ぼく、魔王になります

楢山幕府

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 話し合いの結果、ぼくたちは旅を続けることにした。
 但し、ドラゴニュートの青年が索敵してくれるなら、という条件付きで。
 みんな一緒に逃げられるなら、もうあんな思いはしなくて済む。
 しかしまだ、そのドラゴニュートに目覚める気配がなかった。
 流石に泥だらけのままなのは可哀想だから、傷に回復薬を塗るためにも体を拭ったんだけど、ピクリとも動かなかったんだよね。

「顔色は確実に良くなっていますので、もうそろそろ気がつくと思うんですが」
「急ぐ旅でもないし、しばらくはここに留まってトレントの復興を手伝おうよ」
「おう、ついでに小屋でも作っとくか?」

 燃えた木やら倒れた木で、トレントの集落周辺はぐちゃぐちゃになっている。
 このままではトレントたちも生活がしにくいので、ぼくたちは復興を手伝うことに決めた。

「助かるわ! トレントも木を運べるけど、細かい作業は苦手だから。あ、小屋は作ってくれるなら、作ってくれて構わないわよ」

 ドライアドのニルギリに指示を仰ぎながら、馴れた手つきでガルは小屋用の木を集めはじめる。
 ぼくは風の精霊に頼んで、木の加工を担当した。
 ルフナは燃えてできた灰の量が、土に対して多くないか検分をおこなっている。
 足元がまだぬかるんでるから下手に動くと汚れるかな? と思ったところで、ママからもらった指輪が淡く明滅しだした。
 ほどなくして、ふわりと宙に新しい服が浮かぶ。

「何それ!? リゼ様はそんなこともできるの!?」
「違うよ、これはママが送ってくれたの」

 近くを浮遊していたニルギリが服の出現に食いついてくる。
 彼女はぼくを基点にしたほうが指示を出しやすいのか、終始傍にいた。
 送られてきた服を広げて確認する。

「袖が長いワンピースなのね。これは何?」

 ドライアドが指したのは、丈の長い靴下だった。ハイソックスっていうんだっけ?
 暗めの赤いワンピースに合わせた、黒のハイソックスだ。
 ちなみにママから送られてくる服は、下着までがワンセットだったりする。今回は下着も黒色だった。

「スカートだと足が出ちゃうから、ズボンの代わりみたいなものだよ」
「足用の服ってことね」

 今着ているのものと同様に、新しい服も村にいたときのものと比べて装飾は少なめだ。
 分厚めの生地で、見た目より機能性に重点が置かれている。
 それでもしっかり刺繍が入っているところはママらしい。
 折角の着替えが汚れてはダメなので、ハンモックにいったん避難させておく。

「近くに川があったよね? 作業が終わったら水浴びをしに行こうかな」

 精霊が水を捨てに行ってくれた場所だ。
 ニルギリに訊けば、正確な位置がわかった。

「エルフは水浴びが好きよね。あたしも水は好きだけど」

 ドライアドは水さえ摂取できれば生活に困らないらしい。
 トレントの食事は、自然の木と大差ないようだった。違うとすれば、土の養分と一緒に、魔素を多めに吸い上げるくらいかな?
 ニルギリと雑談しながら、ガルが積んでいく木を加工する。

「スパスパ切れるのは見ていて気持ち良いわね。……トレントは萎縮しちゃってるけど。大事なところをちょん切られそうで怖いみたい」
「トレントは切らないよ。って、大事なところ?」

 どこがトレントにとって大事なところなのかわからず、近くにいた一体を見上げる。
 うん、木にしか見えない。

「今は季節じゃないけど、交配の季節になったら、大きな花が咲いて受粉用の器官ができるのよ」

 想像できたのは大きな花までだった。
 とにかくトレントは切らないから大丈夫だよ、と安心してもらう。

「そちらの進み具合はどうですか?」
「こっちは見ての通りかな。土の状態はどうだった?」
「相変わらずリゼ様は刃物いらずですね。素晴らしい切り口です。想像していたより灰が少なかったので、土に問題はありません」

