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Vitalis reprehendo
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目覚めると何もなかったように朝が来た。どろどろに溶けてしまった身体は元の形を取り戻していた。
いっそアーテルに弄ばれるままに死ねたらよかったな。
薄っすらと、けれど確かに死を望む考えが頭に浮かぶ。首を横に振る。悪い考えを払拭しなくては。でも、どうやって。
本来ならば医務室のカウンセラーを頼るべき状況だ。しかし、彼らに頼りたくはない。彼らは真っ当な治療者であるが故にぼくを戦場から引き離して治療するだろう。戦場以外にぼくの居場所なんてないのに。
「マシロ。起きているか」
ノックもろくにせずにドアが開く。アーテルは心配そうに室内を、その奥のぼくを覗き込む。
「昨日の件を謝りにきたの?」
「私が人間であれば謝るべきだろうな」
アーテルに謝る気はないらしい。
「じゃあ、帰って」
「そうはいかない。バイタルチェックをしなければ。マシロは必要最低限しかチェックを受けていないだろう」
腫れ物扱いされるために性別不詳として申請している。お陰で人前で肌を晒す場面は極力回避してきた。けれどそれが通用するのは人間相手の場合だけ。自律型戦闘人形に人間並みのデリカシーはない。
「上体を見せて欲しい」
「目視しなくても測れるのに」
「無論数値は測れる。しかし目視で確かめなければ細部の異常に気づけない可能性がある」
まるで丁寧に診察をする医者みたい台詞だ。
「だから、衣服を脱いでくれ」
「嫌だと言ったら」
「マシロは私を拒むのか」
アーテルは眉をひそめて悲しげな表情を作ってみせた。
「弱みに付け込むつもり」
「そのような思考回路を持ち合わせていない」
うそだ。アーテル自身にその気はなくとも、自律型戦闘人形のAIはひとの弱みを探るくせに。
とはいえ、ここで抵抗しても意味はない。戦闘兵器であるアーテルに腕力で適うわけないのだから。
「わかった、わかったから。脱ぐよ。だから、まじまじと見ないで」
寝間着代わりのシャツとその中のタンクトップを脱ぐ。露わになった肌は不健康に白い。
アーテルは大切なものに触れる手先でぼくの背中に触れる。鋼の指先は冷たくて、ぞくりとする。
「マシロはその名の通り白くきれいな肌をしている」
「そんなはずないよ」
きれいだなんて有り得ない。ぼくの肌は生傷だらけだ。自殺未遂の傷跡さえある。
「人はこのような肌を雪肌と呼ぶと聞く。マシロは自らの美しさに無自覚なだけだ」
背骨に沿って撫でられる。肩甲骨の辺りから腰まで。愛おしいものに触れるような繊細な手つきで。もっと下まで触れて欲しくなる。そんな願望は言えない。アーテルを自慰に巻き込めたのは夜中で、暗くて何も見えない状況だったからだ。傷だらけの身体を白昼堂々と晒す勇気はない。
「マシロ、身体をこちらに向けてくれ。胸部も確かめなければ」
躊躇うのは薄っぺらい胸の頂がかたく主張するから。見せたくなくて胸を手で被う。
「人間に生理現象があるのは承知している。だから気にする必要はない」
「アーテルが気にしなくてもぼくは嫌だ」
そう返すとアーテルは困ったように苦笑いを浮かべる。
「マシロ、意識し過ぎている。これはあくまでもバイタルチェックだ。私に他意はない。分かるか」
わかっている。わかっていても意識するなという方が無理だ。
「あまり強硬手段は取りたくないが止むを得ない」
「どういう意味」
言い切るより早く背中がシーツに貼り付く。振り解かれた腕は二本まとめて握られて、胸部は露わになっていた。アーテルは胸元に耳を近づける。そんなことしなくても聴覚センサーは微細な音まで聴き取れるはずなのに。
「脈拍はやや早いが異常はない」
アーテルはそう言うとぼくの腕を開放する。ぼくは呆気にとられてしまって動けずにいた。
