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10話 出張! シルベリア!
05.観光名所の湖
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運ばれて来た焼き魚定食を一口、口に運ぶ。丁度良い塩加減、脂の乗った身、摺り下ろされた大根の辛さと相俟って絶妙な風味を醸し出している。案内人の彼女は魚料理がオススメだと言っていたが、成る程確かに頷ける味だ。
メイヴィスは満足そうに息を吐き出した。基本的に工房篭もり、食べ物の味など二の次な生活を送っていたので、時折の外食が酷く美味しく感じるのはご愛敬である。
不意に視線を感じて目線を上げると、薄く微笑むアロイスと目が合った。微笑ましい――強いて言うのならば、幼子を見守る大人のような目だ。
「ど、どうかしたんですか? 顔に何か付いてます?」
「ああいや。美味しそうに食べるな、と思ってな」
「はあ、そうでしょうか……」
「あまり外食をしないからな。食事に興味などないのかと勝手に思っていた」
「いやあ、食べる暇が無いっていうか……わざわざ、時間を割こうとは思わないだけです。はい」
「そうか。コゼットに飯の美味い店がある。今度連れて行こう」
――やった! 新しい約束ゲット!
思わぬ出来事に、メイヴィスは上機嫌に鼻を鳴らした。いや本当に、かつての状況であれば絶対にあり得ない構図だ。人生、何が起こるか分からないものである。
「食事を終えたら……そうだな、そこから見える、湖にでも行ってみるか」
「アロイスさんって観察力がありますね」
彼が見ているのは、近場の窓ではなく、反対側の遠く離れた窓の外の風景だ。前々から思っていたが、こんなに鋭い彼はその実、変な所で間が抜けていると思う。締めるべき所は締めているから問題は無いのだろうが。
***
食事を早々に終え、外へ出て来たメイヴィスは広がる光景に目を眇めた。今日は実に良い天気だが、例の名物・湖はキラキラと細い光を反射している。見事に半分だけ氷が張ってあり、僅かに湖の水へと溶け出して不思議な様相を醸し出していた。これが大自然の神秘と言うやつか、と勝手に納得してしまう。
「何と言うか、言葉を失いますね、こういう風景を観ていると」
「全くだな。それにしても、これはどういう原理なのだろうか……」
「ちょ! 無粋な話は止めましょうよ!」
「そういうものか」
地質学的な話が始まってはかなわないと、慌てて話を遮る。こういう所にクエストで出向くと、誰か必ずこういった話を始める輩が居るのだから人間とは個性豊かな生き物である。
それにしても、観光名所であるのに人の姿がほぼほぼ無いのは何故だろうか。閑散としていて、まさか関係者以外立ち入り禁止なのではと勘繰ってしまう程だ。
観光を事業にしたいと言っていた割には道も舗装されていなかった。メイヴィスもまた、いくら貧弱とは言えギルドの一員であった為、何とかここに辿り着く事が出来たが果たして一般人はここまで徒歩で来る事が出来るのだろうか。舗装されていない獣道など、シティ派の高級嗜好者達には厳しいだろうに。
「アロイスさん、静かで良い場所ですね」
「……ん? すまない、聞いていなかった。どうかしたか?」
「あっ、いや、別に大した事は言っていないんですけどね……」
流石に中身の無い発言をもう一度する度胸は無かったので、何事も無かったかのようにすっとぼけた。アロイスは首を傾げている。
「それより、アロイスさんは何か見つけたんですか?」
「……というか、空気の抜ける音が聞こえるな。この下、何かあるのか?」
「へえ! 大発見ですね。洞窟とか、あったりして」
軽口を叩いてみたものの、アロイスは何やら真剣な表情を浮かべている。更には、踵で地面を叩いてみたりと空気の通り道を探している様子だ。
「やはり、この下に何か大きな空洞があるな」
「え、穴でも掘って確かめてみます?」
「いや。天井が脆くなっていて、全面崩落したら危険だ。どこかにある入り口を探した方が建設的だな」
「この下にあるって事は、入り口も私達の足下より下の方にあるって事でしょうか?」
「その可能性は高いが……」
言い淀んだアロイスの視線は湖に向けられている。確かに、足下より下、と言えば水の中とも言える。
メイヴィスは満足そうに息を吐き出した。基本的に工房篭もり、食べ物の味など二の次な生活を送っていたので、時折の外食が酷く美味しく感じるのはご愛敬である。
不意に視線を感じて目線を上げると、薄く微笑むアロイスと目が合った。微笑ましい――強いて言うのならば、幼子を見守る大人のような目だ。
「ど、どうかしたんですか? 顔に何か付いてます?」
「ああいや。美味しそうに食べるな、と思ってな」
「はあ、そうでしょうか……」
「あまり外食をしないからな。食事に興味などないのかと勝手に思っていた」
「いやあ、食べる暇が無いっていうか……わざわざ、時間を割こうとは思わないだけです。はい」
「そうか。コゼットに飯の美味い店がある。今度連れて行こう」
――やった! 新しい約束ゲット!
