれない。
こちらですよ、と軽やかに歩いて行く女性の後を追う。
前を歩く彼女をメイヴィスはじんわりと観察した。この寒い気候の中、やや口の開いた可愛らしいワンピース。薄い上着を引っ掛けてはいるが、寒くはないのだろうか。輝く白い肌はまるで赤子のようだ。
――若々しい。まるで不自然な程に、彼女は若々しかった。しかし、一方でナターリアの話によると寒い国の女性は色白が多いらしい。彼女もその延長上に位置するのだろうか。
悶々と考えていると、定食屋に到着した。満面の笑みを浮かべた彼女は、その店を指さす。
「ここです! 私のオススメは焼き魚定食ですよ。魚が美味しいんです、うちの村は」
「そうか、有り難う」
「いえいえ。それじゃあ、また何かあったら是非私に声を掛けて下さいね!」
もう一度、チラッとアロイスを伺った彼女は大きく手を振って村の入り口へ続く道を戻って行った。そんな彼女を気にした風もなく、アロイスが店の中へ入って行く。慌ててその後を追った。
通された机に座り、メニューを開く。自分達以外にも、観光と思わしき男女が座っていたり、村の住人らしき人達が昼食を摂っていたりと人の姿は案外多い。
「メヴィ」
「あ、はい。何ですか、アロイスさん?」
「ぼうっとしていたようだが、何か考え事か?」
「あっ、いや……。さっきの案内してくれた女の人を見ていたら、アロイスさんがギルドへ来て間もない頃を思い出しました」
「ほう。それは何故だ?」
心なしか興味深そうに訊ねられて一瞬だけ息が止まる。さっきの彼女の振る舞いに当てられたのだろうか、最近は慣れて上がり辛くなっていた心拍数が急上昇するのを感じる。
僅かに目を逸らしたメイヴィスはボンヤリとアロイスの問いに答えた。
「アロイスさん、は、その……ギルドへ初めて来た時から、女の子達の注目を浴びていましたから」
「そうだったか?」
「そ、そうですよ!」
――私もストーカー紛いの事をしていました。
とは流石に言えず、口を噤む。今、こうして観光などとのんびりしているのは本当に奇跡。最近は色々と忙し過ぎて失念していたが、自分如きがこのキラキラと輝く存在の傍に居座って良いのだろうか。
「ず、随分と遠い場所にありましたね……」
メイヴィスはぐったりと息を吐き出しながらそう呟いた。
街を出てからかれこれ2時間半。ようやく目指していた人魚村が見えて来た。ここへ来るまでに森を抜け林を抜け、道のりの割には遠く感じた。障害物が多すぎるせいだろう。
しかし、少し前を歩いているアロイスはと言うと元気なもので、疲れ切ったメイヴィスとは対称的だった。まだまだ歩けそう。騎士と錬金術師では、体力のキャパがそもそも違うだろうが。
それにしても、村民はどうやって生活しているのだろうか。街へ行くのにも不便で仕方ないだろうに。
村の入り口には談笑を楽しむ男女が陣取っていた。華やかな笑い声を漏らしながら話をしていたが、こちらに気付くとにこやかに会釈する。
「こんにちは~」
軽やかな足取りで女性が近付いてきた。何故だろう、全く謂われのない違和感を覚える。元気溌剌、活気に満ち溢れた彼女は嬉々として言葉を紡ぎ始める。
「観光の方ですか? ようこそ、人魚村へ!」
「ああ。静かで良い村だな」
「随分と重装備ですね。お兄さん、どこから来たんですか?」
「少々国境を越えてな。折角、シルベリアまで足を伸ばしたんだ。国内を見て回らなければ、損だろう?」
「そうですよね! かくいううちの村も、観光事業で食っていかなきゃならないのに立地のせいで人が来なくて!」
どうやら彼女等は門番兼案内人のようだった。明らかに暇を持て余していたが。ちらちらっ、とアロイスの顔色を伺った彼女は薄く頬を染めている。ああこの光景、ギルドでアロイスが初めてやって来た時の女性陣の反応に似ているな。
遠い日、まだストーカーモドキだった自分の存在を思い出し、メイヴィスは苦笑した。今となっては考えられないが、遠くからアロイスの動向を眺めているだけだった時期が、確かにあったのだ。
「メヴィ、素材を集めたくはないか?」
「えっ? え、あ、ああ! そうですね。素材は欲しいです!」
考え事をしていたせいで、話を全く聞いていなかった。しかし、それに頓着する様子も無い騎士は更に女性と話を進める。
「そうだな……。メヴィの素材も良いが、先に腹ごしらえにしよう。どこか、食事が出来る場所は無いか?」
「村の中になら。観光事業を名乗れる程じゃないですけど、まあまあ人は来ますからね!」
「そこへはどうやって?」
「私が案内致しますよ。それが仕事ですから。あ、チップは要りません!」
案内を賜っておきながら、チップは受け取らないらしい。随分と太っ腹である。個人財産と村の共有財産はイコールなのだろうか。であれば、個人財産など無きに等しいのでがめつく金に集る必要が無くなるのかもしれない。
こちらですよ、と軽やかに歩いて行く女性の後を追う。
前を歩く彼女をメイヴィスはじんわりと観察した。この寒い気候の中、やや口の開いた可愛らしいワンピース。薄い上着を引っ掛けてはいるが、寒くはないのだろうか。輝く白い肌はまるで赤子のようだ。
――若々しい。まるで不自然な程に、彼女は若々しかった。しかし、一方でナターリアの話によると寒い国の女性は色白が多いらしい。彼女もその延長上に位置するのだろうか。
悶々と考えていると、定食屋に到着した。満面の笑みを浮かべた彼女は、その店を指さす。
「ここです! 私のオススメは焼き魚定食ですよ。魚が美味しいんです、うちの村は」
「そうか、有り難う」
「いえいえ。それじゃあ、また何かあったら是非私に声を掛けて下さいね!」
もう一度、チラッとアロイスを伺った彼女は大きく手を振って村の入り口へ続く道を戻って行った。そんな彼女を気にした風もなく、アロイスが店の中へ入って行く。慌ててその後を追った。
通された机に座り、メニューを開く。自分達以外にも、観光と思わしき男女が座っていたり、村の住人らしき人達が昼食を摂っていたりと人の姿は案外多い。
「メヴィ」
「あ、はい。何ですか、アロイスさん?」
「ぼうっとしていたようだが、何か考え事か?」
「あっ、いや……。さっきの案内してくれた女の人を見ていたら、アロイスさんがギルドへ来て間もない頃を思い出しました」
「ほう。それは何故だ?」
心なしか興味深そうに訊ねられて一瞬だけ息が止まる。さっきの彼女の振る舞いに当てられたのだろうか、最近は慣れて上がり辛くなっていた心拍数が急上昇するのを感じる。
僅かに目を逸らしたメイヴィスはボンヤリとアロイスの問いに答えた。
「アロイスさん、は、その……ギルドへ初めて来た時から、女の子達の注目を浴びていましたから」
「そうだったか?」
「そ、そうですよ!」
――私もストーカー紛いの事をしていました。
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