神子ですか? いいえ、GMです。でも聖王に溺愛されるのは想定外です!

楢山幕府

文字の大きさ
7 / 40
本編

モフモフとオラトリオの教義に触れる

しおりを挟む
 風呂の準備が整うまでの間、イリアは中庭に置かれたベンチで待つことにした。
 時折そよぐ風が、木の葉や花の香りを届けてくれる。
 白い毛玉ことホワイティは、イリアの手にすっぽりと収まり、今は膝の上で丸まっていた。

「すみません、まさか神子様にご迷惑をおかけすることになるなんて……」
「構いませんよ。どうやら懐いてくれているようですし」

 事情を訊くと、ホワイティは大きな鳥に咥えられて中庭にやって来たらしい。きっと近場の森で狩られたんだろう。
 ファビオたちは、鳥がうっかりホワイティを落としたところに遭遇し、隠して育てることを決めたという。

「ここは神子様の神聖な居住区。勝手が許されないことはわかっています。でもみんなホワイティが可愛くて、別れたくなくて……」
「そういえば彼らはどういった立場の者なんですか?」
「みんなぼくと同じ、神子様の世話係です。寝室に入れるのはぼくだけですが、お食事やお風呂のお世話は、みんなでさせていただきます」

 侍従として集められたんだろうか。
 ただファビオも含め、その幼さが気になった。
 ファビオのステータスを表示し、職業の「神子の世話係」に意識を向ける。

【神子の世話係】
 試験に合格し、神子の居住区に入れる限られた者。
 世話係に選ばれた者は親元を離れ、神子の居住区で生活する。
 創造の神クレアーレの姿に倣い、声変わり前の少年に限られる。

 どうやら、あえて幼い少年が選ばれているようだ。

「あ、食事はちゃんと調理師さんが作ってくださってます。居住区の一番奥に台所があって、そこだけは聖王様以外の大人も、立ち入るのを許可されています」
「じゃあそれ以外は子どもだけで? 掃除とか、大変でしょう?」
「大きなものを運ぶのは大変ですが、みんな魔法を使えるので、高い場所の掃除も問題ありません!」

 そうだった。ここはファンタジーの世界だったと、イリアは自分の立場を思いだす。
 しかし……。

「ご両親と別れて生活するのは寂しいですね」
「でもそれ以上に光栄なことです。神子様のお世話は、高位の神官である枢機卿ですらできませんから! ……神子様!?」

 寂しいことは否定されず、気付いたときにはファビオを抱き締めていた。
 動いたことで、寝ているのを邪魔されたホワイティが不満そうだけど、今は辛抱して欲しい。

「無理することはないんですよ?」
「い、いえ……あの……神子様にお仕えできるのは、ぼくたちも嬉しいんです。本当です! そのために頑張って試験を合格してきたのですから!」

 ホワイティについて語っていた沈痛な表情とは違い、腕の中にいるファビオは頬を染め、紹介されたときと同じように瞳を輝かせていた。
 うそを言ってるようには見えない。

「わかりました。ホワイティは洗ったら、あなたたちにお返ししますね」
「いいのですか?」
「もうあなたたちの大事な家族なんでしょう? 取り上げるようなことはしませんよ」
「あ、でも……」
「でも?」

 ファビオが、イリアの膝の上で丸まるホワイティを見下ろす。

「ホワイティのほうが、神子様から離れないかもしれません」

 それは想定外だった。


◆◆◆◆◆◆


 風呂から出たホワイティは、名前通りの白さを取り戻した。
 洗われている最中は、鳴き声で哀れみを誘ったけれど。

(……気持ちはわからないでもないですね)

 イリアも少年たちの手によって、ホワイティ同様に洗われていた。
 サッパリしたけれど、心安らかな時間だったとは言い難い。
 脱衣所で、髪を風魔法によって乾かされながら、ふわふわになったホワイティを撫でる。
 ファビオが言った通り、ホワイティのほうがイリアから離れようとしなかった。

(私の見た目も白いから、同族と思われたんでしょうか)

 他の少年たちからも、神子様が預かってくださるならと異論は出なかった。
 取り上げられてホワイティと会えなくなるよりはいいらしい。

「神子様、髪が乾きました」
「ありがとう」

 お礼を言いつつ、ドライヤー役を買って出てくれた少年の頭を撫でる。
 顔を真っ赤にして固まる様子を見ると、控えたほうがいいのだろう。しかしつい手が伸びてしまうのを、イリアは止められなかった。
 ファビオが髪の乾き具合を最終確認し、尋ねてくる。

「お着替えはよろしいのですか?」
「神子の衣は、汚れないようですから大丈夫です」

 そもそも着替えを持ち合わせていない。
 アイテム欄を見ても、必要最低限の回復薬があるだけだった。

「神子様のお召しものは、やっぱり凄いのですね!」
「そのようです。私しか着られないみたいですが」
「納得です。神子様以外、似合う方もおられませんよ」

 きっと服もアバターに合わせたデザインなのだろう。
 鏡の前に立てば、キャラクターデザイン担当者の本気が窺えた。
 小さな顔に、華奢な体。
 背中まで伸びる白髪はサラサラで、わずかな風でも靡く。
 長い睫毛に縁取られた艶やかな金色の瞳は、一度見たら忘れられない。
 骨格で辛うじて男性だとわかるぐらい、イリアは中性的な外見だった。

(これもオラトリオの教義に寄せられているんでしょうか)

 大神殿の泉前にまつられている神の像は三体あるものの、何の神を信仰するかは信者の自由だ。
 何せファンタジアには、数多くの神が「実在」する。
 オラトリオとしては、その神々を代表して三体をまつっているに過ぎない。
 これは入浴中に少年たちから聞いた話だけど、この三体を主神と仰いでいるわけでもないらしい。
 神とはこう接するんですよ、というお手本のために選ばれた神のようだ。

 中でも教義の中で一番多く登場するのが、創造の神クレアーレだった。
 教義では、幼い少年姿のクレアーレを指して、性差のない子どものときが、人にとって最も神に近い時期とされ、手厚く保護するよう教えている。
 要は「子どもは社会で守りましょう」ということだが、この教えを汲んで、ファビオたち幼い少年が、神子の世話係に選ばれてもいる。
 少女がいないのは、神子が男性であるからだ。
 そしてオラトリオでは、子どもに限らず性差の少ない者ほど神に近しい存在と考えられ、神官には中性的な人が多いという。

(エヴァルドは男の中の男! って感じでしたけど)

 抱かれたときに感じた胸板の厚さ、腰に回された、たくましい腕の感触が蘇る。
 しかしそれを思いだすと面映ゆくなり、軽く頭を振って考えを消した。

「神子様、このあとはどうされますか?」
「そうですね……食事には早いですし、中庭で涼みましょうか」

 山の上にあるだけあって、居住区を含む大神殿の天候は変わりやすく、昼と夜の温度差も大きい。
 けれど昼間の気温は一定で、晴れていれば過ごしやすかった。
 ぶり返した羞恥を、風呂上がりの熱だと誤魔化して、イリアはファビオを伴い中庭へ移動した。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました! 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !

恋せよ恋
ファンタジー
 富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。  もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、  本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。  ――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。  その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、  不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。  十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。  美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、  いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。  これは、  見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、  無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 エール📣いいね❤️励みになります!

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。

佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

処理中です...