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三杯目:ラスティネイル
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ウイスキーの数あれば同じ数、あるいはそれ以上のハイボールがある。ウイスキー自体に向き不向きはあれど、スモーキーな香りが苦手な人、独特の味わいが苦手な人にとって、何かで割るということはありがたいものだろう。とOlgoのマスターは思う。
思うが、しかし。ウイスキー、特にスコッチ系を心から好きな身としてはストレート、もしくはそれに近いカクテルを味わってほしいという気持ちも嘘ではない。
目の前にいる若い人には、まだヘビーだと分かっているために無理に勧めることはないが。
そう思って磨いていたグラスをしまうと、待ってましたと言わんばかりにその人はマスターへ注文した。
「あの、ラスティネイルをいただくことは可能ですか?」
「ラスティネイル、ですか?」
「ええ、ウイスキーカクテルだけど甘くて美味しい、と聞いたことがあって」
「なるほど。お出しできますよ」
「やった。お願いします」
かしこまりました、と一礼して準備する。とはいえ、作り方自体は簡単だ。基本的なレシピでいうとスコッチ・ウイスキーとリキュールをステアして終わりなのだ。問題は分量である。
ラスティネイルが甘い理由は、ドランブイというリキュールのためだ。つまりドランブイが多ければ甘い風味が強くなり、少なければウイスキーの後味が出てくる。飲む人によって飲める甘さや、許容できる苦味も違う。この加減が実は難しい。
オーソドックスなレシピ通りで十分だと美味しそうに飲む人もいれば、甘すぎて飲めないと顔をしかめる人もいる。その場合は数滴だけレモンジュースを入れるのも手だ。おまけに度数も高い。飲み過ぎると二日酔いの元になるほどだ。
そんなわけで、簡単だと侮ると失敗するのがこのカクテルだ。
「お待たせしました。こちらがラスティネイルです」
「ありがとうございます!」
おお、これが、と目を輝かせている様が何とも初々しい。一口味わい、美味しいと口元を綻ばせる様子などは嬉しい。バーテンダー冥利につきる、とマスターは感じた。
すると、何かを懐かしむようにその人はグラスを見つめ始めた。
「……まだまだ子ども、か」
考えていたことが口に出てしまった。それくらいの小さな声量で呟かれた言葉は、妙に寂しげだ。
これは聞き返しても良いのだろうか、いやあまり踏み込まれるのも嫌だろうと悩むマスターなぞ露知らず。ぽつりぽつり話し始めた。
いわく、ラスティネイルを知ったのは小学生の頃らしい。今は亡くなった父親が飲んでいたお酒に興味を持ったが、当然ながら飲ませてもらえない。その上、こう言われたらしい。
『俺が今飲んでるのはゴッドファーザーっていうやつなんだ。ラスティネイルだと物足りなくなった俺にある人が勧めてくれてな。
もしお前が二十歳になって酒を飲むようになったら、ラスティネイルから飲めよ? いきなりこれじゃ、俺の立場ない』
その時は意味が分からなかったが、今なら何となく分かるという。ゆっくり「大人」になり「父親」になれ、というメッセージではなかったのか、と。
「……それは、よい父親をお持ちになりましたね」
「まあ、母親は子どもに何教えてんの、って呆れられてましたがね」
そう微笑む姿に、昔の彼を思い出すようだった。
これも好きだが、最近味覚が変わったのか甘く感じる。同じようなもので、甘くないカクテルはないかと聞いてきた、かつての客に。
思うが、しかし。ウイスキー、特にスコッチ系を心から好きな身としてはストレート、もしくはそれに近いカクテルを味わってほしいという気持ちも嘘ではない。
目の前にいる若い人には、まだヘビーだと分かっているために無理に勧めることはないが。
そう思って磨いていたグラスをしまうと、待ってましたと言わんばかりにその人はマスターへ注文した。
「あの、ラスティネイルをいただくことは可能ですか?」
「ラスティネイル、ですか?」
「ええ、ウイスキーカクテルだけど甘くて美味しい、と聞いたことがあって」
「なるほど。お出しできますよ」
「やった。お願いします」
かしこまりました、と一礼して準備する。とはいえ、作り方自体は簡単だ。基本的なレシピでいうとスコッチ・ウイスキーとリキュールをステアして終わりなのだ。問題は分量である。
ラスティネイルが甘い理由は、ドランブイというリキュールのためだ。つまりドランブイが多ければ甘い風味が強くなり、少なければウイスキーの後味が出てくる。飲む人によって飲める甘さや、許容できる苦味も違う。この加減が実は難しい。
オーソドックスなレシピ通りで十分だと美味しそうに飲む人もいれば、甘すぎて飲めないと顔をしかめる人もいる。その場合は数滴だけレモンジュースを入れるのも手だ。おまけに度数も高い。飲み過ぎると二日酔いの元になるほどだ。
そんなわけで、簡単だと侮ると失敗するのがこのカクテルだ。
「お待たせしました。こちらがラスティネイルです」
「ありがとうございます!」
おお、これが、と目を輝かせている様が何とも初々しい。一口味わい、美味しいと口元を綻ばせる様子などは嬉しい。バーテンダー冥利につきる、とマスターは感じた。
すると、何かを懐かしむようにその人はグラスを見つめ始めた。
「……まだまだ子ども、か」
考えていたことが口に出てしまった。それくらいの小さな声量で呟かれた言葉は、妙に寂しげだ。
これは聞き返しても良いのだろうか、いやあまり踏み込まれるのも嫌だろうと悩むマスターなぞ露知らず。ぽつりぽつり話し始めた。
いわく、ラスティネイルを知ったのは小学生の頃らしい。今は亡くなった父親が飲んでいたお酒に興味を持ったが、当然ながら飲ませてもらえない。その上、こう言われたらしい。
『俺が今飲んでるのはゴッドファーザーっていうやつなんだ。ラスティネイルだと物足りなくなった俺にある人が勧めてくれてな。
もしお前が二十歳になって酒を飲むようになったら、ラスティネイルから飲めよ? いきなりこれじゃ、俺の立場ない』
その時は意味が分からなかったが、今なら何となく分かるという。ゆっくり「大人」になり「父親」になれ、というメッセージではなかったのか、と。
「……それは、よい父親をお持ちになりましたね」
「まあ、母親は子どもに何教えてんの、って呆れられてましたがね」
そう微笑む姿に、昔の彼を思い出すようだった。
これも好きだが、最近味覚が変わったのか甘く感じる。同じようなもので、甘くないカクテルはないかと聞いてきた、かつての客に。
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