「チェックは済んだ。マシロ、もう着衣を整えて構わない」
身勝手だと思った。アーテルに悪意も欲も何もないのに。身勝手なのはぼくの方なのに。
いっそアーテルに弄ばれるままに死ねたらよかったな。
薄っすらと、けれど確かに死を望む考えが頭に浮かぶ。首を横に振る。悪い考えを払拭しなくては。でも、どうやって。
本来ならば医務室のカウンセラーを頼るべき状況だ。しかし、彼らに頼りたくはない。彼らは真っ当な治療者であるが故にぼくを戦場から引き離して治療するだろう。戦場以外にぼくの居場所なんてないのに。
「マシロ。起きているか」
ノックもろくにせずにドアが開く。アーテルは心配そうに室内を、その奥のぼくを覗き込む。
「昨日の件を謝りにきたの?」
「私が人間であれば謝るべきだろうな」
アーテルに謝る気はないらしい。
「じゃあ、帰って」
「そうはいかない。バイタルチェックをしなければ。マシロは必要最低限しかチェックを受けていないだろう」
腫れ物扱いされるために性別不詳として申請している。お陰で人前で肌を晒す場面は極力回避してきた。けれどそれが通用するのは人間相手の場合だけ。自律型戦闘人形に人間並みのデリカシーはない。
「上体を見せて欲しい」
「目視しなくても測れるのに」
「無論数値は測れる。しかし目視で確かめなければ細部の異常に気づけない可能性がある」
まるで丁寧に診察をする医者みたい台詞だ。
「だから、衣服を脱いでくれ」
「嫌だと言ったら」
「マシロは私を拒むのか」
アーテルは眉をひそめて悲しげな表情を作ってみせた。
「弱みに付け込むつもり」
「そのような思考回路を持ち合わせていない」
うそだ。アーテル自身にその気はなくとも、自律型戦闘人形のAIはひとの弱みを探るくせに。
とはいえ、ここで抵抗しても意味はない。戦闘兵器であるアーテルに腕力で適うわけないのだから。
「わかった、わかったから。脱ぐよ。だから、まじまじと見ないで」
寝間着代わりのシャツとその中のタンクトップを脱ぐ。露わになった肌は不健康に白い。
アーテルは大切なものに触れる手先でぼくの背中に触れる。鋼の指先は冷たくて、ぞくりとする。
「マシロはその名の通り白くきれいな肌をしている」
「そんなはずないよ」
きれいだなんて有り得ない。ぼくの肌は生傷だらけだ。自殺未遂の傷跡さえある。
「人はこのような肌を雪肌と呼ぶと聞く。マシロは自らの美しさに無自覚なだけだ」
背骨に沿って撫でられる。肩甲骨の辺りから腰まで。愛おしいものに触れるような繊細な手つきで。もっと下まで触れて欲しくなる。そんな願望は言えない。アーテルを自慰に巻き込めたのは夜中で、暗くて何も見えない状況だったからだ。傷だらけの身体を白昼堂々と晒す勇気はない。
「マシロ、身体をこちらに向けてくれ。胸部も確かめなければ」
躊躇うのは薄っぺらい胸の頂がかたく主張するから。見せたくなくて胸を手で被う。
「人間に生理現象があるのは承知している。だから気にする必要はない」
「アーテルが気にしなくてもぼくは嫌だ」
そう返すとアーテルは困ったように苦笑いを浮かべる。
「マシロ、意識し過ぎている。これはあくまでもバイタルチェックだ。私に他意はない。分かるか」
わかっている。わかっていても意識するなという方が無理だ。
「あまり強硬手段は取りたくないが止むを得ない」
「どういう意味」
言い切るより早く背中がシーツに貼り付く。振り解かれた腕は二本まとめて握られて、胸部は露わになっていた。アーテルは胸元に耳を近づける。そんなことしなくても聴覚センサーは微細な音まで聴き取れるはずなのに。
「脈拍はやや早いが異常はない」
アーテルはそう言うとぼくの腕を開放する。ぼくは呆気にとられてしまって動けずにいた。
「チェックは済んだ。マシロ、もう着衣を整えて構わない」
身勝手だと思った。アーテルに悪意も欲も何もないのに。身勝手なのはぼくの方なのに。
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