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10話 出張! シルベリア!
06.湖の中にある横穴
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一瞬の迷いの後、アロイスがこう切り出した。
「メヴィ、何か……水中に潜れるようなアイテムは持っていないか?」
「持ってますよ。ほら、夏のボランティアで使った」
「ああ、それでいい」
夏に使った例の真珠の空気玉。あれを改良した物を取り出す。本当は在庫切れで更に言うと二度と作るつもりも無かった品なのだが、アロイスが思いの外楽しそうだったし、思わぬ臨時収入なんかもあったりして数量限定で製作した。
こんな真冬の土地で使うとは思わなかったが、そこはアイテムボックスとしての矜持。頼まれれば何でも出してみせよう。
やや得意気な顔をしたメイヴィスはローブの中から4つ程、アイテムを取り出す。今回の真珠は普通に真珠専門店で購入したものなので、見事に揃った粒が淡い輝きを放っているのが見て取れる。
そんな錬金術師の顔を見て、アロイスが穏やかに微笑んだ。最近の騎士サマは大変穏やかで、最初の頃の何を考えているのか分からない感じがかなり薄まったように感じる。
「使用前に濡れるって言っていたじゃないですか。そこを改善しました」
「それはいい。何せ、この寒さだ。濡れると風邪を引きかねない」
「私は確実に引くでしょうね、風邪……」
このクソ寒い中、ずぶ濡れになって風邪を引かないような強靱な肉体など持ち合わせていない。まず間違い無く風邪を引いて寝込む事になるだろう。よく改善案を出した、過去の自分。
アロイスは相変わらず代償魔法を発動出来ない、という事だったので同じ空気砲に入る。陸で結界を生成、そのまま水の中へ。
何と、改良型真珠の空気玉は陸に上がっても結界が破れない仕様へとチェンジされたのだ。今思えば、何故最初からこういう設計にしなかったのか謎だ。
「わあ、綺麗ですね」
「湖の半分には氷が張っているからな。水紋が風流で良い」
青く差し込む光の帯。それらは頭上を覆う薄い氷によって自在に屈折する。光と水のコラボレーションが何とも美しい。観光地においてこんな楽しみ方をしているのは自分達だけだと考えると、謎の優越感すら生まれて来る程だ。
暫しそれに見取れていると、不意にアロイスから柔く肩を掴まれた。何だ何だと顔を見上げると、彼はメイヴィスを通り過ぎて向こう側を見ている。
「どうしましたか?」
「メヴィ、あれを見ろ。上に続いていそうじゃないか?」
「あっ!」
指を指された方に視線を向けると、壁続きだったそこに大穴が空いているのが見えた。
「行ってみますか?」
「ああ。壁にぶつけないよう、ゆっくり進もう」
流石に壁に結界をぶつけてしまうようなヘマはしないが、年長者の言う事に素直に従ったメイヴィスは慎重に空気玉を進める。とは言っても、術者の意に沿う動きをするので余程盛大に余所見をしていない限り、やはりぶつける事はあり得ないのだが。
妙に緊張する空気玉の操縦を終える。横穴は案の定、上へ上へと伸びていた。道なりに進んで行くと、唐突に水が無い場所に出る。
「アロイスさん、地面ですよ! い、行ってみますか……!?」
「ああ。行こうか」
恐いもの知らず過ぎるアロイスは、空気砲が地面へ上陸するや否や足早に歩を進め始めた。奥が気になって仕方ないのかもしれない。その横顔にも、僅かな興奮が浮かんでいるのが伺える。
一方で、かなり暗いし何があるのか分からないこの洞窟を当然の如く恐れたメイヴィスの足取りは若干重い。置いて行かれても恐いので着いて行きはするが、アロイスとの距離は結構空いている。ついでに心の距離もだ。
「不自然な感覚があるな。何が、と言われれば返答に困るが」
「確かに……自然に出来た洞窟っぽくは、無いですね」
「それに、人が出入りしているようだ」
「え?」
姿を現したのは、ややくすんだ色になった木の机だった。人が物を書く時に使うような、ワークデスクらしきもの。机こそは古いが、その上に放置されている日誌のようなものはまだまだ新しい。
「開いてみますか? この、日誌って書いてあるやつ」
「……そうだな。こういった類の読み物は気になる」
同じ気持ちだったのか、一瞬の躊躇いを見せたアロイスはしかし、思い切り1ページ目を開いた。一緒になってメイヴィスもそれを覗き込む。
「日付ですね。何……腕? 肩? 何の事でしょうか」
日付の横に人体のパーツを示す文字が短く書き綴られている。これは書いている者にしか分からない、何かのメモと言って良いだろう。書いている本人は意味を理解しているだろうから、これ以上読んだ所で部外者には理解の出来ないものかもしれない。
「メヴィ、水の音がしないか?」
「私達が上って来た箇所からじゃないですか?」
「いや、この奥だ。行ってみよう」
「わ、分かりました……」