 ルフナの報告を聞いて、ニルギリが胸に手をあてて安堵する。
 ドライアドやトレントも土壌を調べられるけど、今は手が足りないので、調査はルフナに一任されていた。

「なんだ? みんな集まってんのか」

 俺が最後かと、ガルが木を束で置く。
 どうやらこれで小屋に必要な分は揃ったみたいだ。

「ガルさんの手伝いで、倒木した木が大方片付いたわ。ありがとう」
「いいってことよ」
「ねぇニルギリ、ガルは『さん』なのに、どうしてぼくは『様』なの?」
「だってリゼ様はリゼ様だもの」
「わかります、わかります」

 答えになっていないニルギリの答えに、ルフナがしきりに頷く。
 そういえばルフナもガルのことは「殿」呼びだった。

「ちょうど集まったことだし、水浴びに行ったら? 暗くなる前のほうが、リゼ様たちはいいでしょう?」
「あぁ、近くに川があるのか」

 ガルやルフナも水浴びには賛成で、三人で川に向かう。

「流石にもうドラゴンは出ないだろうな」
「ドラゴニュートでしたけどね。また出たら笑うしかないでしょう」

 ぼくはいつもの定位置――ガルの腕の中――で、索敵の重要性について考えた。

「魔獣や動物のほうが、本能的に危険を察知しやすいんだよね?」
「そうですね。北の森にドラゴンが来たときも、魔獣が移動していたようですから」
「その割には、俺らオーガには刃向かってくるぞ?」
「常駐しないからでしょう。村の周辺には姿を見せないのが、その証拠です」

 一時的な滞在かどうかで、対応が変わるってことかな。

「加えて、ドラゴンやドラゴン形態のドラゴニュートは、魔力の放出量が膨大ですからね。リゼ様が魔力を抑えていないと考えたら、魔獣が逃げるのも頷けるでしょう?」
「なるほどな」
「そこで納得するんだ」
「アミーコだって気を失ってただろ?」
「あれ? じゃあガルよりアミーコのほうが魔力に敏感ってこと?」

 アミーコがいたら、ドラゴン形態のドラゴニュートの存在も、早く察知できたんだろうか?

「言い換えればそうですね。魔力が少ない者ほど、魔力の多い者の影響を受けやすいんです。ただ今回の場合は、ドラゴニュートもケガを負って、平時より魔力が激減していたように見受けられます」

 何にせよ、避けようはなかったのかな。

「うーん、精霊に索敵をお願いするのも考えたんだけど」
「常に動いてもらうのは厳しいですね。下級精霊では指示をこなせないでしょうから、上級精霊に力を借りる必要があります。魔力の消費量を考えると、現実的ではありません」
「そうだよね……いざというときに、魔力が少なくなってると困るし」

 やっぱり索敵はドラゴニュートの青年にお願いするのが一番かな。
 襲撃されて、最初はトレントたちも怒り心頭だったけど、目を覚まさないドラゴニュートの姿に、ぼくを含めてみんなの気持ちは同情へと変わりつつあった。
 本来、憤怒状態でさえなければ、話せる相手だからね。

「お、川が見えてきたな。川幅が広い分、浅そうだが」
「わぁっ、綺麗なところだね!」

 想像していたより大きな川にテンションが上がる。
 森の中にあるから、てっきり小さな川だと思ってた。
 木の間を抜けると、一気に視界が開け、空気が清涼感に満たされる。
 ザーと聞こえる流水音も耳に心地良い。

「ぼくの腰ぐらいだから、ガルにとっては浅いよね。流れは速そうだけど」

 ルフナが安全を確認するのを待って、ぼくたちは服を脱いだ。
 川幅はガルの身長の五倍くらいかな?
 体に当たった水が白波を立てると、水の下級精霊がきゃっきゃしだす。
 思いの外、流れが速くて体を持っていかれるけど、ガルが壁になって支えてくれた。
 だからぼくより補助のないルフナのほうが、足をもつれさせている。
 そして上がる大きな水しぶき。

「ルフナ、大丈夫?」
「……大丈夫です。流されるほどではありませんから」

 エルフの中でもルフナは体格が良いから、体勢を崩しても問題はなさそうだ。

「おいリゼ、上流で流されてる奴がいるみたいだぞ」
「え!?」

 ガルの視線を追えば、確かに水を跳ねさせながら流されてくる人がいた。
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