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13話 獣達の庭園
04.基礎知識の大切さ
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「それで? 今度は何の用だ?」
特に甥と客の親和性を深めるつもりは無いらしく、フィリップの方から話を切り出した。こちらとしても早々に本題へと移ってくれて助かる。
「今回はイアンちゃんの依頼をこなす為に、召喚術を使って頂きたいんです!」
「召喚術? 自分でやれば良いのではないのか」
「お恥ずかしながら、召喚術はさわりすら学んだ事が無くてですね……。とてもじゃないですけど、私自身が使用する事は出来ないかと……」
「成る程。アルケミストの人間などそんなものか。手当たり次第に学ぶ時間など無いのだからな」
ふいにフィリップは甥・チェスターへと視線を向けた。余談だが、やはり血縁なだけあって流し目をする時の動作が驚く程そっくりだ。
「チェスター。お前、今暇だろう。メイヴィスに付き合ってやれ」
「……ええ。勿論」
居候、客である自覚はあるのかチェスターはあっさり頷いてみせた。特に嫌そうでは無いし、「え? 私が?」と言う様子でもない。純粋に家主から役目を言い渡されたような反応。
喧嘩せずに乗り切れそうな気配に、そっと息を吐く。まさか急に貴族のプライドなど持ち出されようものなら、お願い所では無くなるところだった。
「行くぞ、アルケミストの」
「あ、メイヴィスです。アロイスさんは、リビングで待っててください! すぐに戻ります!」
何故か盛大に溜息を吐いて部屋を出て行くチェスターの背中を追う。多分、同年代だしもっと砕けた感じで話してくれていいのに。それにしても、フィリップといい彼といい、結構な美形揃いだ。きっと淑女の皆様から目を付けられているのだろう。
色々と妄想していると不意にチェスターが口を開いた。全くお話を好まないタイプだと勝手に思い込んでいたが、どうもそうではないらしい。
「錬金術師と言ったな。どうだ、儲かるのか?」
「儲かる、とは?」
「何、深い意味は無い。錬金術は衰退の一途を辿っているからな。純粋に、それで食って行けるのか気になっただけだ」
「そうですね。ついこの間までは――」
最近の暮らしぶりを説明する事になってしまった。出で立ちから振る舞いまで、庶民では無さそうな彼に説明する事では無いような気もしたが、親睦とは会話から始まる。客商売をやっているので、会話は大事。
嫌味の一つ二つくらいは覚悟していたが、意に反してチェスターは知的好奇心が満たされた、疑問が氷解したような気のない返事をしただけだった。
外に出、裏庭へと回る。
裏庭と一口に言っても要は裏の森林。誰も住んでいないから勝手に私有地として使っているだけの土地だ。事実、この近辺は開拓されていないので人気は一切無い。
「これだけの広さがあれば良いだろう。メイヴィス、何かオーダーはあるのか?」
「あ、召喚術なら何でも良いです」
酷く何か言いたげな顔をした甥御様だったが、それ以上の追求はせず軽く手を掲げた。イアンと言い彼と言い、とにかく魔道を使う際の挙動が手慣れている。無駄な力が一切入らない、呼吸でもするかのように自然な動作だ。
その挙動に見取れていると、掲げた手を中心に術式が編み込まれ始める。螺旋を描きながら広がっていくそれはまるで植物が生長しているのを早回しで見せられているかのようだ。
やがて、一つの術式が完成する。完成した術式は術者の手を離れ、巨大化し、地面へと張り付いた。それをゲートとして代表的な召喚獣――キメラが喚び出される。
野に放たれた合成獣は物珍しげに辺りを見回していた。
対し、主人であるチェスターは無情にも待て、と手で行動を制する。
「どうだ。何かの役には立ったか?」
静かに声を掛けられて我に返った。今目の前で起きた事を脳内で再生する――
「……いえ、全く。そもそも召喚術と普通の魔法って根本が違うって事しか。使う文字列が違い過ぎて、何が書かれているのかも解読不能です」
「そういう次元で召喚術について知らんのか」
再度別の術式を編み、キメラを返したチェスターは整った双眸を忌々しげに細めた。そりゃそうだ。わざわざ外にまで出て貰って、術を使って貰ったというのに収穫はほぼゼロ。分からないという事が分かったのみなど、笑えもしない。
取り敢えず、基礎知識が欠落しているのでまずは関連書物などを読んで基礎を叩き込むしか無いようだ。
「錬金術に精通しているからと言って、魔道を嗜んでいる訳では無いようだな」
「はあ、すいません……」
「構わん。貴様に足りんのは基礎的な知識だ。シルベリアの王国図書館にでも行けば、幾らでも人間の書いた書物がある。強要はしないが行ってみるのも一興だ」
「ありがとうございます。ただまあ、その件に関してはアロイスさんと相談して決めます」
「何? あれはお前の雇っている護衛――ああいや、保護者だったな」