思わぬ出来事に、メイヴィスは上機嫌に鼻を鳴らした。いや本当に、かつての状況であれば絶対にあり得ない構図だ。人生、何が起こるか分からないものである。
「食事を終えたら……そうだな、そこから見える、湖にでも行ってみるか」
「アロイスさんって観察力がありますね」
彼が見ているのは、近場の窓ではなく、反対側の遠く離れた窓の外の風景だ。前々から思っていたが、こんなに鋭い彼はその実、変な所で間が抜けていると思う。締めるべき所は締めているから問題は無いのだろうが。
***
食事を早々に終え、外へ出て来たメイヴィスは広がる光景に目を眇めた。今日は実に良い天気だが、例の名物・湖はキラキラと細い光を反射している。見事に半分だけ氷が張ってあり、僅かに湖の水へと溶け出して不思議な様相を醸し出していた。これが大自然の神秘と言うやつか、と勝手に納得してしまう。
「何と言うか、言葉を失いますね、こういう風景を観ていると」
「全くだな。それにしても、これはどういう原理なのだろうか……」
「ちょ! 無粋な話は止めましょうよ!」
「そういうものか」
地質学的な話が始まってはかなわないと、慌てて話を遮る。こういう所にクエストで出向くと、誰か必ずこういった話を始める輩が居るのだから人間とは個性豊かな生き物である。
それにしても、観光名所であるのに人の姿がほぼほぼ無いのは何故だろうか。閑散としていて、まさか関係者以外立ち入り禁止なのではと勘繰ってしまう程だ。
観光を事業にしたいと言っていた割には道も舗装されていなかった。メイヴィスもまた、いくら貧弱とは言えギルドの一員であった為、何とかここに辿り着く事が出来たが果たして一般人はここまで徒歩で来る事が出来るのだろうか。舗装されていない獣道など、シティ派の高級嗜好者達には厳しいだろうに。
「アロイスさん、静かで良い場所ですね」
「……ん? すまない、聞いていなかった。どうかしたか?」
「あっ、いや、別に大した事は言っていないんですけどね……」
流石に中身の無い発言をもう一度する度胸は無かったので、何事も無かったかのようにすっとぼけた。アロイスは首を傾げている。
「それより、アロイスさんは何か見つけたんですか?」
「……というか、空気の抜ける音が聞こえるな。この下、何かあるのか?」
「へえ! 大発見ですね。洞窟とか、あったりして」
軽口を叩いてみたものの、アロイスは何やら真剣な表情を浮かべている。更には、踵で地面を叩いてみたりと空気の通り道を探している様子だ。
「やはり、この下に何か大きな空洞があるな」
「え、穴でも掘って確かめてみます?」
「いや。天井が脆くなっていて、全面崩落したら危険だ。どこかにある入り口を探した方が建設的だな」
「この下にあるって事は、入り口も私達の足下より下の方にあるって事でしょうか?」
「その可能性は高いが……」
言い淀んだアロイスの視線は湖に向けられている。確かに、足下より下、と言えば水の中とも言える。
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