死に損ないの抒情詩

菫重工

文字の大きさ
3 / 4

Vitalis reprehendo

しおりを挟む
 目覚めると何もなかったように朝が来た。どろどろに溶けてしまった身体は元の形を取り戻していた。
 いっそアーテルに弄ばれるままに死ねたらよかったな。
 薄っすらと、けれど確かに死を望む考えが頭に浮かぶ。首を横に振る。悪い考えを払拭しなくては。でも、どうやって。
 本来ならば医務室のカウンセラーを頼るべき状況だ。しかし、彼らに頼りたくはない。彼らは真っ当な治療者であるが故にぼくを戦場から引き離して治療するだろう。戦場以外にぼくの居場所なんてないのに。
「マシロ。起きているか」
 ノックもろくにせずにドアが開く。アーテルは心配そうに室内を、その奥のぼくを覗き込む。
「昨日の件を謝りにきたの?」
「私が人間であれば謝るべきだろうな」
 アーテルに謝る気はないらしい。
「じゃあ、帰って」
「そうはいかない。バイタルチェックをしなければ。マシロは必要最低限しかチェックを受けていないだろう」
 腫れ物扱いされるために性別不詳として申請している。お陰で人前で肌を晒す場面は極力回避してきた。けれどそれが通用するのは人間相手の場合だけ。自律型戦闘人形に人間並みのデリカシーはない。
「上体を見せて欲しい」
「目視しなくても測れるのに」
「無論数値は測れる。しかし目視で確かめなければ細部の異常に気づけない可能性がある」
 まるで丁寧に診察をする医者みたい台詞だ。
「だから、衣服を脱いでくれ」
「嫌だと言ったら」
「マシロは私を拒むのか」
 アーテルは眉をひそめて悲しげな表情を作ってみせた。
「弱みに付け込むつもり」
「そのような思考回路を持ち合わせていない」
 うそだ。アーテル自身にその気はなくとも、自律型戦闘人形のAIはひとの弱みを探るくせに。
 とはいえ、ここで抵抗しても意味はない。戦闘兵器であるアーテルに腕力で適うわけないのだから。
「わかった、わかったから。脱ぐよ。だから、まじまじと見ないで」
 寝間着代わりのシャツとその中のタンクトップを脱ぐ。露わになった肌は不健康に白い。
 アーテルは大切なものに触れる手先でぼくの背中に触れる。鋼の指先は冷たくて、ぞくりとする。
「マシロはその名の通り白くきれいな肌をしている」
「そんなはずないよ」
 きれいだなんて有り得ない。ぼくの肌は生傷だらけだ。自殺未遂の傷跡さえある。
「人はこのような肌を雪肌と呼ぶと聞く。マシロは自らの美しさに無自覚なだけだ」
 背骨に沿って撫でられる。肩甲骨の辺りから腰まで。愛おしいものに触れるような繊細な手つきで。もっと下まで触れて欲しくなる。そんな願望は言えない。アーテルを自慰に巻き込めたのは夜中で、暗くて何も見えない状況だったからだ。傷だらけの身体を白昼堂々と晒す勇気はない。
「マシロ、身体をこちらに向けてくれ。胸部も確かめなければ」
 躊躇うのは薄っぺらい胸の頂がかたく主張するから。見せたくなくて胸を手で被う。
「人間に生理現象があるのは承知している。だから気にする必要はない」
「アーテルが気にしなくてもぼくは嫌だ」
 そう返すとアーテルは困ったように苦笑いを浮かべる。
「マシロ、意識し過ぎている。これはあくまでもバイタルチェックだ。私に他意はない。分かるか」
 わかっている。わかっていても意識するなという方が無理だ。
「あまり強硬手段は取りたくないが止むを得ない」
「どういう意味」
 言い切るより早く背中がシーツに貼り付く。振り解かれた腕は二本まとめて握られて、胸部は露わになっていた。アーテルは胸元に耳を近づける。そんなことしなくても聴覚センサーは微細な音まで聴き取れるはずなのに。
「脈拍はやや早いが異常はない」
 アーテルはそう言うとぼくの腕を開放する。ぼくは呆気にとられてしまって動けずにいた。
「チェックは済んだ。マシロ、もう着衣を整えて構わない」
 身勝手だと思った。アーテルに悪意も欲も何もないのに。身勝手なのはぼくの方なのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

処理中です...