本当はもう引き返したかったが、ここで帰っては逃げているのと同じような気がして、メイヴィスはそっと生唾を呑み込んだ。腹を決めるしか無いらしい。
「メヴィ、何か……水中に潜れるようなアイテムは持っていないか?」
「持ってますよ。ほら、夏のボランティアで使った」
「ああ、それでいい」
夏に使った例の真珠の空気玉。あれを改良した物を取り出す。本当は在庫切れで更に言うと二度と作るつもりも無かった品なのだが、アロイスが思いの外楽しそうだったし、思わぬ臨時収入なんかもあったりして数量限定で製作した。
こんな真冬の土地で使うとは思わなかったが、そこはアイテムボックスとしての矜持。頼まれれば何でも出してみせよう。
やや得意気な顔をしたメイヴィスはローブの中から4つ程、アイテムを取り出す。今回の真珠は普通に真珠専門店で購入したものなので、見事に揃った粒が淡い輝きを放っているのが見て取れる。
そんな錬金術師の顔を見て、アロイスが穏やかに微笑んだ。最近の騎士サマは大変穏やかで、最初の頃の何を考えているのか分からない感じがかなり薄まったように感じる。
「使用前に濡れるって言っていたじゃないですか。そこを改善しました」
「それはいい。何せ、この寒さだ。濡れると風邪を引きかねない」
「私は確実に引くでしょうね、風邪……」
このクソ寒い中、ずぶ濡れになって風邪を引かないような強靱な肉体など持ち合わせていない。まず間違い無く風邪を引いて寝込む事になるだろう。よく改善案を出した、過去の自分。
アロイスは相変わらず代償魔法を発動出来ない、という事だったので同じ空気砲に入る。陸で結界を生成、そのまま水の中へ。
何と、改良型真珠の空気玉は陸に上がっても結界が破れない仕様へとチェンジされたのだ。今思えば、何故最初からこういう設計にしなかったのか謎だ。
「わあ、綺麗ですね」
「湖の半分には氷が張っているからな。水紋が風流で良い」
青く差し込む光の帯。それらは頭上を覆う薄い氷によって自在に屈折する。光と水のコラボレーションが何とも美しい。観光地においてこんな楽しみ方をしているのは自分達だけだと考えると、謎の優越感すら生まれて来る程だ。
暫しそれに見取れていると、不意にアロイスから柔く肩を掴まれた。何だ何だと顔を見上げると、彼はメイヴィスを通り過ぎて向こう側を見ている。
「どうしましたか?」
「メヴィ、あれを見ろ。上に続いていそうじゃないか?」
「あっ!」
指を指された方に視線を向けると、壁続きだったそこに大穴が空いているのが見えた。
「行ってみますか?」
「ああ。壁にぶつけないよう、ゆっくり進もう」
流石に壁に結界をぶつけてしまうようなヘマはしないが、年長者の言う事に素直に従ったメイヴィスは慎重に空気玉を進める。とは言っても、術者の意に沿う動きをするので余程盛大に余所見をしていない限り、やはりぶつける事はあり得ないのだが。
妙に緊張する空気玉の操縦を終える。横穴は案の定、上へ上へと伸びていた。道なりに進んで行くと、唐突に水が無い場所に出る。
「アロイスさん、地面ですよ! い、行ってみますか……!?」
「ああ。行こうか」
恐いもの知らず過ぎるアロイスは、空気砲が地面へ上陸するや否や足早に歩を進め始めた。奥が気になって仕方ないのかもしれない。その横顔にも、僅かな興奮が浮かんでいるのが伺える。
一方で、かなり暗いし何があるのか分からないこの洞窟を当然の如く恐れたメイヴィスの足取りは若干重い。置いて行かれても恐いので着いて行きはするが、アロイスとの距離は結構空いている。ついでに心の距離もだ。
「不自然な感覚があるな。何が、と言われれば返答に困るが」
「確かに……自然に出来た洞窟っぽくは、無いですね」
「それに、人が出入りしているようだ」
「え?」
姿を現したのは、ややくすんだ色になった木の机だった。人が物を書く時に使うような、ワークデスクらしきもの。机こそは古いが、その上に放置されている日誌のようなものはまだまだ新しい。
「開いてみますか? この、日誌って書いてあるやつ」
「……そうだな。こういった類の読み物は気になる」
同じ気持ちだったのか、一瞬の躊躇いを見せたアロイスはしかし、思い切り1ページ目を開いた。一緒になってメイヴィスもそれを覗き込む。
「日付ですね。何……腕? 肩? 何の事でしょうか」
日付の横に人体のパーツを示す文字が短く書き綴られている。これは書いている者にしか分からない、何かのメモと言って良いだろう。書いている本人は意味を理解しているだろうから、これ以上読んだ所で部外者には理解の出来ないものかもしれない。
「メヴィ、水の音がしないか?」
「私達が上って来た箇所からじゃないですか?」
「いや、この奥だ。行ってみよう」
「わ、分かりました……」
本当はもう引き返したかったが、ここで帰っては逃げているのと同じような気がして、メイヴィスはそっと生唾を呑み込んだ。腹を決めるしか無いらしい。
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