一人で納得しているチェスターの傍ら。メイヴィスは痛む頭を抱えた。最近、護衛兼保護者の事を振り回し過ぎている気がしてならない。いつか愛想を尽かされてしまいそうだ。
特に甥と客の親和性を深めるつもりは無いらしく、フィリップの方から話を切り出した。こちらとしても早々に本題へと移ってくれて助かる。
「今回はイアンちゃんの依頼をこなす為に、召喚術を使って頂きたいんです!」
「召喚術? 自分でやれば良いのではないのか」
「お恥ずかしながら、召喚術はさわりすら学んだ事が無くてですね……。とてもじゃないですけど、私自身が使用する事は出来ないかと……」
「成る程。アルケミストの人間などそんなものか。手当たり次第に学ぶ時間など無いのだからな」
ふいにフィリップは甥・チェスターへと視線を向けた。余談だが、やはり血縁なだけあって流し目をする時の動作が驚く程そっくりだ。
「チェスター。お前、今暇だろう。メイヴィスに付き合ってやれ」
「……ええ。勿論」
居候、客である自覚はあるのかチェスターはあっさり頷いてみせた。特に嫌そうでは無いし、「え? 私が?」と言う様子でもない。純粋に家主から役目を言い渡されたような反応。
喧嘩せずに乗り切れそうな気配に、そっと息を吐く。まさか急に貴族のプライドなど持ち出されようものなら、お願い所では無くなるところだった。
「行くぞ、アルケミストの」
「あ、メイヴィスです。アロイスさんは、リビングで待っててください! すぐに戻ります!」
何故か盛大に溜息を吐いて部屋を出て行くチェスターの背中を追う。多分、同年代だしもっと砕けた感じで話してくれていいのに。それにしても、フィリップといい彼といい、結構な美形揃いだ。きっと淑女の皆様から目を付けられているのだろう。
色々と妄想していると不意にチェスターが口を開いた。全くお話を好まないタイプだと勝手に思い込んでいたが、どうもそうではないらしい。
「錬金術師と言ったな。どうだ、儲かるのか?」
「儲かる、とは?」
「何、深い意味は無い。錬金術は衰退の一途を辿っているからな。純粋に、それで食って行けるのか気になっただけだ」
「そうですね。ついこの間までは――」
最近の暮らしぶりを説明する事になってしまった。出で立ちから振る舞いまで、庶民では無さそうな彼に説明する事では無いような気もしたが、親睦とは会話から始まる。客商売をやっているので、会話は大事。
嫌味の一つ二つくらいは覚悟していたが、意に反してチェスターは知的好奇心が満たされた、疑問が氷解したような気のない返事をしただけだった。
外に出、裏庭へと回る。
裏庭と一口に言っても要は裏の森林。誰も住んでいないから勝手に私有地として使っているだけの土地だ。事実、この近辺は開拓されていないので人気は一切無い。
「これだけの広さがあれば良いだろう。メイヴィス、何かオーダーはあるのか?」
「あ、召喚術なら何でも良いです」
酷く何か言いたげな顔をした甥御様だったが、それ以上の追求はせず軽く手を掲げた。イアンと言い彼と言い、とにかく魔道を使う際の挙動が手慣れている。無駄な力が一切入らない、呼吸でもするかのように自然な動作だ。
その挙動に見取れていると、掲げた手を中心に術式が編み込まれ始める。螺旋を描きながら広がっていくそれはまるで植物が生長しているのを早回しで見せられているかのようだ。
やがて、一つの術式が完成する。完成した術式は術者の手を離れ、巨大化し、地面へと張り付いた。それをゲートとして代表的な召喚獣――キメラが喚び出される。
野に放たれた合成獣は物珍しげに辺りを見回していた。
対し、主人であるチェスターは無情にも待て、と手で行動を制する。
「どうだ。何かの役には立ったか?」
静かに声を掛けられて我に返った。今目の前で起きた事を脳内で再生する――
「……いえ、全く。そもそも召喚術と普通の魔法って根本が違うって事しか。使う文字列が違い過ぎて、何が書かれているのかも解読不能です」
「そういう次元で召喚術について知らんのか」
再度別の術式を編み、キメラを返したチェスターは整った双眸を忌々しげに細めた。そりゃそうだ。わざわざ外にまで出て貰って、術を使って貰ったというのに収穫はほぼゼロ。分からないという事が分かったのみなど、笑えもしない。
取り敢えず、基礎知識が欠落しているのでまずは関連書物などを読んで基礎を叩き込むしか無いようだ。
「錬金術に精通しているからと言って、魔道を嗜んでいる訳では無いようだな」
「はあ、すいません……」
「構わん。貴様に足りんのは基礎的な知識だ。シルベリアの王国図書館にでも行けば、幾らでも人間の書いた書物がある。強要はしないが行ってみるのも一興だ」
「ありがとうございます。ただまあ、その件に関してはアロイスさんと相談して決めます」
「何? あれはお前の雇っている護衛――ああいや、保護者だったな」
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